• アプリケーションノート

VanGuard™ の完全統合テクノロジー(FIT)カラムプロテクションによるカラム寿命の延長

VanGuard™ の完全統合テクノロジー(FIT)カラムプロテクションによるカラム寿命の延長

  • Kenneth D. Berthelette
  • Bonnie A. Alden
  • Donna Osterman
  • Maureen DeLoffi
  • Jonathan E. Turner
  • Waters Corporation

要約

マトリックス中に存在する化合物の分析は、食品・環境検査、バイオアナリシス、法医学、メタボロミクス、製薬を含みますがこれらに限定されない多くの業界で一般に行われるワークフローです。配合製品に充塡剤や結合剤などの添加剤が存在すると、わずか数回の繰り返し注入後に分析用液体クロマトグラフィー(LC)カラムが汚染され、クロマトグラフィーの結果が不良になり、場合によってはアッセイが失敗することがあります。適切なサンプル前処理を行うことでカラム寿命が長くなりますが、すべてのアッセイに固相抽出(SPE)やサンプルろ過などの手法が使用できるわけではありません。サンプル前処理以外でカラムの寿命を延ばす一般的な方法として、定期的に交換できるガードカラムまたはガードカートリッジの使用があります。ガードデバイスは、化学成分や粒子成分が分析カラムに到達して損傷を与える前に捕捉するように設計されています。この研究では、標準のガードされていないカラム構成を、スパイク済み乳児用調製粉乳の分析のための VanGuard の完全統合テクノロジーまたは FIT カラム構成と比較しました。VanGuard FIT カラムの構成では、カートリッジを定期的に交換することで、カラム寿命が長くなりました。

アプリケーションのメリット

  • VanGuard FIT カラムの使用によりカラム寿命を延長
  • FIT カートリッジをルーチンに交換することで、標準溶液でのカラムの性能を維持
  • 従来のガードカラムやホルダーと比較して、VanGuard FIT カラムでは使いやすさが向上

はじめに

カラムの汚れは、カラム寿命の短縮、分析結果の不良、生産性低下の一般的な原因です。汚染の多くは、充塡剤などの添加剤やリン脂質などの内因性化合物など、マトリックス成分が原因で発生し、溶液から析出したり、分析カラムのフリットやポアの内部に詰まったりする可能性があります。分析によっては、適切なサンプル前処理または適切な分析方法の開発により、これらの成分を除去することができます。潜在的に有害な成分を除去するためのサンプル前処理の最も一般的な手法として、固相抽出またはろ過が挙げられます。一方、一部のアッセイでは、サンプル前処理によりばらつきが生じたり、分析する必要のある重要な化合物が除去されたりするため、サンプル前処理が適さない場合があります。このような場合、ガードカラムやガードカートリッジを使用して分析カラムを保護することは、時間が経過してもカラムの性能を適切に保つための賢明な対策です。

ガードデバイスは通常短く(<20 mm)、LC システムの分析カラムの上流に取り付けるカラムまたはカートリッジです。このカラムまたはカートリッジが、マトリックス化合物と最初に触れ、ルーチン検査時に最初に汚染されます。ガードカラムは、分析カラムとは異なり、汚れると交換できるように設計されています。ガードカラムまたはカートリッジを定期的に交換することで、問題のある可能性のあるマトリックス成分から分析カラムが保護され、カラム寿命が延びます1–2。さらに、ガードカートリッジとガードカラムは一般的に分析カラムよりも安価であるため、これらを交換する方がコスト面で優れています。MaxPeak™ Premier VanGuard FIT カラム構成では、ガードカラムの使用上において、より新しく使いやすいアプローチが導入されています。VanGuard FIT カラムは、カラムのインレットに完全に統合されたガードカートリッジを備えています。VanGuard FIT カラムにより、一体型設計を採用した従来のガードデバイスと同じレベルの分析カラムの保護が得られます。この研究では、分析種をスパイクした懸濁マトリックスサンプルの分析に VanGuard FIT カラムを使用した場合の効果について説明します。

