親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)に紫外線(UV)検出および質量分析(MS)検出を組み合わせたメトホルミンおよびその不純物の分析
要約
糖尿病は米国における主要な死亡原因であり、糖尿病の管理に用いられる医薬品は社会にとって重要です。メトホルミンは糖尿病(特に 2 型糖尿病)の第一選択薬です。この試験では、HILIC に MS 検出および UV 検出を組み合わせることで、極性薬物であるメトホルミンおよびその関連不純物の保持、分離、同定が可能になりました。この分析法は、原薬中のメトホルミンの定量において、直線性があり、再現性があることが示されています。さらに、複数の固定相のロットを試験することで、再現性の高い結果が得られることが実証されました。
アプリケーションのメリット
- メトホルミンおよび関連不純物の保持および分離が可能な、単一の迅速な分析法
- MS に適合する分析法により、発色団のない不純物の効果的な同定および検出が可能に
- 正確で精密な直線性により、メトホルミン原薬の定量法が実現
はじめに
CDC によれば、3,730 万人のアメリカ人が糖尿病を患っており、現在、米国では死亡原因の第 7 位を占めています1。 3,730 万人の 90% が 2 型糖尿病を患っています。メトホルミンは、2 型糖尿病の初期治療薬として一般的に推奨されています2。 2 型糖尿病の罹患率と重症度が増大していることから、メトホルミンを製造している製薬企業は、品質管理検査のための有効な方法を使用することが必要になっています。今回、HILIC に MS 検出および UV 検出を組み合わせて使用する、メトホルミンおよびその不純物の保持、分離、同定のための迅速で信頼性の高い分析法を開発しました。
HILIC は、従来の逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)とは逆方向に作用する3、極性化合物の保持および分離に理想的な手法です4。この分析法では Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC カラムを使用しました。Z-HILIC(双性イオン HILIC)とは、カラム内に充塡したエチレン架橋ハイブリッド粒子に付加されたスルホベタイン官能基を指します。この官能基により、粒子表面に密な水分の多い層が生じ、HILIC の有機水系分配メカニズムとの組み合わせにより、メトホルミンおよびその不純物が保持され、分離されます。
この試験では、MS 検出および UV 検出に HILIC を組み合わせることで、極性薬物であるメトホルミンおよびその関連不純物の保持、分離、同定が可能になっています。この分析法は、薬物サンプル中のメトホルミンの定量において、直線性があり、再現性があることが示されています。さらに、複数の固定相のロットを試験することで、再現性の高い結果が得られることが実証されました。
実験方法
サンプルの分離法の説明
メトホルミン塩酸塩、不純物 A(シアノグアニジン)、不純物 C(N,N-ジメチル-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン)、不純物 D(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)、不純物 E(1-メチルビグアナイド一塩酸塩)、不純物 F(ジメチルアミン塩酸塩)は Sigma Aldrich(米国ワイオミング州ミルウォーキー)から購入しました。不純物 B((4,6-ジアミノ-1,3,5-トリアジン-2-イル)グアニジン二塩酸塩)は Toronto Research Chemicals(カナダ、トロント)から購入しました。それぞれの標準ストック溶液を 80:20 アセトニトリル:脱イオン水中に調製しました。続いて、80:20 アセトニトリル:脱イオン水を使用して、不純物とメトホルミンの濃度がそれぞれ 10 µg/mL および 100 µg/mL になるように標準ストック溶液を混合しました。溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存し、室温に平衡化させてから分析を行いました。
直線性サンプルの説明
メトホルミン塩酸塩のストック溶液は、80% アセトニトリル中に濃度 1 mg/mL になるように調製しました。続いて、80:20 アセトニトリル:脱イオン水を用いてストック溶液を希釈し、50 µg/mL ~ 150 µg/mL のさまざまなキャリブレーションスタンダードを調製しました。
メトホルミン錠剤(500 mg)は、外部のベンダーから入手しました。薬物錠剤は、錠剤 5 錠を計量し、メトホルミン含量と錠剤質量の比率を設定して調製しました。続いて、乳鉢と乳棒を用いて錠剤を粉砕しました。粉砕した錠剤を計量し、希釈して、希釈液と薬物サンプルの濃度がそれぞれ 80% アセトニトリルおよび 100 µg/mL になるようにしました。分析前に、100 µg/mL の薬物サンプルを 13 mm の 0.2 µm ナイロンシリンジフィルターを用いてろ過しました。
分析条件
この分析法では 2 台の検出器を使用しました。流路は、液体が非破壊的な UV 検出器を通過してから、破壊的な MS 検出器に流入するように配置しました。さらに、ダイバートバルブを使用しました。ダイバートバルブにより、メトホルミンのピークが溶出すると、UV から廃液に流れるように流路が変わります。メトホルミンの方が不純物よりも濃度が高いため、この仕組みにより QDa™ の過飽和が防げます。
LC 条件
LC システム: |
Arc™ Premier LC システム |
検出: |
Waters 2998 フォトダイオードアレイ検出器、240 nm Waters ACQUITY QDa 質量検出器 |
カラム: |
Atlantis Premier BEH Z-HILIC、4.6 × 100 mm、2.5 µm |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.4 mL/分 |
移動相 A: |
10 mM ギ酸アンモニウムおよび 0.1% ギ酸を含む 90:10 アセトニトリル:脱イオン水 |
移動相 B: |
