• アプリケーションノート

環境サンプル中のパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のノンターゲット分析へのサイクリックイオンモビリティーの適用

環境サンプル中のパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)のノンターゲット分析へのサイクリックイオンモビリティーの適用

  • Sarah Dowd
  • Kari L. Organtini
  • Frank L Dorman
  • Waters Corporation

要約

パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、大きな懸念のある環境汚染物質のクラスとして特定されている合成化合物群です。従来の PFAS の使用および製造に新たな規制が課されるのにともなって、代替の PFAS 化合物が出現してきています。さらに、PFAS 汚染の浄化作業により、新たなフッ素化合物が生成される可能性があります。タンデム四重極質量分析法を使用したターゲット分析法は、従来の PFAS および新規の PFAS の比較的短いリストに着目している規制分析法において重要な役割を果たします。高分解能質量分析(HRMS)を用いたノンターゲット分析(NTA)は、新規 PFAS の探索および同定のための強力で補完的な手法です。本研究では、HRMS を液体クロマトグラフィーおよび SELECT SERIES™ Cyclic™ IMS 質量分析計を使用するイオンモビリティー分離と組み合わせて、複雑な環境サンプル中に検出されるピークの数を向上させました。このアプリケーションノートに示すワークフローでは、ソフトウェアツールを使用して、既知の PFAS の確実な同定、および環境水サンプル中のこれまで報告されていない一連の PFAS の探索を行いました。

アプリケーションのメリット

  • 精密質量、保持時間、予想フラグメントイオン、および衝突断面積(CCS)に基づいた、複雑なマトリックス中の既知の PFAS の信頼性の高い同定
  • PFAS の特徴的なケミストリー用に設計された IMS ベースのフィルターを利用した新規 PFAS の探索
  • イオンモビリティー分離によるスペクトルアライメントの追加により、既知化合物および未知化合物の構造解析の改善

はじめに

パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、産業用製品や消費者向け製品で一般的に使用される化合物群であり、特に疎水性および非粘着性の特性で知られています。PFAS のケミストリーには、複数のフッ素原子を含む炭素骨格が含まれています。炭素-フッ素結合が強いため、これらの化合物は分解耐性を示し、「永遠の化学物質」という別名が付けられています。PFAS は、健康に悪影響を及ぼす可能性があるため、懸念が高まっています。最も悪名高い PFAS、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)とペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)の 2 つは、ほとんどの地域で使用および製造が禁止されています。特定の PFAS に関連する潜在的健康リスクについての理解が進むにつれて、より広範な禁止が予想されます。規制に対応して、化学薬品製造者は、異なる鎖長または別の官能基を利用して、PFAS のメリットを維持しつつ、潜在的な健康リスクを軽減しています。

生成/使用されている PFAS の推定数は 10,000 を超えるまでに増えています(PFAS の定義の仕方によっては、その数は 700 万に達する可能性があります)1-2。 ターゲットを絞った手法ではこれらの化合物を低レベルで検出できますが、現在のターゲットの数は限られています。米国の最新の分析法(EPA メソッド 1633 および ASTM D8421)でも、PFAS のターゲットリストはそれぞれ 40 および 44 で、環境サンプル中に含まれる可能性のある PFAS のごく一部です3–4。 サンプル中の既知の PFAS と新規の PFAS の両方を検出および同定するには、高分解能質量分析(HRMS)を用いたノンターゲット分析(NTA)が強力な手法になります5

このアプリケーションノートでは、PFAS によるバックグラウンド汚染をコントロールするための PFAS 溶液キットを取り付けた ACQUITY™ UPLC™ システムに接続した SELECT SERIES Cyclic IMS 質量分析計を使用した、新規および予期しない PFAS の検出および同定のための環境サンプルの NTA を行いました。イオンモビリティー分析(IMS)とは、イオンのサイズ、形状、電荷に基づいて、イオンを気相中で分離する手法です。IMS の追加により、分離の次元が追加され、システムのピークキャパシティが増加するため、複雑なサンプルの NTA に有用です。IMS ドリフト時間の測定値は、衝突断面積(CCS、通常は Å 単位で測定)に相関している場合が多く2、イオンの形状に関連する追加の同定指標として使用できます6–7。 SELECT SERIES Cyclic IMS プラットフォームの利点の 1 つとして、対話式のソフトウェアコントロールにより IMS 分離をカスタマイズできる機能があります。この分析では、サイクリックデバイスの単一周回で、短めのドリフト時間でイオン(低分子およびハロゲン化物)について最良の IMS 分離が得られるように、IMS パラメーターを調整しました。PFAS は複雑なサンプル中に低濃度で存在する場合があるため、データインディペンデント取得(HDMSE)を使用して、1 回の注入でできるだけ多くの情報を取得しました。検出されたピークはまず、同定のために内部の HRMS PFAS ライブラリーと比較しました。未同定ピークは、イオンモビリティーの次元で検出されたドリフト時間に基づいて選択し、さらに精査しました。

