【日本国内編】 お客様事例

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大阪大学大学院様

Users Voice お客様活用事例トピックス

大阪大学大学院
工学研究科 生命先端工学専攻
教授 福崎 英一郎様にお話を伺いました。




―今日はよろしくお願いします。

 はい。よろしくお願いします。

―最初に先生のお仕事について教えていただけますでしょうか?

 生物資源工学分野に所属しており、物質生産に絡む「代謝」をキーワードに、一般的に“メタボロミクス”ともいわれる“代謝プロファイリング”の研究を行っています。

―メタボロミクスですか。ここ数年注目が集まっている研究テーマですね。簡単にご説明いただけますか?

 生き物は生命活動を行う上で“代謝”を行っています。その代謝物を網羅的に測定・解析する事で生体内の情報を知ることが出来ます。例えば、クスリの場合だとその毒性などがわかります。

―素人感覚ですと、分析前に明確なターゲットが定まっていない為、どう解析したらいいかわからなくなりそうですが、実際どのようにされていますか?

 はい。ノンターゲットの分析ですので、情報量が多くなります。そこで統計解析などで要約していくプロセスを行います。そこである程度定量的に判断しながら、特異的なイオン化合物(マーカー)を探します。

―なるほど。技術として応用範囲はいかがですか?

 非常に多岐にわたりますね。従来から注目されているシステムバイオロジーだけでなく、臨床診断や医療、製薬の安全性評価や毒性評価、食品の素材探索や地域判定、化学合成のロット確認、バイオプロセスの効率改善など様々ですね。ほぼ全産業にわたります。最近のトピックとしてバイオ燃料がありますが、この開発にもメタボロミクスの技術が応用されています。

―本当に多岐にわたりますね。どんなものがサンプルになりますか?

 尿や血液などの体液、植物の抽出液、細胞培地や細胞などがサンプルです。場合によっては、食品や生薬原料もサンプルになります。目的によって様々ですね。

―サンプルの前処理はどうされていますか?

 基本的には変わった前処理は行いません。除タンパク質を行うためにクロロホルム・メタノール水などを使いますね。上澄み液を回収して濃縮。再溶解して測定します。回収率やイオン化抑制も検討する時は、内部標準を上流の段階で入れて処理します。どこでいれるのがベストかは悩ましいですね。近赤外分光や熱分解抽出質量分析を行う場合は、ほとんど前処理をしない場合もあります。

―固相抽出を用いることはありますか?

 固相抽出もします。親水性成分がターゲットの場合、油成分を取り除くためにウォーターズ社のOASISをよく使います。サンプルによっては他の固相抽出も使いますね。

―先生はUPLCをご利用頂いておりますが、最初に知ったきっかけは?

 2004年のPITTCON直後でした。賞を受賞した装置ということで、北欧の研究グループとウォーターズの営業さんから同時期に聞きました。

―その時の第一印象はいかがでしたか?

 非常に驚きました。当時、カラムにかかる背圧が研究の律速になっていました。
それを回避するために超臨界液体クロマトグラフィーを試していましたが、まさか汎用型の製品が販売開始されるとはという感じでした。しかも、2μmを下回る充填剤を精度良く調達・提供した事にも驚きでした。

―先生が導入されてからどれくらい経ちますか?

 2005年ですね。3年近く経ちます。

―ご利用いただいていかがですか?

 いいですね。満足しています。メタボロミクスや代謝プロファイリングに向いていますね。特にスクリーニングに適した装置だと思います。

―ここ数年でメタボロミクスを行う研究者が急速に増えてきていると感じます。大多数がLC/MSを検討され、多くの方々からUPLCを高く評価いただいております。メタボロミクスにおいて、UPLCをMSインレットにする最大の利点は何でしょうか?

 まず“時間”ですね。以前はLC/MSでターゲットなしの一斉分析を行うためには、スループットの問題がつきまとっていました。その点で、UPLC/TofMSの登場はメタボロミクスの世界を変えましたね。多検体測定&統計解析からマーカーを拾い上げるメタボロミクスでは、サンプル数を増やす事で不確かさを減らします。それを行う事は容易でなく、今まで時間の制限から出来なかった分析がUPLC/TofMSの登場で高速分析が可能になりました。UPLCで3倍以上のスループットアップです。

―UPLCの登場は、代謝プロファイリング含めて“スクリーニング“の世界に新しい可能性を提供できたという事でしょうか。

 はい。そう感じています。

―メタボロミクスを行う方はMSのインレットにLC、CE、GCを接続することがありますが、全て必要でしょうか?

