Extraction+ コネクテッドデバイスと Andrew™+ ピペッティングロボットを併用した、全自動バイオアナリシス固相抽出サンプル前処理
要約
以下の研究では、LC-MS 検出および分析のための、Andrew+ ピペッティングロボットと Extraction+ コネクテッドデバイスの組み合わせるによる、カートリッジ型式および 96 ウェル SPE プレート型式を用いた、さまざまな医薬品の血漿からの全自動バイオアナリシス固相抽出(SPE)の機能を実証しています。
アプリケーションのメリット
- Andrew+ ピペッティングロボットおよび Extraction+ コネクテッドデバイスを使用した、自動での検量線作成と QC サンプル前処理および固相抽出
- 使いやすい OneLab™ ソフトウェアでの、分析法の作成および移管のためのデータ可視化
- 自動化における SPE プレート型式およびカートリッジ型式との互換性
- Extraction+ コネクテッドデバイスによる完全にプログラム可能な真空圧プロファイルで、抽出性能のばらつきを低減
- 自動リキッドハンドリングとサンプル前処理により効率が向上し、ユーザーは他の作業に集中できる
- ユーザーが操作するステップのない完全「無操作型」自動化により、人的ミスのリスクを低減
はじめに
マトリックスからターゲット分析種を分離し、干渉物質をできる限り除去するサンプル前処理は、バイオアナリシスのワークフローに不可欠な要素です(図 1)。正確で精密、かつ再現性の高い結果を得るには、サンプル前処理プロトコルの実施におけるミスや一貫性の欠如を最小限に抑えて、プロセス全体にミスの影響が及ばないようにする必要があるため、多くの場合、熟練した経験豊富な分析者が必要です。ミスがあると、定量が不正確になったり、制御不能になったりしたバッチの再抽出により、時間やリソースの浪費につながる場合があります。ミスや一貫性の欠如には、検量線や品質管理(QC)サンプルの作成時のピペッティングミス、サンプルのラベルの欠落や誤記、間違った試薬の添加、分析者のテクニックによる一貫性の欠如、その他の変数が含まれ、それらが結果に影響を及ぼします。
バイオアナリシスラボに自動化を導入することで、上記の問題を最小限に抑えるとともに、バイオアナリシスを行う科学者は他の作業に専念できます。バイオアナリシスワークフローの他の部分(装置分析、オートサンプラー、データおよび結果の管理など)では自動化が進んでいるにも関わらず、頑健な自動化プロトコルを開発するには時間および自動化の専門知識が必要な場合が多いため、サンプル前処理は依然としてしばしばマニュアルで行われています。
このアプリケーションでは、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、血漿中の多様な低分子医薬品の検量線および QC サンプルを生成します。次に、Andrew+ ピペッティングロボット(Andrew+)および新規の Extraction+ コネクテッドデバイス(Extraction+)を使用して、これらの前処理済みサンプルの固相抽出(SPE)を実施します。Extraction+ は、Andrew+ と組み合わせて使用する、新規の全自動化が可能な SPE システムソリューションです。Extraction+ は、「カラーリフター」と「パーキングスポット」(アイドル位置)のある真空マニホールド、制御可能な真空ポンプ、マニホールド基部にある外部の廃液容器に接続された廃液回収容器(GL45 ねじ式ボトル)で構成されています。これにより、カートリッジ型式および 96 ウェルプレート型式の両方で、完全「無操作型」の SPE サンプル前処理が実現します。SPE システムソリューションの使用により、正確で精密な検量線や QC サンプルの作成、血漿からの分析種の抽出が可能になります。得られた検量線は優れた精度(RSD ±15%)および直線性(> 0.99)を示し、品質管理の正確性は 95.8 ~ 107.5%、低、中、高 QC の RSD は 5.0% 以下でした。これらの結果は、低分子 LC-MS バイオアナリシスアッセイの性能についての FDA 勧告の範囲内に十分収まっています。
実験方法
試料
すべてのターゲット医薬品は Sigma Aldrich から購入しました。各分析種のストック溶液(1 mg/mL)はメタノール中に調製しました。全分析種を含む 10 mL のストック溶液(100 µg/mL)はメタノール中に調製しました。ラット血漿(K3EDTA)は Innovative Research から購入しました。検量線および QC 生成用に毎日使用する作業溶液は、血漿中に調製しました。カートリッジプロトコル用に、5 ~ 200 ng/mL の範囲のキャリブレーション試薬を 2 回繰り返し調製しました。QC 血漿サンプルは 10(低 QC)、50(中 QC)、150 ng/mL(高 QC)を 3 回繰り返し調製しました。96 ウェル SPE プレートプロトコル用に、5 ~ 500 ng/mL の範囲のキャリブレーション試薬を 2 回繰り返し調製しました。QC 血漿サンプルは 20(低 QC)、50(中 QC)、400 ng/mL(高 QC)を 3 回繰り返し調製しました。LC-MS グレードのギ酸およびリン酸は Sigma Aldrich から購入しました。
