Waters AutoPurification システムを使用して分析スケールでの分離法を開発し、同じシステムを用いて分取スケールへと移行することが可能になり、ラボの全体的な投資を減らすことができます。このアプリケーションノートでは、葛根(Pueraria lobata)エキスの分離を用いて、内径 4.6 mm の分析カラムによる分離から内径 10 mm、19 mm および 30 mm の分取カラムによる分離へと、分離法のスケールアップのための系統的アプローチを説明します。Waters OBD Prep カリキュレーターの使用が特徴です。
クロマトグラフィー分離手法は、分析から分取までどのスケールであっても実行することが可能です。小スケールで分離法を開発し、これをスケールアップしていくことが、試料および溶媒の消費を最小限に抑えるのに有益です。重要なパラメーターを考慮し、論理的に適切な倍率を適用することによって、分析クロマトグラフィーから大きなスケールの分取クロマトグラフィーへと容易にスケールアップすることが可能になります。このアプリケーションノートでは、葛根(Pueraria lobata)エキスの分析スケールの分離を用いて、内径 4.6 mm の分析カラムによる分離から内径 10 mm、19 mm および 30 mm の分取カラムによる分離へと移行するのに用いられる計算および手法を紹介します。
葛は、木質化または半木質化する多年生のつる植物であり、塊根を有します。葛の根には、ダイゼイン、ダイジン、ゲニステイン、ゲニスチンおよびケルセチンなど、多数の有用なイソフラボンが含まれています。葛は、イソフラボン・プエラリンの唯一の採取源でもあります。葛根エキスは、アルコール摂取量を減少させ、アルコール離脱症状を軽減すると考えられています。さらに、抗菌効果、抗癌効果、抗炎症効果および抗酸化効果も報告されています。1。
葛根片(20 g) を 9:1 の水/メタノール 100 mL に加え、1 時間振とうし、1 晩静置したのち、さらに 1 時間振とうしました。このエキスを 3000 rpm で 20 分間遠心分離し、それ以上処置せずに使用しました。
各スケールのクロマトグラフィーはいずれも Waters AutoPurification システム(図 1)を使用しました。
ポンプ: |
Waters 2545 バイナリーグラジエントモジュール |
検出器: |
Waters 2998 フォトダイオードアレイ検出器、Waters 3100 質量検出器 |
インジェクター / フラクションコレクター: |
Waters 2767 サンプルマネージャー |
カラムマネージメント: |
Waters システム流路系オーガナイザー Waters SunFire C18、5 μm、4.6 x 50 mm カラムで、以下の条件でまず分析スケールの分離を実施しました。 |
カラム温度: |
室温 |
流量: |
1.5 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
メタノール |
グラジエント: |
7 分間で移動相 B を 5% から 70% にグラジェント |
注入量: |
20 µL |
検出: |
UV(200~400 nm)および MS フルスキャン 150~700 m/z |
実験の結果、得られたクロマトグラム(図 2)によって、多数の化合物の分離が示され、それぞれをスケールアップの対象としました。
系統的なスケールアップ法によって、最良の結果が得られると考えられます。最終目標は、重要な成分間の分離を維持し、分析クロマトグラフィーから分取クロマトグラフィーの結果を的確に予測することができるようにすることにあります。
このスケールアッププロセスに取り組むときに考慮すべき重要な因子が多数あります。
分離の中心となるのはカラムであり、全く同じカラムケミストリーを選択するのが理想的です。分析カラムと分取カラムでケミストリーが異なると、分析スケールでの結果に基づいて分取分離を予測することが極めて困難になります。ウォーターズは、分析スケールから分取スケールのサイズまで広範囲をカバーするカラムケミストリーを提供しています。ケミストリーだけでなく、充塡剤の粒子径も考慮する必要があります。同じ粒子径のカラムであれば、分析と分取の両方の分離スケールで隣接するピークに対しほぼ同程度の分離能が得られます。また、カラムの長さも分離効率に影響を及ぼします。スケーリングを実施するときに全く同じ長さのカラムであれば、ほぼ同じ分離力が得られます。より短いカラムまたはより長いカラムへスケーリングすることもできますが、分離に変化が起こることに留意する必要があります。
