コンバージェンスクロマトグラフィーによる分析法開発

CCの分析法開発

本章ではまずCCで使用される用語を概説し、さらにACQUITY UPC2システムで分析対象候補となるサンプルおよび分析種の種類について説明します。また、共溶媒、移動相添加剤およびサンプル希釈液の役割、そして圧力や温度が密度に及ぼす影響とそれが分離に与える影響についても説明します。最後に、分析法開発のための一般的なプロトコールをご紹介します。



専門用語

先に説明したように、CCは逆相LCと似ていますが、弱溶媒(移動相A)には水ではなく圧縮CO2を使用します。溶媒、共溶媒、モディファイアなどの従来の用語はすべて、強溶出溶媒である移動相Bに使用する溶媒を表しています。一般的に、CCでは共溶媒はメタノールですが、エタノール、2-プロパノール、アセトニトリル、またはこれらの組み合わせなどの他の有機溶媒も使用できます。添加剤はピーク形状や分析種の溶解度を改善するために低濃度で共溶媒に添加される塩または溶液です。添加剤はクロマトグラフィー選択性にも影響を与えます。代表的な添加剤は、ジエチルアミン、水酸化アンモニウム、ギ酸、トリフルオロ酢酸、酢酸アンモニウム、さらに少量の水などです。適切な濃度は添加剤の種類によって異なります。例えば添加剤である水が5%を超えると、その他の分析法条件が適切に選択されていない場合には移動相が二相化する恐れがあります。



コンバージェンスクロマトグラフィーを使ってこのサンプルを分析できるのだろうか?


図25. 塩基性化合物の例とその物理的・化学的特性

 


図26. 分配係数Pの算出方法



新しい分析手法が誕生すると、最初に浮かぶ疑問は「この手法(CC)でどのようなサンプルが分析できるのだろうか?」でしょう。ごく簡単にお答えすると、サンプルが有機溶媒に溶解するのであれば、CCで分析できる可能性があります。この疑問に対する回答は一つではなく、実験で確認する必要があります。多くのサンプル前処理(液液抽出、固相抽出、タンパク質沈殿など)ではサンプルを有機溶媒に溶解する手順があるため、注入に用いる有機溶媒への溶解性は極めて重要です。CCのメリットの一つは、有機溶媒に溶解したサンプル溶液をACQUITY UPC2システムに直接注入できることであり、逆相LCで必要となる手間や時間のかかる蒸発乾固や再調製手順が不要です。これについては第5章で詳しく説明します。分析科学では情報が多ければ多いほど安定した分析法を開発できるため、サンプルに関して可能な限り調べることが役に立ちます(図25)。情報が多ければ多いほど、堅牢な分析法を開発できる確率が高くなるのです。さまざまな有機溶媒に対する化合物の溶解性について、重要な情報の一つが分配係数(P)(一般的にlog10Pと表されます)です。分配係数(P)は、化合物が二相の非混和性溶媒に平衡溶解したときの濃度の比であり、一般的に水と1-オクタノールが使用されます(図26)。分配係数は、これら二つの溶媒に対する化合物の溶解度の違いを示すものであり、化合物の親水性または疎水性の程度を表します。

CCでは、目的の化合物がACQUITY UPC2システムで分析できるかどうかを判断する根拠の一つとして分配係数を用いることができます。経験則では、化合物のlogP値が-2から9の間であればCCでの分析に適していると考えられます。



コンバージェンスクロマトグラフィーの共溶媒

共溶媒は二つの役割を担っています。一つ目はCO2の溶媒和力を高めること。二つ目は分析種と固定相との間の相互作用に影響を与えることです。共溶媒の変更(例えば、メタノールからアセトニトリル)は、保持と選択性の両方に影響を及ぼします。CCにおける共溶媒の役割は、逆相LCにおける強溶媒の役割と似ています。CO2単独であればヘプタンの溶出強度とほぼ同等です。

第1章の表1はさまざまな有機溶媒の溶離力(溶出強度)系列であり、CCで最も一般的に使用される共溶媒であるアセトニトリル、2-プロパノール、エタノールおよびメタノールが含まれています。この表の有機溶媒はすべてCO2と混和するため、幅広い保持時間と溶出強度が実現します。


図27. アイソクラティック分離における共溶媒の濃度変化の影響

 


図28. グラジエント分離における共溶媒の種類の影響

 


