アステラス ファーマ テック株式会社 焼津技術センター
佐藤久美子様、宮寺亮太様、杉山真美様に
お話を伺いました。
―本日はお忙しい中、ありがとうございます。
はじめに、皆様方のお仕事内容をご紹介いただけますか。
宮寺様(以後敬称略) - 私たちは、アステラス ファーマ テック株式会社焼津技術センター品質管理部にて、治験薬の品質試験、安定性試験および原材料の品質試験、また、製造エリアの環境試験や、製薬用水試験を担当しています。さらには、治験薬の品質試験方法、製造エリアの環境及び製薬用水に関する各種バリデーション業務も実施しています。これらの業務は日米欧三極のGMPに基づいて実施しております。
―バリデーション業務も担当されているということで、試験法提供元の分析法をそのままお使いになるというだけではなく、分析法開発や分析法の変更などの業務も行われているということでしょうか?
宮寺 - 私たちの部署では、試験法のバリデーションを実施することがありますが、その際、試験法設定部門と相談し、必要に応じてQC部門としてやり易い試験手順に変更した上で、バリデーションデータを取得します。そして、最終的に試験法設定部門に結果をフィードバックしています。試験法のバリデーションを実施することにより、製剤研究所から試験法の技術移転も兼ねているという形をとっています。
―わかりました。そのようなお仕事内容ですと、お使いいただいている分析の種類としては、やはりクロマトグラフィー (HPLCやGC)が結構大きな割合を占めているのではないかと思いますが、皆様のところで、弊社だけではなく、他のメーカーも含めた試験装置を用いて、クロマトグラフィーという手法をどのようなところにお使いいただいているのか、お聞かせください。
佐藤様(以後敬称略) - 治験薬の原材料試験、中間試験、品質試験、安定性試験、残留薬物確認試験などで使用しています。
―そうすると治験薬の試験がメインの仕事になる感じですか?
佐藤 - そうですね。クロマトグラフィーを使用した業務としては、治験薬とその原材料の分析がメインです。市販用医薬品とその原材料の分析は別のグループが担当しています。
―そのような中でクロマトグラフィーが多く使われているということになりますと、出てくるデータの解析作業が、業務の大きな割合を占めてくるかと思いますが、その辺はいかがでしょうか。
佐藤 - 試料の調製と同じぐらい解析にも時間がとられますし、多数のテーマを同時に各々の担当者が行っていますので、なるべく同じ方法で解析した方が効率が良いかと思います。そういう場面で Empower を使用してデータの測定や解析作業を統一化することにより、業務の効率化やミスの削減に繋がるように頑張っています。
―Empowerをご選択いただいたということで、今は他のメーカーでの測定データも全てEmpowerで取り込んで頂いているのでしょうか?
佐藤 - そうですね。取り込み及び解析をEmpowerで実施しています。
―そのような操作の統一とか、手作業を減らすという目的でEmpowerをご選択いただいているというお話をいただきましたが、それ以外の理由は何かありますか。
宮寺 - 御社のEmpowerのご紹介でよく話されている内容ですが、サーバーによるデータの一元管理、個人ごとに目的に応じた権限付与が可能なアクセス管理、トレーサビリティ機能などが充実しているという点から、Empowerを選択させていただきました。またアステラスグループ全体として、ER/ES、CSVポリシーがあり、Empowerはその内容にも準拠しているということも理由の一つにあります。
―その規制遵守に対応する機能を使われているために、今までよりも使い勝手が悪くなったというようなことはあまりなく、お使いいただけていると思ってもよろしいのでしょうか?
杉山様(以後敬称略) - メソッドのリビジョンのところが、大変だなと思うことがあります。
―それはメソッドを変更した際に理由を入力しなければならないというところでしょうか。
杉山 - メソッドでも装置メソッドや解析メソッドは変更点を管理する必要があるかと思いますが、例えばレポートのスケールを変えても、変更理由を入力しなければいけないのはどうかなと。
―そうですね。オーディットトレイルの理由の要求も、今はメソッド全体に必要か不要かという設定しかできませんが、もっと細かく、メソッドの種類ごとに設定できるといいかもしれません。ありがとうございます。是非、参考にさせていただきたいと思います。
今のお話の規制の遵守と、その前にお話しいただいたEmpowerによる解析の利便性から、Empowerをお使いいただいているのですが、正直申し上げて、Empowerで色々な計算をされているお客様が、実はあまり多くなく、ピークの算出と保持時間の確認、そしてシステム適合性の計算をEmpowerで行い、それ以降の計算に関してはすべて表計算ソフトで計算しているというお客様が大多数なのです。
今回、御社ではEmpowerの中で定量計算を行われていたり、カスタムフィールドを使った計算を実施いただいているということで、是非そのお話をお聞きかせ願いたいと思っております。まず、なぜ表計算ソフトではなくEmpowerの中で計算しようとお考えになったのか、お聞かせ頂けますか。
杉山 - 私たちはEmpowerの前のMillenniumの時代から簡単な定量計算をHPLC装置内で行っていましたので,Empowerにバージョンアップ後もEmpowerの中でデータを解析しています。 とても使い勝手が良いと感じています。
―解析に関しての使い勝手の良さというのは、具体的にどのようなところでしょうか?