実験方法

サンプルの説明

試験用に 2 つのサンプルを作成しました。1 つ目は、2-アセチルフラン、アセトアニリド、アセトフェノン、プロピオフェノン、ブチルパラベン、バレロフェノンの標準混合液で、10:90 アセトニトリル:水中に各 4 µg/mL の濃度で作成しました。この混合液を使用して、マトリックスが存在しない環境でのカラム効率を測定しました。チャレンジサンプルは、上記の混合液 75 mL と、指示に従って調製した 250 µL の市販の乳児用調製粉乳を組み合わせて作成しました。

分析条件

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ UPLC™ I-Class PLUS(バイナリーソルベントマネージャー(BSM)、

サンプルマネージャー-固定ループ(SM-FL)、および PDA 検出器搭載)

検出:

UV @ 254 nm

カラム:

ACQUITY Premier BEH™ C18、2.1 × 100 mm、1.7 µm(製品番号:186009453)

ACQUITY Premier BEH C18、2.1 × 100 mm、VanGuard FIT、1.7 µm(製品番号:186009457)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

5.0 µL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

Milli-Q 水

移動相 B:

アセトニトリル

グラジエントプロファイル:

10% B で 0.25 分間アイソクラティックホールドし、2.25 分間の直線的ランプで 95% B まで上昇。

0.1 分間ホールドし、10% B で 3.0 分間カラムを再平衡化。合計サイクル時間は 6 分。

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア

Empower™ 3 SR2

結果および考察

VanGuard FIT カラム構成は、分析カラム用の新しい革新的な完全に統合されたガード設計です。従来のガード設計とは異なり、VanGuard FIT カラムには、独立したアセンブリー/デバイスではなく、カラムのインレットに完全に取り付けられるガードカートリッジが含まれます。VanGuard カートリッジは、チューブやフェラルが不要で、VanGuard FIT カラムのインレットに直接ねじ込みます。これによってバンドの広がりが抑えられ、性能が向上します。他の設計のガードカラム(図 1A)には、ガードカラムまたはガードカートリッジホルダーを取り付けるために必要な追加の接続部があります。取り付けを正しく行わないと、これらの接続部で漏れが生じやすくなります。一方、VanGuard FIT カラムには接続部が追加されていないため(図 1B)、この問題は発生しません。VanGuard FIT カラムも VanGuard カートリッジホルダーも、実際のガードカートリッジに同じ設計を使用しており(図 1C)、ガードカートリッジが適切なホルダーにねじ込まれています。

図 1.  ガードカラムとガードカートリッジの設計
A. カートリッジホルダーまたは完全充塡ガードカラムを使用した非一体型の設計
B. VanGuard FIT 一体型カートリッジホルダー設計
C. ガードカートリッジ設計

この設計により、VanGuard FIT カラムの更新が簡単に行えるだけでなく、カートリッジが定期的に交換されている場合は分析カラムがマトリックス成分から保護されます。初めてガードを導入する場合は、カラムの性能を維持するために、どの程度の頻度でカートリッジ交換が必要かを決定する必要があります。ここで行った試験では、2 本の標準的な ACQUITY Premier BEH C18 カラムを使用して、スパイク済み乳児用調製粉乳を分析しました。試験では、ピーク高さ 13.4% でのピーク幅を用いてピークキャパシティをモニターし、プロットしました。図 2 に、両方のカラムにおけるピークキャパシティの割合のプロットを、3 番目のカラムで標準溶液を分析した場合と比較して示します。 

図 2.  3 本のカラム、2 つの実験用マトリックスサンプル、1 つの実験用標準溶液についての、初期ピークキャパシティ割合(%)のプロット。ピーク高さの 13.4% でのピーク幅(4 σ とも表す)を用いて計算したピークキャパシティの測定値。

