• アプリケーションノート

Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC カラムを使用した、シュードウリジンを含む RNA ヌクレオチド三リン酸のアイソクラティック分離

Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC カラムを使用した、シュードウリジンを含む RNA ヌクレオチド三リン酸のアイソクラティック分離

  • Kenneth D. Berthelette
  • Jonathan E. Turner
  • Thomas Walter
  • Waters Corporation

要約

合成 RNA は、主に SARS-CoV-2 などのウイルスに対するワクチンなどの治療薬への道筋として、近年好評を博しています。このテクノロジーの急速な成長により、合成 RNA の作製とテストに関わる施設の数が増加しました。合成する前に、個々のヌクレオチドの質を評価して、最高の質の製品を作ろうとしていることを、確認する必要があります。さらに、ヌクレオチドは、容易に分解して三リン酸型から二リン酸型および一リン酸型になることがあり、これは合成プロセスの効率に影響を与える可能性があります。これらの重要な出発化合物の分解産物を検出する分析法を持つ必要があります。以前は、ヌクレオチド三リン酸の分析は、ミックスモードカラムまたはイオン対逆相クロマトグラフィーを使用して行われました。 一方、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)では、MS 感度がより高いなど、ヌクレオチドの分離にいくつかの利点がもたらされます。ここで説明する研究では、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用して 4 種類のメインの RNA ヌクレオチド三リン酸を分離する分析法が開発されました。さらに、修飾ヌクレオチドであるシュードウリジン三リン酸も、同重体のウリジン三リン酸から良好な分離状態で 15 分未満で分析されました。

アプリケーションのメリット

  • 4 種類の RNA ヌクレオチドおよび一般に使用されている修飾ウリジン三リン酸のベースライン分離を達成
  • 15 分間でのヌクレオチドのアイソクラティック分離により、ヌクレオチドの分解のモニタリングが可能に
  • MaxPeak™ High Performance Surfaces テクノロジーにより、ヌクレオチドの良好なピーク形状が得られる

はじめに

合成 RNA、特にメッセンジャー RNA(mRNA)は、生体系にタンパク質を導入するための比較的新しい手法です。Pfizer および Moderna の SARS-CoV-2 ワクチンの場合、mRNA を用いてスパイクタンパク質を作製し、実際に感染した場合免疫反応を構築するために免疫システムをプライミングしてウイルスを認識させます1。 特定のタンパク質を発現させるには、まず正しい mRNA 配列を作製する必要があります。mRNA を変えると、タンパク質が発現せず、効果がなくなります。mRNA 合成とそれに続くタンパク質発現の背後にある科学は非常に複雑です。ただし、この複雑さ全体を通して変わらないことが一つあります。それは、一般の人々が使用するときに期待どおりに機能する、高品質の mRNA 製品が必要であることです。

mRNA の作製では、個々のヌクレオチドが一定の配列で並んでいる必要があります。ただし、これらのヌクレオチドが純粋でない場合や誤った型(三リン酸でなく一リン酸であるなど)である場合、mRNA の作製に影響する可能性があります。そのため、合成プロセスでは最高純度のヌクレオチドを使用することが極めて重要です。ヌクレオチドが最高の純度であることを確認する方法の 1 つは、合成プロセスに導入する前に LC-UV または LC-MS を使用して、分解産物やその他の不純物が存在するかを調べることです。逆相 LC(イオン対試薬を使用する場合としない場合のいずれも)が、ヌクレオチドの保持および特性解析に用いられてきました2–4。これらの手法を使用して得られる分離は妥当ですが、HILIC を使用することでこれを改善できます。HILIC は、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)アッセイで問題になるイオン対試薬を使用せずに、極性分析種を保持および分離するように、特別に設計されています。さらに、HILIC の移動相で使用される高レベルの有機溶媒により、MS でのイオン化がより効果的になり、MS シグナルが強くなります。以前の論文で実証されているように、ヌクレオチドの分離は HILIC を使用して行えます5。この引用文献には、12 種のヌクレオチドすべてを分離する分析法が記載されていますが、これには長い(50 分)分析時間および複雑な移動相が必要です。合成プロセスで使用する入荷した材料の分離は、できるだけ迅速に行う必要があり、1 度に 1 種類のヌクレオチドまたはファミリーのヌクレオチドに対してのみ行われると考えられます。

本研究では、入荷した材料の品質管理に使用する迅速な分析法を作成する目的で、RNA ヌクレオチド三リン酸の分離について説明します。特に同重体化合物であるシュードウリジン三リン酸とウリジン三リン酸の分離について、ヌクレオチドの分離に焦点を合わせることを優先しました。