ピーク形状およびローディングキャパシティを維持するには、以下の方程式を用いて注入量を適切にスケーリングする必要があります。
この場合、Volは注入量(µL)であり、Dはカラムの内径(mm)、Lはカラムの長さ(mm)を表します。たとえば、4.6×50 mm のカラムを使用して注入量を20 µLとすると、19×50 mmの分取カラムでの注入量は341 µLとなります。
分離の質を維持するには、カラムサイズに基づき流量をスケーリングしなければなりません。全く同じ粒子径のカラムであれば、カラムサイズに応じて流量をスケーリングするのに以下の方程式を用います。
ここで、F は流量(mL/分)、D はカラムの内径(mm)を表します。たとえば、内径 4.6 mm のカラムを使用して流量 1.5 mL/ 分であれば、内径 19 mm のカラムでは流量 25.6 mL/分となります。
カラムの長さが全く同じであれば、グラジエント組成を変更する必要はありません。より長いカラムまたはより短いカラムへとスケーリングする場合は、分離のプロフィールを保つために、グラジエントセグメント容積(グラジエントセグメント毎に流れた溶液量を使用したカラム容積単位に換算した値)を維持しなければなりません。
無料でダウンロードいただける Waters Optimum Bed Density (OBD) Prep カリキュレーター(図 3)は、このような分析-分取スケーリング計算をサポートする便利なツールです(www.waters.com/prepcalculator 参照)。本アプリケーションノートでも Waters OBD Prep カリキュレーターを用いて、分析スケールから分取スケールへの分析法スケーリングの計算を行いました。
注入量および流量を計算するには、画面から負荷量スケーリングの計算[Mass Load Scaling Calculation](図 4)を選択します。分析カラムおよび分取カラムのサイズ、分析スケールの流量および注入量を入力すれば、Prep カリキュレーターよって分取スケールでの適切な値が計算されます。
カラムの長さが同じであれば、分析スケールで使用しているものと同じグラジエントセグメント時間を用いて、グラジエントテーブルに分取流量を入力するだけです。あるいは、グラジエントメソッドを使用する場合、画面から基本グラジエントスケーリング計算[Basic Gradient Scaler Calculation](図 5)を開いて、分析カラムおよび分取カラムのサイズを選択して、分析スケールのグラジエントテーブルを入力し、計算ボタンをクリックします。分取スケールのグラジエントテーブルは自動的に計算され、ページの下半分に表示されます。Waters OBD Prep カリキュレーターのユーザーガイドには全計算機能の使用に関する詳細な説明が記載されています。
以上の手法を実証するために、「実験方法」セクションに記載した分析スケールの分離法を用いて、3 種類のサイズの分取カラム(内径 10.0 mm、19.0 mm、30.0 mm)へのスケーリングを実施しました。表 1 に、スケーリングされた流量および注入量(すべて Waters OBD Prep カリキュレーターを用いて算出)を記載しています。
分取カラムはすべて長さ 50 mm の SunFire Prep C18 OBD、5μm カラムであり、すべての分取は分析スケールクロマトグラフィーと同じシステムで実行しました。図 6 に示されているように、スケールに関係なく、クロマトグラム(UV および TIC)は非常に似ています。元の内径 4.6 mm と比較して(図 2)、分離能および保持時間についても、クロマトグラムが非常に似ています。
この簡易実験によって、系統的なスケールアップ法が重要な成分間でのクロマトグラフィー分離を維持するという目標を達成しており、分析クロマトグラフィーをもとに分取クロマトグラフィーの性能を的確に予測できるようになることが明らかになりました。さらにこの実験によって、同一のシステムで分析クロマトグラフィーも分取クロマトグラフィーも実行することが可能で、クロマトグラフィー性能を損なうこともない Waters AutoPurification システム独自の機能も実証されています。
分析クロマトグラフィーは、系統的アプローチを用いることにより、容易に分取クロマトグラフィーへとスケーリングすることができます。
720003120JA、2009 年 6 月