図29. グラジエント分離における共溶媒混合の影響



CO2移動相に添加される共溶媒は一般的に分析種の保持時間を短縮します。共溶媒濃度が高くなると、移動相の極性が変化し、保持時間が短縮します。図27はアイソクラティック分離における共溶媒の濃度変化が保持時間に与える影響を示しています。溶出が強い共溶媒(メタノール)の濃度が低下すると、分析種の保持が高まります。これは逆相LCで見られるのと同じ現象です。

図28は移動相の強度が異なる共溶媒により保持がどのように変わるかを示しています。メタノールは最も強い共溶媒であり、分析種を最速で溶出させます。2-プロパノールはメタノールより弱いですが、アセトニトリルよりは強く、アセトニトリルはCCにおいてこれら3種類のうちで最も弱く、分析種を最も長い時間保持させます。他のクロマトグラフィーモードでも同じ関係性のクロマトグラフィー挙動が見られ、強い溶媒では保持が低下し、分析種が早く溶出します。

CCでは異なる共溶媒を混合することで、溶媒強度を変化させ、保持を変化させることができます。図29に、メトクロプラミドと関連不純物のグラジエント分離において、溶離力が弱い共溶媒(アセトニトリル)にメタノールを混合した影響を示します。アセトニトリルの濃度が高くなるにつれメタノールの濃度と溶媒の溶出力は低下し、保持時間が長くなります。このように異なる共溶媒を加えることにより、選択性を変化させ、分離を改善し、ピーク形状をシャープにすることが可能です。



コンバージェンスクロマトグラフィーの添加剤

逆相LCと同じく、CCでもピーク形状や分離能を改善するために添加剤が用いられます。図29では、添加剤のギ酸アンモニウムを4種類のクロマトグラムのすべての共溶媒混合液に加えました。添加剤は固定相の表面を修飾したりイオンペアとして作用したりするため、選択性が変化します塩基性添加剤は、塩基性化合物のピーク形状を改善し、選択性をわずかに変化させる傾向があります。代表的な塩基性添加剤には水酸化アンモニウム、2-プロピルアミンおよびトリエチルアミンがあります。同様に酸性の添加剤は、酸性化合物のピーク形状を改善し、選択性を変化させる可能性があります。代表的な酸性添加剤にはトリフルオロ酢酸、ギ酸および酢酸があります。図30は酸性分析種の分離を示します。この例では、酸性添加剤の濃度が高くなるにつれピーク形状が改善されています。


図30. 添加剤の濃度がピーク形状に与える影響

 


図31. 添加物の種類が塩基性分析種のピーク形状と保持時間に与える影響響



添加剤を変更するとピーク形状および保持時間は大きく変化する可能性があります(図31)。これらの塩基性分析種(ベータブロッカー)では、共溶媒であるメタノールに添加剤を加えなければピークとしてほとんど検出されません。ギ酸を添加するとピーク形状が悪化します。さらにギ酸は検出波長の220nmに吸収を持つため、ベースラインの傾きも発生します。これらの強塩基化合物の場合、酢酸アンモニウム(20mM)を添加した共溶媒を用いると、ピーク形状は劇的に改善されます。またジエチルアミンも同様の効果があるため、塩基性化合物の分析に塩基性添加剤を添加することでピーク形状が改善される傾向があります。



コンバージェンスクロマトグラフィーのサンプル希釈液

CCではさまざまなサンプル希釈液を使用できますが、最良のピーク形状を得るには適切な希釈液を選択することが時として必要になります。サンプル希釈液の溶媒強度は、CCのピーク形状と溶解性に大きく影響する可能性があります。他のクロマトグラフィーモードと同様、CCでもサンプル希釈液は、分析種の溶解性とピーク形状のバランスを保つため、サンプルを溶出系列の最上段に近いできる限り弱い有機溶媒で希釈してください。ウォーターズは、溶解性(2-プロパノール)とピーク形状(ヘプタン)のバランスを良好に保つ一般的な希釈液として、ヘプタン/2-プロパノール(90:10)を推奨します。サンプルの含水量はできる限り下げ、可能であれば水分を完全に除去してください。図32は、中性化合物ブチルパラベンの7つのクロマトグラムのピークを重ねたものです。注入量が増えるにつれ、ピーク形状に対する希釈液の溶媒強度の影響が顕著になります。強い共溶媒であるメタノールを使用すると、注入量が増えるにつれてピークが前方向にずれます。比較的弱い2-プロパノールでは、メタノールに比べてピークのずれが少なく、ピークが高くなります。推奨サンプル希釈液である2-プロパノールとヘプタンの混合溶液では、すべての注入量で左右対称のシャープなピーク形状を示します。


