株式会社東レリサーチセンター 薬物動態研究部 本多敏行様、河野憲史様、安田周平様 にお話を伺いました。
―本日はお忙しいところどうもありがとうございます。
本多様(以下敬称略): 最初に弊社の紹介をさせていただきます。
東レリサーチセンターは、東レ株式会社の研究開発部門から1978年6月に独立して発足した会社で、「高度な技術で社会に貢献する」という基本理念に基づいて、エレクトロニクスや工業材料から医薬・バイオに至るまで幅広い分野の研究開発や生産技術で生じる「原因解析」や「問題解決」のために、分析技術や物性解析による技術支援を行っています。
医薬・バイオ事業は会社設立時に鎌倉の地でスタートしましたが、現在では鎌倉、名古屋、滋賀の3拠点でそれぞれの特徴を生かして、抗体医薬、タンパク医薬・ペプチド医薬、低分子医薬、バイオマーカー、不純物などの分析や再生医療、細胞技術など技術支援に取り組んでいます。
私たちが所属する薬物動態研究部では、LC-MS/MSやリガンド結合法によるGLP規制下でのバイオアナリシスやその分析法開発が中心業務ですが、近頃はReal-Time PCRやLC-MS/MSによるバイオマーカー測定、セルベースアッセイによる抗薬物抗体の中和活性測定などへのお問い合わせがたいへん多くなっています。
―ありがとうございます。皆様のお仕事はバイオアナリシスということでは共通していると思いますが、製薬のどのステージで、特に集中して行っている部分、たとえば創薬のところが得意なのか、そうではなく開発のところなのか、そういうものがもしあれば、お聞かせいただけますか。
本多:弊社は両方やっております。私は、開発ステージの業務を主に担当しています。河野と安田の2人は、早期ステージの業務を比較的多く担当しています。私の業務である開発ステージでは、頑健性の高いメソッド、スループットの高いメソッドを作ることが重要です。早期ステージでは様々な検討を行い、新しいものをLC-MS/MSで測定します。こちらの業務を担当しているのが河野と安田になります。そのため、今回は河野と安田にも参加してもらいました。
―ありがとうございます。ステージが変わると、必要とされるものが少しずつ変わって、それに合わせて前処理から分析までのメソッドの作り方というのは変わってくると思います。やはり早期ステージほどサンプルが多くスループットが重要で、後に行くほど、先ほど言われた頑健性であるとか、信頼性が重要という形で間違いありませんでしょうか。
本多:以前はそうでしたが、近年は、開発ステージに上がってもスループットが非常に重要になってきています。そのため、プレートフォーマットの使用頻度が昔に比べてかなり高まっているというのが現状です。
―なるほど。
本多:早期ステージにおいてはもちろんスピードが重要なのですが、データの信頼性を重視することもあります。測定対象が難しい、またはLC-MS/MSで測定した前例や経験がない分析は、どの程度の精度で測定できているのか、確認することが重要です。スループットについては、もうちょっと後期になってから、再度見直すことになります。早期ステージはそれほどサンプル数もないですし、信頼できるデータをとるというのが一番の目的になります。
―ありがとうございます。今お伺いしたようにスループットが大事だということと、あとは頑健性ももちろん大事だと思います。たとえばその頑健性に関しては、現在のバイオアナリシスはLC/MSを使った分析がほとんどになっていると思いますが、マトリックス効果とかいろんな問題点があると思いますので、その辺につきまして、どのようにご対応されているのかお伺いできればと思います。
本多:あくまで私の考えですけれども、感度とマトリックス効果というのは切っても切り離せないと思っています。そのため、多検体を安定して測定するには、やはりサンプルのクリーンアップが重要だと思っております。その点で、固相抽出メソッドは、この問題を解決できる前処理メソッドとして非常に重宝しているところです。
―今、固相抽出の話が出ましたけれども、他にもいろいろ生体試料の前処理法を使われていると思うのですが、固相抽出以外によく使われている方法についてお伺いできますでしょうか。
本多:はい、簡便な方法としましては、除タンパク法、あと液液抽出法ですね。
―大体でいいのですが、ご自分のお仕事の中で、固相抽出、除タンパク、液液抽出の割合というのはいかがでしょうか。
本多:うーん、人によっても開きがあると思いますね。
河野様(以下敬称略):液液抽出が一番少ないですね。
本多:少ないですね。
