ウォーターズの関連会社である Andrew Alliance の Andrew+ ピペッティングシステムを使用して、GlycoWorks RapiFluor-MS N 型糖鎖標識キットの操作を自動化し、その性能を検証しました。検証要件には、同じサンプル数の手動での前処理と、合計面積で 25 % 以内の偏差、相対面積で 5 % 以内の偏差での同等性評価などが含まれます。検証時に、自動プロトコルの間に平均 45% の非特異的サンプル損失を引き起こす消耗品の変化があることが判明したため、プロトコルの最適化が必要であることが明らかになりました。このサンプル損失を軽減するために変更を加えた結果、自動プロトコルでは、手動プロトコルと比較して最終的に 88% の回収率が示されました。最適化プロセス全体を通して、相対面積の高い再現性が維持され、最終的なプロトコルでは、手動で行った手順と比較した際の相対面積の偏差は 2.6 % 未満でした。
グリコシル化は、製造品質の均一性、製品の有効性、および製品の安全性の指標であるため、バイオ医薬品開発においては、重要品質特性(CQA)としてルーチンでモニタリングが行われています1,2。 従来の遊離 N 型糖鎖標識法では、完了までに数時間または数日かかる場合があります。また、従来の標識では安定性が悪く、蛍光および質量分析の感度を同時に高められないため、ラボではいずれか 1 つの検出方法に制限されざるを得ない状況でした。
ウォーターズでは GlycoWorks Rapi Fluor-MS N 型糖鎖標識キットと関連プロトコルを導入することで、偏りのない標識化を実現するために必要な時間が大幅に短縮し(文書化済み)、同時に蛍光および質量分析の検出感度を向上することが可能になりました3。 サンプル数に応じて、標識化ワークフローおよび HILIC クリーンアップとサンプル回収を 1 時間以内に完了することができるようになります。また、この分析法はシンプルであり、自動化にふさわしいと考えられます4。 この手順の自動化により得られる主な利点は、試験者がサンプル前処理に費やす時間が短縮され、トレーニングや文書化の負担が軽減されて、ピペッティングの単調さ故に起こりうるミスが低減されることにあります。この点を考慮した上で、2018 年に Andrew Alliance ピペッティングロボット Andrew において、GlycoWorks RapiFluor-MS キットの操作を自動化しました5。
この自動化プロトコルには、プロトコルを手動で実行した場合と同等のモノクローナル抗体(mAb)N 型糖鎖の完全な遊離と標識を実現するために、数回の最適化が実施されました。最終的なプロトコルでは、マウスのモノクローナル抗体の標準品から遊離させたメジャーおよびマイナーなグリコフォームについて、手動で前処理したサンプルと比較して、相対標準偏差 9 ~ 19% が達成できました。
2019 年、Andrew Alliance は、Andrew+ という名前の最新バージョンのピペッティングロボットをリリースしました(図 1)。このシステムは、ウェブベースの接続デバイスと、シングルチャンネルおよびマルチチャンネルの電子ピペットに対応するロボットアームを備えており、時間を節約できるだけでなく、より高いサンプル負荷にも対応できます。このアプリケーションブリーフでは、8 サンプル用の GlycoWorks RapiFluor-MS 遊離 N 型糖鎖プロトコルの最適化プロセスについて詳しく説明します。
Andrew+ の自動化プロトコルの開発中に、一部の消耗品の変更が導入されました。これは、SBS/SLAS マイクロプレート仕様6に準拠し、標準化されたラボウェアと、加熱および真空用の接続デバイスを統合するための変更です。手動プロトコルでは、目的の温度にあらかじめ設定したヒートブロックと共に、1.2 mL のサンプル反応チューブをタンパク質変性、脱グリコシル化、および標識に使用します。自動プロトコルでは、高速 SBS 型式のペルチェ式デバイスを利用していますが、これは手動ワークフローの 1.2 mL チューブには対応していませんでした。そこで、反応ステップに 200 μL の 96 ウェル Eppendorf Lo-Bind PCR プレートを導入しました。このプレート型式はさまざまな接続デバイスや 8 チャンネルピペットに対応しているため、自動プロトコルには個別のチューブよりこちらの方が適しています。ただし、Eppendorf プレートは 200 μL という小容量であるため、プロトコルの重要なポイントを変更せざるを得ませんでした。
