研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
OneLab と Andrew+ ピペッティングロボットを用いて、メタボロミクスサンプルの自動前処理を行います。
Andrew+ ピペッティングロボットにより、脂質および低分子の分析のための MTBE 抽出メソッドが効率化されます
メタボロミクス研究では多くの場合、複雑な生物学的マトリックス中の低分子や脂質の分析が行われます。これらの研究での対象化合物の広範囲な生理化学的特性により、必要な分子対応範囲を得るには、複数の抽出メソッドおよび分析メソッドが必要です1。 何百から何千もの生物学的サンプルが関わる大規模な疫学研究において、複数回の抽出が必要な場合は、科学者は多数のピペッティングステップを実行することになり、多量のサンプルが必要になるため、このような課題が大きくなります2。
最も広い化合物対応範囲を達成する単一の抽出方法を実行できることが、ラボのサンプル分析のスループットを向上するために不可欠です。ただし、単一の液-液抽出プロトコルは、メタボロミクス研究で好まれている従来の「直接希釈注入」の抽出メソッドより、複雑で時間がかかります。
Matyash ら3による単一の抽出プロトコルに、メタボロミクスラボで血漿および組織から脂質をルーチンで抽出するために用いられている液-液抽出メソッドが概説されています。メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、メタノール、水を用い、相分離後に、有機溶媒層に脂質が抽出され、さらに下部水相は極性低分子の分析に使用できます(図 1)。
自動リキッドハンドリングデバイスは、90 年代以降、臨床ラボで、患者サンプルの大きなバッチに対してバリデーション済みの抽出プロトコルを実行するためにルーチンで使用されており、手作業の介入の必要性が大幅に低減されています4,5。 これらの自動リキッドハンドリングプラットホームの多くは設置面積が大きく、科学者がサンプル前処理に使用するスペースよりかなり大きなラボスペースを占有します。さらに、サンプル前処理プロトコルのプログラミングが難しい場合があり、ソフトウェアに関する長時間のトレーニングや、各プラットホームにスタンドアローンの PC が必要です。
このアプリケーションブリーフでは、Andrew+ ピペッティングロボット、OneLab プロトコル設計・実行ソフトウェアを用いた、ヒト痰サンプルの MTBE 抽出メソッドによる代謝表現型解析について説明します。
自動ピペッティングロボットの使用は、サンプルを前処理するために失われていた時間の多くを取り戻すために役立ちます。本研究では、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、ヒト痰サンプルでの MTBE 液-液抽出メソッドを実行しました。抽出手順の各ステップは、プロトコル設計ソフトウェアである OneLab でセットアップしました。そこでは、サンプル量に適した実験器具を選択して、設計ページに追加しました(図 2a)。図 2b に抽出手順の最初のステップが示されています。このステップでは、Andrew+ ロボットによって 200 μL のメタノールが 100 μL の試験サンプルが入っている各エッペンドルフチューブにピペッティングされます。メタノール追加後のプロトコルの 2 番目のステップ(図 2c)は、各サンプルへの 800 μL の MTBE の追加です。ユーザーが手動で操作するステップがプロトコルに組み込まれており、このステップでは各サンプルを軽くボルテックス混合してから、2 ~ 8 ℃ で 1 時間インキュベーションし、その後 Andrew+ ロボットに戻します。戻した後、300 μL の脱イオン水をサンプルのエッペンドルフチューブにピペッティングします(図 2d)。さらにユーザー操作ステップが追加されて、サンプルをボルテックス混合してから遠心分離(4,500 x g で 10 分間)を行い、沈殿したタンパク質をペレット化することで、相分離を行います。OneLab プロトコルの最後のステップでは、相分離した抽出物の 2 つの相を別個のバイアルに分けました(図 2e)。
プロトコル設計に従って(またはオンラインライブラリーから OneLab プロトコルを読み込んで)、実行する抽出メソッドを選択しました。図 3 に、MTBE 抽出プロトコルに必要な Andrew+ ロボットのセットアップが示されています。ドミノの位置および各ドミノの内容が表示されており、適切なピペットチップの数、抽出溶媒の量、試験サンプルを確認できます。ドミノのセットアップを確認した後、自動抽出手順を、事前に 1.5 mL のエッペンドルフチューブに分注した 24 のヒト痰サンプル(100 μL)の抽出から開始しました。プロトコルの完了後、抽出物の上部有機相を窒素下で蒸発乾固し、LC-MS 分析のためにイソプロパノールに再溶解しました。下部水相は、HILIC 分析用に、アセトニトリルで希釈して、水系サンプルとアセトニトリルの組成を 1:1 にしました。
得られた相は、脂質用の逆相クロマトグラフィー分析法(有機相)、および極性代謝物(水相)用の HILIC ベースのグラジエント分析法を使用して、SYNAPT XS で個別に分析しました。図 4 に、ポジティブイオンモードの両方の取り込みメソッドを用いて得られた、抽出されたヒト痰の代表的なクロマトグラムが示されており、非極性脂質に加えて極性代謝物(低分子および極性脂質)の回収率が良好であることが実証されています。
MTBE 脂質抽出メソッドにより、下部水相中の極性代謝物の抽出に加えて、生物学的マトリックスからの広範な脂質の回収が、すべて単一の抽出手順で実現できます。OneLab ソフトウェアにより、柔軟で明解なプロトコル設計が可能になり、さまざまな実験器具やサンプル量に容易に対応できました。
Andrew+ ロボットにより、完全手動の前処理手順と比較して、24 の生体サンプルの前処理にかかる時間が約 30 分短縮され、スループットが向上することが実証されました。自動前処理は、完全に自動化されたピペッティング(1 時間を超える)で構成されており、これによって分析者は装置のセットアップなどの他の作業に集中できます。
720007303JA、2021 年 7 月