実験方法

サンプルの説明

環境サンプルは、EPA メソッド 1633 に従って以前に前処理および分析されています3。 サンプル前処理の詳細およびターゲット分析の結果は、Waters™ アプリケーションノート 720008118JA で報告されています。使用した標準試料(ターゲット分析種、抽出された内部標準、抽出されなかった内部標準)はすべて、Wellington Laboratories から入手しました。環境サンプルは、溶媒ブランクおよび 30 種類の PFAS の標準混合物(Wellington Laboratories 製の PFAC30PAR ネイティブ PFAS 溶液/混合液)と同時に分析しました。

このアプリケーションノートで説明する環境サンプルには、現地で採取した地表水、および米国中西部の処理施設から提供して頂いた流入廃水および流出廃水が含まれます。

MS 条件

この分析に使用したシステムには、PFAS 溶液キット(製品番号 :176004548)を取り付けた ACQUITY UPLC I-Class Plus と SELECT SERIES Cyclic IMS 質量分析計が含まれていました。LC 分離には、アイソレーターカラムおよび分析カラムの両方に、Atlantis™ Premier BEH™ C18 AX ミックスモードカラムを使用しました。以前の研究で、ミックスモードケミストリーが PFAS の分析、特に短鎖化合物の検出に有用であることが示されています9。 MS は、m/z 50 ~ 1200 の質量にわたってネガティブイオンエレクトロスプレーで動作させました。データは、HDMSE を使用し、Cyclic IMS セルの単一周回とトランスファーセルでのコリジョンエネルギーランプ(10 ~ 40 eV)を用いて取り込みました。

LC 条件

LC システム:

PFAS キットを取り付けた ACQUITY UPLC I-Class PLUS

バイアル:

ポリプロピレン製バイアル、ポリエチレンキャップ付き(製品番号:186005230)

アイソレーターカラム:

Atlantis™ Premier BEH C18 AX 2.5 μm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009390)

分析カラム:

Atlantis Premier BEH C18 AX 1.7 μm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009368)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

25 μL

流速:

0.3 mL/分

移動相 A:

2 mM 酢酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

0.1%(v/v)水酸化アンモニウムメタノール溶液

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

SELECT SERIES Cyclic IMS

イオン化モード:

ESI-

キャピラリー電圧:

0.5 kV

コーン電圧:

10 V

取り込みモード:

HDMSE

取り込み範囲:

m/z 50 ~ 1200

コリジョンエネルギー:

低:4 eV

高:10 ~ 40 eV

質量分解能:

V モード(60,000 FWHM)

IMS 分解能:

単一周回、約 65 FWHM

IMS TW 静的高さ:

15 V

IMS のサイクル時間:

51.6 ms

データ管理

MassLynx™ ソフトウェア(バージョン:4.2)を使用してデータを取り込み、waters_connect™ プラットフォームの UNIFI™ アプリケーション(バージョン:3.2)で解析しました。 

サスペクトスクリーニング用の既知 PFAS のライブラリー

環境サンプル中の PFAS の検出は、100 種を超える化合物を含む PFAS のサスペクトスクリーニング用のアプリケーションに固有の UNIFI サイエンスライブラリーとの比較に基づいています10。 各ライブラリーエントリーには、化合物名、化学式、構造、およびレファレンス標準の分析から実験的に導出された検出結果が含まれています。この試験の過程で、Wellington PFAC30PAR ネイティブ PFAS 溶液/混合液中の 30 化合物のライブラリーにおいて、実測保持時間と CCS 値が更新されました。追加の疑わしい PFAS を、理論的に生成された PFAS ライブラリーおよび PFAS 構造の EPA CompTox リストに対してスクリーニングしました2,10

