• アプリケーションノート

臨床研究のための尿中遊離メタネフリンの UPLC-MS/MS 分析

臨床研究のための尿中遊離メタネフリンの UPLC-MS/MS 分析

  • Craig Livie
  • Susan Johnston
  • Robert Wardle
  • Gareth Hammond
  • Glasgow Royal Infirmary
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

このアプリケーションノートでは、臨床研究のための尿中遊離メタネフリンの分析における Xevo TQ-XS IVD 質量分析計の高い分析感度および定量性能を実証しています。

アプリケーションのメリット

  • 逆相クロマトグラフィーを使用した尿中遊離メタネフリンの測定
  • 遊離メタネフリンおよび結合型メタネフリンの両方を測定するために通常必要とされる、酸加水分解または酵素による脱共役処理が不要に
  • 尿中遊離メタネフリンは、従来使用されてきた分画メタネフリンよりも優れた臨床性能が得られると考えられる

はじめに

メタネフリンおよびノルメタネフリンは、カテコールアミンの不活性代謝物です。主なカテコールアミンとして、ドーパミン、エピネフリン、ノルエピネフリンがあり、これらは物理的ストレスや感情的ストレスに反応して放出されます。これらにより脳内の神経興奮の伝達が促進され、エネルギー源としてのグルコースや脂肪酸の放出が増加するとともに、肺の細い気道が拡張されます。ノルエピネフリンには血管収縮作用もあるため、血圧を上昇させます。また、エピネフリンは心拍数と代謝を亢進させます。ノルエピネフリンはノルメタネフリンに分解され、エピネフリンはメタネフリンになって、尿中に排出されます。

これらの代謝物は通常、硫酸塩に結合しない遊離型または結合型として尿中に存在し、量が変動していますが、身体がストレスにさらされている間およびその直後に大幅に増加します。一方、稀少疾患である褐色細胞腫やその他の神経内分泌系の腫瘍により、大量のカテコールアミンが生成し、血中および尿中のホルモンおよびその代謝物の濃度が大幅に増加する場合があります。従来、褐色細胞腫の検査においては、結合型と遊離型(通常は分画メタネフリンと呼ばれる)の両方を定量していました。最近のエビデンスにより、尿中遊離メタネフリンが、腫瘍のメタネフリン生成のより特異的なマーカーになることが示されています。尿中遊離メタネフリンの測定により、尿中分画メタネフリンの測定に必要な酸加水分解や酵素的脱共役が不要になります。

臨床研究者はしばしば、尿中メタネフリンの濃度上昇の測定に関心を持っています。ただし、これらの化合物は、その極性のために、逆相 LC-MS/MS での分析が困難になる場合があります。そのため、多くの研究ラボでは、イオン対試薬と電気化学検出(ECD)を使用して、このパネルを分析しています。逆相 LC-MS/MS は正常に使用されてはきたものの、尿中マトリックス成分によるイオン化抑制、不十分な保持、ノルメタネフリンとエピネフリンの不十分な分離など、いまだに課題が残されています。HILIC 分析法も正常に使用されてきましたが、その実施には困難が伴う場合があります。

今回、ミックスモード固相抽出(SPE)手順を使用し、これを Waters ACQUITY™ UPLC™ HSS™ PFP カラムを使用した逆相クロマトグラフィー分離および Xevo™ TQ-XS IVD 質量分析計での検出と組み合わせた、逆相 UPLC-MS/MS 臨床研究分析法について説明します。これにより、臨床研究向けの、優れた直線性、精度、マトリックス効果を備えた、迅速で分析感度の高い分析法が可能になります。

図 1.  ACQUITY™ UPLC™ I-Class FTN IVD および Xevo TQ-XS IVD 質量分析計

実験方法

サンプル前処理および UPLC-MS/MS 分析

市販のキャリブレーション試薬(6PLUS1 マルチレベル尿キャリブレーション試薬セット MassChrom カテコールアミン、遊離メタネフリン、尿中セロトニン)は、Chromsystems®(ドイツ、グレーフェルフィング)から購入し、メーカーの使用説明書に従って調製しました。キャリブレーション範囲は、メタネフリンの場合 14 ~ 11,941 nmol/L、ノルメタネフリンの場合 27 ~ 11,031 nmol/L、3-メトキシチラミンの場合 43 ~ 7,385 nmol/L でした。QC サンプルは ChromSystems からの MassCheck カテコールアミン、遊離メタネフリン、セロトニン尿コントロールレベル I および II で、メタネフリンは 414 nmol/L および 3,427 nmol/L、ノルメタネフリンは 459 nmol/L および 3,303 nmol/L、3-メトキシチラミンは 399 nmol/L および 1943 nmol/L でした。水、アセトニトリル、ギ酸は Merck(英国、ジリンガム)から購入しました。

SI 単位(nmol/L)を従来の質量単位(ng/mL)に変換するには、メタネフリンは 5.06、ノルメタネフリンは 5.46、3-メトキシチラミンは 5.98 で除算します。

酸性化していない尿サンプル(110 µL)を、70 ng/mL の内部標準を含む 110 µL の水で前処理しました。Oasis™ WCX SPE µElution プレート 2 mg 30 µm プレート(製品番号:186002499)を、200 µL の 85% アセトニトリル + 1% ギ酸、続いて 200 µL の水でコンディショニングし、各ステップの後に加圧して乾燥させました。175 µL のサンプル/内部標準混合液を各ウェルに添加し、加圧してプレートを通過させました。次に、各ウェルを 200 µL の水で処理し、続いて 200 µL のアセトニトリルで処理し、各ステップの後、再度加圧してウェルを乾燥させました。ターゲット分析種は、60 µL の 85% アセトニトリル + 1% ギ酸で、吸着剤ベッドから 96 ウェルサンプルコレクションプレート(製品番号:186002482)に溶出させました。サンプルは蒸発乾固してから、500 µL の水に再溶解しました。

