• アプリケーションノート

体系的プロトコルおよび MaxPeak High Performance Surface テクノロジーを用いた、合成環状ペプチドと不純物のクロマトグラフィー分離のメソッド開発

体系的プロトコルおよび MaxPeak High Performance Surface テクノロジーを用いた、合成環状ペプチドと不純物のクロマトグラフィー分離のメソッド開発

  • Adam Bengtson
  • Paul D. Rainville
  • Stephanie Harden
  • Waters Corporation

要約

ウォーターズが開発した体系的プロトコルについては、Waters MaxPeak™ Premier 逆相クロマトグラフィーカラムキットに概説されています1。 このプロトコルに従い、MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーを採用した Arc™ Premier システムおよび Premier カラムを使用して、環状ペプチドのパネル用のメソッドを開発しました。この高度なテクノロジーを使用することで、従来のステンレススチール製システムおよびカラムと比較して、分離が向上することを実証することができました。得られたメソッドでは、5 種類の環状ペプチド抗生物質(オリタバンシン、ダルババンシン、カスポファンギン、ダプトマイシン、アニデュラファンギン)の分離において許容可能な性能を得ることができました。さらに、ダルババンシンをその関連不純物から分離するメソッドを作成しました。

アプリケーションのメリット

  • 体系的プロトコルの使用により、メソッド開発に要する時間が短縮
  • MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Arc Premier システムとカラムを使用することで、環状ペプチドについてのクロマトグラフィーピーク性能および再現性の向上が見られた
  • カラムマネージャーと QDa™ 質量検出器を組み合わせて用いた、信頼性が高く適応性のある Arc Premier システムにより、より大規模な DOE 実験が可能になりピーク同定が容易に

はじめに

環状ペプチドは、その独自の特性により、高い関心が持たれています。遊離の N 末端や C 末端がないため、タンパク質分解酵素による分解が少なく人体での半減期が長くなり、治療薬として使用する場合の投与頻度が少なくなります2。 これらの化合物は構造上の自由度が少ないため、直鎖状ペプチドと比較して、結合親和性および特異性も増大しています3。 直鎖状ペプチドと比較した場合の、環状ペプチドのさらなるメリットとして、分子内水素結合を形成する能力が挙げられます。これによって極性が低くなり、細胞の脂質二重層を簡単に通過できます。

抗生物質が発見されて以来、無数の命が救われてきましたが、これらの化合物が頻繁に処方されることにより、耐性菌株が蔓延するようになりました。一部のケースでは、環状ペプチド抗生物質が、特定の株や耐性株への対処に有効であることが示されています。ダプトマイシンおよびダルババンシンは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に対して有効な治療薬であることが示されています4。 MRSA はここ数年でさらに蔓延しており、世界中の血流感染が、2016 年の 21% から 2020 年の 35% に増加しています5。 最近、これらの環状ペプチドに耐性を示す新しい株の細菌が出現しています。これらのペプチドに対する関心が高まるにつれて、より迅速で合理的なメソッドが求められています。

ここ数年、クオリティ・バイ・デザイン(AQbD)が規制当局と医薬品業界の関心を集めるトピックになり、AQbD の原則が現在、規制ガイダンスに採用されつつあります。メソッドの理解を高め、分析手順のパラメーターが分析に及ぼす潜在的な影響を評価するための 1 つのアプローチとして、メソッドの開発に標準化された体系的アプローチを使用することが挙げられます。最近、ウォーターズは、ペプチドアプリケーションのクロマトグラフィーメソッド開発用の体系的プロトコルを発表しました。以前の知見、メソッドのスクリーニング、体系的アプローチの使用を通じて得られた知見に基づいてリスク評価を実施し、最終的なメソッドの質と一貫性に対する信頼性を確保しました。

このアプリケーションノートでは、この体系的メソッド開発アプローチを使用した、図 1 に示す 5 種類の環状抗生物質ペプチドを分離するメソッドの作成について説明します。環状ペプチドのパネル用のメソッド開発成功に続いて、ダルババンシンの不純物を分離するメソッドを作成しました。