プロトコルの標識ステップに従って、反応容量 40 μL を 360 μL のアセトニトリルで希釈し、合計の反応容量を 400 μL にしますが、この容量は 200 μL の 96 ウェル PCR プレートに対応しません。回避策として、1 mL の 96 ウェルプレートを使用して反応容量を 400 μL に希釈してから、HILIC μElution プレートにサンプルを追加しました。次に、希釈した溶液を HILIC プレートに移し、分析前のクリーンアップを行いました。使用する分析法は、GlycoWorks RapiFluor-MS N 型糖鎖キットの取扱説明書(製品番号: 715004793EN)に記載されています。図 2 に、事前に最適化した自動プロトコルの結果と、経験豊富なユーザーが手動で実施した際の結果の比較を示します。
この自動プロトコルは、手動で作業を行ったユーザーとの比較にはなりませんでした。合計面積の比較により、自動前処理を手動の手順と比較した際に、モニターした 8 つの糖鎖にわたって平均糖鎖回収率が 54% であることが分かりました(表 1)。自動サンプル前処理と手動サンプル前処理の間で相対面積が一定であることから、観察されたサンプル損失には偏りがないことに留意してください。この結果は、合計面積で手動分析法の 25% 以内という自動分析法の判定基準から大きくはずれていました。
サンプル損失の原因を特定するには、プロトコルのトラブルシューティングが必要となりました。大幅なサンプル損失の可能性のあるポイントとして、反応ステップ(変性、脱グリコシル化、および RapiFluor -MS 標識)とサンプルのクリーンアップを排除した結果、損失の主なポイントは、1 mLの 96 ウェルプレート中でのサンプル希釈であると推定されました。この希釈ステップ時の分析種の回収率は、手順やラボウェアを変更しても十分に改善できませんでした。
一方、プロトコルから保管場所を削除し、サンプルを μElution プレートで直接混合した場合、自動化したサンプルの回収率が大幅に向上しました(図 3)。最終的な 8 サンプル GlycoWorks RapiFluor -MS 自動プロトコルでは、HILIC μElution プレートに 200 μL のアセトニトリルをプレロードし、160 μL のアセトニトリルで反応液を最大 200 μL まで希釈した後、HILIC プレートに移して混合し、最終容量 400 μL にします。このプロトコルでは、経験豊富なユーザーが手動で実施した結果と比較して、回収率は 88% と示されました。他のあらゆる試験と同様、低濃度の糖鎖を含め、手動前処理と自動前処理における相対面積はほぼ同等になりました(表 2)。ここで、前処理内相対標準偏差は、自動化ソリューションの合計面積の再現性が手動ユーザーの場合よりも優れていることを示していることに留意してください(表 3)。相対面積の相対標準偏差は、いずれの前処理法においても同等になりました。
8 つのサンプルの GlycoWorks RapiFluor-MS 自動プロトコルを使用した初期テストにより、プロトコル内のあるポイントでのサンプル損失の原因が分かりました。保管の段階が、サンプル損失の原因であると判定されました。該当する保管場所を除き、サンプルを HILIC μElution プレートで直接希釈した場合、自動プロトコルの標識糖鎖回収率は、経験豊富なユーザーの手動による作業時と比較して 88% まで向上しました。これは、最適化プロセスの開始時に設定された偏差の下限要件である 25% 以下の範囲内に十分収まっていました。相対面積は、サンプル損失が懸念される場合においても、すべての試験で一貫していました。これは、GlycoWorks プロトコルに頑健性があることを証明しています。以上のように、Andrew+ を用いた 8 サンプル GlycoWorks RapiFluor-MS 自動プロトコルは、遊離 N 糖鎖分析において、費用対効果が高く、容易に導入できるソリューションを提供します。
720006971JA、2020 年 8 月