電子移動解離(ETD)は、質量分析計におけるイオンのフラグメンテーション手法です。電子捕獲解離(ECD)に似ていますが、ETD では電子を陽イオン(ペプチドやタンパク質)に移動させることによって、これらのイオンのフラグメンテーションを誘発します。この手法は荷電状態が高いイオンに対してのみ効果を発揮しますが、衝突誘起解離(CID)に比べて、長いペプチドまたはタンパク質全体のフラグメンテーションに適しています。
バイオ医薬品の特性分析において、ETD は翻訳後修飾(PTM)された不安定な修飾部位の測定に適した強力なフラグメンテーション手法です。修飾部位の特定は多くの場合、CID では困難です。
ETD はイオンモビリティー機能を備えたハイブリッド四重極-飛行時間型質量分析計に実装されています。その際、試薬はナノ ESI 源に供給され、高電圧放電ピンにより試薬の陰イオンが生成されます。検体の陽イオンはインフュージョンするか、nanoACQUITY UPLC システムによって生成されます。
ETD では、イオン源の極性と四重極の設定質量が連続して切り替わることで陰イオンと陽イオンが TRAP T-Wave (travelling wave) イオンガイドに輸送され、ETDプロダクトイオンを形成するための相互作用が起こります。プロダクトイオンは、IMS T-Wave イオンガイドでイオンモビリティー機能によって分離され、TRANSFER T-Wave イオンガイドで第 2 世代の CID イオンを生成するために加速され、 最後にTOF 内で質量分析が行われます。サーベイスキャン機能と荷電状態認識機能の両方を備えた新しいソフトウェアでは、選択的に荷電状態の高いイオンに対しては TRAP T-Wave での ETD を実行し、荷電状態の低いイオンに対しては TRANSFER T-Wave での CIDを実行するように決定することができます。