図 1.  分析した 5 種類の API の名前と構造

実験方法

サンプル調製および材料

個々のペプチド標準試料は Cayman chemical(米国、ミシガン州)から入手しました。ダルババンシンの不純物 A40926 は Toronto Research Scientific(カナダ、オンタリオ州)から購入しました。標準試料は 100% ジメチルスルホキシド(DMSO)中に調製し、サンプルは、100% DMSO 中に、オリタバンシン、ダルババンシン、カスポファンギン、ダプトマイシン、アニデュラファンギンがそれぞれ 0.1 mg/mL になるように調製しました。不純物サンプルには、100% DMSO 中に調製した 0.1 mg/mL のダルババンシンおよび 0.2 mg/mL の A40926 が含まれていました。

LC 条件

LC システム:

Arc Premier QSM-r

検出:

PDA 2998@ 214nm

バイアル:

1 mL トータルリカバリーバイアル、186000385DV

カラム:

XSelect™ Premier Peptide CSH C18 130 Å、2.5 μm、4.6 × 150 mm カラム

カラム温度:

ペプチドパネル:60 ℃、ダルババンシン不純物:80 ℃

サンプル温度:

20 ℃

注入量:

10 µL

流速:

0.96 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

パネルグラジエント

ダルババンシン不純物グラジエント

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower 3.6.2

結果および考察

体系的プロトコルと裏付け試験により、ペプチドの分析に関連するさまざまなリスクが容易に把握できるようになりました。プロトコルにおける最も重要な検討事項は、以下のとおりです。

  • XSelect Premier Peptide CSH C18(XSelect)カラムおよび XBridge Premier Peptide BEH C18(XBridge)カラムの使用。
  • 水系移動相とアセトニトリル移動相の両方の添加剤としての、0.1% ギ酸、続いて 0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)の使用。
  • 20 分間での 0.5% アセトニトリル(ACN)から 55% ACN へのスクリーニンググラジエント。
  • フォーカスグラジエントは、スクリーニンググラジエントでの分析種の溶出時間に基づいて作成します。

カラムと溶離液の 4 種類の組み合わせにより、クロマトグラフィーでのピーク形状の違いとともに、選択性と保持力に差が生じます。文献レビューと最初の試験により、高リスク変数と低リスク変数として変数を特定しました。図 2 のフィッシュボーン図に、特定した変数の概要を示しています。

図 2.  メソッド開発において調査したリスクを説明するフィッシュボーン図。高リスクの変数は赤色で強調表示しています。

サンプル調製と分析種の安定性

メソッド開発プロセスで最初に遭遇した高リスク変数は、サンプル調製でした。サンプルの可溶化、沈殿、サンプルの安定性が課題であることが判明しました。各ペプチドの 1 mg/mL のストック溶液を 100% DMSO 中に調製し、さらに希釈しました。注目されることとして、サンプルを 0.1 mg/mL になるように溶媒和できる最高の水含量は 30% 水で、70% DMSO でした。この 30% 水系溶媒では急速な分解が見られ、問題となることが判明しました(表 1)。このことから、サンプル調製に変更を加えました。水の比率を減らして試験を行いましたが、すべて同様の結果になりました。最終的に、100% DMSO でのサンプル調製が最も良いことが判明しました。これにより、強溶媒効果の可能性が生じましたが、最終的なメソッドにおいてピーク分割は見られませんでした。

表 1.  簡便な安定性試験の結果を示すチャート。30% 水/70% DMSO でのサンプルの安定性の問題は、100% DMSO を使用することで解決されました。

装置変数と移動相

サンプル安定性の問題を調査する際に、新しく調製したサンプルを使用して、カラムと溶離液添加剤の 4 種類の組み合わせを試験しました。結果を図 3 に示します。XSelect カラムにより最高の分離が得られることに注目してください。下のクロマトグラムでは選択性の違いが見られ、XBridge カラムと TFA 移動相添加剤を使用した場合はダプトマイシンとカスポファンギンが共溶出しています。QDa 質量検出器を使用することで、ピークが簡単に同定でき、共溶出を確認することができました。

図 3.  体系的プロトコルで推奨されているそれぞれの組み合わせのメソッドスクリーニング試験におけるクロマトグラムの例。0.5% ACN ~ 55% ACN のグラジエント。サンプルは 30:70 水:DMSO 中に新しく調製しました。100% DMSO でのサンプル調製で同じメソッドを試験したところ、強溶媒効果が観察されましたが、保持については同じ傾向が見られました。