自動化プラットホーム
新しい Extraction+ コネクテッドデバイスを装備し、クラウドベースの OneLab ソフトウェアで制御される Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、サンプル前処理および SPE 抽出のプロトコルを設計し、実施しました。
SPE 抽出
抽出プロトコル
Oasis HLB 30 mg プレート(製品番号:WAT058951)または Oasis HLB 1 cc カートリッジ(製品番号:186001879)を使用して、同じ逆相(RP)SPE 抽出メソッドを実施しました。ローディングステップでは、1.0 mL の 1:1 血漿:4% リン酸水溶液(0.5 mL の未希釈血漿)を使用しました。次に、サンプルを 1 mL の 95:5 水:MeOH で洗浄し、2 × 250 µL の 100% メタノールのアリコートで溶出して、500 µL の水で希釈しました。
バイオアナリシスプレートおよびカートリッジでの SPE サンプル前処理に使用した 4 つの OneLab プロトコルの図解を図 2 ~ 9 に示します。各型式について、単一のプロトコルをサンプル前処理および希釈に使用し、続いて別のプロトコルを Extraction+ を装備した Andrew+ での SPE 抽出に使用しました。
プロトコル 1 - HLB 30 mg プレート抽出のための検量線と QC の前処理 - プロトコルの図示
図 2. OneLab メソッドの機器のリストおよびサンプル希釈用のプロトコルを上に示します。必要なピペット、ピペットチップ、ドミノ、実験器具を右側に示します。プロトコル 1 - HLB 30 mg プレート抽出のための検量線と QC の前処理 – Andrew+ デッキレイアウト
位置 | コンポーネントのレイアウト
1 ~ 2 チップ挿入システムドミノ
3 ストレージプレートドミノ
4 マイクロチューブドミノ
5 ディープウェルマイクロプレートドミノ
図 3. サンプル希釈用の Andrew+ デッキのレイアウトを上に示し、すべての項目の配置を示しています。必要なドミノを図の下に示します。
プロトコル 2 – Oasis HLB 30 mg プレート抽出 – プロトコルの図示
その他の消耗品
Waters Oasis HLB 96 ウェルプレート 30 mg 吸着剤/ウェル | 製品番号:WAT058951
Waters 2 mL 角型コレクションプレート | 製品番号:1860002482
Agilent 6 カラム試薬リザーバー | 製品番号:201-284-100
図 4. OneLab メソッドの機器のリストおよびプレート抽出用のプロトコル(SPE プロトコル)を上に示します。必要なピペット、ピペットチップ、ドミノ、実験器具を右側に示します。
プロトコル 2 – Oasis HLB 30 mg プレート抽出 – Andrew+ デッキレイアウト
位置 | コンポーネントのレイアウト
1 ~ 3 チップ挿入システムドミノ
4 ディープウェルマイクロプレートドミノ
5 Extraction+ コネクテッドデバイス
6 ~ 7 ストレージプレートドミノ
8 ディープウェルマイクロプレートドミノ
図 5. OneLab プロトコルのプレート抽出(SPE プロトコル)用のデッキレイアウトを上に示し、すべての項目の配置を示しています。必要なドミノおよびデバイスを図の下に示します。
プロトコル 3 - 検量線と QC の前処理 | 1 cc カートリッジ抽出 – プロトコルの図示
その他の消耗品
Eppendorf 2 mL Safe-Lok チューブ | 製品番号:0030120094
Waters 2 mL 角型コレクションプレート | 製品番号:1860002482
Agilent 6 カラム試薬リザーバー | 製品番号:201-284-100
図 6. OneLab メソッドの機器のリストおよびサンプル希釈用のプロトコルを上に示します。必要なピペット、ピペットチップ、ドミノ、実験器具を右側に示します。
プロトコル 3 - 検量線と QC の前処理 | Oasis HLB 1 cc カートリッジ抽出 – Andrew+ デッキレイアウト
位置 | コンポーネントのレイアウト
1 ~ 2 チップ挿入システムドミノ
3 ストレージプレートドミノ
4 マイクロチューブドミノ
5 ディープウェルマイクロプレートドミノ
図 7. OneLab プロトコルのサンプル希釈用のデッキのレイアウトを上に示し、すべての項目の配置を示しています。必要なドミノを図の下に示します。