図32. サンプル希釈液強度がピーク形状に与える影響
ウォーターズでは混合比率90:10を推奨しますが、この例では70:30としました。



圧力、温度および密度

自動圧力調整器(ABPR)の設定値を変更すると、CO2の密度が変化するため保持時間に影響を与えます。ABPR圧力設定値の上昇に伴い、密度は上昇し、保持時間は早くなります。分離に最も大きく影響するのは移動相の組成ですが、圧力の調節によって密度を変化させることでも分離能を最適化または微調整できます。図33は、ABPRの設定圧力を変え、他の条件をすべて一定に保った例です。このクロマトグラムに示される通り、ABPRの圧力設定を上げると保持時間は早くなります。


図33. 圧力(密度)が保持時間に与える影響
一般的なABPRの設定範囲は1,500~2,200psi(100~150bar)です。



カラム温度は、逆相LCと同様、CCでも選択性と保持時間に影響を与えますが、分析種の種類によってこの影響の大きさは異なります。カラム温度を上げると、分析種分子のエネルギーが増大し、LCやGCと同様に固定相への保持が低下します。しかし、CCでは一定の圧力で温度を上げると移動相の密度も低下し、移動相の溶媒和力が低下するため、保持が高まります。つまり、CCの場合は温度を変化させると反発する影響が現れます。ほとんどの場合、カラム温度が上昇すると、移動相密度が低下し、保持時間が長くなります(図34)。また、50℃では小さなピークが検出されています。温度は異なる分析種に異なる形で影響を与えるため、このピークはわずかな選択性の変化により検出されました。


図34. カラム温度(密度)が保持時間と選択性に与える影響



ピーク形状、保持時間、選択性は共溶媒や添加剤、サンプル希釈液、圧力、温度、固定相などの役割を理解し、これらを幅広く調節することでコントロールできます。本章で説明したパラメーターをすべて組み合わせ、CCの分離能を最適化する方法を表5にまとめました。ただし、実際のサンプル分離では、各パラメーターの重要性はこの表とは異なる可能性があります。例えば、選択性を変化させる場合、固定相が共溶媒よりも大きな影響を持つこともあります。別の場合では、メタノールからメタノールとアセトニトリルの混合液(50:50)に変更する方がカラムケミストリーを変更するよりも大きな影響をもたらすこともあります。



一般的な分析法開発プロトコール - アプローチ1

図35は、目的のサンプルがCCに適合するサンプル希釈液に溶解するかどうかを迅速に判断するためのプロトコールです。分析種のlogP値が-2から9の間であれば溶解する可能性があります。-2未満であれば、その分析種は水性溶媒にしか溶解しない可能性が高く、その場合CCでは分析できないかもしれません。分析種のlogP値が不明の場合、注入前に適切な有機溶媒に溶解させてください。CCでは、メタノールのような強溶媒では順相分離に近い挙動が見られます(反対に、非常に弱い溶媒では逆相LC)。

したがって、サンプルはヘプタン/2-プロパノールの混合液などの弱溶媒に溶解(または希釈)する必要があります。サンプルの溶解性とピーク形状のバランスをうまく取らなければなりません。CCにおけるサンプル希釈液のピーク形状に対する影響についてはすでに本章で説明しています。


図35. 目的の分析種がCCで分析できるかどうかを判断するためのプロトコール



サンプル希釈液の選択以外にも、クロマトグラフィー分析法開発で留意すべきことがあります。例えば、目的の分析種に最適なクロマトグラフィー条件を設定しなければなりません。図36は、幅広い分析種を円滑に保持・分離させるため一般的に推奨される初期条件です。他のクロマトグラフィーモード同様、図36に示した条件がすべての事例に当てはまるとは限りません。また、ピーク形状の改善と選択性・保持時間の調整も可能です。


図36. CCの推奨スクリーニング条件



ピーク形状と保持時間・選択性を調整するための系統的なアプローチを図37、38、39で解説します。これらは逆相LCの場合とそれほど大きな違いはありません図37はピーク形状改善のためのプロトコールです。最初の条件は、目的の分析種が塩基性か酸性かにより、それぞれの推奨条件を示しています。酸性化合物では酸性条件下で良好なピークが得られ、塩基性化合物は塩基性条件下で良好なピーク形状が得られる傾向にあります。ピーク形状改善するためには、添加剤の種類や濃度の変更やカラムケミストリーの変更があります。


図37. CCにおけるピーク形状改善方法

 


図38. CCにおける保持時間改善方法

 


