株式会社応用医学研究所
センター長 宇野 英俊様にお話を伺いました。
―本日はよろしくお願いいたします。最初に
UPLC をご採用頂いた理由についてお聞かせ頂けますか?
超高速のLCは、最初興味があったぐらいでした。UPLCでの仕事がきていなかった時は、どういう風に考えていったら良いのかなというところからスタートしました。今は何社からか出ていますよね。そういったものを比較しつつ依頼を待つというような感じでした。うちがUPLCを入れたのは去年ですけど、3~4年前ぐらいですかね、最初にデモンストレーションで紹介して頂いたのは。まだその頃は、うちが積極的にUPLCを使ってどういう仕事ができるから、いかがでしょうという委託者さんへのアプローチまでは考えていませんでした。ただ今は、実際にUPLCでの依頼があることもあり、UPLCは中央研究所だけでなく石狩研究所にも2台入っています。
―中央研究所様の2台に追加して、石狩研究所様にも2台ですね。
そうですね。うちは受託ですが、世の中の流れも見据えながら、導入検討を行っています。単に良いものだといっても、その装置の汎用性が高く、依頼も増えるだろうという想定がないとさすがに導入は難しい。今回の導入はちゃんと他社製品との比較をやりつつ、UPLCがうちの会社にとっても有効だろうということにプラスして、具体的な案件でUPLCが指定されたこともあって、最終的に選択しました。
―導入にあたって、少し苦労されたとお聞きましたが。
稟議書は書きましたね。メリットがどのようなものか、製薬メーカーさんたちの動きをヒアリングからリサーチしていく中で「UPLCという装置が一番良かったかな」ということで。
―ありがとうございます。
結局、これ(UPLC)を選択するのが一番自社にとっては良いということを強く、2枚に渡って書きました。普段は数行で終わってしまいますが(笑)。
―実際、お使い頂いていかがでしょうか?
とにかく分析結果がすぐ分かるというところと、装置の立ち上げも早いですね。その辺が、分析者にとってはストレスが小さくなっている。特に類縁物質の測定時間は、長い分析法だと2時間とかかかりますし。あれが、15分、20分だったらどれだけ楽かなと思いますよね。
―n=6のシステム適合性から始まって実際のサンプルの分析まで、非常に時間が掛かるようですね。
それだけで一晩かかってしまいますから。あとは、多検体を処理するときですかね。溶出試験とか。6ベッセル×6ポイントで36本、スタンダードを入れると50本ぐらいになりますかね。それを何セットも1日にやるでしょう。そうすると、LCの時間が、例えば分析時間が30分となると1日じゃ分析終わりませんから。当然、溶出のサイクルも1日2回、3回が限界です。もし、2分で1分析が終わってしまえば、6回とか7回、8回分ぐらいはいけますよね。溶出試験のソフトウェアはまだ使ってないですけど(笑)。
溶出試験法も、条件検討、つまりプロファイルを取るための試験液の検討だとか、そういったところはUPLCだけで十分です。「試験を行った2時間後に結果が出ている」というようなのであればいいですね。
―最初のUPLCでの分析依頼は安定性試験でしょうか?それとも分析法バリデーションでしょうか?
両方ですよ。うちの仕事は安定性試験が中心ですが、最近は分析法バリデーションがセットでくることが多い。当然、定量や類縁物質試験はバリデーションが必須ですから。現在、何社からか依頼が来ていますが、分析法バリデーションと安定性試験、もちろん実測値測定を含めてですけど、そんな感じでやっています。もちろんそれだけじゃなくて、他にも多種多様な試験を受けています。
分析条件の検討についても最近は依頼が多く、試験法ができてから受けるのではなく、試験法開発から積極的に受けるというスタンスでいます。 UPLC⇔HPLC間の分析法移管のお手伝いというか、積極的にこういう仕事もできますよということでPRできるようなところですかね。ちょっと話が飛んじゃったかな。(笑)
―UPLCでの試験で「ここは苦労した」ということを、実際に試験をされている方から聞かれたことはございますか?