河野:固相プレートによる固相抽出と、除タンパクが半々ぐらいでしょうか。担当者の好みもありますけど、除タンパクと固相抽出、その2つを主に使っています。
本多:使ってないですね。というのは、初期の頃ですけれども、一度除タンパクプレートを試したのですが、ちょっと操作に注意が必要ですね。プレートシェーカーで撹拌する、もしくはピペッティングで混和する工程が必要なのですが、コンタミネーションに注意が必要だなと感じたことから、固相抽出メソッドを選択することが最近では増えています。プレートフォーマットで前処理するメソッドとしては、固相抽出が主流となっています。ただ、今後はやはり除タンパクメソッドについてもプレートフォーマットの使用を検討しなければならないとは思っています。
―サンプル前処理として固相プレートが今主流になりつつある、もしくはもっと増えていくというお話でしたが、弊社の製品を使っていただいておりますが、それについてお伺いできればと思います。
本多:カートリッジタイプの固相を大量に使っていたというのは、実はそれほど昔ではなく、5年前ぐらいまでは使っていました。その時に特に注意したことが、回収率のばらつきでした。サンプルをロードし、洗浄して、溶出するまで、各工程間の時間が揃っていないと、メソッドによっては回収率がばらつくということがありました。特に昔の固相は、乾かしてはいけないというのが大前提でしたので。
その点、μElutionプレートですと、もちろんその担体の特徴にもよりますが、回収率がばらつくということはあまりないですね。そのため安心して使えるということが利点です。また、トキシコキネティクスの分野において、最近は採血量が少なくなってきています。小動物では、1回の分析に使える血漿量は20μL以下と、以前に比べて少なくなっていると思います。血漿20μLをカートリッジタイプで固相抽出するとなると、ロード前にサンプルをバッファー等でかなり希釈しなければならず、吸着などの影響で回収率が問題になって来ることもあります。要は固相そのものをスケールダウンしたいのですね。そのニーズにプレートタイプの固相抽出の製品がマッチしたということで、使用頻度が急激に上がって来たというのが大きな背景です。私たちの部署内で急激に普及したのがたぶん5年前ぐらいだと思います。
―それは何かきっかけがおありでしたでしょうか。
本多:大きなきっかけとしては、委託者様のほうでこちらの製品が使われ始めたということです。はじめはコンタミネーションの不安があったのですが、使用しているうちに、手順さえきちんとしていればそのリスクは排除できるというのがわかったので、5年ほど前からむしろ積極的に使うように方向転換をいたしました。
安田様(以下敬称略):私はこちらのμElutionプレートのヘビーユーザーでして(笑)、毎日のように使っております。
―ありがとうございます。
安田:やっぱりカートリッジと比べると、スループットの点で非常に優れており、回収率のばらつきもほとんど見られない点で、重宝しております。
―ありがとうございます。それから、μElutionプレートの場合には、最後に溶媒を飛ばすという作業を省略されているお客さまが多いのですが、御社ではいかがでしょうか。
本多:ほとんどドライアップは行っていません。というのも、このプレートはかなり離脱効率がいいですよね。少量の溶媒で離脱できるため、ドライアップによる濃縮の必要がない場合が多いです。あとは、比較的濃度の高いトキシコキネティクス測定で主に使用していますので、ドライアップして濃縮するほど微量な分析ではないというのが大きな背景であろうと思います。
―たとえば除タンパクとか、あとはシリンジタイプやカートリッジタイプの固相を使った場合にも、やはり飛ばさないでそのまま分析することが多いのでしょうか。
本多:シリンジタイプやカートリッジタイプだと、やはり溶出に1mL以上溶媒が必要になってしまうので、ドライアップはほぼすべて行っています。
―ありがとうございます。他に何かお気づきのことなどございませんでしょうか。
本多:私がすごく安心感があるのは、プレートのノズルの先端形状ですね。溶出時、各ウェルのノズル先端がコレクションプレートの上端より低く、ウェルの中に入る設計になっていて宙に浮いていません。この構造のおかげだと思うのですが、ウェル間のクロスコンタミネーション率が相当低いので安心して使えるかなと思っております。ここのノズルが短いものの場合、減圧で吸引したときに、ウェル間のコンタミネーションがちょっと気になります。