図39. CCにおける選択性変更方法



図38は保持時間を改善するためのプロトコールです。他の液体クロマトグラフィーと同様、最初の選択肢は異なる(より弱い)共溶媒を使用することです。メタノールはCCで使用できる最も強い共溶媒です。従ってより弱い共溶媒(アセトニトリルまたは他のアルコール類)を使用することで保持時間が遅くなります。グラジエントの勾配を緩やかにする(共溶媒の最終濃度を下げる、またはグラジエント時間を長くする)ことも効果的です。さらに共溶媒を混ぜたり、メタノール濃度を下げたりすることで、共溶媒の全体的な強度が低下し、保持が大きくなります。カラム内で移動相の密度をコントロールできることはSFCとCCに特有の性質です。そうすることで全体的な保持が変化し、密度の低下により保持が大きくなります。これはABPR設定値を下げるか、温度を上げるか、もしくはその両方によって実施できます。最後に、カラムケミストリーの変更も保持を大きくさせる方法です。

図39は、分離の選択性(溶出順序、保持比)を変化させるためのプロトコールです。メタノールの代わりにアセトニトリルを使用するなど、共溶媒の変更も一つの方法です。アルコールベースのプロトン性共溶媒からアセトニトリルなどの非アルコール・非プロトン性共溶媒への変更では、メタノールから他のアルコールへと変更するよりも選択性に大きな影響があります。共溶媒を混合してメタノール濃度を低下させることで共溶媒の全体的な強度は低下するため、保持が高まり、選択性が変化します。移動相密度を操作することでも分析種の全体的な保持は変化します。この密度の影響は分析種により異なるため、目的の分離によっては最適化するのに十分であるかもしれません。最後に、このプロトコールでは必要に応じてカラムケミストリーの変更も推奨しています。



カラムシリーズ別分析法開発プロトコール - アプローチ2

前のセクションで説明した分析法開発プロトコールでは、一般的な初期条件および分離微調整 のために移動相の性質を変化させることの影響に焦点を当てていました。このセクションで は、キラル分離とアキラル分離という 二つの代替法について説明します。この 二つの方法では、 多様で多くのサンプルにおいて統計的に最高の成功率をもたらす分析法とカラムの組み合わせ が求められます。一般的に、CC のカラム選択では「総当たり」法が使用されますが、本セクショ ンで取り上げるプロトコールでは段階的な方法を提案します。



UPC2 Trefoilカラムを用いるキラル分離のための分析法開発方法

提案するキラル化合物スクリーニングプロトコールは、ウォーターズのAMY1、CEL1およびCEL2という3種類のUPC2Trefoilキラルケミストリーに基づいています。図40に示すスクリーニングプロトコールでは、成功率を最大限に高めるため、4つのステップと4つのカラムで構成される最適経路スクリーニングと最適化した混合共溶媒を使用することを推奨しています。

このプロトコールでは、スクリーニングは20mM酢酸アンモニウムを添加したエタノール:2-プロパノール:アセトニトリル(1:1:1)混合液を使用してAMY1で開始します。この分析法で目的の分離が達成されない場合、次の分析法ではCEL1カラムと0.2%TFAを添加したメタノール:2-プロパノール(1:1)混合液を使用し、以下同様に続けます。分析法条件の詳細は図40の枠内に記載されています。


図40. キラル分析を成功させるキラルカラムと分析法のスクリーニング方法



UPC2 Torusカラムを用いるアキラル分離のための分析法開発方法

アキラル分離のスクリーニングプロトコールでも同様のアプローチを用います。以下で説明する最大3段階のステップで達成できます。



ステップ 1

Torus2-PIC(3.0×100mm)カラムと以下のクロマトグラフィー条件を用いる高速スカウティングステップから開始します:1.2mL/min、3分間で4~50%メタノール、30℃、2000psi。

得られた結果に基づき、以下を判断します:

  a. 選択性およびピーク形状に関する要件が満たされた場合、必要な場合にのみ分析法をさらに最適化します。

  b. 良好な選択性が達成されたが、ピーク形状には改善が必要である場合、添加剤(酸性化合物にはギ酸、塩基性化合物には塩基性添加剤)を併用してTorus2-PICカラムで分析します。

  c. データから選択性を変更する必要があることが判明した場合、ステップ2に進みます。



ステップ 2

サンプルの性質に基づいて、規定のスクリーニングフローチャートで概説されている適切なルートを選択します。適切な分離が達成されるまで、推奨されているカラムと共溶媒の組み合わせを使ってフローチャートに沿って進みます。



ステップ 3

分離を微調整するために、分析法の共溶媒組成、温度、添加剤および圧力を調整して分離を最適化します。


図41. アキラル分析を成功させるカラムと分析法のスクリーニング方法



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