プロトコル 4 – Oasis HLB 1 cc Vac カートリッジ抽出 – プロトコルの図示
その他の消耗品
Waters Oasis HLB 1 cc Vac カートリッジ 30 mg 吸着剤 | 製品番号:WAT094225
Waters 2 mL 角型コレクションプレート | 製品番号:1860002482
Agilent 6 カラム試薬リザーバー | 製品番号:201-284-100
TruView LCMS 品質保証透明ガラス 12 × 32 mm マキシマムリカバリーバイアル | 製品番号:186005662CV
図 8. OneLab メソッドの機器のリストおよびカートリッジ抽出用のプロトコル(SPE プロトコル)を上に図示します。必要なピペット、ピペットチップ、ドミノ、実験器具を右側に示します。
プロトコル 4 – Extraction+ コネクテッドデバイスを使用した Oasis HLB 1 cc Vac カートリッジ抽出 – Andrew+ デッキ レイアウト
位置 | コンポーネントのレイアウト
1 ~ 3 チップ挿入システムドミノ
4 回収用実験器具ラックドミノ
5 Extraction+ コネクテッドデバイス
6 ~ 7 ストレージプレートドミノ
8 ディープウェルマイクロプレートドミノ
図 9. OneLab プロトコルのカートリッジ抽出用のデッキレイアウト(SPE プロトコル)を上に示し、すべての項目の位置を示しています。必要なドミノおよびデバイスを図の下に示します。
クロマトグラフィーおよび MS/MS 条件
LC 条件 |
|
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class |
移動相 A: |
0.1% ギ酸 100% MilliQ 水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸 100% アセトニトリル溶液 |
弱洗浄溶媒: |
水:メタノール(90:10、v/v) |
強洗浄溶媒: |
アセトニトリル:イソプロパノール:水:メタノール(25:25:25:25 v/v/v/v) |
検出: |
Xevo TQ-XS質量分析計 |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS PFP カラム、1.8 µm、2.1 mm × 50 mm(製品番号:186005965) |
カラム温度: |
35 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 µL |
流速: |
0.5 mL/分 |
LC グラジエント
MS 条件
MS システム: |
Xevo™ TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込み範囲: |
MRM |
キャピラリー電圧: |
2.0 kV |
コーン電圧: |
60 V |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒流量: |
1100 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
コリジョンガス流量: |
0.2 mL/分 |
ネブライザーガス流量: |
7 Bar |
データ管理
装置コントロールソフトウェア: |
MassLynx™(v4.2) |
定量ソフトウェア: |
TargetLynx™ |
LC-MS 分析
クロマトグラフィー分離は Waters ACQUITY UPLC I-Class および ACQUITY UPLC HSS PFP カラム(1.8 µm、2.1 × 50 mm)を使用し、0.1% ギ酸を含む水およびアセトニトリルを用いたグラジエント溶出を行いました。流量は 0.5 mL/分、カラム温度は 35 ℃ に設定しました。医薬品分析種の検出は、Waters Xevo TQ-XS 質量分析計(ESI+)で、個々の分析種のマルチプルリアクションモニタリング(MRM)を使用して実施しました。MS 検出には、分析種ごとに 2 つの MRM トランジションを選択しました(定量および確認)。各医薬品の MS 条件を表 2 に記載します。
結果および考察