河野:確かに短いのはすごく不安になったりします。相当短いのがありますね(笑)。入るかなぁ、入らないかなぁぐらい、どう調整したらいいのか(笑)。
本多:その時は、減圧ではなく遠心を考えてみたりするのですが、やはり固相抽出なのであまり一気に通液するのもどうかなと。固相抽出はゆっくり通液したいというのがありますので、やはり目で確認しながら通液したいですね。このような時に、μElutionプレートは非常によく考えられた製品デザインだなと感じます。
安田:少しネガティブな意見になってしまうのですけれども、もうちょっと行・列の表示の視認性が高かったらよいと思います。以前使用した際、1サンプル毎にアプライしていく形をとっていたのですけれども、その時、行と列の表示、この縦のAと横の1などといった表示が、視認性があまりよろしくなくてですね。もう少し見やすかったらいいなと。
河野:何か色分けとかあったら見やすいのかな、とは思いますね。
安田:実際に8連などのマルチチャンネルピペット等で一気にアプライする手法をとるのであれば、そこまで気にはならないと思うのですが、どうしてもアプライする容量の都合上、1本ずつアプライする必要がある場合には、ちょっと見にくいのが気になりました。
―わかりました。ご指摘につきましては、弊社開発陣にインプットさせていただきます。
安田:よろしくお願いします。
―他に今のようなご要望でもいいですが、何かございますか。
本多:Oasis μElutionプレートによりトータルとしてはかなりのコストダウンにはなりますが、できればもうちょっと価格についてお願いできれば、使いやすいものになるのかなぁと思います。
―はい、わかります(笑)。Oasis μElutionプレートは、少量のサンプルを少量の溶媒でハンドリングするための様々な工夫がほどこされていて、そこに結構コストがかかっております。
本多:そうですね。この担体の充塡の方法ですが、横方向ではなく縦方向に充てんされている点がすごいポイントだと思うのですよね。そのため、コンディショニングも、ロードも、溶出もムラが無いのだと思います。この構造だからこそ、50μLで溶出が可能なんですね。この形状が、やっぱり御社独特だなというのが、様々な製品を使ってみて、改めて思うところです。たぶん、すべての溶媒が、まんべんなく通るのですよね。ボリュームが少なくても。
―はい、充塡剤と上のフィルターのチップの間にすき間があることで、液体が渦を巻いて均一化されて入っていくという設計になっています。
本多:あえて、そのように設計されているようですね。
―先ほど固相抽出の場合Oasis μElutionプレートが主流というお話を伺いました。固相抽出で前処理を行うメソッドの場合は、このμElutionプレートは何割ぐらいを占めておりますでしょうか。
本多:もうカートリッジの姿を3年ぐらい見ていないかも知れませんね。
河野:昔から続いている方法以外、つまり新規に始めているものはほとんどこちらから始めていると思います。
―そうですか。大体固相抽出と除タンパクが半々ぐらいで、固相抽出のほとんどはこのOasis μElutionで使っていただいている、というようなことでよろしいでしょうか。
本多:そうですね、現状はそうです。
―ありがとうございます。
―ここでカラムについて伺ってもいいでしょうか。委託者様からメソッドが来るときに、カラムの指定があったのを、こちらで変更されるケースはございますか。
安田:ありますね。
本多:カラムの選定も、かなり重要ですよね。微量になればなるほど、そのピークの形、シャープさが重要ですが、夾雑成分との分離やバックグラウンドのキレイさも重要だと思います。S/N比を向上させるために、最適なカラムを探すという作業は結構な比率でやらせていただいております。
河野:いろいろありますけれど、たとえば要求感度に足りない場合、弊社で所有している高理論段数のカラムに変えて感度をアップするなど、いろいろな目的でその変更を余儀なくされることは多いです。変更はかなりあるかなと思います。
―たとえばお客様から3.5μmとか5μmのカラムが指定できて、UPLCの1.7μmのカラムに変更されるケースもございますか。
本多:多いです。
安田:コンベンショナルの条件を、UPLCの1.7μmのカラムでハイスループットにしたいというケースもあります。充塡剤を小さくし、ちょっとカラムを短くしたりして分析時間を短縮したケースもありました。
―UPLCはカラムもかなり種類を出させていただいていますが、UPLCで検討される際に、何種類かのカラムを用いて検討されますか? それともBEHのみでしょうか?
