品質管理目的で食品製造業界で現在採用されている分析法の多くは、分光技術に基づいています。比較として、ダイレクト質量分析(MS)は、比較的新しい技術であり、同等の速度と使いやすさ、およびより高い選択性、感度、診断化学情報の利点を提供することが証明されています。不純物マーカーのターゲット検出または多変量分類モデルの開発のいずれかに基づく食品の真正性分析のために、多くの MS ベースの分析法が研究されてきました。この実験では、ケモメトリックスモデリングおよびそれに続くリアルタイム品質管理試験のために、LiveID と組み合わせた RADIAN ASAP の性能を評価しました。ケーススタディとして、地中海産のドライオレガノに混入した増量材の総量を使用しました。真正のドライオレガノ、オリーブの葉(頻繁に報告される混ぜ物)、およびそれらの混合物で構成されるサンプルセットを使用しました。各サンプルの化学的プロファイルを RADIAN ASAP を使用して作成し、マススペクトルプロファイルの分析種診断領域を使用し、LiveID の PCA/LDA アルゴリズムを使用して多変量モデルを作成しました。独立したバリデーションにより、バイナリーモデルの予測正確度は 100% であることが示されました。次に、このモデルを使用して、一連のチャレンジサンプルをリアルタイムで分類しました。モデルに含まれていない 4 種の異なるハーブ種(マジョラム、タイム、ミント、シスタス)の代表的なサンプルは、「外れ値」として分類し、オレガノへのオリーブとシスタスの葉の混入の推定スクリーニングしきい値、30% 以下(w/w)が計算されました。
ケモメトリックスパッケージ LiveID(v2.0)と組み合わせた RADIAN ASAP を、品質管理試験目的で食品原材料を迅速にスクリーニングするためのツールとして、評価しました。経済的な動機による食品不正として、ドライハーブに添加された無関係な増量材の総量をケーススタディに使用しました。地中海産オレガノは、最も評価の高い料理用ハーブの 1 つであり、料理、香水、化粧品の機能性成分としても使用されています。以前の論文では、質量分析以外の検出法を使用して、同じように見える経済的価値の低い植物の葉(例えばウルシ、シスタス、ギンバイカ、オリーブの葉)へすり替えが報告されています1-4。現在、この種の検査のために、食品製造セクターで採用されているスクリーニングメソッドのほとんどは、振動分光または DNA ベースの技法に基づいています5。 ダイレクト質量分析は、他の方法と同等の速さと使いやすさで適用できる上、より高い選択性、感度、および追加の貴重な化学情報(たとえば診断マーカー化合物や予期しない汚染物質の存在)を提供することが証明されています。
RADIAN ASAP は、定評のある ACQUITY QDa 質量検出器、および直接サンプルを導入できる大気圧固体分析プローブ(ASAP)技法に基づく、設置面積の小さい新しい装置です。ASAP の ASAP イオン化メカニズムは、極性から中極性の範囲の、広範囲の熱安定性で低分子量の揮発性および半揮発性化合物に適用できる、大気圧化学イオン化法(APCI)です。
サンプル導入は、分析のニーズに応じて、使い捨てのガラス製キャピラリーで簡単な浸漬法を使用するか、キャピラリーの端に一定量のサンプル抽出物を注入することによって行います。浸漬法では、サンプルの形状に応じて、キャピラリーをサンプル表面に浸漬するか、サンプル表面を拭います。サンプリングの前に、ガラス製キャピラリーを装置にロードし、自動クリーニング手順(ベイクアウト機能と呼ばれる)を実施して、ガラス表面に存在する汚染物を除去します。
RADIAN ASAP では、水平サンプルローディング機構が組み込まれている固定したイオン化ソースの形状を利用します。この固定ソースの形状は、APCI ピンとイオン化領域に近接したサンプリングキャピラリーの最適な配置が固定されるため、分析法開発段階を最小限に抑える役目をします。イオン化およびサンプリングコーンの領域は、質量検出器への軸から外れています。中性種の一部およびイオン電流がイオンガイド領域に入るのを防止するこの設計が、粗サンプルからの検出器汚染を低減することにより、分析法の頑健性を向上する役目を果たします。