マトリックスサンプルの分析に使用したカラムはいずれも、ほぼ 45 ~ 50 回の注入で性能低下を示し始めています。性能低下が始まると、分析ベッドが損なわれ、性能がますます低下します。したがって、分析カラムの汚染を減らすために、40 回の注入後にガードカートリッジを交換することが必要と判断されました。このガードカートリッジの交換頻度は非常に高いように思われますが、この頻度は分析条件とサンプルによって異なります。血漿などの他のサンプルでは、ガードカートリッジの交換が必要になる注入頻度が異なる可能性があります。さらに、LC の分析法条件がカラムの汚れに影響を与えるので、ガードを使用する場合はこれを考慮する必要があります3。 注入の間に添加剤を十分に除去しない LC 条件を使用すると、時間の経過とともに添加剤が蓄積して、カラムが汚れます。ガードカートリッジの交換頻度は、ラボのプロトコルに応じてアッセイごとに決める必要があります。

交換頻度を決定したら、VanGuard FIT カラムをルーチン使用に導入し、システム圧力と分析性能の両方をモニターして、その時点でのアッセイの性能を確認することができます。システム圧力の収集とモニタリングは、性能がまだ許容範囲内であっても、カラムに不具合が生じ始める時期の指標となります。図 3 に、各カラムで実行した最初の 130 回の注入におけるシステム圧力のプロットを示します。上記のように、注入 40 回ごとに VanGuard FIT カートリッジを交換しました。

図 3.  130 回の注入にわたるシステム圧力のプロット。システム圧力は、カラムの再平衡化を始めて約 4 分時点で記録されています。

2 本のガードなしのカラムとも、システム圧力は 130 回の注入にわたって上昇し、最大の上昇は、試験初期の注入 1 回目から 50 回目の間に発生しています。この 2 本のカラムでは、この間にシステム全体の圧力が 1000 psi 以上上昇しましたが、ガードカートリッジを定期的に交換した VanGuard FIT カラムでは、圧力変動が 400 psi 以内であることがわかります。この場合、圧力の上昇はマトリックス成分に起因する可能性があり、インレットフリットを詰まらせたり、あるいは溶解性の問題により移動相から析出していると考えられます3。 いずれの場合も、これらの圧力上昇は、カラムに不具合が生じている、あるいはこれから不具合が生じることを示唆する最初の指標になります。残念ながら、システム圧力だけでは、カラムに不具合があるかどうかを判断できません。この判断は、クロマトグラフィーの結果を用いて行う必要があります。図 4 と図 5 に、2 本の ACQUITY Premier カラム(図 4)と ACQUITY Premier VanGuard FIT カラム(図 5)を用いて得られた、スパイク済みマトリックスのクロマトグラムを示します。

図 4.  2 本の ACQUITY Premier カラムで得られた、性能の低下を示しているスパイク済みマトリックスの 1、130、260 回目の注入のクロマトグラム。ピークの溶出順序:2-アセチルフラン、アセトニトリル、アセトフェノン、ブチルパラベン、プロピオフェノン、バレロフェノン。
図 5.  VanGuard FIT カラムでの早期、中間、および後期の注入を示す、各カートリッジ 1、4、7 での 1 回目および 40 回目の注入のクロマトグラム。カラムでの合計注入回数も示しています。ピークの溶出順序:2-アセチルフラン、アセトニトリル、アセトフェノン、ブチルパラベン、プロピオフェノン、バレロフェノン。

ガードしていないカラムでは、130 回目の注入においては 1 回目の注入と比較して許容可能なピーク形状を示していますが、260 回目の注入では大きな違いが見られます。特に、バレロフェノンとブチルパラベンでは、260 回目の注入でテーリングが見られ、カラムの不具合を示唆しています。一方、VanGuard FIT カラムでは、ガードカートリッジの定期的な交換によりカラムの全体的な性能が維持されるため、この問題は生じません。ピーク形状は、カートリッジ 1 の 1 回目の注入からカートリッジ 7 の 40 回目の注入までの計 280 回の注入の間で変化していません。ピーク高さにわずかな変化が生じていますが、これはサンプルの蒸発によるもので、カラムの性能の問題ではありません。200 回以上の注入にわたり、ピークキャパシティに関してカラムの性能をプロットしたところ、カートリッジを定期的に交換することで VanGuard FIT カラムの性能が持続していることが、さらに証明されています。図 6 は、各カラムの初期のピークキャパシティの割合(%)を、計 10 回の注入を平均して示しています。ピークキャパシティではなく、平均 10 回の注入を使用して初期ピークキャパシティの割合(%)をプロットすることで、データが正規化されて試験したカラム間の比較がより正確に行え、誤注入の場合におけるデータの「スムージング」も行えます。

