ProteinWorks™ Auto-eXpress 消化キットおよび Xevo™ TQ-XS を使用した、ルーチン分析でゼラチン分子種を検証するための完全なソリューション
要約
さまざまな動物に由来するゼラチンは、多くの食品、医薬品、化粧品の成分として広く使用されています。ゼラチン分子種の検証は、健康上および宗教上の理由からますます重要になっています。例えば、最も広く使用されているブタゼラチンは、イスラム教で厳格に禁じられている非ハラル成分です。本研究では、簡潔で迅速なサンプル前処理とルーチン分析に適した頑健な LC-MS/MS 分析法で構成される、ゼラチン分子種の検証用の完全なソリューションを開発しました。このワークフローには、ProteinWorks Auto-eXpress 消化キットを使用したサンプル前処理メソッドが含まれています。これはすぐに使用できるキットであり、これを使用することで、サンプル消化プロトコルを 3 時間以内に完了でき、サンプル前処理、装置への注入、結果の取得を同じ日に行うことができます。マーカーの分離は、ACQUITY™ Premier カラムを搭載した ACQUITY UPLC™ I-Class と Xevo TQ-XS タンデム質量分析計の組み合わせで行い、非常に高い感度が得られました。
アプリケーションのメリット
- ProteinWorks Auto-eXpress 消化キットを使用した、3 時間以内での簡潔で迅速なサンプル前処理プロトコル
- ゼラチンが含まれている食品サンプル中の複数の分子種を、単一の液体クロマトグラフィー質量分析(LCMS)メソッドで検出可能
- 各ペプチドマーカーに複数の MRM トランジションを使用して、分子種の同定の信頼性を向上
はじめに
ゼラチンは、動物の皮、皮膚、骨から抽出したコラーゲンの部分的加水分解によって得られるポリペプチドの混合物です1。ゼラチンは、そのゲル化特性および低価格により、食品、医薬品、化粧品の成分として幅広く使用されています1,2。 市販のゼラチンの主要な供給源はウシおよびブタのゼラチンに由来しますが、魚および家禽など他の新しく発生したゼラチン供給源もあります3。
製品中のゼラチンの供給源は、健康や宗教などのさまざまな理由から大きな関心事になっています。例えば、ブタ派生物が含まれている製品は非ハラルと見なされ、イスラム教では禁じられています4。このため、ゼラチン分子種の検証は、イスラム社会で使用される製品が彼らのそれぞれの国のハラル規制に適合することを保証するために重要です。
最近では、LCMS ベースの分析法が、感度と選択性の高さのために、ゼラチンの検証で好評です5。この手法では一般に、ゼラチンサンプルのトリプシン消化によって得られる動物種固有のペプチドマーカーが検出されます。適切に実施すると、1 回の分析で複数の分子種を同時に検出できます。ただし、この手法で直面する課題の 1 つは、サンプル前処理ステップでの一晩かかる長時間のトリプシン消化です。ProteinWorks Auto-eXpress 消化キットを使用する場合、RapiGest™ SF 界面活性剤により、トリプシン消化の速度と完全性が向上し、サンプル前処理プロトコルが 3 時間に大幅に短縮されます。これにより、生産性が大きく向上し、実験当日に結果が得られます。
当社の以前の研究で、ウシおよびブタのゼラチンの動物種固有のペプチドマーカーを同定するためのプロテオミクス探索ワークフローが実証されました6。このアプリケーションノートはその続きであり、ゼラチン食品サンプルに含まれるウシおよびブタの動物種固有のペプチドマーカーのルーチン分析向けに、頑健な LC-MS/MS 分析法が開発されました。
実験方法
2 種類の市販のウシおよびブタ由来の真正ゼラチンレファレンス標準試料(Sigma Aldrich)および 8 種類のキャンディーサンプルを、50 mM 炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)で前処理しました。これに続き、図 1 に示されているように、ProteinWorks Auto-eXpress Low 3 消化キット(製品番号:176004077)を使用する 3 ステップのプロトコルを実施しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS システム |
カラム: |
ACQUITY Premier UPLC HSS T3 カラム、1.8 µm、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186009468) |
カラム温度: |
40 ℃ |
注入量: |
2 µL |
流速: |
0.40 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI (+) |
キャピラリー電圧: |
1 kV |
イオン源温度: |
130 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
ネブライザーガス流量: |
7.0 bar |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx™ v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
TargetLynx™ v4.2 |
MRM トランジション
データは、MRM トランジションモードを使用して収集しました。以下の表 1 に示されているように、各ペプチドマーカーに対して 4 ~ 5 つの MRM トランジションを選択しました。
結果および考察
このサンプル前処理メソッドの主な利点は、サンプル前処理から反応停止ステップまで、このプロセス全体を 3 時間以内に完了できることです。変性ステップで MS に適した陰イオン性界面活性剤である RapiGest SF を用いることは、トリプシン消化の速度を加速するのに役立ちます。一晩にわたる消化が必要な他のプロトコルと異なり、これによって同日でのサンプル前処理、注入、データ解析が可能になり、迅速なルーチンの分析に適しています。