そ ういうのは、ちょっと聞いていないですね。使っている人の話を聞くと、普通に液クロを使っている感覚で使えると、言っていましたね。全く同じ感覚で使えているようです。液クロよりも立ち上げる時間や平衡化する時間が短いので、扱い易いということは、聞きました。
―いきなりUPLCの依頼があると、HPLCでの長時間分析といった苦労がわからない方もいらっしゃるかもしれないですね。
そうかもしれないですね。デモンストレーションの時は、HPLCの条件との比較を中心に行いました。去年ウォーターズさんのセミナー(08/05/27,29 製薬セミナー)でお話ししたのも、そんな話だったと思います。溶媒の減り具合だったり、時間短縮だったり、その辺、カラムをいろいろ変えてみたりして。実験を行ったのは私と、もう一人ぐらいでしたが「これはいいね」ということはその時点で感じ取れました。
―UPLCで研究所から品質管理まで対応頂ければ、製薬企業でのワークフローの改善につながるのでは?
そうですね。開発ステージでは、導入はしやすいと思います。だんだん下流に降りてきて、製造現場の品管にUPLCの分析法だけでやろうとなると、装置がないという話に多分なってくる。当面は分析法をHPLCに移管して、分析法の同等性を確認してHPLCで品質管理は行うとなるとしたら、そこでの分析法移管が必要になってくると。うちでその部分を受託して協力させてもらうというのは十分考えられる。
―UPLCで承認試験法と、それから安定性試験を対応してはどうかと。
それは必ずしも一致している必要はないですから。そういう点は製薬メーカーさんとお話ししたりしたことも、もちろんあります。
―アセトニトリルが、昨年の暮れぐらいから不足してきた というような話もありますが。
そうですね。ただ、今ある分析法を溶媒がないからと、「すぐHPLCをUPLCに変えて申請用のデータを取りましょう」というのはさすがに出来ません。しかし、今後のことを考えると大量に有機溶媒を使うような仕事をし続けて良いのかなというのはありますよね。それは環境問題だったり、エネルギー問題だったり、色々あると思います。今、こういうハードウェアが出来てきているのであれば、環境にも配慮した仕事が出来るのではないかなという気がしています。UPLC持っていますかという問い合わせは多いですよ。ステージの早いところの仕事もしていますが、そういうところは、分析法が固定していて申請の分析法を超えなきゃ駄目というステージじゃなくて、アセトニトリルの点があったので、ちょっと変えようかという話も出たりしています。
―UPLCでいくつか試験をされているということですけれども、BEHカラム を利用されているのでしょうか?
B EHカラムを利用しています。
―分析法バリデーションも対応されるとのことでしたが、弊社のソフトウェア、分析法バリデーションマネージャ(MVM) を導入いただいていたと記憶しておりますが。
MVMは入ってますが、今はまだ出てきた結果をエクセルに放り込んでいます。
―エリア値をエクセルに入力されているのですね?
ええ。でもさすがに効率が悪い。エクセルの良いところは、自由度が高い。例えば、スタンダードを挟み込んで計算したり、自由に数値を丸めたり。ただ、その分手間がかかるし、シートを作るのも大変です。間違いも発生する。入力した結果も正しいかどうかチェックしないといけないなど、苦労は絶えないですね。そこで、既存のソフトウェアを使って、結果までLC側のソフトウェアで出してしまおうというのは、絶対楽だと思います。ソフトウェアのバリデートさえちゃんと出来ていれば使えるというのは明らかですから。メーカーさんの方でも同じシステムを持っていて、「MVMを使ってバリデーションのデータを取っていますよ」ということが分かれば、うちもそれでやらせてくださいというのは、簡単に出来ると思います。
―なるほど。
安定性試験研究会に参加して活動していますが、そこで分析法バリデーションに関する様々な研究を行っていました。結局、各社各様でそれぞれのやり方を構築していますから各社各様の試験を弊社で受託すると、全部違っている。それが何十社もありますから、大変ですね。それが例えば、うちが標準テンプレートを持っていますので、1つの方法に集約してこれでやりましょうかというのが出来ると良いですね。あと、メーカーさんによってはバリデーションの経験が少ない会社さんも中にはあって、その場合はこちらのセンスで過去の事例を参考にしながら組み上げていきますが、MVMを使ってやりますというふうに宣言してしまえば面白いですね。
―分析法バリデーションでは、精度というものが重要になってきますが、UPLCで試験をされたときに、精度について何か感じた点はございますか?
