食品中の高極性陰イオン性農薬を測定するための LC-MS/MS 分析法の性能評価
要約
ウォーターズでは、さまざまな食品中の陰イオン性極性農薬を測定するための LC-MS/MS 分析法を以前に開発しました。この分析法は、シュトゥットガルトの EURL の残留農薬一斉分析法(SRM)により確立された迅速極性農薬メソッド(QuPPe)を使用した抽出、および陰イオン性極性農薬カラムと LC-MS/MS との組み合わせに基づいています。このアプリケーションブリーフでは、ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムおよび Xevo TQ-S micro タンデム四重極型質量分析計を使用した、複数の食料品を対象として行った迅速極性農薬メソッドの性能評価について紹介します。4 種類の食料品群(キュウリ、コメ、大豆、牛乳)を代表するサンプルに、アミノメチルホスホン酸(AMPA)、エテホン、3-メチルホスフィニコプロピオン酸(MPPA)、N-アセチルグルホシネート(NAG)、N-アセチルグリホサート、ホセチルアルミニウム、グルホシネート、グリホサート、2-ヒドロキシエチルホスホン酸(HEPA)を 3 濃度でスパイクしました。内部標準を使用した分析法の真度と再現性(RSDr)は、4 つの食料品すべてにおいてそれぞれ 78 ~ 92% と 0.40 ~ 6.4% の範囲内と判定されました。これにより、例えば食料品事業の適切な管理などにおける MRL 基準に対するコンプライアンスチェックや、より低濃度レベルでのスクリーニングに、この分析法が適していることが実証されました。
アプリケーションのメリット
- クロマトグラフィー分析法では、優れたピーク形状の完全性が得られ、主要な分析種の分離が維持され、誘導体化やイオン対試薬に頼らずに保持を実現
- この評価で実証された分析法の性能により、正規の管理と適性評価試験の両方における適合性について、ユーザーにエビデンスを提供可能に
- お客様の成功を保証するための当社の成果ベースのサポートモデルを利用して、導入を世界中でサポート
はじめに
定量的多成分残留物分析法(QuEChERS など)を使用することで、さまざまな食料品中の何百もの低濃度の化合物を測定できます。極性が高いイオン性農薬およびその代謝物の中には、一般的な多成分残留物分析法を用いることができないものもあります。このような場合は通常、一連の選択的単一残留物分析法で対処しており、多大なコストがかかっていました。迅速極性農薬(QuPPe)メソッドを使用することで、一般的な多成分残留分析法を用いることができない高極性農薬についての食品分析が可能になります1。 ウォーターズでは、エチレン架橋型ハイブリッド(BEH)粒子とトリファンクショナル結合ジエチルアミン(DEA)リガンドで構成される Waters 陰イオン性極性農薬(APP)カラムを使用して、QuPPe をクロマトグラフィー分析法とうまく組み合わせて使用する方法において高い性能を示す結果を発表しました。親水性表面とリガンドの陰イオン交換特性の組み合わせにより、これらの非常に極性の高い陰イオン性化合物の保持と分離に適したクロマトグラフィー特性が得られます2,3。
EU 残留農薬基準研究所の残留物一斉分析法ラボでは最近、一部の食品中の高極性陰イオン性農薬の定量のための QuPPe アプローチを更にバリデーションするために、ラボ間試験を実施しました4。 分析の範囲には AMPA、エテホン、MPPA、N-アセチルグルホシネート(NAG)、N-アセチルグリホサート、シアヌル酸、ホセチルアルミニウム、グルホシネート、グリホサート、HEPA、マレイン酸ヒドラジドを含めました。また、内部標準として安定同位体アナログを用いました。ウォーターズでは、4 種類の食料品群(キュウリ、コメ、大豆、牛乳)を代表して調製したバッチを、シアヌル酸とマレイン酸ヒドラジド以外のすべての分析種について、この機会に APP カラムメソッド B を改変したものを使用して再分析を行いました5。この分析は、Xevo TQ-S micro MS/MS システムに接続した FTN サンプルマネージャー搭載 ACQUITY UPLC H-Class PLUS を使用して行いました。分析法の性能評価の結果を、ここに報告します。
結果および考察
クロマトグラフィー
この分析法により、これらの高極性化合物について優れたクロマトグラフィー分離と保持が得られます。すべての分析種のピーク形状と保持時間を 4 日間にわたって分析した結果、すべての食料品について安定していることが示されました。
感度
対象の各化合物が示した相対レスポンスから、EURL から提供された標準溶液には、キャリブレーション溶液とスパイク溶液のいずれにおいても、様々な濃度の分析種が含まれていることが分かりました。キュウリとコメ(10 g)のサンプル重量は大豆と牛乳(5 g)の重量とは異なるため、食料品による濃度の違いもありました(表 1)。図 1 および図 2 には、すべて非常に極性の高い陰イオン性の農薬および代謝物について、例としてコメおよび牛乳中の最低濃度でのスパイクを分析した代表的なクロマトグラムを示します。結果からは、この分析法により、抽出物中のこれらの非常に低濃度の分析種を検出できること、つまり LC-MS/MS の前に最終抽出物を更に希釈できることが示されています。例外は AMPA で、大豆抽出物が存在する場合にはレスポンスが大幅に抑制されていたため、スパイクサンプルでの測定が確実に行えませんでした。現在、グリホサートの EU MRL 残留物の定義には代謝物 AMPA が含まれていないため、これは重大な問題ではありません。また、将来更新されるとしても、大豆中のグリホサートの MRL(20 mg/kg)は、今回評価した濃度よりもはるかに高い値となっています。一つの可能な解決策としては、分析前に抽出物を更に希釈することが考えられます。