結果および考察

図 1 の概略図に、この試験で使用したワークフローを説明しています。これらの説明している実験は定性的であり、3 つのサンプルでどの PFAS が検出されたかを判定するためのみに使用しました。HDMSE を使用してデータインディペンデント取得を行いました。これにより、プリカーサーイオンとプロダクトイオンの精密質量、および CCS が 1 回の注入で得られました。waters_connect の UNIFI アプリケーション内の、IMS 分析法を使用した精密質量スクリーニングをデータ解析に使用しました。4D ピークピッキング、高 CE データと低 CE データのアライメント、ターゲットライブラリーとの比較はすべてアプリケーション内で自動的に行われます。検出されたピークは、ターゲットリストに一致したピーク(同定済み)と一致しなかったピーク(候補)の 2 つのカテゴリーに分けられます。サスペクトスクリーニング用の PFAS のターゲットリストには、HRMS によって以前に分析された約 100 の化合物が含まれていました10。ターゲットリストに一致しなかった検出ピーク(候補)にも、精密質量測定値、高 CE スペクトルと低 CE スペクトルのアライメント、CCS 測定値があり、これらはデータベース検索に使用できます。各注入の候補リストは多数になる可能性があり、さらなるフィルタリングを使用して、可能性のある PFAS の同定のリストを限定しました。

図 1.  LC-IMS-MS を使用した環境サンプル中の PFAS 同定に用いた分析法の概略図

サンプル中の既知の PFAS の同定は、精密質量(5 ppm 以内)、同定されたフラグメントイオン、RT の誤差に基づいて行いました。同定を確認するために、実測衝突断面積(CCS)の値も、PFAS 標準試料の CCS の測定値と比較しました。Charbonnet が推奨する信頼性尺度において、これらの化合物はレベル 1 または 2a にランクされます11。 水サンプル中には、ペルフルオロアルキルスルホン酸(PFSA)、ペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)、フルオロテロマースルホン酸(FTS)などのいくつかの従来の PFAS が同定されました。レポート目的で、これらの化合物は溶媒ブランク中には検出されなかったか、あるいはブランク注入で検出されたピークレスポンスより 3 倍大きいピークレスポンスを示しました。図 2 に、地表水サンプルのターゲットリストから同定された化合物を示します。短鎖 PFCA では通常、脱プロトン化イオンが見られず、確認フラグメントイオンが多くないため(2 つの短鎖 PFCA、PFBA と PFPeA には多くの場合、ターゲット分析でモニターする MRM トランジションが 1 つしかない)、確実な同定は困難です。短鎖 PFCA について LC-IMS-HRMS で観察されるイオンは、脱カルボキシル化イオン [M-H-CO2]- であり、これがターゲット分析でモニターするフラグメントイオンです。これらの実験における CCS のさらなる同定機能により、真正標準試料に対して比較する場合の、短鎖 PFCA の同定の信頼性が向上します。例えば、地表水サンプル中の PFBA の同定は、精密質量測定値 m/z 168.9902(質量誤差 0.8 mDa または 4.7 ppm)、保持時間誤差 0.11 分、PFBA 標準試料の CCS からの実測 CCS 偏差が -0.35% の [M-H-CO2]- の検出に基づいて行いました。したがって、PFBA の同定には、真正標準試料と一致する 3 つの同定指標がありました。

図 2.  ベースピーク強度(BPI)クロマトグラム(上)と地表水サンプル中に検出された同定済み化合物(下)の比較

NTA におけるイオンモビリティーのメリットは、成分を保持時間およびドリフト時間で揃えることで、スペクトルをクリーンアップできることです(図 3)。HDMSE では、CID によるフラグメンテーションは、IMS 分離後にトランスファーセルで発生し、プリカーサーイオンとフラグメントイオンは同じ実測ドリフト時間を示します。クロマトグラフィーでさまざまなドリフト時間で共溶出するイオンを除去できるため、低コリジョンエネルギー(CE)スペクトルおよび高コリジョンエネルギースペクトルがより明瞭になります。このスペクトルの明瞭さは、未知化合物の解析および既知のターゲット化合物の確認に役立ちます。

図 3.  流入廃水サンプル中の PFOA の低 CE スペクトルおよび高 CE スペクトル。左は保持時間のみによるアライメントを行ったスペクトル、右は保持時間とドリフト時間のアライメントを行ったよりきれいなスペクトルです。高 CE スペクトルのフラグメントイオンは、PFOA および同位体標識標準試料に関連付けることができます。

廃水サンプル中には、以前検出された PFAS に加えて、EPA メソッド 1633 のターゲットとして含まれていない同定済み化合物がありました。このような化合物には、ペルフルオロプロパンスルホン酸(PFprS)、ペルフルオロブタンスルホンアミド(FBSA)、ペルフルオロエチルシクロヘキサンスルホン酸(PFeCHS)、6:2 フルオロテロマーリン酸ジエステル(6:2 diPAP)、6:2/8:2 フルオロテロマーリン酸ジエステル(6:2/8:2 diPAP)などが含まれます。図 4 に、流入廃水サンプル中の 6:2 diPAP の XIC およびスペクトルを示します。6:2 diPAP のライブラリーエントリーに、高 CE スペクトルに見られた予想フラグメントイオンがあったため、Charbonnet らが提唱する信頼性尺度における同定の信頼性レベルは 2b(確認フラグメンテーションのエビデンスにより可能性が高い)になりました11

