【日本国内編】 お客様事例

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三菱化学メディエンス株式会社様

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三菱化学メディエンス株式会社
アンチドーピングセンター長
陰山 信二様にお話を伺いました。




―本日はお忙しいところありがとうございます。よろしくお願いします。

 こちらこそ、よろしくお願いします。

―御社はアジアで初めてドーピング検査ラボラトリーとして世界アンチドーピング機構 (World Anti-Doping Agency)の認定を取られたとお伺いしております。

 1985年に当時の認定機関であるIOC(国際オリンピック委員会)から認定を受け、その後、世界アンチドーピング機構 (WADA: World Anti-Doping Agency)に認定され、以来23年になります。

―また、日本で唯一の公認を受けた検査機関であり、日本における全てのドーピング検査を行っていらっしゃると承知しております。弊社のUPLC/MS/MSを3台このドーピング検査にご使用していただいていると思いますが、まずドーピング検査の禁止薬物について、簡単にご説明いただけないでしょうか?

 ドーピング禁止薬物は、毎年更新されるWADA禁止リストで規定されています。 たん白同化ステロイド、覚せい剤類、その他利尿剤等区分されており、200種類以上になります。

―検査する項目は、目的によって変ってくるのですか?

 検査の種類としては、大会に参加している選手を対象に実施される競技会検査と、それ以外の時期に実施される競技外検査に分けられます。競技外検査は、大会に参加する特定の選手若しくは、抜き打ち的な検査としてトレーニング期間中の選手に実施される場合があります。実施される検査項目は、興奮剤など瞬発力を高めると考えられる薬物は除かれます。 一方、競技会検査では、競技種目によって限定的に対象となる薬物を除き、禁止薬物の対象範囲が広がります。また、持久力を要するスポーツ、たとえば陸上長距離競技や競泳種目に対しては、赤血球を増やす作用のあるホルモン、エリスロポエチンの検査を実施する場合があります。エリスロポエチンは通常、腎臓で分泌されますが、酸素の運搬能力を高める目的で遺伝子組み換え体が不正使用されることがある為です。それ以外に外因性ステロイドの不正使用検出を目的に炭素同位体比測定などの特別な検査が必要となる場合もあります。

―ドーピング検査に弊社のUPLC/MS/MSをお使い頂いていますが、それ以外にどのような装置をご使用されていますか?

 現在は、その3台のUPLC/MS/MSを禁止薬物の6割から7割の成分を対象に利用しています。他の薬物のスクリーニング検査には、主にGC/MSやGCを使用していますが、低濃度のステロイド類を検出する為に高分解能の磁場型GC/MSを使っています。また、ヒト絨毛性ゴナドトロピンといったホルモン類の検出には、イムノ・アッセイ法を用います。先ほどお話しました、エリスロポエチンの測定では、検体である尿から微量のタンパク質を分画精製することが必要である為、電気泳動法を用いています。ドーピング検査では、スクリーニング検査と確認分析の二段階があります。スクリーニング検査で禁止薬物の存在が疑われると確認分析を実施し、確実にチェックする手順を踏むわけです。

―なるほど。そうすると、非常にたくさんの検査法があるわけですね。検体はほとんど尿ですか?

 検体は、基本的には尿ですが、血液検体を対象としたドーピング検査も大規模国際大会を中心に実施される場合があります。

―検体を預かられてから、どれくらいの期間で結果を出されるのですか?

 WADAの規定では、10日以内に報告することが基準になっています。現在、我々は、検体を受け付けてから、通常ですと5日から6日で報告をしている状態です。 ただ、最近は、至急検査の依頼も多く、次の日に、あるいは2日以内に報告する場合も多くなってきています。

―大会前と大会後、また大会中の検査というのは、報告スピードに対しての要求度は変わってくるのですか?

