近年、極性農薬の潜在的な発がん性に対する警告により、極性農薬への関心が高まっています。極性農薬は、除草剤、殺菌剤、植物成長調整剤に分類されます。極性の高い陰イオン性農薬の分析には、逆相 LC カラムでの不十分な保持、表面での相互作用、および法規制で要求されるレベルが低いため、多くの課題があります。本研究では、ウォーターズの Anion Polar Pesticide カラム、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム、および Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計の、ブドウ内の極性農薬およびその代謝物を 0.001 mg/kg レベルで分離、同定、定量する性能を評価しています。Anion Polar Pesticide カラムの保持力、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの分離能、および Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計の感度を組み合わせることで、食品安全性を扱うラボでの極性農薬のルーチン分析において、規制のニーズを満たすことが可能になります。
インドは、欧州連合をはじめとする多くの国にブドウを輸出しています。様々な食品の極性農薬のモニタリングについて、規制が設けられています。ブドウを欧州連合加盟国へ輸出する前に、収穫前に検査を行うことが義務付けられています1。 規制対象の農薬のリストを付録 9 に記載しています2。 グリホサートやエテホンなどは極性の高い陰イオン性化合物の物理化学的特性を示すため(図 1)、C18 などの逆相ケミストリーを使用する標準的な分析法は、十分な保持力が得られないため、適用できません。また、他にもイオン性質、表面間相互作用、溶液の不安定性、代謝物の検出などの課題が挙げられます。近年、クロマトグラフィー保持力と分離が向上しつつ、誘導化が不要な分析法が複数開発されました。ただし、これには残留農薬の多成分一斉分析法(SRM)が必要となります。ウォーターズの Anion Polar Pesticide カラムを用いた誘導化不要な陰イオン性極性農薬の測定方法は、以前に紹介しました3。ここでは、このカラムと ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を用いた、単一の残留農薬一斉分析法を紹介しています。ブドウ内の極性農薬および代謝物の分離、同定、定量において、0.001 mg/kg 以上の定量下限(LOQ)レベルを達成しています。
Waters Anion Polar Pesticide カラム 2.1 × 100 mm、5 μm(製品番号:186009287)を使用した、誘導化を必要としない陰イオン性極性農薬の測定方法は、以前に紹介しています3。 これらの化合物について必要となる保持と分離を実現するために、誘導化なしの HILIC ベースの分析法を使用しました。カラムの固定相は、エチレン架橋ハイブリッド(BEH)粒子と、三官能基で結合したジエチルアミン(DEA)リガンドで構成されています。親水性表面とリガンドの陰イオン交換特性の組み合わせにより、極性陰イオン化合物の保持と分離に適したクロマトグラフィー特性が得られます(図 2)。提案された手法により、単一の残留農薬一斉分析法を用いて、極性農薬の優れたクロマトグラフィー分離と保持が得られます。ESI ポジティブおよびネガティブモードを使用して、ブドウのマトリックスで 8 種類の農薬(グリホサートとその代謝物の AMPA、グルホシネートとその代謝物の MPPA と NAG、エテホン、ホセチルアルミニウム、ホスホン酸)を分析しました。図 3 に示すように、ESI ネガティブイオン化モードでは、ESI ポジティブイオン化モードと比較して、グルホシネートの感度が下がっていることが分かります。
QuPPe EU SRM メソッドを使用して、サンプル抽出を行いました4。 市販されているブドウのサンプルをブレンダーで均一化し、約 10.0 ± 0.1 g の均一化されたサンプルを取得しました。回収率測定用のサンプルも、抽出溶媒添加の前に混合した標準溶液をスパイクし、図 4 に記載した抽出手順に従って処理しました。回収試験は、ホスホン酸については 0.010 mg/kg および 0.050 mg/kg、残りの分析種については 0.001 mg/kg、0.0025 mg/kg、0.010 mg/kg で行いました(n=3)。ホスホン酸については、ブランクマトリックスに分析種が存在するため、回収は 0.010 mg/kg で行いました。リン酸カリウムは植物用肥料に多く使用されており、その結果として微量のホスホン酸が検出されます5。
ここで使用している分析法は、Anionic Polar Pesticide カラムスタートアップガイドの分析法 B です6。 Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを用いて、すべてのサンプルを注入しました。スパイクしたサンプルは、TargetLynx XS を用いて、手順の標準溶液に対して定量しました。検量線を作成するために、0.0005~0.100 mg/kg のデータを取り込み、優れた決定係数が得られました(R2 ≥0.99)。また、内部標準を使用しないでも、すべての残差は ±20% の範囲内でした(図 5)。この分析法により、保持時間の安定性(±0.1 分)と許容範囲内のイオン比(±30%)が得られます。真度(%)および精度(%RSD)は、図 6 に示す許容範囲内であり、SANTE/12682/2019 の要件を満たしていました7。
このアプリケーションブリーフでは、ACQUITY UPLC I-Class PLUS および Xevo TQ-XS を用いた、規制値より 50 倍低いレベルの極性の高い陰イオン性農薬の分析について説明しました。ブドウサンプルに極性の高い陰イオン性農薬 8 種類の混合物(それらの代謝物を含む)をスパイクした結果、適切なサンプル回収率が得られることが実証されました。Waters Anion Polar Pesticide カラムを使用することで、分析種(親)とその代謝物の優れたクロマトグラフィー分離と保持が得られます。Xevo TQ-XS を組み合わせた Waters ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを用いることで、これらの分析種で優れた感度、決定係数、再現性が得られます。ESI ポジティブおよび ESI ネガティブイオン化モードを用いることで、すべての分析種について最大の感度が得られます。要約すると、Anion Polar Pesticide カラムの保持力、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの分離能、および Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計の感度を組み合わせることで、食品安全性を扱うラボでの極性農薬のルーチン分析において、規制のニーズを満たすことが可能になります。
720006925JA、2020 年 5 月