選択性、同定、キャリブレーションの基準
4 種類の食料品のバッチごとにブランクサンプルを調製し、分析しました。適合しないサンプルの偽陽性の報告をもたらす可能性のある抽出物では、シグナルは検出されませんでした。一部の化合物は微量レベルで検出されましたが、その濃度は最も低濃度の標準試料よりはるかに低いと推定されました。各分析種の 2 つのトランジションにより、標準試料と比較して、推奨されている SANTE 許容範囲内のイオン比と保持時間のピークが得られました6。 安定同位体アナログを内部標準として使用して、各分析種の 5 点検量線をマトリックス抽出物中に調製し、毎日取り込みました。1/x 重み付け線形回帰を適用すると、キャリブレーショングラフから得られた測定の相関係数(R2)はすべて 0.99 を超えており、個々の残差はすべて 20% 未満(ほとんどがこれよりはるかに低い値)で、信頼性の高い定量であることが実証されました。コメでの代表的な検量線の一部の例を図 3 に示します。
真度と再現性
適切な内部標準を用いて調整した後の回収率の測定値によって表した真度を、4 つの食料品のスパイクサンプルの分析データを用いて評価しました。3 濃度の 5 つのスパイクサンプルの各セットを 3 名の分析者によって 4 日間にわたって調製および分析したところ、実測平均回収率は 78 ~ 92% の範囲内であり、SANTE ガイドラインで定められている基準を満たしていました。 分析法の再現性(RSDr)も、4 種類の食料品すべてにわたり、3 濃度において、すべての分析種について優れていました(0.40 ~ 6.4%)。各スパイクレベルについての真度と再現性のデータを、表 2、表 3 および図 4 に示します。牛乳中からの回収率は、他の食料品よりも一貫して低く(平均 80%)、牛乳中の一部の化合物の再現性の値が最も低いスパイクレベルで増加していましたが、これらのパラメーターの値は依然として許容範囲内であり、SANTE ガイドラインで定められた基準の範囲内でした。評価したその他の性能パラメーターのサマリーを表 4 に示します。
結論
評価実験の結果から、QuPPe メソッド、Waters 陰イオン性極性農薬(APP)カラムを用いたクロマトグラフィー、および Xevo TQ-S micro での測定を組み合わせて使用したこの分析法は、さまざまな一連の高極性陰イオン性農薬およびその代謝物を測定するための、高感度で信頼性の高い方法であることが示されました。この分析法により、一般的な MRL を大幅に下回る濃度でも、迅速で信頼性の高い定量を行うことができ、キュウリ、コメ、大豆、牛乳において SANTE ガイドラインに従って適切に評価が行え、満足の行く結果が得られました。この手順は、適切なバリデーション後に他の食料品にも適用できます。この費用対効果の高い分析法は、ラボで手軽にルーチンで実施できます。今回の評価により、この分析法が MRL への適合性を確認するのに適していることが分かりました。また、食品事業者の適性評価試験などで、更に低い濃度でスクリーニングできる可能性があります。
謝辞
Chemisches und Veterinä runtersuchungsamt (CVUA) Stuttgart の残留農薬一斉分析法を担当する EURL の Michelangelo Anastassiades 氏およびスタッフに感謝いたします。
参考文献
- Anastassiades, M et al. Quick Method for the Analysis of Numerous Highly Polar Pesticides in Food Involving Extraction with Acidified Methanol and LC-MS/MS Measurement.2021. Food of Plant Origin (QuPPe-PO-Method v12).
- Determination of Anionic Polar Pesticides in High Water Foodstuffs.2019. Waters Application Note 720006645EN.
- Evaluation of the Performance of an LC-MS/MS Method for the Determination of Anionic Polar Pesticide Residues in Crops and Foodstuffs using an Interlaboratory Study.2021. Waters Application Note 720007154EN.
- https://www.eurl-pesticides.eu/userfiles/file/EurlFV/Joint2021/Wachtler-Zipper.pdf.
- Method Startup Guide for Anionic Polar Pesticide Column.2019. Waters Start up Guide 720006689EN.
- Document No.SANTE/12682/2019.Guidance Document on Analytical Quality, Control, and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed.2019.
720007505JA、2022 年 1月