以前の探索研究6 でさらに試験が行われており、LCMS 分析の分析法が確立されました。計 9 種類のペプチドマーカー(ウシのマーカー 5 種とブタのマーカー 4 種)を選択しました。そのすべてのペプチドマーカーに対して、4 ~ 5 の MRM トランジションが確認イオンとして選択され、検出法の頑健性と信頼性が強化されました。
ペプチドマーカーを検出するには、シグナル対ノイズ比が最低 3 の MRM トランジションが少なくとも 3 つ存在する必要があり、動物種の割り当てには、少なくとも 2 つのペプチドマーカーが存在する必要があります7。
確立された分析法を用いてゼラチンが含まれている 8 種類の市販のキャンディーのサンプルを分析して得られた結果は、表 2 にまとめられています。
サンプルの 1 つであるキャンディー 1 には、製品ラベルにハラール認証済みと表示されています。LC-MS/MS 分析で得られたクロマトグラムは、図 2 に示されているように、サンプル中にブタマーカーが検出されなかったため、製品ラベルと一致しています。別のサンプルであるキャンディー 5 は非ハラール製品であり、使用されているゼラチンはブタ由来です。キャンディー 5 のクロマトグラム(図 3)では、4 種類のブタマーカーが検出されており、製品ラベルと一致しています。
(a)2 つのウシマーカー(GETGPAGPAGPIGPVGAR および IGQPGAVGPAGIR)と
(b)2 つのブタマーカー(GlpGEFGLpGPAGPR および SGDRGETGPAGPAGPVGPVGAR)のものです。2 つのブタマーカー(存在しない)の予想保持時間は水色のボックスで強調表示されています。
(a)2 つのウシマーカー(GETGPAGPAGPIGPVGAR および IGQPGAVGPAGIR)と
(b)2 つのブタマーカー(GlpGEFGLpGPAGPR および SGDRGETGPAGPAGPVGPVGAR)のものです。2 つのウシマーカー(存在しない)の予想保持時間は水色のボックスで強調表示されています。
ブタゼラチン標準試料をウシゼラチン標準試料にスパイクして、ブタゼラチンの混入をシミュレーションしました。図 4 に、ウシゼラチンにスパイクした 1% ブタゼラチンと、スパイクされていないウシゼラチンのクロマトグラムが示されています。確立された分析法を Xevo TQ-XS で使用することで、この濃度のブタマーカーを簡単に検出できることが明確に示されています。
(a)1% ブタゼラチンをスパイクしたウシゼラチン、および
(b)スパイクしていないウシゼラチンの 4 種類のブタマーカーのクロマトグラム
結論
本研究では、キャンディーなどのゼラチンが含まれている食品のルーチン分析に適した LC-MS/MS を使用した、サンプル前処理からペプチドマーカー分離までの、ゼラチン分子種の検証用の完全なソリューションを実証します。確立された分析法により、1% 不純物をスパイクしたゼラチンの由来動物種(ウシまたはブタ)を検出できます。ProteinWorks Auto-eXpress 消化キットにより、3 時間以内に完了できる簡潔で迅速な消化プロトコルが可能になります。このキットベースのアプローチにより、ルーチンテスト設定での分析法移管も容易になります。
参考文献
- Guo S, Xu X, Zhou X and Huang Y. A rapid and simple UPLC-MS/MS method using collagen marker peptides for identification or porcine gelatin.RSC Adv. (2018), 8: 3768–3773.
- Shabani H, Mehdizadeh M, Mousavi S M, Dezfouli E A, Solgi T, Khodaverdi M, Rabiei M, Rastegar H and Alebouyeh M. Halal authenticity of gelatin using species-specific PCR.Food Chem. (2015), 184: 203–206.
- Uddin SMK et al.Halal and Kosher Gelatin: Applications as Well as Detection Approaches with Challenges and Prospects.Food Bioscience (2021) 41:101422.
- Nhari R M H R, Ismail A, and Man Y B C. Analytical Methods for Gelatin Differentiation from Bovine and Porcine Origins and Food Products.J. Food Sci.(2012), 71(1): R42–46.
- Deng G et al. Recent Advances in Animal Origin Identification of Gelatin-Based Products Using Liquid Chromatography-Mass Spectrometry Methods: A mini review. Reviews in Analytical Chemistry (2020) 39:260–271.
- Chantel Lee, Li Yan Chan, A Complete Discovery Workflow for Species-Specific Gelatin Identification, Waters Appliaction Note, 720007533, 2022.
- Song E, Gao Y, Wu C, Shi T, Nie S, Fillmore T L, Schepmoes A A, Gritsenko M A, Qian W, Smith R D, Rodland K D, Liu T. Targeted Proteomic Assays For Quantitation of Proteins Identified by Proteogenomic Analysis of Ovarian Cancer.Sci.Data (2017), 1–13.
720007667JA、2022 年 7 月