東和薬品株式会社 京都分析科学センター
落合美登里様(研究開発本部 医薬分析部 生物分析課)にお話を伺いました。
―本日はお忙しいところお時間をとっていただきましてありがとうございます。最初に落合様がどんなお仕事をされているかお話いただけますでしょうか。
落合様(以下敬称略): ジェネリック医薬品の承認申請に必要なヒトの生物学的同等性試験のデータを分析しています。具体的に言うと、当社で開発したジェネリック医薬品がすでに発売されている新薬の効果と同じであることを確認するために、ボランティアさんに新薬と当社のジェネリック医薬品を交互に飲んでいただいて血中の薬物濃度を比較して評価します。この評価に用いる血中の薬物濃度の分析をしています。
―お仕事の中ではLCを使用されることがかなり多いでしょうか。
落合:はい。LC/MS/MSがメインの分析装置になります。血中の薬物濃度を測定する手法としても低分子化合物の分析ではLC/MS/MSが一番多いと思います。
―LC/MS/MSは何台使用されていますか?
落合:今は9台です。ほぼフル稼働で使用しています。
―フル稼働ですか。
落合:血漿などの生体試料の分析がメインなので、装置の汚れなどのトラブルも多いですけれども。
―LC/MS/MSで分析ということですと、MSの感度が重要というところがあると思いますが、一方LCの分離についての分析法開発もいろいろ工夫をされたりするのでしょうか。
落合:そうですね。やはり生体試料中に含まれている成分は前処理で除去しきれないので、LCでいかに分けて選択性を上げていくかというところが重要ですね。
―そういう際には、移動相やカラム温度などの条件を検討されるのか、それともカラムも変えるのか、どういったところを検討されるのでしょうか。
落合:まず、カラムはODSを試します。ODSカラムでの挙動を見てから移動相とカラムの種類や組み合わせを検討するという流れが定番のパターンです。カラムの温度は光学異性体などシビアな分割が必要な場合は検討しますが、基本的には室温に10℃くらいプラスした40℃が基本です。
―ODSで試してとのことですが、ODSの種類を振って、それでも駄目なら他の官能基を使われるのでしょうか?
落合:はい。
あと当社の仕事の特徴として、ジェネリック医薬品を一年間に数十製品発売していますので、それらの分析を短期間で行っていかなければなりません。時間との勝負というところもありますので、スループット性の高い分析法というのも条件に入ってきます。ですから、カラムの種類もいろいろと試すと言ったのですけれども、より選択性が高くて分析時間が短くて済むというところも視野に入れて検討していきます。
―時間短縮をカラムの面でされる場合は、Sub-2μmタイプを使用されますか。
落合:当社は様々なLC/MS/MSがありますが、全てのフロントLCが高耐圧ではないので、どの装置でも使えるように、あまりSub-2μmは使っていないです。そこでXSelectのCSHが非常に重宝しています。2.5μmのパーティクルサイズのもの(XP カラム)を今使っているのですけれども、装置の圧力が高耐圧のものでなくても安定的に測れて分析の再現性が非常に良いですね。検討で色々なメーカーや型式の違うLCを使っても分離が安定的なことも非常に重宝しています。
―以前にお話を伺ったときに、その当時検討されていた塩基性化合物の分析条件で、コアシェルカラムをいくつか検討されて、物が乗らないとおっしゃっていたかと思いますが。
落合:分析時間を短縮するためにコアシェルカラムを使って検討していたのですが、注入量を増やしたらピークがすべってしまうことがありました。全多孔性カラムと比較するとコアシェルカラムは負荷量が劣る感触ですね。その時にCSHのC18(XP カラム)を試したら、コアシェルよりも負荷量は多くて他の全多孔性よりも分析時間が速いという印象をすごく受けました。全多孔性カラムはコアシェルカラムと比べると平衡化で圧力が落ち着くのに時間がかかりますが、CSH(XP カラム)はサッと置換されて圧力もすぐに安定するので分析時間が短縮できてとても助かっています。
―ちなみに、コアシェルタイプも平衡化が速いと思いますが、それと比較するとどうでしょうか。
落合:コアシェルの2.7とか2.6μmのものと匹敵するくらいです。他の全多孔のカラムに比べると本当に平衡化の時間が速いです。グラジエントのメソッドでコアシェルカラムからCSH(XP カラム)に変更して平衡化時間を検討したら、コアシェルと同じ平衡化時間で十分だったというのもありました。非常に戻りがいいなという印象があります。
―CSHの表面チャージが効いているのかと思います。
落合:ピークもすごく安定しているので、本当に使い良いですね。
―ありがとうございます。落合様のところで分析はグラジエントが多いですか。