安田:私はまずBEHから始めます。で、駄目ならどうしようか、と考えます。
本多:特にカラムの選定はケースバイケースであることもありますし、使い慣れているカラムのほうが対処しやすいということがあります。そのケースによって選択肢はたぶん変わって来ると思います。ただ、やはりBEHの使用率は高いです。
―ありがとうございます。
本多:BEHは保持の強いカラムの部類に入りますので、そこまでクルードなサンプルでなければBEHを使って高感度を狙う場合もあれば、保持の弱いカラムを選択して分離を第一優先にする場合もあります。かなり精製度の高い、特にμElutionなどで前処理したサンプルであれば、その測定対象に絞ったメソッドでスループットを優先することもありますし、本当にその測定サンプルによってまちまちだとは思います。ただ最近は、いろんなメーカーさんがSub-2μmを出されているので、カラムの選定は悩むところです。
河野:Sub-2μmだけでなく、今はコアシェルタイプがだんだん出て来ていますので、昔よりはこちらとしては選択肢が広がっている(笑)というニュアンスにはなっております。
―コアシェルタイプと言われましたが、弊社も1.6μm(CORTECS)のタイプを以前から販売しておりますし、最近は2.7μm(CORTECS)も発売させていただきました。各社2.7μmとか2.6μmの粒子径のコアシェルタイプのカラムが多いかと思いますが、そういったものを結構使われるのでしょうか。
河野:メインで使っているのはそうですね。Sub-2μmのコアシェルタイプを使っているものは、現時点ではまだないと思います。
―2.6μmや2.7μmのコアシェルタイプは、HPLCで使うことがほとんどですか。それともUPLCとかUHPLCでも使用されますか。
河野:両方ですね。どちらにしても背圧が低く扱いやすくなりますので。
本多:以前、2.7μmのコアシェルタイプをUPLCで使ったのですが、背圧は2.7μmのコアシェルタイプの方がとても低かったです。でも、ピーク形状はSub-2μm のフルポーラスの方がずっと良いですよね。
―そうですね。
本多:UPLCとかUHPLC が使えるのであれば、Sub-2μm のフルポーラスの方がピーク形状の点で優れているので、やはりSub-2μm のフルポーラスを使うことが多かったです。
―弊社の新しいCORTECS 2.7μmカラムは、大体、全多孔性の2.2μmレベルのカラム効率で、背圧は3.1μmと同等ぐらいというデータがございます。そのため150mmのカラムでもかなり流してご使用いただけます。
本多:そうなのですか。
―とは言え、UPLCをお使いで1.7μmということですと、やはりそちらのほうが段数としては高くなるかと思います。
本多:そうですよね、うん。
―最後に、新しい情報をご紹介したいのですが、よろしいでしょうか。
通常逆相の固相と異なり、Oasisの場合は、全くコンディショニングしなくても、水系のサンプルが浸透することは以前から知られておりました。この利点を応用して開発されたOasis HLB μElutionプレートの新しい使用方法をご紹介いたします。シンプリファイド・プロトコールと呼んでおりますけれども、コンディショニングと平衡化を完全に省略した方法です。μElutionプレートは今までの標準法でも早かったものが、もっと早くできるということで、お知らせしたお客様は皆さん結構驚かれております。
本多:これは、固相が完全にカッピカピの乾燥状態のまま?
河野:サンプル溶液をロードしたということですか。
―そうですね、はい。タンパクと結合しやすいような低分子をはずすために4%リン酸水溶液で1:1希釈していますので、血漿として100μLになります。
本多:結構な量の血漿ですね。しかも多少有機溶剤を含んだサンプルではなくて、水系100%のサンプルを、そのまま乾いたままの担体に乗せることができるということですね。
―はい、これはもう袋から、というか入れ物から出して、もうそのままやっておりますので。はい。また、次の機会にぜひご検討いただければと思います。
本多:おもしろいですね。メーカーさんのほうで、こういうメソッドを出していただけると、こちらとしても大変助かります。しっかり背景データが取得された手法であれば、提案がしやすくなりますね。
―ありがとうございます。
本多:それはお値段が・・・(笑)、というのはあるのですけど、でもやっぱり安心感が一番ですので、私の場合、使っている頻度が高いです。きっちりとはまっていて、まず剥がれない。よく考えられているなというのが私の印象です。
今後も安心感のある製品をどんどん提供していただけると非常に助かります。やはり、安心感をもって使える製品というのは、私たちの立場としては、非常に重宝しているところです。
―ありがとうございます、長い時間ありがとうございました。