 実はこれがメタボロミクスを行う大きな問題点です。まず、始めるときに、LC/MS、CE/MS、GC/MSの3つが必要だとなかなか始められません。LC/MS, CE/MS, GC/MS, NMR, 近赤外を試みている身として、やはり最終的にLC-MSに集約すると思います。

―キャピラリー電気詠動(CE)がターゲットにしている陰イオン性の代謝物、たとえば、糖のリン酸化物、核酸、コエンザイムAのデリバティブ、それから多価の有機酸はどうでしょうか?

 各々はLCで分離できます。おおきく3条件に振り分けてUPLC&カラムチェンジャーで対応できるのではと考えています。UPLC/MSなら高速分析できます。一度に全てを分析する必要はありませんから。

―世界的にLC/MSの論文が急増している理由もそこにあるのかもしれませんね。

 そうですね。CE/MSやGC/MSが優れている部分もありますが、汎用性と実用性を加味すると、LC/MSがカバーできれば、敷居が低く、研究者も増えますから。そういう環境が大切だと思いますね。

―先生は多くの分析機器を使用されていますが、もしファーストチョイスで何かを購入するとしたら何が一番必要だと思いますか?

 これは大変難しい質問です。何をしたいかによって異なってきますね。感度が問題にならないのなら最も簡単なメタボロミクス研究の始め方はFT-NMRを使うことだと思います。また、メタボリックフィンガープリンティングによってクラス分類、予測を行いたいなら、近赤外分光や、GC-FID等でも研究を始めることは可能です。FT-NMRはどこの大学でも利用可能でしょうし、近赤外分光計や、GG-FIDは比較的安価なので、メタボロミクスをまず初めてみたいという方にはこれらの装置類が無理の無い選択になるのだと思います。もう少し進んだ段階になるとやはり、感度の良い質量分析計が欲しくなると思います.質量分析計も種類が多いので何をしたいかによって選択がことなります。ターゲットプロファイリングならタンデム四重極MSになります。一方、バイオマーカー探索を行いたいなら精密質量が観測できるMSが必要になります。FT-ICR-MS、オービトラップMS、IT-TOF-MS、Q-TOF-MSと種類は豊富ですが、使いやすさから言えば歴史のあるQ-TOF-MSではないでしょうか。それからスクリーニングならシングルのTOF-MSという選択もあると思います。要するに、これ一台を買えばすべてのシーンに対応可能という装置は無いのだと思います。ただ、HPLC部分に関して言えば、高速分析が行えるUPLCは魅力的な存在だと思います。ただ、いずれの装置も難点は価格ですね。かなり高額です。ウォーターズさん、がんばってください(笑)

―がんばります。(苦笑)
―メタボロミクスにおけるMSの有用性はどこにありますか?

 一言でいうと、感度ですね。大学の共通機器にあるNMRも併用していますが、やはりMSは感度が良いですね。

―研究者が年々増えていると感じます。お話を伺いに来る方は増えていますか?

 そうですね。色々な方が来られますね。ゲノミクス、プロテオミクスなどのシステムバイオロジー研究者だけでなく、食品メーカー、化学工業メーカー、製薬メーカー、医学関係の方まで様々ですね。

―興味があり、これからはじめたいという方に向けて、何か統計解析で良い教材はありますか?

 残念ながら初心者の方が簡単に理解できるということでは、あまり良い物がないのです。(苦笑)英語ですがこれはお勧めです。Multi- and Megavariate Data Analysis (写真右) Umetrics社が出している本です。初心者にもわかりやすくPCAって何?から記述されています。Umetrics社はSIMCA-P+も販売している会社です。国内の販売店になるインフォコム社 さんに日本語作ってくださいとお願いしているのですが。(笑)

―お仕事をされていて大変な部分はどこですか?

 発見されたマーカー化合物の同定作業です。これは、標準物質と完全に一致しないと確定できません。完全一致でないにしても、ライブラリ情報を用いて、ある程度の確からしさで推定する作業をが全自動でできれば、研究者人口は増えると思います。現在はかなりの部分手動での確認作業が必要となりますので、質量分析に慣れていないバイオ部門の方には敷居が高いと思います。

―実はメタボロミクス研究用ソフトウェアMarkerLynxがアップデートされ、その機能が搭載されました。約1200個の内因性化合物ライブラリーとChemSpiderを経由した最大20万化合物のデータベース検索機能です。組成式と同定結果を組み合わせて、簡易アノテーションが可能になりました。さらにフラグメントイオンと同定結果を構造解析用ソフトウェアMassFragmentが検証してくれます。

 それはいいですね。研究者の負荷がかなり減りますね。

―UPLCのカラムもラインアップが充実してきました。この他にどのような種類があると良いとおもわれますか?

