• アプリケーションノート

ナファゾリン塩酸塩、マレイン酸フェニラミン、および関連する類縁物質の分析法の、ACQUITY™ Arc™ システムへのスケーリングおよび移行

ナファゾリン塩酸塩、マレイン酸フェニラミン、および関連する類縁物質の分析法の、ACQUITY™ Arc™ システムへのスケーリングおよび移行

  • Margaret Maziarz
  • Waters Corporation

要約

分析法を異なる粒子径のカラムの間でスケーリングし、システム間で移行する際に、同等の結果が得られることを実証することが、製品の一貫性および規制準拠を確保する上で重要です。この論文では、医薬品有効成分(API)であるナファゾリン塩酸塩(HCl)とマレイン酸フェニラミンおよび関連する類縁物質の分析法のスケーリングおよび移行について説明します。1.7 µm(2.1 × 100 mm)カラムで開発した分析法を、同等のケミストリーの 2.5 µm(4.6 × 150 mm)カラムに幾何学的にスケーリングし、ACQUITY™ UPLC™ H-Class Plus システムから ACQUITY Arc™ システムに移行します。API および類縁物質の含有量について、クロマトグラフィー分離、システム適合性データ、アッセイ結果を評価することにより、性能が等価であることが示されました。

アプリケーションのメリット

  • Waters™ カラムカリキュレーターを利用して、異なる粒子径のカラムの間で同等のクロマトグラフィー性能が得られる操作パラメーターを算出することにより、分析法のスケーリングが容易に
  • システムのデュエルボリュームとカラム外拡散の違いを考慮することにより、クロマトグラフィーシステム間での分析法のスケーリングおよび移行が成功する確率を向上

はじめに

低拡散液体クロマトグラフィー(LC)システムを使用して粒子径 2 µm 以下のカラムで開発した分析法により、迅速でハイスループットの分析が可能になり、分析法の開発にかかる時間が短縮するというメリットがあります。製造プロセスをサポートする品質管理ラボに低拡散システムが装備されていない場合、これらの分析法を、高拡散 HPLC での分析に適したより大きな粒子にスケーリングする必要があります1

異なる装置の間で分析法をスケーリングおよび移行する場合、同一のクロマトグラフィー分離および分析法の性能を得ることが目標となります。高品質のクロマトグラフィー分離を保つには、多くの要因を考慮する必要があります。カラム長(L)と粒子径(dp)の比を維持することで、分析法の分離能が保たれます。さらに、大きな粒子径で使用するように設計された HPLC システムは一般に、2 µm 以下の粒子で使用するシステムと比較して、デュエルボリュームとカラム外拡散が大きくなります。これらの違いはクロマトグラフィー分離に影響するため、分析法をスケーリングする際に考慮する必要があります 2

この研究では、ナファゾリン塩酸塩、マレイン酸フェニラミン、および関連する類縁物質の分析法を、粒子径 1.7 µm のカラムで開発して、2.5 µm のカラムにスケーリングし、ACQUITY UPLC H-Class Plus システムから ACQUITY Arc システムに移行します。クロマトグラフィー分離、システム適合性の結果、アッセイ結果を検討して、分析法のスケーリングおよび移行が成功したかどうかを評価します。

実験方法

標準溶液

この試験で使用した化合物(表 1)は Sigma-Aldrich および Toronto Research Chemicals(TRC)から購入しました。

個別のストック溶液をメタノール中に 4.0 mg/mL になるように調製しました。ストック溶液を 80:20 水/メタノール希釈溶媒で希釈して、0.1 mg/mL の API(塩酸ナファゾリンおよびマレイン酸フェニラミン)、および 10 µg/mL の類縁物質を含む分析法移行実験用の混合標準溶液を作製しました。 

表 1.医薬品有効成分(API)およびこれらに関連する類縁物質

点眼液サンプル

点眼液サンプルは、80:20 水/メタノール希釈溶媒で作業濃度(500 µg/mL マレイン酸フェニラミンおよび 40 µg/mL ナファゾリン HCl)に希釈することにより調製しました。

分析条件

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸メタノール溶液

カラム温度:

42 ℃

検出:

波長範囲: 210 ~ 400 nm(260 nm で抽出)

サンプリングレート:10 ポイント/秒

バイアル:

LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV)

サンプル温度:

10 ℃

洗浄溶媒:

パージ/サンプル:80:20 水/メタノール

シール洗浄溶媒:90:10 水/アセトニトリル

粒子径 1.7 µm および 2.5 µm のカラムに使用した分析法の条件を表 2 にまとめます。Waters カラムカリキュレーターを使用して、流速、注入量、グラジエント溶出を 1.7 µm から 2.5 µm に幾何学的にスケーリングしました3

表 2.粒子径 1.7 µm および 2.5 µm のカラムを使用して実行した分析法の動作条件

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3 Feature Release 5 Service Release 5(FR5 SR5)

Empower ソフトウェアを使用してデータ取り込みおよび解析を行いました。レポートテンプレートを使用して生成したサマリーレポートは、Empower プロジェクトで使用できます。

結果および考察

LC システムのデュエルボリューム

粒子径が 2 µm 以下のカラム用に設計されたシステムは一般に、2.5 ~ 5 µm の粒子で使用するように設計されたシステムと比較して、容量が小さくなります。システム容量のこの違いにより、グラジエント分析法においてクロマトグラフィー分離の不良やピークの歪みが発生することがあります。したがって、異なる LC システム間で分析法を移行して同じクロマトグラフィー分離を得るには、システムのデュエルボリュームを考慮する必要があります2。 LC システムのデュエルボリュームを測定するための推奨手順が、ホワイトペーパーに記載されています4

分析法のスケーリング

分析法の分離能を維持するには、カラム長(L)と粒子径(dp)の比が、元の分析法と同じである(または非常に近い)ことが必要です。同じクロマトグラフィー分離の質を維持するために、流速、注入量、グラジエント時間を含むその他のパラメーターを、幾何学的にスケーリングします。 

この研究では、マレイン酸フェニラミン API およびナファゾリン塩酸塩 API の類縁物質の分析法を、カラムカリキュレーターを使用して、粒子径 1.7 µm から 2.5 µm にスケーリングしました3。元の分析法では、長さ 100 mm、粒子径 1.7 µm のカラムを使用していたため、L/dp = 58,824 になりました。ターゲットの分析法には、長さ 150 mm、2.5 µm のカラムを選択し、L/dp は 60,000 になりました。ACQUITY Arc システム(1.1 mL)は、ACQUITY UPLC H-Class Plus システム(0.4 mL)と比較してデュエルボリュームが大きいため、ターゲットの分析法ではグラジエント開始時間を遅らせて、クロマトグラフィー分離の完全性を維持ました。ACQUITY Arc システムの装置メソッドの Gradient StartSmart を使用して、グラジエントが注入の 1.2 分後に開始するように調整しました(図 1)。Gradient SmartStart 機能により、システムのデュエルボリュームの違いが補正され、グラジエントテーブルを手動で調整する必要がなくなりました。

図 1.分析法移行におけるシステムのデュエルボリュームの違いを補正するための Gradient StartSmart を備えた ACQUITY Arc システムの装置メソッド。グラジエント開始時間を注入後 1.2 分に調整しました。

100 µg/mL のマレイン酸フェニラミン API とナファゾリン塩酸塩 API および 10 µg/mL の類縁物質を含むサンプルの、両方のシステムで取り込んだクロマトグラフィーデータを図 2 に示します。  ACQUITY Arc システムで得られたクロマトグラフィー分離は、ACQUITY UPLC H-Class Plus システムで得られた結果と同等でした。さらに、ACQUITY Arc システムで得られた類縁物質の相対保持時間(RRT)とピーク間の USP 分離度(Rs)は、ACQUITY H-Class Plus システムで得られた結果と一致していました(表 3)。RRT 値は、Empower ソフトウェアを使用して、各類縁物質の保持時間を関連する API の保持時間と比較することで算出しました。RRT 値はクロマトグラフィー分離においてピーク同定に役立つため、分析法を異なる粒子径のカラム間や異なる LC システム間で移行する場合、RRT 値が同じであることが必須です。

図 2.粒子径 1.7 µm のカラムから 2.5 µm のカラムへの分析法のスケーリングおよびシステム間の移行に関するクロマトグラフィーデータ。UV @ 260 nm。
表 3.分析法のスケーリングおよびシステム間での移行に関するデータ。1.7 µm(2.1 × 100 mm)の分析法は ACQUITY UPLC H-Class Plus システムで実行し、粒子径 2.5 µm のカラムの分析法は ACQUITY Arc で実行しました。UV @ 260 nm。

