Andrew+ を用いたプロテイン A 結合磁気ビーズによる迅速な自動抗体精製
研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。
要約
モノクローナル抗体は、急速に成長しているバイオ医薬品の 1 つです1。 ハイスループットの小規模の分析プラットホームは、一般的な研究内で、および小型バイオリアクターを使用するバイオ医薬品の開発を支援するために、ますます探し求められています1。 これに関し、アフィニティー精製は、分析の前の精製に最も広く採用されている戦略の 1 つです。その理由は、多くの場合、高純度の抗体サンプルがさらなる分析に必要なためです2。 使いやすい分離媒体としての磁気ビーズにより、複雑な装置を使用する必要なく、精製プロセスが効率化されます2。
現在、磁気分離の分野で、多くの既存の自動プロトコルではいくつかの手動操作ステップが必要なままです3。 完全自動の抗体精製プロトコルにより、スループットが増加し、時間が節約され、バイオ医薬品の分析ワークフローの効率が増加します。
ここでは、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して細胞培養培地からターゲット抗体を分離できる、迅速で完全自動抗体精製プロトコルを紹介します。このプロトコルは、高力価または低力価のサンプルに対応するように簡単に調整でき、必要な濃度の精製された抗体を生成できます。さらに、低力価のサンプルを濃縮して、より高い濃度の精製した抗体を生成することができます。
この迅速プロトコルは、完全に自動化され、再現性があり、頑健で、さらなる分析への高い適応性があります。
アプリケーションのメリット
- Andrew+ を用いた完全自動プロテイン A 磁気ビーズ精製プロトコル
- 迅速精製プロトコル(8 サンプルを 35 分)
- 20 μg ~ 180 μg の抗体ロードおよび培地サンプルの力価 0.2 μg/μL ~ 1.5 μg/μL の範囲での回収率が 75% を超える
はじめに
治療用抗体のプロセス開発、製造、品質管理(QC)において、精製はルーチンで行われます4。 プロテイン A を用いるアフィニティー精製は、プロテイン A の IgG 抗体に対する選択性と高い結合親和性のため、広く使用されている精製戦略です1。 同様に、磁気ビーズは、その使いやすさのため、精製に一般的に使用される媒体です1。 プロテイン A 結合磁気ビーズは、プロテイン A の高い選択性と精製サンプルからのビーズの効果的な除去の利点を兼ね備えています1。
磁気分離メソッドを使用する既存の自動プロトコルでは、96 ウェルプレートへの磁気ビーズの追加、プレートの移送、洗浄および溶出ステップの間のプレートへのバッファーの追加、精製サンプルの新しいプレートへの移送など、いくつかの手動操作ステップが必要です3。
ここでは、Andrew+ ピペッティングロボット(製品番号:176850100)を使用した完全自動抗体精製プロトコルについて説明します。このロボットは、ドミノ、マイクロプレートグラバー(製品番号:186009776)、および 96 PCR Plate Magnet+ (製品番号:186009956)、Microplate Shaker+(製品番号:186009594)などのコネクテッドデバイスを使用し、必要な手動操作による介入は最小限です。Andrew+ の自動化機能により、スループットのニーズに応じてシングルチャンネルまたは 8 チャンネルのピペッティングを使用する、柔軟なサンプル処理が可能になります。
実験方法
サンプルの説明
CHO 細胞を除去し、コンディショニングした細胞培養培地サンプルは、共同研究者より提供いただきました。清浄化されたサンプルは、それ以上遠心分離せずに使用しました。使用したその他の試薬および化学物質は、以下の表に示されています。
分析条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class Bio システム |
検出: |
TUV 検出器、220 nm および 280 nm |
サンプル収集: |
twin.tec PCR プレート 96、スカート付き、緑色、Eppendorf、(製品番号:951020443) |