モデルのトレーニングとバリデーションの目的で、以下の植物種から特性解析した真正のサンプルのセットを、商業生産者から直接調達するか、あるいは、植物種、原産国、収穫年が既知の成長中の植物から採取するかしました。それらの植物種は、地中海産オレガノ(Origanum vulgare & O. vulgare spp.heracleoticum) n = 35、オリーブ(Olea europaea)n = 20、マジョラム(Origanum majorana)、シスタス(Cistus incanus)、タイム(Thymus vulgaris)、ミント(Mentha spicata)です。
代表的な可能性のあるすり替え物は、オレガノとの系統発生的近接性に基づいて選択しました。選択した 3 つの植物種は同じ科(Lamiaceae)に属し、これらのうち 2 つはオレガノと同じ属(Origanum)に属しています。ハーブ不正の増量材として以前に報告された別の科に属する 2 つの追加の植物種(Oleaceae および Cistaceae)もこの実験に含めました1。
すり替え偽装のシナリオに似せるために、真正のオレガノと他のハーブ種が含まれている混合物を重量対重量ベース(0 ~ 30% の範囲)で調製しました。
均質な乾燥植物材料を秤量し(0.2 g)、10 mL のメタノールで抽出しました。混合液を、ロータリーシェーカーを使用して 1,300 rpm で 10 分間振とうしました。抽出液を 1000 rpm で 4 分間遠心分離し、得られた上清のアリコート(400 µL)を 1 mL のオートサンプラーバイアルに分注しました。
事前に洗浄したガラス製キャピラリーを、抽出液が入っているオートサンプラバイアルに十分な深さまで浸し、約 5 秒間、溶液と接触したままにしました。ガラス製キャピラリーはすぐに RADIAN ASAP サンプルローダーに取り付けて、イオン化ソース領域に導入しました。プロトン移動イオン化メカニズムを促進するために、抽出物がまだ湿っている間に分析しました。
LiveID で真正品モデルを作成するために、35 種の異なる真正オレガノと 18 種の異なるオリーブの葉のサンプルが含まれているトレーニングセットを選択しました。サンプルは、1 人の分析者が 1 つの装置で異なる 2 日間にわたってランダムな順序で分析し、サンプルごとに 2 回の技術的繰り返しを行って、70 のオレガノサンプルと 36 のオリーブの葉のサンプルの母集団を作成しました。真正のオレガノおよび他のハーブのサンプルに対して生成された RADIAN ASAP スペクトルは、技術的繰り返しおよび生物学的繰り返しにおいて再現性があり、機能豊富なプロファイルを示しました。LiveID(v.2.0)を使用して、真正オレガノサンプルと混ぜ物をしたオレガノサンプルを区別するためのケモメトリックモデルを作成し、バリデーションしました。
MassLynx の生データを LiveID と前処理ステップにインポートし、装置の感度変動を考慮して、トータルイオン電流(TIC)による正規化、およびスケーリングに適用した平均センタリングを実施しました。スペクトルライブラリー母集団の LiveID ワークフローステップが図 2 にまとめられています。
モデルの最適化段階では、取り込んだ全スペクトル範囲(m/z 100 ~ 1000)および 5 つの主成分を使用して、管理なしで主成分分析(PCA)モデルを構築しました。1 Da 単位のビニング分解能を適用しました(RADIAN ASAP 検出器の質量分解能と相当)。LiveID PCA 単一成分ローディングプロットを調べて、ハーブの種に応じたクラスタリングに統計的に関連性がある m/z の特徴が明らかになりました。
最も診断に有用なスペクトル範囲は m/z 300 ~ 750 であることがわかったので、この範囲を以降のモデルトレーニングおよびバリデーションの段階で使用しました。管理付きアルゴリズムである線形判別分析を PCA モデルに適用して、PCA/LDA モデルを生成しました。3 つの主成分が保持され、96% を超えるデータの全分散が説明されました。線形判別分析 1 つを縮小したデータセットに適用しました。標準偏差の 3 倍(97% 信頼区間)の外れ値距離を、スコアとクラスのセントロイドからの残差距離の両方と組み合わせたクラスの周囲に定義しました。