実験方法

サンプルの説明

ヌクレオチドのストック溶液は、以下のサンプル希釈溶媒を使用して、濃度 1 mg/mL になるように作製しました。アデノシン三リン酸には 30% の水が含まれているアセトニトリルが必要でした。シチジン三リン酸、ウリジン三リン酸、グアノシン三リン酸の溶液は、25% の水が含まれているアセトニトリルを用いて作製しました。50 µg/mL の各ヌクレオチドが含まれているサンプル混合液は、希釈液として 90:10 アセトニトリル:水を使用して作製しました。シュードウリジン三リン酸のストック溶液(100 mM 水溶液)は、分析する前に 93:7 アセトニトリル:水で 1:100 に希釈し、共溶出の可能性を回避するために個別に注入しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY™ UPLC™ H-Class PLUS(クオータナリーソルベントマネージャー(QSM)、サンプルマネージャーフロー

スルーニードル(SM-FTN)、カラムマネージャー、カラムマネージャー Aux、PDA 検出器を搭載)

検出:

UV @ 260 nm

カラム:

Atlantis Premier BEH Z-HILIC、2.1 × 100 mm、2.5 µm(製品番号 186009986)

カラム温度:

20 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

1.0 µL

流速:

0.2 mL/分(特に記載されていない限り)

アイソクラティック条件:

20 mM 酢酸アンモニウム含有 30:70(v/v)水:アセトニトリル溶液(pH 9.0)(特に記載されていない限り)

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3 Feature Release 4

結果および考察

以前に発表された分離に基づいて、Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを選択しました5。異なる構成を使用することで、分離性能を犠牲にすることなくサイクル時間を改善するとともに、品質管理に使用される一般的な UHPLC 装置および HPLC 装置に適切な分離にしました。さらに、ピーク形状を改善するために、若干高いバッファー濃度(20 mM)を使用しました。UV アッセイの結果を得るために、PDA を搭載した ACQUITY UPLC H-Class PLUS システムを使用しました。最初に試験した条件は、2.1 × 100 mm 2.5 µm カラムを使用して発表されたものです(図 1)。 

図 1. Atlantis Premier BEH Z-HILIC 2.1 × 100 mm 2.5 µm カラムでの RNA ヌクレオチドの分離。移動相は 20 mM 酢酸アンモニウムが含まれている 25:70:5(v/v/v)水:アセトニトリル:メタノール溶液(pH 9.0)で、流速 0.4 mL/分、260 nm での UV 検出を使用しました。 

文書化されている分析法条件では、対象の 5 種類の化合物を分離できますが、これらの条件下ではシュードウリジン三リン酸(pUTP)の UV シグナルは非常に微弱です。さらに、シチジン三リン酸(CTP)とグアノシン三リン酸(GTP)では、どちらでもわずかなテーリングと幅広いピークが示されています。ラベル付けされていない小さな不純物のピークは、ヌクレオチド三リン酸の二リン酸型または一リン酸型です。この分析法は、これ以上の最適化なしで、入荷したヌクレオチドの品質管理試験に十分と考えられます。ただし、ピーク形状およびサイクル時間に関して分離を改善できます。図 2 に、移動相にメタノール共溶媒を使用しない場合の化合物の分離が示されています。メタノールを除くことで、移動相の調製が簡単になり、ピーク形状が改善されます。

図 2. Atlantis Premier BEH Z-HILIC 2.1 × 100 mm 2.5 µm カラムでの RNA ヌクレオチドの分離。移動相は 20 mM 酢酸アンモニウムが含まれている 25:75 (v/v)水:アセトニトリル溶液(pH 9.0)で、流速 0.4 mL/分、260 nm での UV 検出を使用しました。

メタノールを除いて移動相中の水の濃度を同じ(25%)に維持することで、この移動相は、メタノールが存在する場合よりも弱くなります。これにより、溶出時間が長くなり、この場合、保持がほぼ 50% 増加します。これは理想的ではありませんが、CTP と GTP のピーク形状が改善されます。mpUTP と UTP のピークはまだ非常に近接して溶出しますが、必要に応じて MS で簡単に識別できます。サイクル時間の短縮が望ましく、そのために次にこの分析法を、移動相中の水の比率を増やすことで最適化しました(図 3)。 