杉山 - 所有しているHPLC装置をネットワーク化することで、どのデータも同じソフトで解析できることが,ユーザーとして使いやすい点です。また、一連の分析で何検体も分析した場合でも、どの検体も同じようにピーク面積の積分がうまくできます。他のメーカーのソフトではうまく行く時ばかりではありませんので、この点も私たちにとっては良いと思います。
―ちなみに、その場合は各ピークをマニュアルで解析するというようなことはなくて、事前に設定したパラメータを使用して自動的に解析させていらっしゃるのでしょうか?
杉山 - そうです。パラメータを決めて、全部一括で解析しています。この点は、他メーカーのソフトと比較してEmpowerには問題がないですね。一般的に、複雑なクロマトグラフを解析する場合、マニュアルでベースラインを引くしかなかったり、解析イベントを使用したりすることもありますが、Empowerの場合はそうしたことがそれほど多くはありません。それから、私たちのラボでは、Empowerのカスタムフィールドによる計算機能を大いに活用させて頂いています。一番最初は簡単な定量値の計算でしたが、その内に、適切な係数を試験方法毎又は試験物質毎に設定することで、データ処理のステップが減り、試験を効率化できることがわかって来ました。私たちが行っている作業例 『カスタムフィールドの活用によるHPLC試験の効率化への取り組み』 の中で示しましたが、表計算ソフトを使用した従来ですと、試料を調製して、HPLCで測定した後に、データ解析、解析結果の表計算ソフトへの転記、転記した数値のダブルチェック、計算式の確認が必要になります。この場合、1つの試験を完了するまでに10時間以上かかることもあります。
これがEmpowerのカスタムフィールドを活用した場合では、『カスタムフィールドの活用によるHPLC試験の効率化への取り組み』 を見ていただくとわかりやすいかと思いますが、人が行っている部分の作業がなくなりますので、作業時間の短縮はもちろん、作業者への負担も軽減します。HPLC分析後における人による作業時間は、どんなにHPLCの分析時間が短くなっても変わらないと思いますが、私たちのラボではカスタムフィールドを使い、人による作業時間を削減しています。また、皆がEmpowerで計算結果を出力すると、いつも同じようにレポートが作成できます。これが表計算ソフトですと、個人的な差が生じ、同じレポートが作成できないことがあります。いつでも同じレポートが作成出来るというのは、データ確認の効率化の観点から重要です。
―ありがとうございます。ちなみに、普通の定量計算であっても、なかなか皆さんが表計算ソフトから離れられない理由の一つには桁数の問題があります。例えば表計算ソフトだったら数値を3桁に丸めて、その値を次の計算に持っていくということをします。これをEmpowerの中でやると、全部の桁数を持って計算していくというようなやり方しかできない。それでは困るというお客様が結構いらっしゃったりします。皆さんの中では、この点は問題にはならなかったのでしょうか。
杉山 - 使用者がシステムを理解し、桁処理のルールをきちんと説明できれば問題ないと思っています。
―定量計算の場合であれば、大体一般的なEmpowerの中の計算だけで済むと思いますが、係数をかけるといった計算になるとカスタムフィールドの計算式を組まなくてはいけないというところが多少あると思います。その場合、カスタムフィールドを使う上での、「ここは大変だった」というようなことがあれば是非お聞かせください。
杉山 - そうですね、演算式というか関数が表計算ソフトと違って独特のものがあって、その辺はちょっと分かりにくかったところではありました。直感的でないところは、やはり大変でした。まずは何人かで勉強しながら計算式を作り、その後、SOP整備や教員訓練を実施して部署に広げていきました。
―カスタムフィールドを作るにあたって、弊社サポート部門からのご協力などはさせていただけましたでしょうか?
宮寺 - はい。営業の方に「カスタムフィールドについて勉強会を開催していただくことは可能ですか?」とお願いし、会社内でセミナーを実施して頂いたり、その後もサポートセンターに電話やFAXをしてわからないところを教えて頂いたりしました。
―実際にはこういう形でカスタムフィールドをご利用になるのは、どれぐらい前からでしょうか。
杉山 - Millenniumの時からやっているので10年近いと思います。
―では結構長く行っていただいているのですね。計算方法を変えるという場合、今までの方法と有意差がないかどうかという検証をされたと思うのですが、その辺に関してはいかがでしょうか?この検証が嫌だというお客様もいらっしゃるのですが。
宮寺 - 私たちは、バリデーションを実施しています。計画書に基づいて、表計算ソフトでの計算結果とカスタムフィールドでの計算結果に有意差がないことを確認し、それを報告書にしております。
―お仕事内容のところで、分析法のバリデーションもされているとのことですが、その辺に関してはいかがでしょうか。EmpowerにもMVMというオプションがございます。今までにご検討していただいたことはありますか。
杉山 - 私たちのラボのシステムは、実はまだEmpower2じゃないんですよね。ですので、次にバージョンアップするときには考えたいと思います。
―ぜひ、よろしくお願いいたします。その他、Empowerに関するご要望がございましたらお聞かせ下さい。
佐藤 - 例えば製剤均一性試験の場合ですと、判定値を使って更に二次的な計算ができると良いかなと思っています。判定値から外れているか入っているか、それだけでも出てくれば、手間も減るかなと思います。
―そうですね。今でも出来ないことはないのですが、ちょっと手間のかかるカスタムフィールドになってしまいますので…(笑)。すぐに何か良い案が出るとは、なかなか思いにくいところもあるんですが、ちょっと考えさせていただきたいと思います。他には何かございますか?