 特に大会前だから大会中だから、大会後だからということで、それほど差はありませんが、例えば、オリンピックなど大規模大会に関係する検査は際しては、大会前であっても大会中であっても、至急報告を求められます。大会前の検査は、競技開始までに結果を報告する必要があります。

―なるほど。

 そういった大会の前日に搬入された検体に対しては、24時間以内に結果を求められることになります。

―大会前検査というのは、どれくらいの時期から行われるのですか?あまりに前に検査を行っても、薬物が検出されないケースも考えられるのではないでしょうか?

 たん白同化ステロイドなどはトレーニング中に使用して筋力を高め、検査の実施される競技会直前に使用を中止するような使われ方をしますので、近年はトレーニング中の抜き打ち的検査を実施するようになってきました。

―現在、7割近くの禁止薬物をUPLC/MS/MSで検査して頂いているということですが、以前はどういった分析手法で検査されていたのですか?

 GC/MSを使用すると成分の特性によってTMS化やメチル化などの誘導体化が必要にでした。昔は10種類のスクリーニング検査でしたが、UPLC/MS/MSを導入してからは7種類に、ですから2/3ぐらいにスクリーニング検査の数が減っています。それは、多成分の分析が出来るというUPLC/MS/MSの利点が生きていることになります。

―以前はGC/MSを使用して検査していた項目を、現在はUPLC/MS/MSに、変更されたわけですが、変更して良かった点を、可能であればUPLCとMS/MSに分けて教えていただけないでしょうか?

 UPLCの良さというのは、分析時間が短い、また安定した測定ができるという点です。HPLCの5分の1倍程度の時間で分析が出来ますので、1件当たり、数十分かかっていたものが数分で済んでしまう、これは我々にとっては大きな利点です。また、耐久力もあり、連続で、100検体以上の分析が可能です。通常は、40本ぐらいの検体を、1バッチとしてアッセイしていますが、従来法ですと、次の朝まで測定が続きました。夜間に分析の状態が悪くなっていると、翌朝から再測定となり、1日で分析が終了しないということがありました。現在は、UPLC/MS/MSですから、誘導体化も不要ですので前処理も比較的簡単です。午後に分析が開始出来れば、その日の内に数時間で分析も終わってしまいます。万一、状態が悪く、分析をやり直したとしても、報告に遅れを生じる心配はありません。 至急検査に対しても余裕を持って対応が出来ますので、やはり、UPLCに関して言えば迅速性が一番の利点です。
Quattro microの利点はやはり、ポジティブ・ネガティブを高速で切り替えながら同時に分析出来るということです。今まで2台3台のGC/MSでやっていた、多種類の薬物分析を1台のUPLC/MS/MS装置で出来るという利点が大きいところです。

―なるほど。ポジティブ、ネガティブを一度に行うことで、分析が効率的になると。

 はい。塩基性物質と酸性物質について、区別なく条件設定できています。

―また GC/MS分析法でよく行われている、前処理とか誘導体化についてはいかがでしょうか?

 簡略化されます。誘導体化の必要性もありません。

―簡略化されるので、サンプル調整の時間も短縮されるわけですね。禁止薬物の一斉分析ですとポジティブに出るものとネガティブに出るものというのがあると思います。 Quattro microだけではありませんが、弊社の装置は、ポジティブ・ネガティブの切り替えが非常に速いのが特長ですが、その点が非常に有効であるということでしょうか?

 そうです。我々が装置を選択する上において、Quattro・microを選んだのは、その点です。

―ポジティブ・ネガティブの高速切り替えですね。

 はい。他社のLC/MS/MSにも良い装置はありますが、その切り替えが容易に出来ないとか、同時には出来る装置はなかったので、御社の装置を選択しました。

―ありがとうございます。では、GC/MSからUPLC/MS/MSに変更することによってどのくらい分析時間が短縮されたでしょうか?

 前処理と測定を合わせて、1バッチの検査として10時間の短縮といっても大げさでないと思います。

―ドーピングの検査は、どれくらいの検体数の依頼が来ますか?また依頼はコンスタントに来るものなのですか?