カラム: |
ACQUITY UPLC Protein BEH SEC、200 Å、1.7 µm、4.6 × 150 mm (製品番号:186005225) |
カラム温度: |
オフ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
ニードル配置: |
5.0 mm(既定値は 2.0 mm) |
注入量: |
2 μL |
流速: |
0.4 mL/分 |
分析時間: |
7 分 |
移動相: |
100 mM 酢酸アンモニウム、pH 5.25(酢酸) |
グラジエント: |
イソクラティック |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 |
装置
磁気ビーズが誤って LC システムに入るのを防ぐため、手順の中で 2 つの調整が図られました。最終サンプル中の望ましくないビーズを完全に捕獲するために、サンプルマネージャーの 96 ウェル PCR プレートの下に磁石(96-Well Deep Bar Magnet プレート、Permagen、製品番号:MSPU650)を配置しました。LC 用に変更したプレートパラメーターが、図 1 に示されています。この変更に対応するために、LC 分析法でのニードルの配置を既定値の 2.0 mm から 5.0 mm に変更しました。
結果および考察
磁気ビーズによる抗体精製の一般原理が、図 2 に示されています5。簡単に説明すると、サンプルをまず結合バッファー中でプロテイン A 結合磁気ビーズと、穏やかに混合しながら一定時間インキュベーションします。次に、不純物を洗い流し、酸性溶出バッファーを用いて結合した抗体をビーズから溶出します。
バイオ医薬品の開発には、迅速な自動抗体精製プロトコルが不可欠
この一般的なプロトコルは比較的単純ですが、いくつかの平衡化/洗浄ステップで構成されており、ルーチンプロトコルの複数サンプルに対する手動での実行により、手間と時間がかかることがあります。当社の完全自動プロトコルを使用することにより、手動介入操作ステップなしで抗体精製を実行でき、サンプルスループットが向上します。自動化実験の間に実行するステップを説明するフロー図が、図 3 に示されています。ここでは、細胞培養培地中のさまざまな力価および抗体ロード量(低 ≤ 50 μg、標準 ≤ 75 μg、高 > 75 μg)に対応する 3 つの手順が示されています。低ロード量プロトコルには、より濃縮されたサンプルが最後に溶出されるための、サンプルを複数回ロードする追加のステップがあります。高力価の精製された抗体サンプルがさらなる分析に必要でない場合は、標準プロトコル(ロード量 50 μg、0.5 mg/mL)も低力価サンプルに使用できます。高ロード量プロトコルでは、標準インキュベーション時間の 5 分ではなく、10 分のより長いインキュベーション時間になります。高力価のサンプルは、必要に応じて結合バッファー(1x PBS、pH 7.4)で希釈してからロードすることもできます。
Andrew+ の自動化機能
磁気分離およびタンパク質精製の分野で、Andrew+ は完全に自動化された効率的なプロトコルを提供します。これに対し、他の磁気ビーズハンドラーは半自動のプロトコルを提供し、これには同様の手順に 1 ~ 5 の手動操作介入ステップが必要です3。
迅速自動抗体精製プロトコルにより、サンプルスループットが向上
ここで紹介する迅速自動プロトコルでは、精製プロセス中に必要な手動操作介入が最小限であり、8 サンプルの合計実行時間は 35 分です。これに対し、他の類似のデバイスでのタンパク質精製に必要な総分析時間は、Promega の同じ種類の磁気ビーズを使用する場合、1 時間 20 分です6。 このため、図 4 に示されているように、コネクテッドデバイスを使用して、Andrew+ によって磁気ビーズによる抗体精製を効率化できます。
抗体精製プロトコルの自動化の開発
自動化の開発には、回収率を最大化するために、ピペッティング設定、チップ位置、ピペッティング手法、シェーカー速度の調整が含まれます。
ピペッティング設定/液体粘度への対応