性能の検証:システム適合性

2.5 µm のカラムを搭載した ACQUITY Arc システムで実行する分析法の性能を、10 µg/mL 標準試料を使用して 6 回繰り返し注入の併行精度を測定することで評価しました。ACQUITY Arc システムでのピーク面積と保持時間の併行精度は良好で、ACQUITY UPLC H-Class Plus システムで取り込んだ結果と同等でした(図 3)。ACQUITY Arc システムでは、クリティカルペアのピークの間で同等の USP 分離度が得られました(Naph-Imp D と Naph-Imp A の間は 1.9、Naph-Imp B と Naph-Imp C の間は 1.8)。

図 3.1.7 µm のカラムを搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus システム(A)から 2.5 µm のカラムを搭載した ACQUITY Arc システム(B)への分析法のスケーリングおよび移行のシステム適合性の結果 

点眼液の分析

1.7 µm のカラムを搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus システムおよび 2.5 µm のカラムを搭載した ACQUITY Arc システムで取り込んだ、500 µg/mL のマレイン酸フェニラミンおよび 40 µg/mL のナファゾリン塩酸塩を含む点眼液サンプルの、代表的なクロマトグラムを図 4 に示します。

点眼液サンプル中の API および類縁物質の含有量のアッセイを計算し、システム間で比較しました。API アッセイまたは回収率(%)は、フェニラミンとナファゾリンの作業濃度(それぞれ 500 µg/mL および 40 µg/mL)について、80 ~ 120% の範囲で作成した検量線を用いてサンプルを定量することによって決定しました。類縁物質の含有量(% 不純物)については、Empower ソフトウェアを使用して、各類縁物質のピーク面積を関連する API と比較することにより決定しました。ACQUITY Arc システムによって生成された API および類縁物質の含有量のアッセイ結果は、ACQUITY UPLC H-Class Plus システムで得られたデータと同等でした(図 5 および 6)。 

図 4.1.7 µm のカラムを搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus システム(A)および 2.5 µm のカラムを搭載した ACQUITY Arc システム(B)を使用して取り込んだ、500 µg/mL のマレイン酸フェニラミンおよび 40 µg/mL のナファゾリン塩酸塩を含む点眼液サンプルの代表的なクロマトグラム。RT 比:関連する API の保持時間に対する類縁化合物の保持時間の比。UV @ 280 nm。 
図 5.1.7 µm のカラムを搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus システム(A)および 2.5 µm のカラムを搭載した ACQUITY Arc システム(B)で得られた点眼液サンプルに含まれるフェニラミン(PHEN)とナファゾリン(NAPH)のアッセイ結果(% 回収率)。UV @ 280 nm。
図 6.1.7 µm のカラムを搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus システム(A)および 2.5 µm のカラムを搭載した ACQUITY Arc システム(B)を使用して得られた点眼液サンプル中の類縁物質のアッセイ結果(% 不純物)。UV @ 280 nm。

結論

フェニラミンマレイン酸 API、ナファゾリン塩酸塩 API およびそれらに関連する類縁物質のアッセイ分析法を、粒子径 1.7 µm のカラムから 2.5 µm のカラムに正常にスケーリングし、ACQUITY UPLC H-Class Plus システムから ACQUITY Arc システムに移行しました。ACQUITY Arc システムで得られたクロマトグラフィー分離、相対保持時間(RRT)値、システム適合性、アッセイ結果は、ACQUITY UPLC H-Class Plus システムで得られたデータと同等でした。

異なる LC プラットホーム間での分析法のスケーリングおよび移行が成功するかどうかは、システムの特性に影響されることがあります。これらの違いを考慮して適切な調整を行うことで、同等の分離および性能が得られる成功率が高くなります。

参考文献

  1. Dong MW.Ultrahigh-Pressure Liquid Chromatography, Part III: Potential Issues: This Installment on Ultrahigh-Pressure Liquid Chromatography (UHPLC) Review The Potential Problems That May Be Encountered Using HPLC Systems and Methods, And Proposes Strategies For Their Migration.LC-GC North America, 35-11, 2017.
  2. Hong H, McConville PR. Dwell Volume and Extra-Column Volume: What Are They and How Do They Impact Method Transfer?. Waters White Paper, 720005723, 2018.
  3. Waters Columns Calculator.https://www.waters.com/waters/support.htm?lid=134891632&type=DWNL
  4. Waters Corporation, Protocol for Gradient Delay (Dwell Volume) Measurement.Waters Application Notebook, 2013 p. 67-69.

720008189JA、2024 年 1 月

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