 我々の会社は、臨床検査が主な業務ですけどが、1日に10万検体ぐらい依頼が来て、年間膨大な分析をしていますが、それからすればドーピング検査は非常に少ない本数です、年間数千検体というレベルです。 海外の主要な検査機関でも今は年間1万検体程度が分析されています。

―コンスタントに依頼が来るものなのですか?

 コンスタントに検査は、依頼されています。 大きな大会があれば一時に何千の分析が行われる場合もありますが、普段は、春・秋など割合的に多くなる場合もありますが、大体コンスタントです。夏の時期は少ないのが普通ですが、今年は多くの検査が実施されました。

―今年は北京オリンピックがありましたが、大会中の検査というのは中国で行われたのですか?

 はい。中国では、オリンピックを前に新しいラボが建設され、中国国内で検査が行われました。オリンピック参加選手が日本で合宿しましたが、日本国内での検査は当社が実施しました。

―日本人選手の大会前の検査や大会後の検査は御社で行われたのですか?

 日本選手のものに限りませんけども、日本国内で行われるドーピング検査については、我々が行っています。

―やはりオリンピックの始まる前はお忙しかったですか?

 皆さんの感覚からすれば、1日に数十検体というのは多いって感覚になられるかどうかわかりませんが、確かに、オリンピック・イヤーということで、この事前検査も各スポーツ団体が積極的に取り組んだ様です。

―質問が曖昧かも知れませんが、ドーピング検査を行う上で、一番難しいことは何でしょうか?

 難しいことですか…

―聞いたことがありますが、禁止薬物を隠すために、またある薬物を飲むとか。また、尿を薄くするために、別の薬剤を飲むとか。 本来の禁止薬物以外に、色々検査なくてはならない薬剤が現在はあるのではないのでしょうか? 禁止薬物を隠すために薬剤を摂取するのでその、薬剤を検査しなければならなくなり、そうするとまた他の薬剤を摂取したり。 いたちごっこみたいですよね(笑)。 どんどん禁止薬物も変化すると思いますが、検査の結果をだされる中で、難しいというか、チャレンジだと思う点はございますか?

 新しいドーピング手法、薬物にアンテナを張り、備えていることが必要です。 急に新しい検査が求められても対応が出来ませんので、常に各国の検査機関とも協調しながら、適応できるように、努めています。もちろん、過去からドーピングに使われてきた薬物の分析も継続しなければならないので、年々分析手法が増えてしまう状況がありました。GC/MSを主に使用していた時は、新規の薬物が増えると、前処理や測定の条件を個別に用意することが必要となる場合がありました。今は、御社の宣伝になるかもしれないですが、UPLC/MS/MSは、適応性が高いので、容易に測定対象の範囲を広げることが出来きます。

―ありがとうございます。UPLC/MS/MSの手法は、測定項目を追加しやすいという訳ですね。それからルーチンの分析以外のメソッド開発にも、UPLCのスピードは有効ではございませんか?

 非常に有効だと思います。スピードがあるということは、開発においても生かせる利点です。

―今後UPLC/MS/MSで分析する薬物数を増やされたり、追加項目に対応していかれる予定はございますか?

 例えば、今GC/MSで分析している薬物をUPLC/MS/MSにのせ換えていく考えはあります。その分GC/MS自体の分析時間を短縮出来る可能性があります。微量のステロイドを大型磁場型のGC/MSで測定していますが、UPLC/MS/MSでも十分検出できるのではないかと思っています。 大型のGC/MSで対応している成分のうち、幾つかの薬物をUPLC/MS/MSを中心にスクリーニングする体制にすれば、GC/MSで分析をする成分が減るわけですから、分析時間を短縮させる可能性があります。

―世界アンチ・ドーピング機構の登録検査機関の中で、情報交換はおこなわれていますか?