図 3. Atlantis Premier BEH Z-HILIC 2.1 × 100 mm 2.5 µm カラムでの RNA ヌクレオチドの分離。移動相は 20 mM 酢酸アンモニウムが含まれている 30:70 (v/v)水:アセトニトリル溶液(pH 9.0)で、流速 0.4 mL/分、260 nm での UV 検出を使用しました。

移動相中の水の比率の増加により、良好なピーク形状を維持しつつ保持時間が短縮されました。一部の不純物はヌクレオチドと共溶出し、アデノシン三リン酸(ATP)の直前に溶出するピークが最も顕著であり、これは二リン酸の不純物です。ヌクレオチドを個別に分析すると、これらの不純物はそれぞれの三リン酸のプリカーサーから十分によく分離されると考えられます。これらの条件下での分離は非常に良好ですが、一部の不純物のピークとメインの三リン酸のピークの間のわずかな共溶出は、理想的ではありません。分離の流速を下げるために、最終的な最適化ステップを 1 つ行いました。これにより、カラム効率が向上し、サイクル時間が増加する犠牲を払って全体的な分離が向上しました。図 4 に、流速 0.2 mL/分でのヌクレオチドの分離が示されています。 

図 4. Atlantis Premier BEH Z-HILIC 2.1 × 100 mm 2.5 µm カラムでの RNA ヌクレオチドの分離。移動相は 20 mM 酢酸アンモニウムが含まれている 30:70 (v/v)水:アセトニトリル溶液(pH 9.0)で、流速 0.2 mL/分、260 nm での UV 検出を使用しました。

流速を下げると、mpUTP および UTP の分離は向上します。さらに、ATP と、その直前に溶出する分解産物が、より分離されます。これらの条件を使用して、対象の 5 種類のメインのヌクレオチドが分離されます。これらの条件を使用して、入荷したヌクレオチドサンプルを分析し、mRNA の合成に使用する前にヌクレオチドの純度を判定することもできます。

結論

ステップバイステップのアプローチを使用して、4 種類のメインの RNA 三リン酸および一般に使用されているシュードウリジン三リン酸に対するベースライン分離により、RNA ヌクレオチド三リン酸を分離するための HILIC メソッドを開発しました。この分析法は、RNA 合成に使用するヌクレオチド三リン酸の品質管理など、さまざまなシナリオで使用できます。

この HILIC 分離は、20 mM 酢酸アンモニウム含有の 70:30(v/v)アセトニトリル:水溶液(pH 9.0)という簡単な移動相を用いて達成されました。この組成は、MS 検出および UV 検出に適しています。MaxPeak Premier High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを利用することで、化合物の良好なピーク形状が得られました。このテクノロジーにより、リン酸などの酸性部位と LC システムおよびカラムに存在する金属表面の間のイオン性相互作用が軽減されます5。このテクノロジーを採用した Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用することで、5 種類のヌクレオチドすべてについて、1 回の分析で良好な結果を達成できます。

参考文献

  1. Xu S, Yang K, Li R, Zhang L. mRNA Vaccine Era- Mechanisms, Drug Platform and Clinical Prospection.International Journal of Molecular Sciences.(2021) 6582.
  2. Werner A. Reversed-phase and Ion-Pair Separations of Nucleotides, Nucleosides, and Nucleobases: Analysis of Biological Samples in Health and Disease.Journal of Chromatography B: Biomed and Science Applications.(1993) 3–14.
  3. Yang FQ, Li DQ, Feng K, Hu DJ, Li SP.Determination of Nucleotides, Nucleosides and Their Transformation Products in Cordyceps by Ion-Pairing Reversed-Phase Liquid Chromatography-mass spectrometry.J. Chrom A. (2010).5501–5510.
  4. Smith K, Rainville P. Utilization of MaxPeak High Performance Surfaces and the Atlantis Premier BEH C18 AX Column to Increase Sensitivity of LC-MS Analysis.Waters Application Note, 720006745, 2020.
  5. Walter TH, Alden BA, Belanger JL, Berthelette K, Boissel C, Delano M, Kizekai L, Nguyen JM, Shiner SJ.Modifying the Metal Surfaces in HPLC Systems and Columns to Prevent Analyte Adsorption and Other Deleterious Effects.LCGC (June 2022) 28-34.Accessed 6-July-2022 https://www.chromatographyonline.com/view/modifying-the-metal-surfaces-in-hplc-systems-and-columns-to-prevent-analyte-adsorption-and-other-deleterious-effects.

720007704JA、2022 年 8 月

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