 順相カラムですね。これがあるとUPLCの利便性がさらに上がりますね。

―貴重なご意見有難う御座います。今後の検討課題にさせていただきます。
―先生はウォーターズという会社をどう思われますか?

 面白い会社ですね。クロマトメーカーのウォーターズがマスメーカーのマイクロマスを買収した事でMSに対する考え方が変わりましたね。UPLCのような高速LCを提供する上で高速分析に対応するMSを作る発想が生まれました。私のようなメタボロミクス・代謝物プロファイリングを行う立場からすると新しい時代の到来でした。イオンモビリティ(IMS)を質量分析に搭載したSYNAPT HDMSもクロマトメーカーの発想ですね。新しい方法論を提供してくれる会社として期待しています。

―弊社のメタボロミクス・代謝プロファイリングへの弊社の取り組みはいかがですか?

 すべての業界事情を精査しているわけではありませんのであくまでも私見ですが、Watersさんは、Agilentさんとは、現時点でメタボロミクスにおける東西の横綱だと思います。特にWatersさんの場合は,クロマト、質量分析、カラム、固相抽出キット等をすべて提供できるので、トータルソルーションの提案と言う点では、もっとも洗練されているような気がします。今後Watersさんに期待したいのは、斬新なイオントラップMSの開発です。IT-TOF-MSや、LT-オービトラップ等のハイブリッドMSでないと分析できないサンプルもあります。他社もユニークな装置と運用方法を提供していますが、WatersさんがイオントラップハイブリッドMSを作ったらどうなるのかは大変興味のあるところです。ただ,限られたメーカーの一人勝ちは我々ユーザー側からすると、あまり,良くない状況です。やはり、複数社が切磋琢磨してコストパーフォーマンスの高い装置の提供を競っていただけることを期待しています。

―ユーザーの立場からメーカーに着目して欲しい点はありますか?

 MSの最大の弱点の一つであるイオン化サプレッションによる定量性低下を何とか解決して欲しいです。エレクトロスプレーイオン化等のソフトイオン化は、タンパク質、ペプチド等の高分子には極めて有用ですが低分子代謝物が分析対象の場合、必ずしもベストとは言えません。定量性の高いハードイオン化法の開発を熱望しています。といっても開発には時間を要しますから、当面の解決はクロマト分離技術のさらなる進歩を期待します。高分解能MSなら質量で分離できるというごちゃ混ぜで精密質量をとっても定量性はありませんからね。クロマト分離をもっと一生懸命やっていただけるといいかと思います。

―これから装置を検討したいという方に何かアドバイスいただけますか?

 まず性能の良い装置本体を買う事ですね。オプションや統計解析ソフトウェアは後で何とでもできます。装置本体は高価ですから、簡単に買い換えられません。

―ウォーターズのMSはいかがですか?

 すべてのメーカーの装置を比べたわけではありませんが、総合的に完成度が高いのではないでしょうか。また、イオン化の条件検討が容易なような気がします。これは他の施設でも同じ話を聞いています。特にスクリーニングには向いていると思いますね。

―先生お話有難う御座いました。最後に先生の研究室について一言PRをいただけますか?

 我々の研究室では様々なニーズに対応できる様、主に分析・解析のスペシャリストを養成しています。大学として海外からの研究者もWelcomeです。特にポーランド・スウェーデン・デンマーク・チェコ・ロシアなどの北欧などでクロマトグラフィーを十分研究されているのに、なかなかそれ以上の研究をする機会が得られない優秀な研究者に、より良い教育の場を提供できればと考えています。もしいらっしゃれば、是非お問い合わせください。

―本日はありがとうございました。

 


福崎先生、本日はありがとうございました。

担当者コメント:
最先端の分析装置が多数並んでいる研究室は圧巻でした。設備だけでなく、人材・実績でも世界の第一線にいる研究グループと感じました。また最近注目を浴びるバイオ燃料がこのような先端技術により改良・開発されている事を始めて知りました。実は、生活と研究は密接に関係しているのですね。今後のご活躍をお祈りしております。

 


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