Extraction+ は、Andrew+ と組み合わせた新規の全自動化可能な SPE システムソリューションで、SPE でのサンプル前処理および抽出時のユーザー操作が不要になります(図 10)。Extraction+ コネクテッドデバイスは、OneLab ソフトウェアで制御される、慎重に設計された SPE マニホールドおよび真空ポンプという 2 つのモジュールで構成されています。Andrew+ ピペッティングロボットとともに使用することで、リキッドハンドリングとサンプル抽出が行え、サンプル前処理の完全自動化が可能になります。Extraction+ コネクテッドデバイスと組み合わせた Andrew+ ピペッティングロボットの主な特徴には、プレートとカートリッジの両方との互換性、フロースルー廃液回収、プロトコルによる真空の完全制御などが含まれ、最も重要な点として、完全無操作型の自動化が挙げられます。フロースルー廃液回収により、廃液回収用実験器具の取り付け・取り外しが不要になります。内蔵のカラーリフターにより、マニホールドカラーがマニホールド基盤の間を移動し、Andrew+ マイクロプレートグリッパーを使用して、マニホールド内(アクティブな位置)での回収プレートやラックに入った HPLC バイアルの配置を行います。この組み合わせにより、抽出プロセス中のユーザー操作が不要になります。
クロマトグラフィー
図 11 にこのアプリケーションで使用した化合物のクロマトグラフィーを示します。使用した化合物は、保持時間の差からわかるように多様な範囲の極性を有します。これには、荷電化合物および中性化合物の混合物も含まれます。
サンプル前処理および SPE カートリッジ/プレート抽出
Andrew+ および OneLab ソフトウェアにより、検量線作成および QC の希釈を適切に行うことができ、新しい Extraction+ の機能を用いて、前処理した血漿サンプルを全自動で抽出できました。希釈液の自動混合により一貫性の高い性能が確保され、それが定量結果の正確性に反映されました。追加のメリットとして、希釈およびサンプルのインテグリティーに絶対的な信頼が得られることなどが挙げられます。プログラム設定後、サンプルの量を間違えたり、別の試薬と間違えたりする心配がなくなります。同様に、サンプルを混同したり、逆にしたり、すべてまたは一部のバッチに誤って添加したりするリスクがなくなります。最後に、真空抽出ステップを最適化したことでアッセイが容易になり、サンプル間およびバッチ間の一貫性が高くなることで、さらに信頼性の高い性能が確保されます。
定量結果
以下の表 2 に、Andrew+ によるスタンダードおよび QC サンプルの前処理と、それに続く Waters HLB 96 ウェルプレートおよび Extraction+ を使用した血漿サンプルの抽出による定量結果を示します。正確性の値は 92.1 ~ 108.3% の範囲になりました。QC の結果も精度が高く、1 つを除いてすべて %RSD が 5% 未満でした。これらの結果は、低分子バイオアナリシス分析法のバリデーションにおける推奨下限に適合しています。分析結果の精度が非常に高いことは、サンプル前処理および SPE 自動化における Extraction+ デバイスを装備した Andrew+ ピペッティングロボットの一貫性を証明するものです。一部の化合物の検量線を図 12 に示します。
以下の表 3 に、Andrew+ によるスタンダードおよび QC サンプルの前処理と、それに続く Waters HLB 1 cc カートリッジおよび Extraction+ コネクテッドデバイスを使用した血漿サンプルの抽出による定量結果を示します。正確性の値は 88.6 ~ 110.8% の範囲になりました。この結果も精度が高く、1 つを除いてすべて %RSD が 5% 以下でした。これらの結果も、低分子バイオアナリシス分析法のバリデーションにおける推奨ガイドラインを満たしています。一部の化合物の検量線を図 13 に示します。
結論
このアプリケーションでは、Extraction+ コネクテッドデバイスを装備した Andrew+ ピペッティングロボットで、カートリッジ型式および 96 ウェルプレート型式の両方において、完全に自動化したサンプル前処理および SPE 抽出が正常に行えることを示しています。図 2 および 3 に示す正確かつ精密なデータは、ピペッティングステップの正確性および精度だけでなく、Extraction+ で実施した抽出プロトコルの性能も実証しています。結果が近接していることは、型式(カートリッジとプレート)に関係なく優れた性能が得られることを実証しています。Extraction+ の主な機能は、プレートまたはカートリッジを使用して、ユーザー操作なしで完全に自動化した SPE 抽出が実施できることです。これにより、ラボの科学者は、繰り返しの多いマニュアル作業に煩わされることなく、他の領域に注力することが可能になります。
このアプリケーションで示された機能およびデータは、Andrew+ および Extraction+ SPE システムにより、実験器具の型式に関わらず、検量線作成および QC サンプルの前処理、SPE が全自動で行えることを実証しています。これらの機能に直感的な OneLab クラウドベースのソフトウェアを組み合わせることで、ラボの自動化を容易に実現し、生産性を最大化して、ミスを低減し、バイオアナリシス LC-MS ワークフローの全体的な分析性能を高めることができます。
720007712JA、2022 年 9 月