自動 in-silico クロスバリデーションを、LiveID で使用可能な 2 つのバリデーションメソッドを用いて実行しました。「1 ファイル除外」メソッドを使用して、混ぜ物識別の予測精度 % を決定し、「1 グループ除外」メソッドを使用して、モデルの日間安定性を評価しました。
「1 グループ除外」の場合、1 日目と 2 日目に取り込んだサンプル繰り返しを LiveID スペクトルライブラリーのグループに割り当てました。モデルは、分析日のグループに従って作成した後、隔日に取り込んだ繰り返しでチャレンジし、およびその逆を行いました。
上記のモデルのパラメーターを使用すると、両方のバリデーションモードで 100% の全体的な正確性スコア(予測精度)が得られ、モデルによって、化学的プロファイルの違いに基づいて、モデルに含まれる 2 種類のハーブの葉が確実に区別されていることが示されました。モデルの日間安定性は頑健であり、分析日間の技術的な差異は無視できる程度であることが示されています。
再現性、頑健性、予測正確度をさらに評価するために、モデルをさまざまな混ぜ物と比較し、予想される不正のシナリオ(100% 混ぜ物として)およびモデルのトレーニングに使用しなかった一部の真正のオレガノとオリーブの葉のサンプルをシミュレーションしました。
ランダムに選択した 7 つの真正のオレガノと 2 つのオリーブの葉のサンプル(モデルのトレーニングに用いたセットの 20%)を、4 台の異なる装置のうちの 1 台で、3 人の分析者の 1 人が、浸漬またはピペッティングによるサンプル導入技法を用いて試験しました。すべての場合に、LiveID の再生認識は、信頼性スコア 100% で正しい分類結果を返しました。モデルに存在しない 4 つの異なるハーブ種(マジョラム、タイム、シスタス、ミント)の代表的なサンプルもバリデーション試験に含めました。モデルは「外れ値」の分類を返しました。これは、化学プロファイルが、定義されている外れ値距離範囲内で真正のオレガノまたはこのモデルに含まれる単一の混ぜ物のクラス(オリーブの葉)のいずれにも一致しないと認識されたことを示します。
分析法のスクリーニング検出限界(SDL)を推定するために、真正のオレガノに個々の混ぜ物種(オリーブおよびシスタス)がそれぞれ 10% および 30%(w/w)含まれているブレンドを使用しました。これらのブレンドを、同じ装置で、異なる 2 日間に分析し(n = 6)、LiveID のリアルタイム認識を用いて分類しました。SDL は、オリーブとシスタスの両方について 30% 以下と推定され、両方の植物種で頑健な 30% 以下のスクリーニングしきい値を設定できることを示しています。他の可能性のある混ぜ物またはそれらの混合物のカットオフレベルを定義するには、さらなる作業が必要です。
Sara Stead (Waters Corporation), Tito Damiani (University of Parma, Department of Food and Drug, Parco Area delle Scienze), Nicola Dreolin (Waters Corporation), Giuseppe Sammarco (University of Parma, Department of Food and Drug, Parco Area delle Scienze & Barilla G.R. F.lli SpA Research, Development & Quality), Michele Suma (Barilla G.R. F.lli SpA Research, Development & Quality) and Chiara Dall’Asta (University of Parma, Department of Food and Drug, Parco Area delle Scienze).
720007045JA、2020 年 10 月