続いて、表 1 に示すように、それぞれ 0.1% ギ酸を含む水/アセトニトリルのグラジエントおよび 35 ℃ に加熱した ACQUITY UPLC HSS PFP カラム、2.1 × 100 mm、1.8 µm(製品番号:186005967)を使用して、サンプルを ACQUITY UPLC I-Class FTN システム/Xevo TQ-XS IVD 質量分析計に注入しました(10 µL)。

表 1.  メタネフリン、ノルメタネフリン、3-MT の分離に用いたグラジエントテーブル(総実行時間 5.0 分)

すべての分析種を検出するためのマルチプルリアクションモニタリング(MRM)トランジション、定量イオンと定性イオンを表 2 に示しています。エレクトロスプレーポジティブイオン化モードでキャピラリー電圧 0.5 kV、MS1 および MS2 について分解能 0.7 FWHM に設定しています。

表 2.  メタネフリン、ノルメタネフリン、3-MT の定量イオン、定性イオン、およびそれらの内部標準の MRM パラメーター

結果および考察

メタネフリン、ノルメタネフリン、3-MT のクロマトグラフィー分離が、注入間時間約 5.5 分で得られました。代表的な抽出イオンクロマトグラムを図 2 に示します。

図 2.  キャリブレーション試薬 1 サンプル中の、それぞれ 23.0 nmol/L、14.9 nmol/L、37.1 nmol/L のノルメタネフリン(NMT)、メタネフリン(MT)、3-メトキシチラミン(3-MT)の代表的なクロマトグラム

示されている検量線範囲にわたって、検量線は直線になっていました。8 回の実験にわたるメタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミンについての相関係数は > 0.99 で、% バイアスは ±15% 以内(キャリブレーション試薬 1 については ±20%)であることが示されました。

回収率は、分析濃度範囲をカバーする濃度既知の分析種の標準試料を 5 つの別々の尿サンプルにスパイスすることによって決定し、「(スパイクの結果 - 基本の結果)/スパイクした量」の式で算出しました。% 回収率は、メタネフリンが 103%(88 ~ 111%)、ノルメタネフリンが 109%(90 ~ 117%)、3-メトキシトラミンが 103%(96 ~ 111%)であることがわかりました。

アッセイ間精度性能を評価するため、5 回の測定を行い、低濃度から高濃度まで 5 種類のサンプルを 1 回繰り返しで抽出して分析しました。アッセイ内精度は、すべての分析種について、すべての濃度レベルで ≤ 10.7% CV でした(表 3 参照)。

表 3.  メタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミンのアッセイ内精度性能のサマリー

アッセイ間精度性能は、5 回の測定で、低濃度から高濃度まで 5 種類のサンプルを 1 回繰り返しで抽出して分析することで評価しました。アッセイ間精度は、すべての分析種について、すべての濃度レベルで ≤ 4.0% CV でした(表 4 参照)。

表 4.  メタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミンのアッセイ間精度性能のサマリー

メタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミンの高濃度スパイクサンプルの後の、保護されたブランクサンプルのピーク面積を比較したところ、キャリーオーバーはほぼ見られませんでした。希釈試験でも、サンプルを最大 3 分の 1 に希釈しても ±15% 以内という結果が得られました(ただし、3-メトキシチラミンは 1:1 希釈しかできませんでした)。サンプルは、4 ℃ で抽出した後、装置上で最大 48 時間安定していることもわかりました。

マトリックス効果の調査を、6 人から採取した尿を用いて行いました。内因性ピークの面積は個別に定量し、低濃度、中濃度、および高濃度レベルのスパイク済みサンプルは、溶媒スパイクサンプルと比較できるように、平均ピーク面積を用いて調整しました。ピーク面積を見ると、マトリックスファクターの結果に若干の抑制および増強が見られましたが、これらは内部標準で補正しました(表 5)。

表 5.  メタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミンのマトリックスファクターのサマリー

正確性を評価するために、RCPA 品質保証プログラムのサンプル(メタネフリンは 60、ノルメタネフリンは 34、3-メトキシチラミンは 30)を分析しました。比較の結果を表 6 および図 3 ~ 5 に示しています。非常に良好な一致が見られており、EQA スキームの結果に対するバイアスは最小限でした。

表 6.  メタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミンの正確性のサマリー
図 3.  メタネフリンの RCPA QAS との比較についてのデミング回帰およびブランド-アルトマンプロット
図 4.  ノルメタネフリンの RCPA QAS との比較についてのデミング回帰およびブランド-アルトマンプロット
図 5.  3-メトキシチラミンの RCPA QAS との比較についてのデミング回帰およびブランド-アルトマンプロット

結論

以下の分析法の性能特性を備えた、ヒト尿中のメタネフリン、ノルメタネフリン、3-メトキシチラミン分析用の臨床研究分析法が開発されました。

  • すべての実験において、すべての分析種について、検量線の相関係数(r2)が 0.99 超
  • アッセイ内精度およびアッセイ間精度の結果は ≤10.7% CV
  • 高レベルのサンプルを注入した直後にブランクサンプルを注入しても、顕著なキャリーオーバーは見られない
  • 計算濃度をコントロールサンプルと比較した場合、6 人のサンプルでイオン化抑制がほとんどまたはまったく見られない
  • RCPA 品質保証スキームと比較すると、この臨床研究分析法は良好な一致を示すことがわかった

720008227JA、2024 年 2 月

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