屈折率検出器を組み合わせたアドバンストポリマークロマトグラフィーによる、トルエン中のポリジメチルシロキサンの高速高分解能分析
要約
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)またはゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析は、50 年以上にわたって一般的なポリマー分析手法です。この手法をより簡単に達成できるようにした新しい進歩は、膨大な数のカラム、新しい溶媒送液システム、より多くの検出器選択肢です。新しい SEC/GPC カラムテクノロジーは、使用可能な UPLC™ システムの高圧に耐えるために開発されており、これは 2013 年の高速/高分解能 GPC システムの開発につながりました。ポリマーの分子量(MW)分析は、柔軟性の高い溶媒送液システムおよび低拡散検出器により、近代化された手法になりました。この高速 MW 分析の例は、分析時間が 15 分に短縮されたトルエンに溶解したポリジメチルシロキサン(PDM)の分析によって実証されました。従来の SEC メソッドと比較して 4 倍速く、効率面でのメリットが得られます。
アプリケーションのメリット
- 分析速度 - ACQUITY™ アドバンストポリマークロマトグラフィーシステム(APC™)は、45 ~ 60 分かかる従来の SEC 分離と比較して 4 倍速い 15 分での PDMS 分析を実現1
- コスト削減 - 溶媒消費量と廃液量を削減することによる、分析コストの低減
- システムの柔軟性 - クオータナリーポンプを使用することにより、1 つのサンプルセット内で異なる有機溶媒を使用してポリマーを、アイソクラティックモードまたはグラジエントモードで分析可能。APC XT カラムテクノロジーにより、カラムに損傷を与えることなく、溶媒を迅速に変更可能2, 3
はじめに
ポリジメチルシロキサン(PDMS)は、ジメチルポリシロキサンまたはジメチコンとも呼ばれ、一般にシリコーンと呼ばれるポリマー化合物のグループに属します4。PDMS は、その特性により最も広く使用されているシリコンベースの有機ポリマーであり、多くの多目的のアプリケーションにつながっています5。 PDMS には、特に流動学的特性および熱特性など、興味深いフローがあります6。ほとんどの PDMS ポリマーは光学的に透明で、一般に不活性で、無毒、不燃性です。このポリマーは、シリコーンオイル、コンタクトレンズ、医療機器、エラストマーなど、多くの最終製品に含まれています。PDMS ポリマーは、化粧品や食品にも使用され、その例はシャンプーや食品包装です。PDMS は、電子機器、建築、機械加工などの材料科学のアプリケーションにも使用されます7。
PDMS の MW 分布から、最終製品の加工と性能に関する有意義な洞察を得ることができます。SEC 分析の最初のステップは、適切な移動相にポリマーを完全に溶解することです。ポリマーの溶解に最も一般的に使用される溶媒はテトラヒドロフラン(THF)ですが、すべてのシロキサンポリマーを THF に溶解できるわけではありません。ポリマーは、溶解溶媒の屈折率と非常に近い屈折率を有することがあり、これにより RI 検出器のレスポンスが低下します。THF に等屈折率の問題や溶解性能不足の問題がある場合は、トルエンが PDMS ポリマーの溶解用に選択されます。
このアプリケーションの目的は、1 回の注入あたり 15 分以内でのトルエン中の PDMS の分析について、APC システムを評価することです。従来の SEC/GPC では通常、分析時間は 1 回の注入あたり 45 ~ 60 分です。PDMS の高速、高分解能の SEC データ分析により、従来の SEC アプリケーションと比較して、合成、加工、最終製品のワークフローを改善できます。
実験方法
APC システムについては、図 1 を参照してください。ポリスチレン(PS)標準試料(表 1)および PDMS サンプル(表 2)の溶解に、トルエンを使用しました。4 本のカラムを直列に使用して、表 2 に示されている SEC カラムセットを形成しました。
クロマトグラフィーシステム: |
ACQUITY アドバンスドポリマークロマトグラフィーシステム |
ポンプ: |
クオータナリーソルベントマネージャー |
サンプルマネージャーの温度: |
20 ℃ |
カラムマネージャーの温度: |
50 ℃ |
カラム: |
ACQUITY APC XT 450 Å 2.5 µm(4.6 × 150 mm)、200 Å 2.5 µm(4.6 × 75 mm)、125 Å 2.5 µm(4.6 × 75 mm)、45 Å 1.7 µm(4.6 × 150 mm) |
カラム温度: |
50 ℃ |
溶媒: |
トルエン |
洗浄溶媒: |
トルエン |
シール洗浄溶媒: |
イソプロパノール |
流速: |
0.5 mL/分 |
サンプル前処理: |
PS 標準試料(3 mg/mL)、サンプル(5 mg/mL) |
注入量: |
PS 標準試料(10 µL)、サンプル(40 µL) |
検出器: |
RI |
検出器温度: |
50 ℃ |
表 2.LC 条件
図 2 の APC カラムセレクターツールにより、ラボに入る前に、分析法開発の開始と備品の注文ができるようになりました。溶媒、カラム温度、流速、カラムセットをツールに入力し、予想背圧 5,644 psi および溶出時間 11 分を装置メソッドの計画に使用しました。溶出曲線の直線性が、適切なカラムセットの構築に役立ちました。
溶媒の節約
データ管理
装置制御(APC および RI 検出器)並びにデータ取り込みと解析は、Empower™ 3 クロマトグラフィーデータシステム(FR5)によって行いました。
結果および考察
4 グループの PS 標準試料の分析のキャリブレーションを完了し、Empower 3 GPC オプション内の解析済みデータから検量線を作成しました(図 3 および 4)7。
PS 標準試料は、図 4 の検量線を作成した Empower ソフトウェアを使用して波形解析しました。次に、実験の PDMS サンプルを波形解析し、これによって PS の検量線に関連してピーク値を生成しました。
実験の PDMS サンプルのクロマトグラムでは、ポリマー(RI = 1.39 ~ 1.41)とトルエン(RI = 1.497)移動相の屈折率の差が負であるため、負のピークとして表示されますが、RI 極性は検出器コンソールで反転されて正のピークとして表示されました。2 回の個別の注入のピークのデータは非常に近接していました(図 5)。
