• アプリケーションノート

液体クロマトグラフィータンデム四重極型質量分析を用いたエビ組織中のテトラサイクリンおよびスルホンアミド抗生物質の分析

液体クロマトグラフィータンデム四重極型質量分析を用いたエビ組織中のテトラサイクリンおよびスルホンアミド抗生物質の分析

  • Christelle Robert
  • Marijn Van Hulle
  • Simon Hird
  • Luc Demoulin
  • Gilles Pierret
  • Nathalie Gillard
  • CER グループ
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、Waters ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを Xevo TQ-S micro と組み合わせて使用して、エビ組織中のテトラサイクリン類、スルホンアミド類、トリメトプリム、オルメトプリム、ダプソンの分析のバリデーションに成功したことについて説明します。

アプリケーションのメリット

  • 幅広いテトラサイクリン類、スルホンアミド類、および関連する動物用抗生物質医薬品を単一の分析に統合
  • 少ない注入量を使用した効果的なクリーンアップと高感度質量分析計を組み合わせることで、堅牢で信頼性の高い分析ソリューションが可能
  • バリデーションの成功の実証により、分析法の適合性への信頼性が向上

はじめに

動物用医薬品は、畜産や水産養殖で治療上または疾病予防上の理由で使用され、場合によっては家畜の成長を促進するために使用されます。ただし、指定された休薬期間が守られていない場合は、安全でない残留抗生物質やその代謝物が、牛乳、卵、肉などの食用製品に存在する可能性があります。需要の増加に対応するために、エビやその他の海産食品は、多数の動物を比較的小さな養殖場所で養殖されており、病気に罹りやすくなっています。動物の健康を維持するとともに、生産性を確保して生産量を高めるために、抗生物質が大規模に使用されています。これらの抗生物質が動物由来の食品に残留すると、消費者の健康に悪影響を及ぼし、病原体の抵抗性を誘導する可能性があるため、主要な懸念事項です1

食品の安全性を確保して各国間の国際貿易が円滑に進められるように、規制当局は、最大残留限度(MRL)を設定するか多くの物質の使用を禁止して、動物用医薬品の使用を規制しています。EU では、多くの物質に対して MRL が設けられており、それらが食用の生物種すべてに適用されます。そのうちスルホンアミド類は、スルホンアミド群に含まれる全ての物質を合わせたすべての残留物を意味し、テトラサイクリン類は、ドキシサイクリン(DC)を除く親薬物およびその 4 種類のエピマーの合計に関連します2。 ダプソン、デメクロサイクリンおよびオルメトプリムについては、EU では食用動物での使用が承認されておらず、MRL はありません。ただし、ダプソンについては 5 μg/kg の推奨濃度(RC)があります3。 物質が禁止されている場合、CCα 限界および CCβ 限界は、常に合理的に達成可能なかぎり低く(ALARA)する必要があります。

効果的な施行、調査、検査活動と組み合わせたモニタリングにより、世界中のさまざまな地域で動物用医薬品の安全で効果的な使用が確保されています。例えば、EU 諸国では、食用動物での承認済み動物用医薬品の違法使用や誤用を検出するために、残留物モニタリングプランを実施しなければなりません。これらの国々は、残留物に関する違反の理由も調査しなければなりません。EU に輸出する EU 以外の国も、食品の安全性を同等レベルで保証する残留物モニタリングプランを実施する必要があります。

従って、海産食品中のさまざまな抗生物質の残留物を簡単かつ正確に測定する分析法を開発することが重要です。このアプリケーションノートでは、Waters ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを Xevo TQ-S micro と組み合わせて使用して、エビ組織中のテトラサイクリン類、スルホンアミド類、トリメトプリム、オルメトプリム、ダプソンの分析のバリデーションに成功したことについて説明します。

実験方法

サンプルの抽出およびクリーンアップ

内部標準試料を追加した後、テトラサイクリン類の抽出効率を向上させるためにキレート剤の混合物を使用してエビ組織を抽出し、SPE によるクリーンアップを実施しました(詳細は図 1 を参照)。マトリックスマッチド標準試料は、以下の濃度で、エビ組織抽出物(以前はブランク試料と示されていた)で調製しました(表 1)。