磁気ビーズが浮遊する 20% エタノール溶液は低粘度で高揮発性であるため、ピペット設定を、標準の吸引および分注の速度より高速の低粘度モードに調整しました。これにより、すべてのウェルに類似の数のビーズが確実に分注されます。別の磁気ビーズサプライヤーを使用する場合は、これらの設定を調整する必要がある場合があります。
細胞培養培地サンプルの場合、高粘度モードを使用して各サンプルをピペッティングするように調整しました。これにより、タンパク質溶液に気泡が混入するおそれがある激しい攪拌を行うことなく、サンプルをゆっくりと吸引・分注することができました。
チップの位置
ピペットチップの位置に関しては、すべての平衡化ステップに[With respect to liquid](液体に合わせる)オプションを使用し、精製前に磁気ビーズが吸引や廃棄されないようにしました。その他のすべてのステップでは[With respect of bottom](ボトムに合わせる)オプションを使用し、溶出の前にすべての結合バッファーが完全に除去されるようにしました。
ピペッティング手法/混合
複数回の吸引を行って、確実にサンプルが完全に混合され、分布するようにしました。ソースでサンプルを数回混合することにより、磁気ビーズの均等な分布が保証されます。磁気ビーズは沈殿しがちであり、個々のウェルに吸引する直前に混合する必要があります。これにより、ピペッティングの反復は避けなければなりません。スラリーの完全な混合を可能にするため、ソースのチューブに 0.5 ~ 1.5 mL の磁気ビーズのスラリーがあるようにすることを推奨します。0.5 ~ 1.5 mL のスラリーの場合、混合量 300 μL を用いて、完全な混合が得られました。
細胞培養培地サンプルも吸引の前に混合する必要があるため、同様のピペット操作手法(移す前にソースで 3 回吸引)を用いました。
シェーカーの速度と時間
結合ステップで必要不可欠なこととして、結合を最大にするため、ビーズを浮遊状態にする必要があり、Microplate Shaker+ を使用してこれを達成します(図 4)。最適な速度と時間はそれぞれ 1,350 rpm および 5 分であることがわかりました。別の磁気ビーズサプライヤーを使用する場合は、サンプルシェーカーの速度と時間を調整する必要があります。ただし、振とうを激し過ぎないようにすることが重要です。サンプルが過剰に泡立つ可能性があります。
抗体の回収率の決定
プロテイン A 精製での抗体の回収率を、コンディショニングした培地とプロテイン A 精製サンプルの両方について測定したモノクローナル抗体モノマーの SEC ピーク面積に基づいて、決定しました。コンディショニングした培地の SEC 分離で、低存在量の宿主細胞タンパク質とモノクローナル抗体の共溶出が発生することがありますが、共溶出が結果に及ぼす影響は最小限で、プロテイン A 精製での抗体の回収率の過小評価につながるのみと考えました。図 5 に、精製前の培地(図 5A、緑色のトレース)、精製後の培地(図 5C、赤色のトレース)、上清(図 5B、オレンジ色のトレース)のサイズ排除クロマトグラムが示されています。上清は、抗体以外の培地中成分で構成されており、抗体が磁気ビーズ上のプロテイン A に結合した後に残っている溶液です。
% 回収率 = 100 *(調整済み面積精製済み/面積プロテイン A ロード)
調整済み面積精製済み# = 面積精製済み*(総量精製済み)/(総量プロテイン A ロード)
#溶出タンパク質のピーク面積(面積精製済み)は、2 番目の式に示すように調整しました。その理由は、タンパク質の溶出量(総量精製済み)が 120 μL であるのに対し、ロードしたタンパク質の量(総容量プロテイン A ロード)はわずか 100 μL であるためです。
再現性のある頑健な迅速自動抗体精製プロトコル
迅速自動プロトコルを使用して、Andrew+ により、力価が約 0.75 mg/mL 以下のサンプルについて、一般に 75 % を超える高い抗体の回収率を、信頼できる再現性(%RSD ≤ 10 %)で達成できます。手動で実行した手順および自動化した手順では、図 6 に示されているように同等の回収率が得られました。