10 mM ギ酸アンモニウムおよび 0.1% ギ酸を含む脱イオン水 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Waters ACQUITY QDa 質量検出器 |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込み範囲: |
40 amu ~ 300 amu |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
15 V |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Waters Empower™ 3 ソフトウェア |
結果および考察
この分析法は、メトホルミンとその関連不純物に対する特異性および保持において優れた再現性を示しました。
6 回の注入にわたって、分析種の面積の %RSD は 6% 以下で、保持時間の %RSD は 1% 以下でした(表 1 および表 2)。ブランク注入により、希釈液とスタンダードのピークの間に妨害ピークがないことが実証されます(図 1a)。重ね描きクロマトグラムにより、この分析法の再現性が明らかです(図 1b)。
この試験中にマススペクトルデータも収集しました。マススペクトルデータは、UV で見られた不純物の同定に役立ち、不純物 F も見えます(図 2A および図 2B)。装置のセットアップのため、MS 検出では、UV での保持時間と比較してわずかな遅延が見られます。
図 2B. TIC でのそれぞれの検出質量の抽出イオンクロマトグラム(XIC)(図 2A)。
図 2C. それぞれのピークのマススペクトルベースピーク(m/z)(図 2B)。これらの質量を不純物の同定に用いました。不純物 F を除くすべての質量は、それぞれの不純物に対応する報告済みのプリカーサー質量です。
図 2C に示す質量は PubChem データベースで検索されたデータにより裏付けられています(表 3)5-10。
*溶液中での塩酸塩の溶解度を考慮しています。
**以前に取り込まれたマススペクトルデータを考慮しています。
メトホルミンについて収集された直線性のデータにより、開発した分析法が定量目的に適していることが実証されました(図 3 および図 4)。
メトホルミンの曲線の R2 値は 0.999 以上でした。上記の曲線を使用して、メトホルミン塩酸塩のジェネリック医薬品のサンプルを定量しました(図4C)。
サンプルは、溶解した薬物賦形剤によるシステム汚染を防止するため、ナイロンシリンジフィルターを用いてろ過しました。メトホルミンがフィルターによって失われていないことを確認するため、フィルターから回収したサンプルを分析しました(図 4A および図 4B)。メトホルミンの薬物サンプルを、医薬品賦形剤による干渉なしに定量できました(図 4C)。
図 4B. ろ過後の 100 µg/mL のメトホルミンのクロマトグラム(定量値は 97.9 µg/mL)。これにより、ナイロンシリンジフィルター中でメトホルミンが失われていないという確信が得られます。
図 4C. 濃度 100 µg/mL に調製したメトホルミンサンプルのクロマトグラム。メトホルミンのピークに干渉は見られず、定量値は 86.42 µg/mL でした。注:この分析法では、サンプル前処理は最適化されていません。
さらに、既知の不純物を濃度約 10 µg/mL になるようにサンプルにスパイクしました(図 5)。
この分析法は、メトホルミン定量の解決策になると同時に、薬物サンプル中のあらゆる不純物を可視化できます。
カラムの再現性
この分析法の作成に加え、新しい Waters Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラム固定相のロット間再現性を試験しました。それぞれのカラムを、上述の開始条件で 1 時間平衡化しました。次に、メトホルミンおよび不純物スタンダードをそれぞれのカラムで分析しました(注入回数 n = 3)。2 回目の注入の面積カウントおよび保持時間を以下に示します(表 4 および 5)。
これらの結果は、各カラム性能の積み重ねたクロマトグラムでより明確に表されます(図 6)。3 種類の吸着剤のロットにわたってピークが一列に並んでおり、Waters Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用する際の信頼性をもたらしています。
結論
この試験では、Waters Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムに MS 検出および UV 検出を組み合わせることで、メトホルミンおよび類縁物質が正常に分離、保持、同定できることが示されました。Waters Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムの製造の一貫性が高いことが示されました。さらに、この分析法を使用することで、原薬中のメトホルミンが正確に定量できます。今回、製薬業界においてメトホルミン原薬の品質管理の支援に使用できる分析法を提供しました。
参考文献
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- Walter T, Berthelette K, Patel A, Alden B, McLaughlin J, Field J, Lawrence N, Shiner S.I ntroducing Atlantis BEH Z-HILIC: A Zwitterionic Stationary Phase Based on Hybrid Organic/Inorganic Particles, Waters Application Note, 2021, 720007311.
- Clements B, Maziarz M, Rainville P. Method for the Analysis and Quantitation of Pharmaceutical Counterions Utilizing Hydrophilic Interaction Liquid Chromatography.Waters Application Note, 2022, 720007564.
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720007633JA、2022 年 5 月