液体クロマトグラフィーおよび質量分析を用いたアミノグリコシド類の同時分離と定量
要約
アミノグリコシド類のクロマトグラフィー分析および検出は困難な課題であり、時間がかかる場合があります。これは、アミノグリコシド類は極性が高く、不揮発性で発色団がないためです。ここでは、アミノグリコシド類の分析のための迅速でシンプルで分かりやすい液体クロマトグラフィー/質量分析メソッドの開発を説明します。最終分析法では、ACQUITY QDa™ 質量分析計を搭載した ACQUITY™ UPLC™ システムで、Atlantis™ Premier BEH™ Z-HILIC カラムを使用します。開発した分析法では、すべての分析種について、幅広い濃度範囲にわたり、0.99 を超える線形回帰でのアミノグリコシド類の定量で、優れた直線性が示されました。この分析法により、場合によっては最低 0.5 µg/mL の、アミノグリコシド類の非常に感度の高い検出限界が得られました。
アプリケーションのメリット
- Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを使用し、ACQUITY QDa 質量検出器と組み合わせたシングル HILIC アッセイは、多種多様のアミノグリコシド類の分析に対して、従来のアッセイに置き換えて、大幅に時間とコストを削減できます
- この分析法では、誘導体化やフッ素化したイオン対試薬の使用は不要です
- ACQUITY QDa 検出器を使用した、シンプルで迅速なアミノグリコシド類の分離および定量
- QDa の選択イオンレコーディング(SIR)機能をアミノグリコシド類の定量に導入
はじめに
アミノグリコシド類は、グラム陰性細菌感染症の治療に使用される抗生物質のグループです1-3。 これらの化合物は極性が高く、不揮発性で強吸収性発色団がありません。そのため、このような化合物の定量分析は困難な課題であり、通常は誘導体化、特殊な検出器、フッ素化イオン対試薬の使用が必要です。4,5。 逆相液体クロマトグラフィーを用いたアミノグリコシド類の分析には成功してきましたが、このアプローチは幅広くは使用されていません。その理由は、分離で平衡化にかかる時間が長いなどの悪影響を及ぼす可能性があるイオン対試薬の使用が必要だからです。これに対処するため、アミノグリコシド類の分析には、アミノプロピル HILIC 固定相を使用する親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)も使用されてきました6。 この固定相では一部のアミノグリコシド類の分離に成功することが示されていますが、その一方で、選択性に制限がありました。最近、Waters™ は、エレクトロスプレータンデム質量分析(ESI-MS/MS)を用いたアミノグリコシド類の分析での、新しい双性イオン性スルホアルキルベタイン固定相(Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラム)の使用を報告しました7。 このアプローチは非常に有用であり、多種多様のアミノグリコシド類に対して非常に正確で感度の高い測定が得られますが、MS はメンテナンスに手間がかかる装置、複雑な操作、データ解析が原因で、製薬品質管理(QC)ラボでは幅広く使用されていません。さらに、ハイエンド質量分析計は高額であり、グローバルな QC アプリケーションには困難があります。そのため、アミノグリコシド類などの発色団のない化合物の分析に、小型で頑健で使いやすい検出器を採用できるかを詳細に調べることは、興味深いだけでなく、重要です。
このアプリケーションノートでは、ACQUITY QDa を使用した混合標準試料中のアミノグリコシド類の分析および定量について報告しています。ACQUITY QDa はエレクトロスプレーイオン源を搭載したシングル四重極型質量分析計です。従来のハイエンド質量分析計と比較して、QDa はコスト効率がよく、操作とメンテナンスが非常に簡単です。この試験では、新しく発売された Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムを ACQUITY QDa 質量分析計と組み合わせて使用する UPLC 分析法を採用し、アミノグリコシド類のアッセイのルーチン分析でのシステム適合性およびダイナミックレンジを実証しました。図 1 に、この試験で調査したアミノグリコシド類の化学構造が示されています。
実験方法
混合試料および標準試料の調製
アミカシン、ハイグロマイシン B、リボスタマイシン硫酸塩、シソマイシン硫酸塩、ゲンタマイシン硫酸塩、ネオマイシン三硫酸塩水和物、トブラマイシン硫酸塩、カナマイシン硫酸塩は Sigma–Aldrich(米国ペンシルバニア州アレンタウン)から購入しました。ネアミン(またはネオマイシン A)塩酸塩、アプラマイシン硫酸塩、カスガマイシン塩酸塩、ストレプトマイシン硫酸塩、パロモマイシン硫酸塩、ジヒドロストレプトマイシン硫酸塩およびスペクチノマイシン二塩酸塩水和物は Cayman Chemical(米国ミシガン州アナーバー)から購入しました。これらの化合物のストック溶液は、それぞれの標準試料の必要量を正確に計量し、脱イオン水に溶解して調製しました。次に、これらのストック溶液を用いて、すべてのアミノグリコシド類が含まれている混合試料を調製しました。この混合試料は、各標準試料のストック溶液をサンプル溶媒の脱イオン水(> 18.2 Mohm∙cm)に希釈し調製しました。混合試料における各分析種の最終濃度は、約 0.01 mg/mL でした。作業用標準混合溶液は、標準ストック溶液を脱イオン水と混合および希釈して調製しました。すべての溶液を、冷凍庫(-20 ℃)内の PP 容器中で保管しました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class システムクオータナリーソルベントマネージャー(rQSM)、サンプルマネージャー(rFTN)、カラムマネージャー、および CM-Aux、PDA 検出器、QDa 質量検出器を搭載 |
