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ACQUITY™ Premier システムと組み合わせた Xevo™ TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計を使用する変異原性のボロン酸類の高感度分析

ACQUITY™ Premier システムと組み合わせた Xevo™ TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計を使用する変異原性のボロン酸類の高感度分析

  • Margaret Maziarz
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

ボロン酸類およびそのエステルは、有機化合物の合成に使用される一般的な試薬です。一部のボロン酸類には変異原性が確認されており、高感度の分析法を使用して低レベルにコントロールする必要があります。この試験では、タンデム四重極型質量分析計と組み合わせた超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)分析法による、変異原性の可能性がある 7 種のボロン酸類の高感度定量について説明しています。ACQUITY Premier BEH™ C18 カラムを使用してクロマトグラフィー分離を達成しています。Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計を ACQUITY Premier システムと組み合わせて定量を実施しました。ネガティブエレクトロスプレーイオン化(ESI)およびマルチプルリアクションモニタリング(MRM)を用い、ボロン酸類について達成可能な定量限界は 0.005 ~ 0.05 ng/mL の範囲でした。

アプリケーションのメリット

  • MRM モードの Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計を用いる非常に選択性および感度の高い UPLC 分析法により、変異原性ボロン酸類の正確な同定および定量を実現
  • ACQUITY Premier BEH C18 カラムを使用する、ボロン酸類の頑健な分離
  • Xevo TQ Absolute 質量分析計を用いることで、変異原性の可能性のあるボロン酸について 0.005 ~ 0.05 ng/mL の範囲の低レベルの定量限界(LOQ)を達成

はじめに

ボロン酸類およびそのエステルは、医薬品原薬の重要な構成要素で、その合成の重要な中間体です1。 発表された研究により、微生物アッセイにおいて一部のボロン酸類が変異原性活性を示すことが報告されています1。 変異原性(しばしば遺伝毒性とも呼ばれる)物質は、DNA と反応する物質で、DNA を損傷し、遺伝変異を起こしてがんの原因となる可能性があります2,3。 そのため、変異原性不純物の許容可能な安全レベルに準拠した正確な同定および定量には、非常に感度の高い分析法が必要です3。 ボロン酸類は、合成の中間体として使用され、原薬中に不純物として存在する可能性があります。

不揮発性化合物の医薬品分析には紫外線(UV)ベースの分析法が、揮発性化合物にはガスクロマトグラフィー(GC)や水素炎イオン化検出(FID)が通常用いられています。しかし、これらの分析法では、原薬中の変異原性物質の管理に必要な低レベルでの検出が行えません。このような状況において、望ましい感度を達成するために質量検出が必要になります。タンデム四重極型質量分析計は、感度および選択性が高い手法であり、医薬品化合物の低レベルでの定量にしばしば用いられています4

この試験では、変異原性のボロン酸類を分析するための高感度で高選択性の UPLC-MS/MS 分析法を開発しました(表 1)。この分析法では、ACQUITY Premier システムと組み合わせた Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計を用いました。 

表 1. ボロン酸類および化学情報のリスト 

実験方法

ボロン酸類は Fisher Scientific から購入し、質量分析グレードの溶媒は Sigma から入手しました。

サンプルの説明

ボロン酸類の個別の標準ストック溶液は、メタノール中に 5.0 mg/mL になるように調製しました。それぞれのストック溶液を等量ずつ 1 つのバイアルに移し、メタノールで希釈して各分析種を 10 µg/mL 含む混合標準溶液を調製しました。次に、この混合標準溶液を水で連続希釈し、LOD、LOQ、および直線性の標準溶液としました。

分析条件

LC システム:

ACQUITY Premier バイナリーシステム

バイアル:

LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV)

カラム:

ACQUITY Premier BEH C18、2.1 × 100 mm、1.7 μm(製品番号:186009453)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

15 ℃

注入量:

7.0 μL

流速:

0.3 mL/分

移動相 A:

0.05% 水酸化アンモニウム水溶液

移動相 B:

アセトニトリル

グラジエント:

グラジエントテーブルを参照

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計

イオン化モード:

ESI-

データ取り込み:

MRM モード、表 2 を参照

キャピラリー電圧:

1.0 V

脱溶媒温度:

