バイオプロセシングにおける LC-MS 分析:製品品質特性の自動分析および栄養成分モニタリング
要約
自動化の統合および改善により、プロセスグループは、培地のモニタリングにより、重要な PQA 情報およびプロセス変更に関する情報により早くアクセスすることができます。最近ウォーターズでは、Waters™ バイオプロセスウォークアップソリューション1 を更新して、バイオプロセスチームがより多くの分析法により迅速にアクセスできるようにしました。オートメーションポータルを搭載したバイオプロセスウォークアップソリューションの主な機能および更新には、以下が含まれます。
- サンプル処理の合理化:自動化により、サンプル前処理が加速し、手動作業の労力やミスの可能性が低減します。サンプルを迅速に処理して、LC 分析や LC-MS 分析に直接供することができます。
- 柔軟性の向上:統合されたプラットフォームが、自動サンプル前処理、データ取り込み、レポート作成を行います。最近のハードウェアの機能強化には、LC および LC-MS への直接注入機能、プレートの自動シーリング、プロテイン A の添加や自動ろ過プロトコルなどがあります。
- ソフトウェアの更新:waters_connect™ インフォマティクスソリューションは、低分子種および高分子種(LMWS/HMWS/凝集)の割合を分析して報告できるようになりました。他にもバイオプロセス分野のお客様に向けた更新がいくつか追加されています。
- 最適な細胞株と条件を特定することによって、プロセス初期の分析を改善できます。したがって、医薬品製造の安全性、有効性、一貫性が確保され、結果が得られるまでの時間や製品化までの時間が短縮します。
アプリケーションのメリット
- ハイスループット:Andrew+™ ピペッティングロボットを使用した自動サンプル前処理と、OneLab™ ソフトウェアによって統合された BioAccord™ LC-MS システムへの直接注入
- 一貫した結果:プロテイン A の有効化、清澄化機能および希釈機能、自動プレートシーリングおよび冷却されたサンプルマネージャーへのプレートの即時ロードにより、ミス、ばらつき、分析の実行に費やす時間が低減する
- レポート作成の円滑化:グリコフォーム、LMWS、HMWS やその他のサマリー計算のレポート作成機能が強化され、Ambr® バイオリアクターシステムへの自動レポート作成をサポート2
はじめに
自動化は、バイオプロセスの製品品質特性(PQA)の LC-MS 分析の効率と正確さの向上に重要な役割を果たします。バイオ医薬品の製造では、PQA によって医薬品の安全性、有効性、一貫性が確保されるため、PQA の測定は重要です。LC-MS ワークフローへの自動化の統合により、プロセスの初期に重要な PQA 情報にアクセスすることができます。様々な LC ベースおよび LC-MS ベースの分析のためのサンプル前処理には時間がかかり、トレーニングが必要であるため、しばしば採用のボトルネックとなります。自動化を導入することで、手動操作を最小限に抑えながら、サンプルを迅速に処理して LC 分析や LC-MS 分析に直接供することができ、データ生成におけるミスやばらつきの可能性を低減します。
このアプリケーションノートでは、前回のシステム更新以降にバイオプロセスウォークアップソリューションに導入された機能強化と全体的な機能について説明します1。 このアプリケーションノートには、以下の概要が含まれます。
- ハードウェアの機能強化:プレートシーリング、前処理したサンプル/プレートの LC システムまたは LC-MS システムへの直接挿入、抽出/ろ過機能。
- プロトコルの改善:磁気ビーズベースの捕獲および遊離用の Magnet+ モジュールを使用したプロテイン A(ProA)クリーンアッププロトコル、Extraction+ 真空ろ過モジュールを使用した清澄化プロトコル、すべてのプロトコルへのプレートシーリングの追加が可能になりました。
- プロセスチームのためのソフトウェアの更新:SEC アッセイにおいて LMWS 分子種、HMWS 分子種を報告する機能、チャージバリアント LC-MS アッセイにおいて酸性/塩基性分子種を報告する機能、自動解析を改善するためのメソッド設定。
- LC-MS 分析法の更新:包括的なライブラリーの更新による、新しい 9 分間高速細胞培養培地分析法。
- データ解析/視覚化機能強化:視覚化ツール、外部データパッケージおよびコントロールソフトウェアのサポート。
これらの自動化機能およびプラットフォーム機能により、必要なサンプル前処理の最後に行う分析、解釈、レポート作成のより多くの作業を自動化することで、分析者による操作を最小限に抑え、結果を得るまでの時間を短縮することができます。
実験方法
LC 分析法および LC-MS 分析法の実験の詳細は、PQA や細胞培養培地の代謝物分析の概要を記載したアプリケーションノートにあります3,4,5。