十分な精度というか、あまりそこに差を感じてはないですね。
―高圧タイプの液クロで、精度がそこまで(通常の液クロと同じように)出るのだろうか?というご質問を頂くこともありますが、この点についてはいかがでしょうか?
そこは何も心配していません。もちろんそういうスペックだと謳われていましたし、実際使って精度が出ないということもありませんから。装置としての精度は十分なのかなという感覚は持っています。
―CRO業務の今後とUPLCの活用についてはいかがでしょうか。
お 客様の方から、こういう装置でこういう測定が出来ませんかというのがあり、もちろん既に持っている装置と技術があれば当然受け入れますとお話します。UPLCも最近お問い合わせが多くなってきているということは、当然需要があるのだなと見ています。そういった意味では、今までのスタイルの中でも増えていく状況ではあるかなと感じています。あとは申請の段階の仕事だけではなくて、もっとフェーズの早い仕事や、試験法もこれから設定するような段階のところで、積極的にそういった利便性のある装置を積極的に使い仕事をさせてもらうというようにうちも変わって来ています。
―御社は非常に丁寧にお仕事をされておられると伺っております。
うちの企業理念ではクオリティ(Quality)、タイムリー(Timely)にコミュニケーション(Communication)をする、QとTとCとなんですけど、もう一つコンプライアンス(Compliance)のCが追加されています。これらの理念を昔からずっと気にして仕事をしてきました。一言でいえば品質が高くないとお話にならないということです。結果が出たらタイムリーにお客さんにフィードバックする。もしトラブルがあってもフィードバックして適切に処理して、うちの中でクローズまで出来るようにする。お客様に「こうなりましたが、どうします?」というのではだめで、弊社の考えを持った上でクライアント様と協議しながら、終結まで責任もって対処する、そういうことを心掛けております。
―試験責任者と実際に試験を担当されている方の間でのコミュニケーションについて、何か特別な社内教育といったものがあるのでしょうか?
プログラムの中にそういったものは当然含まれています。仕事自体はグループ単位で、中央研究センターで6グループあり、各グループリーダーの下に試験実施に関する責任者と実験者がおります。トラブルやOOTではないだろうか?といった結果が出た場合は、すぐに報告出来る体制を整えております。そういったOOT、OOSが発生したときにも処理の体系も全部が出来上がっていますから、再測定も速やかに処理してお客様に報告する体制が出来ています。組織はここ十年でいろいろ変遷してきています。会社は、GLPがスタートだったので、そこがベースになっていましたが、現在はGMP、信頼性基準、GLPなど、色々対応してきています。責任体制や、信頼性や品質の保証体制などはだいぶ出来上がってきたかなという気がします。
―さてここで、伊藤様に加わっていただいてUPLCについて、実験者の立場で使用された具体的な感想をお聞かせ頂ければと考えております。UPLCは以前からご存じでいらっしゃいましたか?
そうですね。UPLCという名前や、どんな装置かというのは知っていました。ウォーターズの液クロである Alliance は使っていたので。ソフトウェアは Empower で同じようにコントロール出来るので非常に使い勝手は良いと思いますね。
―ありがとうございます。少し圧力が高めになると思いますが戸惑われたりはしませんでしたか?