落合:目的によりますけど、グランジエントが多いですね。
―薬物動態のお客様では、「グラジエントをかけると戻すのに時間がかかる」とおっしゃってアイソクラティックの分析をされている方もまだ多い感じがしますが。
落合:当社も以前はアイソクラティック分析が多かったですけれども、生体試料を分析しているのでカラムの劣化が気になりまして。
―汚れますよね。
落合:有機溶媒が高比率のアイソクラティックであればいいのですが、そういう化合物も限られていますので、有機溶媒の量が少ないアイソクラティックとなると、どうしてもカラムの劣化が激しいです。それとISRをするようになってから再現性がとても気になります。アイソクラティックだと目的以外の成分がカラムに残っていて1回のランの中では出てこないけれど後の分析で溶出して影響する可能性もあるのかなと思います。なので1回の分析毎で洗いを入れて少しでも分析の条件を揃えるためにグラジエントが多くなってきていますね。
―そうすると、やはり平衡化が速いのが重要ですか。
落合:そうですね。
―カラムはもちますか。
落合:もちますね。なので、たぶん発注が少ないかと(笑)。
―嬉しいような悲しいようなお知らせをいただきまして(笑)ありがとうございます。もちがいいということは、それだけ安定的にお使い頂けるということですので。
落合:そうですね。
―移動相についてはLC/MS/MSということでやはりギ酸の条件が多いでしょうか。
落合:はい。0.1%付近のギ酸が多いのでpH3以下ぐらいで使うことが多いですけど、CSHのC18(XP カラム)は酸性条件下でも塩基性の化合物の保持はいいですし使い勝手はいいですね。
―ちなみに圧力はコアシェルタイプと比べてどうですか。
落合:そんなに変わらないですね。
―(CSHの)XP のカラムはどこでお知りになったのでしょうか?
落合:営業の方にいろいろ相談させていただいて、コアシェルカラムは出ないのか?という相談をさせていただいた時に、「全多孔だけれども非常に置換も良いので試してみてください」とご紹介頂きました。
―そうですか。ちなみにHPLC用コアシェルタイプのカラム(CORTECS 2.7μm)も最近発売しました。
落合:そうですよね。
―こちらにはC18+というタイプがありまして、CSHと同様の表面チャージをソリッドコアシリカ充塡剤に結合させていて、ギ酸移動相条件でも塩基性化合物の良好なピーク形状が得られますので、コアシェルタイプにしてはそういった条件でもかなり物がのる、ローディングキャパシティが高いカラムです。コアシェルタイプに表面チャージですのでおそらく平衡化もかなり速いと思います。
落合:CSH(XP カラム)とのすみ分けは?
―やはり全多孔性なのでCSH(XP カラム)のほうがよりキャパシティは高いです。ただ、C18+はコアシェルタイプの中ではかなり塩基性化合物のローディングキャパシティは高いです。
落合:そうですね。
―先ほど「圧はそれほど高くない」とおっしゃっていたので、そうであればCSH(XP カラム)の方が負荷量も稼げますし使いやすいと思いますが、こちら(CORTECS C18+ 2.7μm)の方が理論段数は若干高くやはり圧は若干低いので、もっと長いカラムを使いたい場合ですとか、もしくは若干圧が下がる分もっと流速を速くしたいという場合にもご使用頂けます。ただ先ほどおっしゃられたように、負荷量という面では全多孔性のCSH(XP カラム)の方が増やせます。
落合:あと汚れに強いというか耐久性もCSHの方が高いので、そこが大きいですよね。
―そうですね、CSHはハイブリッドですので、やはりシリカに比べると耐久性は高いです。ですので、耐久性とローディングが重要ということであれば、やはりCSH(XP カラム)をお使いいただく方が。
落合:いいですよね。
―はい。使いやすいかと思います。現在CSH(XP カラム)をお使い頂いていますが、他に今後こういうカラムがあるといいといったご要望はございますか。
落合:そうですね、極性の高い化合物向けにはAtlantis T3とかのラインアップがあって、水100%の移動相でも使用できて高極性化合物を保持できるというタイプですよね。
―はい。
落合:有機溶媒を高比率で流しても高極性化合物がある程度トラップされるカラムがあると良いですね。HILICじゃなくて(笑)。水リッチな移動相になってしまうと、LC/MS/MSの感度が大きく下がってしまうので。あと、分析法によっては水リッチだとMS/MSのイオンソース周りに汚れが溜まっていきやすいみたいでベースラインがものすごく高くなることがあるので、有機溶媒が入ってもうまく保持するようなカラムが欲しいです。
―はい。
落合:今フルオロフェニルを試したりしているのですが。
―使ってみてどうでしょうか?