 WADAの規定の中にも、検査機関は自分の持っている情報を公開し、各検査機関と協調しながらアンチドーピング活動を続けることが定められています。毎年数回各検査機関が、研究成果を発表する場があります。また、WADAが中心となり、検査機関の代表者を集め、問題点について話し合う機会があります。情報交換の機会は頻繁にあります。

―ドーピング検査というのは、人間に限られたものですか?たとえば競走馬のような動物は扱っていらっしゃらないのでしょうか?

 馬のドーピング検査は、日本では中央競馬会で行われています。我々は人間の検査のみを実施しています。

―弊社の装置の、良い点をたくさん挙げて頂いて本当にありがとうございました。最後に、弊社のUPLC/MS/MSの装置へのリクエストはございますか?

 どうでしょう? これから5年間は、最先端で活躍する装置じゃないでしょうか。

―機能面の改善のリクエストはございますか?

 十分な機能を有した装置です。今でもポジティブ・ネガティブ切り替えは高速ですが、さらに高速になればプレカーサーイオンの数も定量性よく増やせるのではないでしょうか?

―ありがとうございます。今3台、フル稼働ですか?

 はい。フル稼働です。

―3台はどのように使い分けていらっしゃいますか?分析の種類別ですか?

ス クリーニング別に分けて使用していますが、使い分けをしないことが理想です。

―24時間フル稼働ですか?

 いやいや。先程申し上げたように、昼ぐらいに前処理が終われば、もう夕方、遅くとも夜半には測定が終わります。

―ソフトの使い勝手はいかがですか?

 使い勝手が悪いというようなことは、聞いていないです。

―サポートに関して何かございますか?

 特に問題はないです。3台とも安定的に動いていますし。2台に集中させて、残りの1台を整備や検討に使うということも出来、良い状態で検査を続けています。
別の話題ですが、御社の新しいTOF-MS に関心を持っています。

―TOFの場合は、四重極に比べてスキャンの感度が向上するメリットがありますね。実は、現在香港主要な4つの病院が、UPLC/TOF-MSを使用して、スクリーニングメソットや薬毒物のスペクトルライブラリーを作って検討されています。TOF-MSの大きな特長として精密質量の測定があげられますが、この精密質量情報を利用して同定能力を上げることを狙っていらっしゃいます。詳しい情報を入手しましたら、ぜひお知らせにお伺い出来ればと思います。本日は陰山様には非常に良いことをたくさん言って頂いて、ありがとうございます。私どもで何かご協力できることがあれば、是非ご連絡ください。

 よろしくお願いします。UPLCは、最近出た装置の中では臨床検査に対しても、とても良いものじゃないでしょうかね。スピードと、安定性。カラムも良いのでしょうね、きっと。

―そうですね。カラムの性能も非常に大きく貢献していると思います。

 UPLC/MS/MSは、新しく導入した装置として期待以上の成果を得たといえると思います。

―最後に御社のPRをお願いできますか?

 弊社は、品質の高いサービスと製品の提供を目指し、三菱化学ビーシーエル、三菱化学ヤトロン、そして三菱化学安全科学研究所三社の統合により、2007年4月に三菱化学メディエンスとして発足しました。我々もその中にあって、常に先進的な技術の追求を心がけ来ました。そして、これからも、国内唯一のドーピング検査機関としてアンチドーピング活動への貢献を続けてまいります。

―本日は、ありがとうございました。

 


陰山様、本日はありがとうございました。

担当者コメント:
今回は国内唯一のドーピング検査機関である三菱化学メディエンス様に、最近メディアにも取り上げられているドーピング検査について色々興味深いお話を聞かせていただきました。三菱化学メディエンス様は今年の法中毒学会を初め、ケルンで行われた国際学会等でLC/MS/MSを使用したドーピング検査のご発表をされています。LC/MSでの検査項目数を増やす検討をされたり、TOF-MSを検討されたりと今後のご発表が楽しみです。日本ウォーターズ株式会社としては、後装置及びソフトウェア、アプリケーションにおいても常に新しい情報を発信し続けたいと思っております。お忙しい中どうもありがとうございました。

 


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