表 1. マトリックスマッチド標準試料中の各抗生物質の濃度。メタサイクリン、トリメトプリム-d9、3-アミノフェニルスルホン、スルファジアジン-13C6、およびスルファジミジン-13C6 を、定量の内部標準試料として使用しました(詳細については表 2 を参照)。
図 1. サンプル前処理ステップの概要

UPLC パラメーター

システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUS(FTN サンプルマネージャーを搭載)

カラム:

ACQUITY HSS C18、1.8 μm、2.1 mm×100 mm(製品番号:186003533)

カラム温度:

25 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入パラメーター:

1 μL

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸メタノール溶液

サンプルマネージャ洗浄

0.2% ギ酸含有水/メタノール/イソプロパノール/アセトニトリル(25/25/25/25)

グラジエントプログラム

MS パラメーター

MS システム:

Xevo TQ-S micro

極性:

ESI+

キャピラリー電圧:

2.0 kV

ソース温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

650 ℃

脱溶媒ガス流量:

1000 L/時間

コーンガス流量:

50 L/時間

化合物ごとに 2 つの MRM トランジションを使用しました。最適なデュエルタイムは、各ピークにわたって最低 12 データポイントになるように、AutoDwell 機能を使用して自動的に設定されました。データは、MassLynx ソフトウェアを使用して取り込み、TargetLynx XS アプリケーションマネージャーで解析しました。表 2 に、MRM トランジションと実際のデュエルタイムの設定がまとめられています。定量トレースは太字で示されています。

表 2. すべての抗生物質とその内部標準試料の MS メソッドパラメーター

分析法のバリデーション

バリデーションは、2002/657/EC ガイドラインに従ってスパイクしたブランク試料を使用して行いました4。次記のパラメーターを評価しました:同定、選択性、直線性、真度、室内再現性(RSDr)、室間再現性(RSDRL)、決定限界(CCα)、検出能力(CCβ)。同定は、保持時間、イオン比、同定要素を調べることによって評価しました。この分析法の選択性を検証するために、ブランクのエビ組織サンプルをテストして、分析種の保持時間付近で溶出する干渉化合物の存在をテストしました。曲線の直線性および個々の残差を確認しました。エビ組織の繰り返しスパイクサンプルは、同じ分析者が 3 日間に分けて調製し、分析しました。MRL 物質については、MRL の 0.5 倍、1.0 倍、1.5 倍をサンプルにスパイクしました(表 1 参照)。ただし、テトラサイクリン類の MRL は、親薬剤とその 4 種類のエピマーの合計に関連するため、各化合物のスパイク濃度は 25、50、75 μg/kg に半減させ、親薬物およびエピマーの計算濃度を合計してからバリデーションパラメーターを計算しました。MRL がない化合物については、ターゲットレベル(TL)の 0.5、1.0、1.5 倍で評価しました。CCα および CCβ は、2002/657/EC で定義されている RSDRL から計算しました。

結果および考察

クロマトグラフィー

HSS C18 カラムにより、テトラサイクリン類について、イオンペア試薬を移動相に添加せずに、すべての化合物に対して優れた保持とピーク形状が得られます5。 HSS C18 カラムをアセトニトリルではなくメタノールと組み合わせて、カラム温度を低くすることにより、親とエピマーが完全に分離しました(図 2)。

図 2. テトラサイクリン類の分離を示す MRL のマトリックスマッチド標準試料のクロマトグラム

特異性、選択性、同定、キャリブレーションの基準

3 日間それぞれに 7 つのブランクのエビサンプルを調製し、分析しました。適合しないサンプルによって誤った検出の報告をもたらす可能性のある抽出物については、シグナルは検出されませんでした。一部の化合物は微量レベルで検出されましたが、その濃度は最も低濃度の標準試料よりはるかに低いと推定されました。マトリックス抽出物で調製された 7 ポイントの検量線は毎日取り込みました。各化合物の 2 つのトランジションは、必要な同定要件(MRL 物質について 3 点、禁止物質について 4 点)を十分に満たしており、標準試料と比較して、イオン比と保持時間が推奨許容範囲内にあるピークが得られました。1/x の重み付けの線形回帰を適用し、キャリブレーショングラフからの測定の相関係数(R2)はすべて 0.99 を超え、個々の残差はすべて 20% 未満(ほとんどが 5% 未満)で、信頼性の高い定量であることが実証されました。典型的な検量線の一部の例を図 3 に示します。