Andrew+ ピペッティングロボットシステムの詳細
必要なドミノおよび消耗品の完全かつ最新のリストについては、システムソリューションドキュメントおよび OneLab ライブラリープロトコルを参照してください(OneLab プロトコル:インタクトワークフローおよび細胞培養培地ワークフロー)。以下のリストには、この更新でバイオプロセスウォークアップソリューションによってサポートされるようになった新しい項目/消耗品が含まれています。
主要な消耗品 |
製品番号 |
Magne® プロテイン A ビーズ: |
G8781(Promega) |
透明ヒートシールフィルム: |
4ti-0540(Azenta) |
AcroPrep 細胞清澄化・滅菌ろ過プレート、24 ウェル、7 mL: |
97026(Cytiva, Pall Life Sciences) |
twin.tec PCR プレート 96、スカート付き、200 µL/ウェル: |
951020443(Eppendorf) |
LC-MS システムの詳細
LC の詳細: |
ACQUITY Premier BSM(オートメーションポータル搭載) |
MS の詳細: |
BioAccord LC-MS システム |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
waters_connect バージョン 3.3 |
MS ソフトウェアアプリケーション: |
Intact Mass 1.8、UNIFI™ 1.9.4 |
インフォマティクス: |
OneLab バージョン 1.20.3 |
結果および考察
プロテイン A プロトコルおよび分析
このソリューションは、(清澄化/希釈により)回収した生サンプルおよび/または(磁気ビーズクリーンアップを使用した)プロテイン A 精製サンプルを処理および分析することができ、回収または精製後のサンプルを BioAccord に注入して LC-MS 分析することができます。いずれの操作モードも、さまざまな有用な情報をユーザーに提供します。生サンプルの分析は以前に報告されており(文献)、最小限のサンプル処理で、迅速で簡単にグリコフォームのプロファイリングと軽鎖の推定ができます。ProA 精製を追加して Fc ベースの医薬品を抽出することにより、プロファイリングの正確さが高まるため、低濃度(1g/L 未満)での力価測定が必要な場合、および/または追加のアッセイ(例えば、SEC、IEX、サブユニット、ペプチドマッピング)が必須である場合に最も有用です。
図 2 に、希釈プロトコルの実行後またはプロテイン A プロトコルの実行後に比較した、代表的な 10 日目の結果を示します。図 2 a に、清澄化および 20 倍希釈のステップの後に回収した生サンプルの分析、図 2 b に、プロテイン A 精製後のサンプルの分析を示します。いずれも同じ Intact Mass LC-MS 取り込みメソッドを使用して分析しています。プロジェクトのニーズに応じて、迅速な IgG の糖鎖プロファイリング、軽鎖の評価および/またはプロテイン A 精製済みデータを使用し、レポートを作成することができます。
清澄化プロトコル
細胞残屑を迅速かつ効果的に除去することは、分解を防ぐことで医薬品の完全性を維持することや、LC-MS などの分析メソッドの前にサンプルを清澄化にするために重要です。2 段階 24 ウェル AcroPrep™(Cytiva)プレートを使用するろ過プロトコルを試験しました。Andrew Extraction+ モジュールを使用してサンプルをろ過しました。代表的なプロファイルを図 3 に示しており、せん断の影響を受けやすいか又は受けにくい細胞の種類の場合は調整することができます。さまざまなろ過(および遠心分離)法の前後の細胞数をカウントすることでサンプルを比較し、表 1 にまとめました。遠心分離の条件に関し、サンプルを 800 g で 5 分間遠心分離し、ろ過(1.25 µm)しました。細胞数は Vi-CELL カウンター(Beckman Coulter)を使用して測定しました。 1:1 PBS バッファーを使用して回収サンプルを事前に希釈することで、最適な条件を見出しました。*
*注記:最良の最も一貫した分析結果を得るには、細胞残屑と培地マトリックスをできるだけ早く除去する必要があります。サンプルをすぐに分析できない場合でも、回収後、迅速に遠心分離して細胞残屑を速やかに除去することが望まれます。
SEC 分析およびレポート