図 4.  既知の PFAS のスクリーニングで廃水サンプル中に検出された化合物 6:2 フルオロテロマーリン酸ジエステル(6:2 diPAP)のクロマトグラムおよびスペクトル。HRMS PFAS ライブラリー中の予想フラグメントイオンが、高 CE スペクトルでマッチしました。

ノンターゲットスクリーニングにおける課題の 1 つは、LC-MS クロマトグラム中の検出された何千ものピークから、未知の PFAS を見つけることができるかどうかです。フッ素化合物を検出するための以前の戦略には、Kendrick 質量欠損プロット、共通フラグメントイオンの検索、質量欠損フィルタリングなどがあります。この試験では、イオンモビリティーを使用して、フッ素化またはハロゲン化されている可能性のある化合物をフィルタリングしました。以前の研究で、フッ素などのハロゲンを含む化合物は、同様の m/z の非ハロゲン化有機分子と比較して、CCS 値が小さいことが示されています12–14。 MacNeil は、実測 m/z に対して比較的コンパクトなイオンを選択することで、未知の PFAS 化合物を明らかにできることを実証しました14。 この戦略をその試験で使用し、それまで報告されていなかった 6 種類の PFAS 化合物が、GC-IMS-HRMS によってレファレンス物質 NIST SRM 2585 中に同定されました。同様の戦略をここでも使用し、検出されたピークを実測 m/z およびドリフト時間によってフィルタリングしました(図 5)。UNIFI のイオンモビリティーデータビューアーツールを使用してこのドリフト領域を選択し、フィルターを作成しました。

図 5.  上:A)流出廃水サンプルの完全なデータセットのドリフト時間対質量電荷比(m/z)のプロット、B)可能性のある PFAS 化合物のフィルタリング済み(黄色の線で囲まれた A 枠中の面積)のドリフト時間対質量電荷比(m/z)のプロット。下:C)ドリフト時間と m/z のフィルター適用前(上)と適用後(下)の流出廃水サンプルのベースピーク強度クロマトグラムの比較。
図 5.  上:A)流出廃水サンプルの完全なデータセットのドリフト時間対質量電荷比(m/z)のプロット、B)可能性のある PFAS 化合物のフィルタリング済み(黄色の線で囲まれた A 枠中の面積)のドリフト時間対質量電荷比(m/z)のプロット。下:C)ドリフト時間と m/z のフィルター適用前(上)と適用後(下)の流出廃水サンプルのベースピーク強度クロマトグラムの比較。

ドリフト時間と m/z のフィルターを、データレビューワークフローの解析済みピークリストに適用しました。流入廃水サンプル中のフィルター条件を満たした候補を図 6 に示します。解析済みデータセットにドリフト時間と m/z のフィルターを適用すると、各注入の 10,000 を超える未同定ピークから候補ピークの数が 300 未満に減りました。さらに精査する候補に、強度、質量誤差、共通のフラグメントイオン、同位体パターンを使用して優先順位を付けることができます。このフィルター条件はフッ素化合物を検出することを目的としていますが、他のハロゲン化物も満たしており、候補の多くは塩素化または臭素化された汚染物質でした。 

図 6.  ドリフト時間と m/z フィルターを使用して、流入廃水サンプル中に明らかになった候補化合物の例(m/z 369.979、RT 10.01 分)。低 CE スペクトルと高 CE スペクトルは、候補の RT およびドリフト時間によってアライメントされており、これを UNIFI のツールを用いた構造解析に使用します。

流出廃水サンプル中のドリフト時間と m/z のフィルター条件を満たした高強度の候補は、N-メチルペルフルオロブタンスルホンアミド酢酸(MeFBSAA)と暫定的に同定されました(図 7)。この化合物は、環境サンプル中に以前に検出されています15–16。 また、EPA 1633 および ASTM D8421 のターゲットリストに含まれている、既知の PFAS N-メチルペルフルオロオクタンスルホンアミド酢酸(N-MeFOSAA)と構造が類似しています。MeFBSAA の高 CE スペクトルには、N-MeFOSAA のライブラリースペクトルと同じニュートラルロス(C2H3O2 の喪失、C3H6NO2 の喪失、C3H6NO4S の喪失)が起きたフラグメントイオンが含まれていました(図 8)。この候補の MeFBSAA としての割り当ての信頼性は、レベル 2b(確認フラグメンテーションのエビデンスにより可能性が高い)と考えられます11。 MeFBSAA は両方の廃水サンプルで検出されましたが、流出サンプル中に検出された MeFBSAA のピーク面積は、流入サンプルよりも高いことがわかりました。