MP 値が類似している 2 つの PDMS の結果が図 6 に示されています:A と B は、50K ピークの平均分子量(MP)範囲にあります。この MW ペアには、低(4.383)および高(9.187)分散度指数(PDI)の例が示されています。低 PDI の例のピークはより狭くなっています。高い方の PDI のクロマトグラムでは、カラムセットの分離能力の除外限界を超える幅の広いピークとショルダーがあります。PDI での違いは重要な情報であり、これによって最終製品の特性である流動性、柔軟性、耐久性が予測されます8。MP および PDI は、Empower 3 GPC オプションで報告される多くの標準計算の 2 つに過ぎません。
APC システムの分子量範囲は 200 ~ 2M Daで、20K MP 未満のオリゴマー領域では、従来の GPC と比較して非常に良く分離されています(図 7)9。
20K および 2K を下回る低 MW のキャリブレーション標準試料および PDMS サンプルのクロマトグラムが、図 7 ~ 9 に表示されています。PS 標準試料の PDI の値は 1 に非常に近いと製造者から報告されており、ほぼ完璧です。MP が 20K の PDMS サンプルは PDI が 17 で非常に大きく、これは MW の幅広い分布(つまり広いピーク)に関連しています。MP が 2K の PDMS のピークの PDI は 1.7 であり、PS 標準試料より大きい値ですが、MP が 20K のピークと比較して非常に狭い分布です。APC XT カラムを使用した APC システムの性能範囲の例が以下に示されています。
結論
トルエン中での PDMS 分析の結果により、APC システム、XT カラム、Empower 3 ソフトウェアの高速で高分解能のメリットが示されています。低容量 APC システムおよび細孔径で高強度のシリカ粒子を充塡した APC XT カラムにより、1 つのサンプルセット内で 1 つのカラムセットを使用して 15 分でサンプル分析が可能になり、R2 > 0.999 の検量線が達成されました。
従来の GPC カラムでは、脆弱なゲルの充塡による圧力の制限があり、溶媒の交換に最大 1 日かかり、カラムベッドが損傷する可能性もありました。APC システムで分析することにより、従来の SEC より 4 倍速いだけでなく、特に低 MW 範囲で優れた品質のデータが得られます。これは、PS キャリブレーション標準試料の GPC 分析で低 MW のピークが 6 本であったのに対し、APC では 10 本のピークが観測されたことにより実証されました。
トルエン中の PDMS サンプルを分析することにより、処理時間が短縮され、毎日 1 時間未満で検量線を作成することによりデータの信頼性が得られ、外部委託ラボではなく社内分析を使用することにより、企業の知的財産が保護されます。UPLC 装置、カラム、ソフトウェアを組み合わせることは、溶媒使用量、廃液処理費用、サンプル分析費用を削減し、サンプルスループットを向上させる、コスト効率の高い選択肢です。
参考文献
- A CRO Advances Polymer Characterization with Ultra High Performance Size Exclusion Chromatography, Waters Case Study, 720005566EN, 2016.
- M. Summers, J. Shia, K.J. Fountain, Solvent Flexibility for Size-Based Polymer Analysis Using the Advanced Polymer Chromatography (APC) System, 2013.Waters Applicaion Note, 720004628, 2013.
- ACQUITY APC: Increase the Sophistication of Your Research by Adding p-QSM Technology.https://videos.waters.com/detail/video/6098455761001/acquity-apc:-increase-the-sophistication-of-your-research-by-adding-p-qsm-technology.
- "Linear Polydimethylsiloxanes" Joint Assessment of Commodity Chemicals, September 1994 (Report No.26) ISSN 0773-6339-26.
- Wolf, M.P., G.B. Salieb-Beugelaar, and P. Hunziker, PDMS with Designer Functionalities-Properties, Modifications Strategies, and Applications.Progress in Polymer Science, 2018.83: p. 97–134 https://doi.org/10.1016/j.progpolymsci.2018.06.001.
- Polymer Properties Database, 2015–2021, https://polymerdatabase.com/home.html.
- Ensuring Quality Through Compliance, Waters Brochures, 72000522EN, 2015.
- Suresh Seethapathy, Tadeusz Górecki, Applications of Polydimethylsiloxane in Analytical Chemistry: A review, Analytica Chimica Acta, Volume 750, 2012, Pages 48–62, ISSN 0003–2670, https://doi.org/10.1016/j.aca.2012.05.004.
- Janco, M., Alexander, J.N., IV, Bouvier, E.S.P. and Morrison, D. (2013), Ultra-High Performance Size-Exclusion Chromatography of Synthetic Polymers.J. Sep. Science, 36: 2718–2727.https://doi.org/10.1002/jssc.201300444.
720007658JA、2022 年 6 月