自動化したプロトコルの頑健性は、キャプチャーステップで使用するプロテイン A 磁気ビーズの量(図 7A)と溶出バッファーの pH(図 7B)を変えることによって、実証されました。磁気ビーズを使用するには、均質なスラリーからビーズをピペッティングする必要があります。使用するビーズの数が抗体の回収率に及ぼす影響を評価するため、使用するスラリーの標準量(50 μL)を ± 10% だけ変動させました。変動によるこれらの実験では、依然として良好な抗体回収率が得られました(> 50%、図 7A)。
抗体回収率に大きな影響を与える可能性のあるもう 1 つの変数は、溶離バッファーの pH です。当社の標準プロトコルでは、pH 2.5 のグリシン塩酸塩(0.2 M)を溶離バッファーとして使用します。頑健性をテストするために、pH 範囲 2 ~ 4 の溶出バッファーを溶出に使用しました(図 7B)。溶離バッファーの pH が 2 ~ 3 の場合、回収率は影響を受けませんでした。ただし、pH 4 の溶離バッファーでは低い回収率が観察されました。これにより、この精製メソッドは pH 2 ~ 3 の範囲で頑健です。
低力価サンプルと高力価サンプルの両方に使用できる迅速自動プロトコル
低力価(≤ 50 μg)のサンプルの場合、複数回ロードすることによって、高度に濃縮した精製抗体を得ることができます。力価 0.6 μg/μL(計 180 μg)の細胞培養培地 100 μL を 3 回ロード(各 5 分間)し(各ロードの間に洗浄ステップを入れる)、培地サンプルの単回のロードと同等の抗体回収率(80%)が得られました(図 8)。
標準インキュベーション時間 5 分は低力価サンプルには十分でしたが、高力価(> 75 μg)のサンプルでは、高い回収率を得るために、インキュベーション時間を 10 分に延ばす必要がありました。培地のロード量 150 μg のサンプルの精製では、5 分間のインキュベーションで回収率 65% でした。インキュベーション時間を 5 分から 10 分に延ばすことにより、図 8 に示されているように、収量が 65% から 87% に増加しました。代替として、高力価のサンプルは、ロードする前に結合バッファーで希釈することもできます。
結論
迅速抗体精製プロトコルは再現性があり、頑健で、細胞培養培地から高収量(75% 以上の回収)で抗体を抽出できます。このプロトコルは完全に自動化されており、手動操作介入は不要で、スループットが向上します。このプロトコルは、高力価サンプルと低力価サンプルの両方に対して簡単に調整でき、必要な濃度の精製抗体が得られます。さらに、低力価サンプルを濃縮して、より高い濃度の精製抗体を得ることができます。
参考文献
- Choe, W.; Durgannavar, T. A.; Chung, S. J. Fc-Binding Ligands of Immunoglobulin G: An Overview of High Affinity Proteins and Peptides.Materials 2016, 9, 994.
- Brechmann, N. A.; Eriksson, P.; Eriksson, K.; Oscarsson, S.; Buijs, J.; Shokri, A.; Hjalm, G.; Chotteau, V. Pilot-Scale Process for Magnetic Bead Purification of Antibodies Directly From Non-Clarified CHO Cell Culture.Biotechnol.Prog.2019 Jan, 35(3), 1–10.
- Kuhn, E.; Fabbami, L.; Heuvel, Z. V. D.; Murphy, S.; Jaffe, J. D.; Carr, S. A. Automation of the Multiplexed Peptide Immune-MRM-MS Workflow on Bravo AssayMAP Platform.Broad Institute, Cambridge, MA; Agilent Technologies, Santa Clara, CA.
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謝辞
細胞培養培地を惜しみなく供給していただいた共同研究者に感謝いたします。
720007343JA、2021 年 8 月