図 7.  A)m/z 369.9797 の候補の元素組成カリキュレーターの結果。最もよく適合する式は、i-FIT 信頼度(各式のスコア付けに使用される同位体パターンアルゴリズム)に基づき、C7H6F9NO4S でした。B)この式は、実験的 PFAS ライブラリーとも理論的 PFAS ライブラリーともマッチしなかったため、CompTox ダッシュボードで可能性のある PFAS 構造を検索しました。ヒットした分子式は、N-メチル-N-[(ペルフルオロブチル)スルホニル]グリシンまたは N-メチルペルフルオロブタンスルホンアミド酢酸(MeFBSAA)でした。
図 8.  サンプル中の MeFBSAA の高 CE スペクトルおよび低 CE スペクトル(注釈は理論上のフラグメントイオン)

流出廃水サンプル中に検出されたポリハロゲン化イオンのイオンモビリティーでフィルタリング済みのピークリストをさらに調べると、低レベルのその他の類縁化合物の存在が示されました(図 9):N-メチルペルフルオロプロパンスルホンアミド酢酸(MeFPrSAA)、N-メチルペルフルオロペンタンスルホンアミド酢酸(MeFPeSAA)、N-メチルペルフルオロヘキサンスルホンアミド酢酸(MeFHxSAA)。このシリーズで同定された化合物は、CF2 基の付加により、RT および CCS が増加していました。これら 3 種の化合物は、信頼レベル 2c(確認ホモログのエビデンスにより可能性が高い)で同定されました11。 以前の IMS 試験において、さまざまな PFAS 分子のサブクラスについて、CCS を m/z に関連付ける特徴的なトレンドラインを生成する方法について説明しました7,13。 図 9B は、この一連の化合物の実測 CCS 対 m/z のプロットであり、真正標準試料由来の N-MeFOSAA の CCS 測定値が含まれています。このプロットからわかるように、この関係は CF2 の繰り返し数の増加につれて直線的に増加しており、これによって化合物同定がより確実になります。このトレンドラインを使用して、これらのサンプル中には認められなかった N-メチルペルフルオロヘプタンスルホンアミド酢酸(C10H6F15NO4S)など、同じヘッドグループの化合物の CCS を予測できる可能性があります。

図 9.  A)同じ流出廃水サンプル中に検出された一連の類縁化合物(MePrSAA、MeFBSAA、MePeSAA、MeFHxSAA)の XIC。B)これらの化合物の CCS 計算値対 m/z のプロット。N-MeFOSAA の CCS 計算値は真正標準試料に基づいています。

結論

HRMS を使用した環境サンプルのノンターゲット分析は、新規の PFAS の検出および探索における重要な手法です。潜在的な PFAS の数は多く、増加し続けていますが、真正標準試料の数は依然として限られており、化合物の同定には情報に富んだ分析法が必要です。m/z のみに基づく PFAS のスクリーニングでは、同定があいまいになる可能性があります。イオンモビリティーにより、追加の次元の分離が得られ、CCS 値が得られて、PFAS のようなピークの割り当ての信頼性が高まります。waters_connect ソフトウェアの精密質量スクリーニングツールにより、環境サンプルから検出されたピークを、自動ワークフローで PFAS と割り当てることができました。既知の PFAS の確実な同定を、精密質量、保持時間誤差、確認フラグメントイオン、および CCS 測定値などの指標に基づいて行いました。

未知の PFAS の探索および特性解析において、IMS によりさらなる利点が得られます。その理由は、このクラスの化合物は、同様の m/z の他の化合物クラスと比較して、独特な質量/CCS トレンドラインを示すためです。この試験では、検出されたピークを実測ドリフト時間と m/z に基づいてフィルタリングすることで、環境サンプル中に存在する低強度レベルのポリハロゲン化分子種でも明らかになりました。ドリフト時間のアライメントによって得られる明瞭なスペクトルにより、MeFBSAA で実証されているように、提案構造との理論的フラグメンテーションのマッチングが可能になります。ピーク検出とアライメント、フィルタリング、未知化合物の構造解析がすべて、データ解析用の単一のソフトウェアソリューションで行えます。多数の PFAS の真正標準試料を見つけるのは難しいことから、LC-IMS-HRMS で生成されたデータおよび CCS の追加の指標により、提案構造の確実性が大きく高まります。 

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720008269JA、2024 年 2 月

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