図 6.  試験した 3 本のカラムについてピーク高さ 13.4% で測定した初期のピークキャパシティ割合(%)のプロット。表示するデータポイントの数を減らし、誤注入による影響を低く抑えるために、平均値(n = 10)をプロットしています。

予想どおり、VanGuard FIT カラムでは 200 回以上の注入にわたって性能が維持され、効率低下は 10% 以内でした。ガードしていないカラムで同じ回数の注入を行うと、効率が初期の 60% 未満まで落ち、性能が大幅に低下します。ガードしていないカラムは、このサンプルの注入初期から約 40 回までは同様の性能を発揮しますが、いずれのカラムも、それ以降は効率が大幅に低下し始めます。急激な変化は約 80 回目頃に起こりますが、性能低下は約 50 回目頃の注入から始まっています。ルーチン検査において、特にカラム汚染が生じることが知られている高レベルのマトリックス成分を含むサンプルで VanGuard FIT を使用することで、分析カラムを交換する必要性を低く抑えると同時に、カラム寿命を延ばしてデータの質を維持することができます。

結論

血漿や医薬品製剤などの複雑なサンプルを分析する際のカラム性能を維持するために、サンプル前処理がしばしば行われます。ただし、一部のアッセイでは、前処理を行うことができない、あるいは認められていない場合があります。例えば USP モノグラフ法では、サンプル前処理に関して非常に厳格で、多くの場合、ろ過または希釈のみが可能です。この種のアッセイでサンプル前処理を行わないと、カラムに大量の添加剤や内因性化合物が導入され、そのためにカラムが汚れる可能性があります。サンプル前処理が行えない場合、分析カラムの前にガードデバイスを使用すると、カラム寿命が大幅に長くなります。ガードデバイスは、分析カラムの汚れを防ぐために定期的に交換できる、固定相を充塡した短いベッドです。ガードデバイスの交換頻度は、分析するサンプルとアッセイ条件によって異なります。

MaxPeak Premier カラムシリーズの一環として入手可能な VanGuard FIT カラム構成により、一体型ガード構成が提供されます。このハードウェアにより、従来のガードカラムで必要になる追加の流路系の接続部なしでガードを使用することができます。このアプリケーションノートで示したように、このような使いやすい設計の改善は、分析カラムを汚損から保護する VanGuard FIT カートリッジの機能には影響しません。医薬品製剤や血漿など、複雑なマトリックスサンプルで VanGuard FIT カラムを使用することで、分析カラムの性能を維持するのに役立ちます。VanGuard FIT カラムを MaxPeak High Performance Surface(HPS)テクノロジーと組み合わせることで、従来のガード型式と比較して大きなメリットが得られます。

参考文献

  1. Capparella M, Foster W, Larrousse M, Phillips D, Pomfret A, Tuvim Y. Characteristics and Applications of a New High-Performance Liquid Chromatography Guard Column. Journal of Chromatography A.(1995) 141–150.
  2. Skulason S, Ingolfsson E, Kristmundsdottir T. Development of a Simple HPLC Method for Separation of Doxycycline and its Degradation Products.Journal of Pharma and Biomedical Analysis.(2023) 667–672.
  3. Berthelette K, Fountain K, Summers M. Improving Method Robustness for Routine Analysis of Pharmaceutical Formulations.Waters Application Note, 720004807, 2013.

720007713JA、2022 年 8 月

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