そうですね。HPLCでは、2,000psi以下ぐらいの圧力で使っていましたからね。それを考えれば、本当にこんなに圧をかけて良いのかなとは思いました。でも最初に、ウォーターズさんに来ていただいて、実際に装置を一緒に動かしながら、フォローアップ講習を行って頂いたので、実際に圧をかけている状態を見て、流速もどんどん上げていって、「これでいける」というのを1回見ていたので、抵抗なく大丈夫だろうという感じでやっています。
―CMC関連では安定性試験であったり、分析法バリデーションであったり、UPLCを利用されて試験をする際気を付けられた点はございましたか?
移動相の兼ね合いでしょうか。グラジエントの勾配が急で圧が一気にかかる、そういう感じのことがあるのでそういうときにはちょっと心配だったりもしましたが、実際は特に問題はありませんでした。特に、UPLCを使うときに気を遣うのは移動相でしょうか。フィルタリングは気になります。それ以外は特にあまり気にせず使っています。あとUPLCで、システムの圧力であるとか、モニターを常に行いますよね?長時間ログが取られているので、あの機能は非常に助かりますね。
―それは具体的にどういうことでしょうか?
何かトラブルがあって装置が止まった時でも、何が起きていたのか見やすいです。圧力のこういう条件で、ポンプがどのような移動相の時に、どういった圧が掛かって止まっているか、その辺が後から追えるのが、何か起こった時に非常に参考になるデータが取れています。
―今は、クライアントさんが作られた試験法で試験を行っていることが多いのでしょうか?
はい。
―試験法の開発まで手を広げるとすればいかがでしょうか?
試験法の開発を行う場合には、本当に使える装置だと思います。使いこなせると非常に便利ですよね。
―例えばどのような点においてでしょうか。
迅速性です。一つの分析にかかる時間が短いので、どんどん条件を変えて何種類も試せるというのが一つと、分析自体が多少長くても、平衡化にかかる時間が今までに比べて格段に短い時間でできるので、使いやすいと思います。正直言うと、今のような分析法検討を行わないような使い方というのはもったいないですよね。本来のUPLCの使い方は、開発などでどんどん様々なことをやるために使えればUPLCの本来の能力を活かせると思います。UPLCは、今までの液クロに比べてどの程度で出来るかというと、イメージ的には大体10分の1ぐらいには出来るのではないかなと思います。あとは、UPLCカラムの選択性と全く同じ液クロの普通のHPLC用のカラムがあればUPLCでどのカラムを使ったかで、すぐHPLCのカラムに置き換えて、あとはちょっとした分析法の変更で直せますよね。それがいろいろな種類でできるように1対1の関係がカラム同士にあれば、非常に使い易くなると思います。
―UPLCで開発から品質管理まで対応するというのが望まれる姿だということでしょうか?
やはりそうだと思いますね。今回のケースでは、上限まで圧が掛かってしまうような14,000psiとか瞬間的に掛かっていたのですが、それで配管の漏れが全くないのはすごいなと思いました。品質管理などの現場においても、十分利用できる装置であると思います。
―貴重なご意見有難うございます。最後に御社のPRをお願いいたします。
応用医学研究所は、医薬品の品質保証事業及び薬物動態事業における受託試験に特化した会社です。品質保証事業では、医薬品を中心とした安定性試験(理化学的測定と微生物学的測定)、医薬品保管、品質試験、分析法バリデーション等に対応しております。また、現在はバイオ医薬品にも注力して業務を行っております。薬物動態事業ではGLP試験、並びにGCP試験の生体試料中薬物濃度測定等に対応しております。医薬品分析の外部委託試験についてご検討の折には、ぜひ一度ご相談ください。
応用医学研究所 WEBサイト : https://www.oiken.co.jp/
―本日はありがとうございました。
担当者コメント:
今回、実際にUPLCを利用して受託分析を行っていらっしゃる応用医学研究所中央センター長宇野様および伊藤様に現場の声を伺うことができました。分析の委受託におけるソフトウェアの有効活用にもご興味があるとのことでしたので、分析法バリデーションを始めとする弊社ソリューションへの対応について、次の機会に伺えたらと考えております。今回は本当にありがとうございました。