図 3. この分析法に含まれる各種抗生物質の典型的なキャリブレーションおよび残差のグラフ

感度

マトリックスマッチド標準試料の分析から、感度が良好であることが実証されました。図 4 に、各種抗生物質についての、最低濃度でのマトリックスマッチド標準試料分析の典型的なクロマトグラムを示します。この分析法では、抽出物中のこれらの抗生物質をはるかに低い濃度で検出できること、つまり LC-MS/MS の前に最終抽出物をさらに希釈できることが示されています。

図 4. 各種抗生物質についての、最低濃度でのマトリックスマッチド標準試料の分析のクロマトグラム(濃度は表 1、トランジションは表 2 に記載)

真度と再現性

測定した回収率として表される真度を、3 日間にわたるスパイクサンプルの分析からのデータを使用して評価しました。3 日間にわたって調製および分析した 3 濃度で 7 回スパイクした各セットの平均回収率は 88.6% ~ 106% でした。これは、欧州委員会決定 2002/657/EC に定められた基準の範囲内でした。この分析法の再現性も、RSDr(0.9% ~ 10.2%)および RSDRL(1.1% ~ 9.8%)の両方の試験で、すべての化合物について満足できるものでした。真度と再現性を図 5 と 6 および表 3 に示します。表 3 には CCα と CCβ の値も示されています。

図 5. 1 日目、2 日目、3 日目のスパイクの分析による回収率(%)のプロット
図 6. 1 日目、2 日目、3 日目のスパイクの分析による再現性(%RSDr と RSDRL)のプロット
表 3. エビ組織中の抗生物質測定のバリデーション結果

結論

ここで説明した分析法は、Xevo TQ-S micro MS/MS システムと ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムの組み合わせを使用し、一連のさまざまな抗生物質(テトラサイクリン類、スルホンアミド類、トリメトプリム、オルメトプリム、ダプソンなど)の測定用として、高感度で頑健な多成分一斉分析法であることが証明されました。この分析法により、一般的な MRL を十分に下回る濃度までの迅速で信頼性の高い定量が可能になり、欧州委員会決定 2002/657 に従ってバリデーションしたところ、エビ組織のテトラサイクリン類、スルホファミド類、および関連する抗生物質について満足できる結果が得られました。この手順は、適切なバリデーション後に他の動物および魚の組織にも適用できます。この費用対効果の高い分析法は、ラボで手軽にルーチンで実施でき、MRL への適合性を確認するのに適していることが実証されています。また、食品事業者の適性評価試験などで、非常に低い濃度でスクリーニングできる可能性があります。

参考文献

  1. Chen, J. et al.(2019).Antibiotic Residues in Food: Extraction, Analysis, and Human Health Concerns.J. Agric.Food Chem.67:7569–7586.
  2. Anon (2009).Commission Regulation (EU) No 37/2010 of 22 December 2009 on pharmacologically active substances and their classification regarding maximum residue limits in foodstuffs of animal origin.OJ L 15, 20.1.2010, p. 1–72.
  3. Anon (2017).CRL Guidance Paper (7 December 2007).CRLs View on State of the Art Analytical Methods for National Residue Control Plans.Community Reference Laboratories (CRLs) for Residues According to Council Directive 96/23/EC.
  4. Anon (2002).2002/657/EC: Commission Decision of 12 August 2002 implementing Council Directive 96/23/EC concerning the performance of analytical methods and the interpretation of results.OJ L 221, 17.8.2002, p. 8–36.
  5. Young, M.S.; Van Tran, K. HPLC/UV Determination of Tetracyclines in Milk Using Mixed-Mode SPE and eXtended Performance [XP] 2.5 μm Columns.Waters Corporation Application Note.720004582EN.2013.

720006789JA、2020 年 10 月改訂

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