これら 4 種類の組み合わせのスクリーニングにおいて、クロマトグラフィーピークがグラジエントの後半に溶出することがわかりました。最初のクロマトグラフィーピークであるオリタバンシンは、実行開始後 10 分経ってから溶出し、最後に溶出するピークであるアニデュラファンギンは、洗浄に至るまでゆっくりランプしている間に溶出していることがわかります。そこで、最初の開始点を 0.5% ACNC から 10% ACN に、終了点を 55% ACN から 70% ACN に変更しました。この 10% ACN の開始点へのシフトにより、開始点が 0.5% ACN の場合と比較して、強溶媒効果を解消することができました。この変更により、100% DMSO でのサンプル調製が可能になりました。パネルの分離用の最終的なメソッドを図 4 に示します。この新規のメソッドにより、最初のピークをグラジエントの早い段階で溶出させ、最後のピークをメインのグラジエントで溶出させることができると共に、クロマトグラフィーのピーク特性を改善することができます。

図 4.  上のクロマトグラムは、0.5 ~ 55% ACN グラジエントを用いる元のメソッドを示します。両方のクロマトグラムに % ACN を青線として重ね描きしています。最終的なメソッドには 10 ~ 70% の ACN グラジエントが含まれています。いずれもギ酸を溶離液添加剤として使用して XSelect カラムで実行しています。

MaxPeak テクノロジーによるリスク低減

これらのメソッドの変更を行った後、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Arc Premier と従来のステンレススチール製ハードウェアを用いた ACQUITY Arc の 2 つのシステムでこれらを分析しました。これらの化合物は、ステンレススチール表面の金属酸化物に吸着する可能性のあるルイス塩基である場合があるため、これら 2 種類のハードウェア表面の比較には特に強い注目が集まりました。この吸着により、図 5 に見られるようにクロマトグラフィー性能が低下することがあります。ステンレススチール製システムでは、Arc Premier システムと比較して、ピーク高さ、形状、面積がかなり低下していました。

図 5.  MaxPeak HPS テクノロジーを採用した Arc Premier(黒線)と、従来のステンレススチールで構成された ACQUITY Arc システム(青線)で得られたダプトマイシンとダルババンシンのクロマトグラムの例。Arc Premier システムでは、クロマトグラフィーピークの面積と高さの大幅な増大が見られます。

図 6 の以下のチャートに、Arc Premier システムおよび ACQUITY Arc システムで実行した 10 回繰り返し注入の結果を示します。これらのグラフにより、実行の相対標準偏差が視覚的にわかります。MaxPeak HPS テクノロジーを採用したシステムおよびカラムと比較して、従来のステンレススチール製システムでは、再現性が低くなっています。注目点として、ここで行われた実験に用いたシステムおよびカラムは、コンディショニングされていません。ステンレススチール製システムを特定の移動相でコンディショニングし、分析種を犠牲にして注入してすべての活性部位に吸着させた場合、再現性が改善する可能性があります。MaxPeak HPS を利用すると、このようなプロセスが不要になり、リスクが低減して時間を節約でき、有用な注入の回数を増やすことができます。

図 6.  Premier カラムを搭載した Arc Premier および従来のカラムを搭載した ACQUITY Arc システムでの環状ペプチドのパネルの 10 回の繰り返し注入を示す棒グラフ。Arc Premier システムで得られたピーク面積はより大きく、相対標準偏差に改善が見られます。

ダルババンシンの不純物分析

環状ペプチドのパネルの分析に続いて、グラム陽性細菌に対して有効な抗生物質であるダルババンシン不純物の分析法を作成しました。ダルババンシンは、ペプチド A40926 のテイコプラニンアナログで、ジメチルアミノプロピルアミド誘導体です6。 ダルババンシンと A40926 はいずれも、主な化合物 B0 で構成されていますが、少量の A0、A1、B1、B2 も含まれています。これらの既知の不純物が医薬品中に存在することは許容されていますが、依然としてモニタリングの必要があります。これらの 10 化合物を使用して不純物パネルを作成し、主成分であるダルババンシン B0 からすべての不純物を分離するためのメソッドを作成しました。これら 10 化合物の構造を図 7 に示します。

図 7. ダルババンシンと A40926 の構造。構造の違いを丸で囲んでいます。

図 8 では、カラムと移動相添加剤のそれぞれの組み合わせで、最も良好な分離が得られ、クロマトグラムの保持時間がほぼ同じになるように、特定のグラジエントを作成しています。QDa 質量検出器により 10 化合物すべてが同定されているこのクロマトグラムから、ギ酸溶離液添加剤を使用する XSelect カラムが最良の性能を示すことが判明しました。他の組み合わせでは、すべての化合物が同定できる分離は得られませんでした。