プロテイン A を用いて調製済みのサンプルを、RP 分析法(上)または SEC 条件のいずれかで分析し、モノクローナル抗体(mAb)を低分子種および高分子種からさらに分離して、凝集およびフラグメンテーションを評価することができます。Intact Mass 1.8 の新しい機能強化により、単独の LMWS および HMWS の割合を自動的にレポートできるようになり、シンプルなレポート作成が可能となりました。これらの値は、以前に報告した Sartorius Ambr® データインターフェースとも互換性があります。図 4 に、Intact Mass アプリケーションで報告された SEC 分析の例を示します。
図 4. モノクローナル抗体(mAb)の SEC 分析の例。HMWS% および LMWS% の表計算は Intact Mass アプリケーションを使用して実施。
*注記:不揮発性バッファーが質量分析計に入らないようにするために、SEC-MS に適合するメソッドが推奨されます。LC のみに基づく SEC が必要な場合(リン酸ベースのバッファー)、MS への送液を廃液に向ける必要があります。
データの視覚化
複数の変数(クローン、条件)がある複数のバイオリアクターについて分析を実行する場合、複数の PQA データセットを生成し、多くのバイオリアクター、条件および/またはタイムポイントにわたってデータを総合的にレビューすることが、ユーザーにとって課題になります。ウォーターズは、さまざまなお客様のニーズやシナリオに適合するために、BioAccord によって取り込まれたデータに関していくつかのデータエクスポート戦略をサポートしています。また、ウォーターズは最近、代謝物および/またはグリコフォームの重ね描きプロットを自動的に表示する、簡単な MS Excel ベースのマクロツールも作成しており、これによって、バイオリアクターの状態とタイムコースを比較するための、代謝物の重ね描きプロットを迅速に生成することができます。
シンプルな CSV レポートもすべてのワークフローで使用でき、JMP、SIMCA、Spotfire、EZinfo などのさまざまなソフトウェアパッケージにインポートすることができます。
結論
ウォーターズのソリューションは、少量のサンプルを使用するより高速な LC および LC-MS の PQA を活用するあらゆるステップにおいて、高品質な LC データおよび LC-MS データへのバイオプロセシングチームのアクセスを簡素化、自動化、高速化するように設計されています。これにより、チームは、細胞株の選択、細胞株開発の優先順位決定、プロセス開発の最適化の各ステップに関する情報をより迅速に生成することができます。
参考文献
- Alelyunas YA, Embrey E, Collins L, Pegaz-Blanc A, Mignard G, Wrona MD.Simplifying Bioreactor In-Process Monitoring with Waters Bioprocess Walk-Up Solutions.Waters Application Note, 720008062, 2023.
- Alelyunas YA, Prochaska C, Kukla K, Dunning C, Hanna C, Wrona MD.Monitoring Intact Glycoprofiles and Spent Media Metabolites in Samples from Sartorius Ambr 250 High Throughput Bioreactor System to Support Upstream Process Development.Waters Application Note 720008042, 2023.
- Alelyunas YA, Gray J, Wrona MD, Boyce P. Introducing a Rapid Throughput LC-MS Method for Cell Culture Media Nutrient and Metabolite Analysis Supporting Upstream Bioprocessing.Waters Application Note, 720008170, 2024.
- Shion H, Boyce P, Berger SJ, Yu YQ.INTACT Mass - a Versatile waters_connect Application for Rapid Mass Confirmation and Purity Assessment of Biotherapeutics, Waters Application Note, 720007547, 2022.
- Koza SM, Jiang AHW, Yu YQ.Rapid SEC-UV Analysis of Monoclonal Antibodies Using Ammonium Acetate Mobile Phases.Waters Application Note, 720007852, 2022.
720008487JA、2024 年 9 月