550 ℃

脱溶媒ガス流量:

950 L/時間

コーンガス流量:

150 L/時間

ネブライザー:

7.0 bar

イオン源温度:

150 ℃

表 2. ボロン酸類の MRM トランジション

データ管理

装置コントロール:

MassLynx™ v4.2

データ解析:

TargetLynx™

結果および考察

ACQUITY Premier BEH C18 カラムにより、ボロン酸類を分離することができました(図 1)。Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析を使用して、ネガティブイオンモードのエレクトロスプレーイオン化(ESI)で検出および定量を実施しました。MS/MS フラグメンテーションについてターゲット化合物のプリカーサー質量を定義してから、プロダクトイオンをモニターすることで、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)実験を行いました。ボロン酸類についての MRM トランジションおよびイオン化パラメーターは、MassLynx ソフトウェア内の IntelliStart™ を使用して特定し、手動で確認しました。

図 1. Xevo TQ Absolute を使用したボロン酸類 のMRM 取り込みモードでのクロマトグラフィー分離。10 ng/mL の標準溶液を使用。

ボロン酸類の検出限界および定量限界(LOD および LOQ)は、シグナル対ノイズ(S/N)基準(それぞれ 3:1 および 10:1)にしたがって決定しました。ボロン酸類の LOD 濃度レベルおよび LOQ 濃度レベルを示すクロマトグラムを図 2 に示します。S/N 基準に基づき、LOD および LOQ はそれぞれ 0.0025 ~ 0.025 ng/mL および 0.005 ~ 0.05 ng/mL の範囲となりました。さらに、この分析法では、MS レスポンスとボロン酸類の濃度の間に直線的な関係があり、相関係数は 0.996 以上でした(図 3)。

図 2. Xevo TQ Absolute 質量分析計で得られたボロン酸類の LOD(S/N ≥ 3)および LOQ(S/N ≥ 10)での代表的なクロマトグラム 
図 3. Xevo TQ Absolute 質量分析計を使用して取り込んだ 1/x 重み付けした分析法直線性

同じ分析についてのこの分析法の日間性能が実証されたことで、医薬品の品質管理と安全性に不可欠な一貫性の高い結果をこの分析法により生成できることが保証されます。ボロン酸類の分析法の日間試験では、LOD および LOQ の標準溶液を数日間にわたって注入しました。ボロン酸類の S/N およびピーク面積の %RSD を計算することで、各日の性能を評価しました。結果は表 3 にまとめています。試験を行った全ての日を通じて、ボロン酸類はすべて LOQ 濃度で頑健なシグナルを示し、S/N 比は 10:1 を十分上回っていました。さらに、LOQ レベルでの再現性が優れており、ピーク面積の %RSD は 6.86% 以下でした。この試験では、データのばらつきを補正するための内部標準は使用しませんでした。 

表 3. LOQ レベルでの分析法の日間性能

結論

ACQUITY Premier I-Class システムを Xevo TQ Absolute 質量分析計と組み合わせた高感度 UPLC-MS/MS 分析法を開発し、変異原性の可能性があるボロン酸類について LOQ 0.005 ~ 0.05 ng/mL という非常に低い検出限界を達成できました。この分析法では、LOQ レベルでの優れた日間性能が実証されました。残留レベルの変異原性物質を正確に同定および管理して製品の品質および安全性を保証するためには、高感度の分析法が不可欠です。

参考文献

  1. O’Donovan MR, Mee CD, Fenner S, Teasdale A, Phillips DH.Boronic acids-A Novel Class of Bacterial Mutagen.Mutation Research.2011, 724: 1–6.
  2. Liu DQ, Sun M, Kord AS.Recent Advances in Trance Analysis of Pharmaceutical Genotoxic Analysis.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis. 2010, 999–1014.
  3. ICH M7(R1), Assessment and Control of DNA Reactive (Mutagenic) Impurities in Pharmaceuticals to Limit Potential Carcinogenic Risk, International Conference on Harmonization, March 2018.
  4. Loos G, Van Schepdael A, Cabooter D. Quantitative Mass Spectrometry Methods for Pharmaceutical Analysis.Philosophical Transactions, 2016, 374:20150366.

720007562JA、2022 年 3 月

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