落合:ちょっと挙動が読めなくて。でも、選択性はODSとは大きく変わってきます。
―そうですね。
落合:ODSカラムで保持されにくいものは、どのメーカーのODSカラムを試してもそこまで極端に改善するということはないのですが、フルオロフェニルを使うとガラッと挙動が変わることが期待できるので面白いです。
―なるほど。弊社もフルオロフェニルは2種類(CSH Fluoro-phenyl、HSS PFP)出しておりまして、実際かなり選択性は変わりますね。
落合:ただ、フルオロフェニルの保持メカニズムがわかりづらいですよね。
―どう動くのか確かにおっしゃる通り分かりづらいところですね。
落合:まず水と有機溶媒だけでピークの動きをみて,次に酸をいれたときのピークの動きをみてといった感じで試してみないと何が影響して保持しているのか読めないので(笑)、ちょっと大変です。ノウハウをまとめたものがあると良いですね。
―米国本社の担当者にも確認してみます。
落合:あと、ガードカラムVanGuardのフェラルを留めてあるOリングが、小さくてはずれやすいのが困っています。
―確かに、はい。
落合:落としたらどこに転がったかが全然わからなくて。
―ちっちゃいですからね。
落合:床をワイパーで掃いてようやく発見できるみたいな感じです(笑)。机に紙を敷いて、コロッと行かないように用心しながら接続しています。
―何か余分目につけておくとかですね。
落合:Oリングだけ販売してくださったら、多少見つからなくっても諦めがつきます(笑)。
―じゃあOリングのみの。
落合:そうそうそう(笑)。10個入りとか。
―わかりました。本社の担当者に伝えておきます。
カラムの話についていろいろ聞いてきましたが、それ以外の製品についてもご使用頂いていますので、少しお聞かせ下さい。弊社の前処理製品についてはご使用頂いてみていかがでしょうか。 落合:Sirocco(除タンパクプレート)やOasis(固相抽出)のプレートタイプのものを使わせてもらっているのですけれども、Siroccoはスループット性が非常に高くて時間の短縮、業務の効率化につながっています。Oasisはもう一声言えば、アプライするサンプルをOasis上で希釈できないかというのが希望です。
―血漿サンプルを希釈してアプライするのではなくて。
落合:そうですね、医薬品の申請に使うデータなので移し替え時の取り間違いは絶対許されません。なので、なるべく移し替え、間違えるリスクが減るような方法が望まれます。Oasis上で希釈できれば、作業の数も減りますので。
―そうですね。
落合:なるべく少ないステップで効率よくという商品を期待しています(笑)。
―はい、製品担当者に伝えておきます。希釈以外のOasisの使い勝手はいかがですか?
落合:ロット差は少ないですしCVも非常にいいデータはとれているので、特にこれ以上というところはないのですけれども、強いて言えばマイクロエリューションのウェル間の落ちのばらつきですね。
―ご意見ありがとうございます。ちなみに除タンパクが多い中で、固相のプレートを使われるのはどういうケースですか。
落合:単純に濃縮したい時と、あとはカラムの方での分離が困難な場合です。除タンパクでも除けられない場合、マトリックス効果が大きい時には固相を使っていますね。
―全体の中で固相を使うケースは何%ぐらいでしょうか。
落合:8割除タンパク、2割固相位ですね。
―はい。
落合:あともう一点希望があります。御社のバイアルやプレートは非常に品質が良いのでよく使っているのですが、2mLのディーププレートが角錐じゃなくて円錐のタイプが欲しいですね。何故かと言うと、角錐だとウェル間の壁が薄くて穴の距離が近いので飛びはねたときにコンタミしやすいような気がします。
―800μLのタイプは円錐なのですが。
落合:深さが欲しいですね。2mLプレートのあの高さがあって、1mL以上1.2mLか1.5mLぐらい入るデザインのものがあったら非常に有り難いなぁと思います(笑)。
―これも製品の担当者に申し伝えます。
落合:すごく細かい要望ですみません。
―いえいえ。お客様のご意見は参考になります。今後分析機器・消耗品メーカーのウォーターズに期待されることはございますか?
落合:御社は前処理製品から分析装置まで網羅的に高品質な製品を出し続けてくださっているので、これからも業界をリードするような製品をお願いします。
―ありがとうございます。
落合:期待しています。
―はい。最後に御社のご紹介をお願いします。
落合:当社、東和薬品はジェネリック医薬品の製造・販売を通じて「人々の健康に貢献します」、「こころの笑顔を大切にします」という企業理念のもと、患者さん、医療関係者、地域社会をはじめとするすべての方々にこころから喜ばれ、求められる企業を目指し、ジェネリック医薬品の「安定供給」「品質管理」「情報提供」を充実するだけではなく、患者さんが服用しやすく、医療現場で扱いやすい付加価値製剤の開発に注力していきます。
私も、ジェネリック医薬品を多くの方にお届けできるよう、これからも研究開発に注力していきたいと思います。
―ありがとうございました。