杉山 - 例えば、測定としては別々に行った定量試験と純度試験の結果を、まとめた形でレポートにできるとすごく良いかなと思います。
宮寺 - プロジェクトが異なる測定データを、制限なく同等に取り扱えると機能的に使用できると思います。
―同じプロジェクトのデータで、どの結果セットかがわかれば、その結果を選んでサマリーレポートにすることはできるのですが、別々のプロジェクトに入っているデータをまとめるというのはできないと思います。
杉山 - 同じプロジェクトなら可能なのでしょうか。
―同じプロジェクトならまず間違いなく行けますね。その場合、レポートフォーマットの作り方を考えていただいて、1つ目のテーブルには定量の結果しか出力しない。2つ目には純度試験の結果しか出力しないようにフィルターをかけるということができるのですよ。そのためには、何かラベルのようなものを付けていただいておく必要があるか、たとえば必ずサンプル名の最後に純度試験とか定量とかを付けていただくなど、ひと工夫をしていただくと、まとめて1枚のレポートにすることができます。
UPLC装置側面のベルト(緑色又は赤色)は転倒を防止
するためのものです。この様に、アステラス ファーマ テック様では、
安全・防災の面から試験環境の改善を推進されています。
杉山 - うーん、そのレポートフォーマットを作るのがちょっと難しそうですね。
―そうですね。一度レポートに特化したトレーニングをさせていただくのはいかがでしょうか。
杉山 - そうですね、「こんなレポートも作れるよ」という見本があると良いと思います。
―弊社としても、もう少しかゆいところに手が届くサポートができると良いのですが。今後の課題です。ところで現在、御社ではLIMSをお使いですが、LIMSではなく、Empowerで計算をされているのですよね。
杉山 - そうです、純度試験のように複雑なものはLIMS上で計算させるのが大変なものですから。トレンドの管理とか、安定性試験の結果を一覧で出すとか、そういったものはLIMSでやっています。
―ちなみにEmpowerで計算させるときに、サンプルの重量値だとか希釈倍率だとかもEmpowerに入力して計算したりするのでしょうか?
杉山 - そうです。もちろん、係数は入力後にチェックしています。
―いいですね、是非そういう使い方を他のお客様にもしていただきたいのです。ちなみにクロマトグラフィー以外のUV計等の装置のデータは、どのようにされているのですか?
杉山 - 基本的に紙が生データという扱いにしています.装置内の電子データのファイルはバックアップを取る形で運用しています。
―今後はやはり電子的なものが生データになっていくのでしょうか?
杉山 - うーん、そこをどうしていくかが今後の課題です。
―その他にLCのハードウェアに関してでも結構ですが、何かWatersへのご要望はございますか?
佐藤 - 私たちのグループでは、注入量に応じてサンプルループを付け替える機会があるのですが、そのようなことは一般的でないのか、付け替えにくい場所にあります。このため、サンプルループの交換のテクニックが必要なので、そこをもうちょっと簡単に替えられるようになれば私たちとしては助かります。一般的にはあまり替えない方がいいのかなというのも感じてはいるのですが。
―注入量はどのくらいなのですか?
佐藤 - 大概は10-100μLなのですが、注入量が500μL以上の時に替えることがあります。
―装置の横の板が比較的簡単に開くようになってはいるのですが、そこを開けて取り替えるというのは、なかなか難しいことは私どもも十分承知しております。すみません。UPLCは替えやすくなったのですが、Allianceはちょっと…。すみません。
佐藤 - 弊社のラボでもUPLCを徐々に導入しているのですが、まだまだカラムの種類が少ないかなと感じています。これは増えるとは思うのですが、期待して待っております。
―はい、一応着々と毎年数種類ずつ増えてきていますので、是非またご期待ください。
佐藤 - はい、お願いします。
―ありがとうございました。それでは最後に、アステラス ファーマ テック株式会社株式会社様のPRをお願いいたします。
アステラス ファーマ テック株式会社焼津技術センターは、医薬品の安定供給と新製品の開発の一翼を担い、環境配慮・安全第一・品質および技術力の強化を通じて、企業価値の向上を推進しています。今後とも宜しくお願いします。
―本日は、ありがとうございました。