図 8.  体系的プロトコルで推奨されている 4 種類の組み合わせで実行したクロマトグラム。それぞれの組み合わせごとに異なるグラジエントを作成しました。各グラジエントは 20 分間で、ACN の割合は、一番上のクロマトグラムから、23 ~ 40% ACN、28 ~ 45% ACN、30 ~ 45%、32 ~ 47% ACN でした。

図 8 では、スクリーニング実行において XSelect カラムが最良の性能を示していますが、それでもダルババンシン A1 をダルババンシン B0 から十分に分離できていません。ダルババンシン B0 をダルババンシン A1 などの関連不純物から分離するために、4 本のカラムすべてにおいてグラジエント時間と温度の両方をさらに最適化しました。この場合も、XSelect が目的の分離を得るのに最適であることが判明しました。最終的なメソッドパラメーターには、このアプリケーションノートの最初(3 ページ)のグラジエントテーブルに示した 80 ℃ というカラム温度およびグラジエントが含まれています。ダルババンシン B0 が他の 9 化合物から完全に分離されています(図 9、10)。

図 9.  これらのクロマトグラムでは、ダルババンシンに「Dalb」とラベル付けしています。ダルババンシンの不純物分析の最終的なメソッド。すべてのダルババンシン関連化合物およびすべての A40926 化合物が分離していることに注意してください。
図 10.  ダルババンシン A1 がダルババンシン B0 から完全に分離されています。他のメソッドではこの分離を達成できませんでした。主な対象化合物について、USP 分離度およびテーリングが許容可能であることが判明しました。

結論

Waters MaxPeak Premier 逆相カラムクロマトグラフィーキットに記載されている体系的プロトコルは、メソッド作成の出発点として優れていることが証明されました。Premier システムに採用されている MaxPeak HPS テクノロジーにより、繰り返し注入において、従来のステンレススチール製システムおよびカラムと比較して、ピーク面積が最大 62%、ピーク高さが 67% それぞれ増加し、ピークテーリングが 35% 減少して、クロマトグラフィーピーク面積の相対標準偏差が最大 9% 減少していました。

体系的プロトコルに従って、Arc Premier システムで HPLC メソッドを正常に作成することができ、5 種類の環状ペプチド(オリタバンシン、ダルババンシン、カスポファンギン、ダプトマイシン、アニデュラファンギン)のパネルを分離することができました。体系的プロトコルの力をさらに実証するため、実験基準の設計をわずかに拡張して不純物分析を実施したところ、このメソッドにより、対象化合物ダルババンシン B0 から 9 種類の不純物すべてを分離することができました。QDa 質量検出器は、ダルババンシンに存在する潜在的な不純物の質量電荷比による同定に便利なツールとなりました。

参考文献

  1. MaxPeak™ Premier Peptide Reversed-Phase Columns and Method Screening Kit: Practical Steps in Developing Robust Peptide Separations Start Up Guide.Waters Corporation.User Manuals, 720008131, 2023.
  2. Van Bambeke F. Lipoglycopeptide Antibacterial Agents in Gram-Positive Infections: A Comparative Review.Drugs 2015;75: 2073–2095.DOI: 10.1007/s40265-015-0505-8
  3. Xiao P, Pei D. High-Throughput Synthesis and Screening of Cyclic Peptide Antibiotics.Journal of Medicinal Chemistry 2007; 50(13): 3132–3137.DOI: 10.1021/jm070282e 
  4. Werth BJ, Jain R, Hahn A, Cummings L, Weaver T, Waalkes A, Sengupta D, Salipante SJ, Rakita RM, Butler-Wu SM.Emergence of Dalbavancin Non-Susceptible, Vancomycin-Intermediate Staphylococcus Aureus (VISA) After Treatment of MRSA Central Line-Associated Bloodstream Infection with a Dalbavancin- and Vancomycin-Containing Regimen.Clin Microbiol Infect.2018 Apr;24(4):429.doi: 10.1016/j.cmi.2017.07.028.
  5. World Health Organization.World Health Statistics 2023.World Health Organization, 19 May 2023, www.who.int/publications/i/item/9789240074323.
  6. N. Scheinfeld.Dalbavancin: A Review for Dermatologists.Dermatology Online Journal, 2006 12(4).DOI: 10.5070/D30wn7d4q9

720008273JA、2024 年 3 月

トップに戻る トップに戻る