検出: |
PDA および QDa |
カラム: |
Atlantis Premier BEH Z-HILIC、1.7 µm、2.1 × 100 mm カラム(pH 範囲:2 ~ 10) |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
5 ℃ |
注入量: |
3 μL |
流速: |
0.5 |
移動相 A: |
0.1% (v/v)ギ酸アンモニウム水溶液(pH 調整なし、pH:約 7.3) |
移動相 B: |
0.1% (v/v) ギ酸含有アセトニトリル |
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY QDa 質量検出器 |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込み範囲: |
300 ~ 630 Da |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
イオン源温度: |
400 ℃ |
コーン電圧: |
15 V |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 クロマトグラフィーデータシステム |
結果および考察
QDa ベースの分析法開発
試験のこの部分での目的は、クロマトグラフィー条件および QDa MS 設定を最適化し、アミノグリコシド類の良好な分離および検出を実現することでした。上述のように、これらのアミノグリコシド類の分離は、以前に報告されています7。 この分析法では Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラム(2.1 × 2.5 µm × 15 cm)を使用し、pH 3.0 の 20 mM バッファー濃縮液(ギ酸アンモニウム)、温度 50 ℃、流速 0.7 mL/分、グラジエント時間 10 分を適用しました。Empower のカラムカリキュレーターツールを使用して、装置およびカラム寸法に合わせてグラジエントプロファイルを調整した後、これらの条件を出発条件として調査しました。初期条件および調整後の条件は表 1 に詳述されています。
ACQUITY QDa 質量検出器の設定も、より優れた感度にするために、最適化しました。例えば、さまざまな ESI プローブ温度およびコーン電圧を、シグナルおよびピーク強度に与える影響についてスクリーニングしました。最適なシグナルは、プローブ温度 400 ℃、コーン電圧 15 V で得られました。図 2 に示されているように、この実験結果により、この条件下では混合試料中の 16 種のアミノグリコシド類を分離・検出できることがわかります。ただし、これらの分析種の一部ではシグナルはあまり強くなかったため、ACQUITY QDa 検出器で強いレスポンスが示された分析種のみに対して、さらに実験を続けることを決定しました。実験を続けた分析種はスペクチノマイシン塩酸塩、ストレプトマイシン硫酸塩、アミカシン、カナマイシン硫酸塩、ネアミン、シソマイシン硫酸塩です。
選択イオンレコーディング(SIR)
感度を向上し、分かりやすい結果出力を得るため、QDa の SIR 機能を使用して、特定のピークをモニターおよび定量しました。この検出モードでは、クロマトグラムの各タイムポイントで、ユーザーが定義した単一の質量電荷比(m/z)の値が記録され、他のイオンはすべて排除されます。この機能は分析に感度および特異性をもたらすことができ、非常に有用です。図 3A に、前の実験から選択された 6 種のアミノグリコシド類の SIR プロットの重ね描きが示されています。図 3B にはこれらの 6 種の化合物のトータルイオンクロマトグラム(TIC)が示されています。TIC クロマトグラムでこれら 6 種のアミノグリコシド類の優れた明確な分離が示されている一方で、SIR によりはるかに明確なピークプロファイルが得られました。SIR ではバックグラウンドシグナルがはるかに低くなり、これによってシグナル/ノイズ比が向上することにより、大幅に感度が高くなります。ここで、すべての分析種の感度を高めるために、バッファー濃度を 20 mM のギ酸アンモニウムから 8 mM に調整し、水系移動相の pH もギ酸を用いて 3.0 に下げたことを付言します。
図 3B. これら 6 種のアミノグリコシド類が含まれている同じ混合試料の TIC クロマトグラム。クロマトグラムのピーク(溶出順):スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、アミカシン、カナマイシン、シソマイシン。
QC 環境で QDa ベースの LC メソッドのアプリケーションをさらに容易にするには、アミノグリコシド類を定量するメソッドの能力を評価することが重要でした。そのために、開発した分析法に対して、直線性、検出限界(LOD)、定量限界(LOQ)すべてを評価しました。6 種のアミノグリコシド類の定量メソッドの直線性を、0.5 ~ 250 µg/mL の範囲の 8 つの濃度について評価しました。すべての分析種の検量線の R2 は 0.99 を超えており、線形回帰に良く適合していることが実証されました。LOQ および LOD は、それぞれ 3 および 10 のシグナル/ノイズ比に基づいて計算しました。表 2 に、開発した分析法の性能指数がまとめられています。
結論
- アミノグリコシド類の分析のためのシンプルで迅速な QDa ベースの分析法3。
- Atlantis Premier BEH Z-HILIC カラムでは、極性の高いアミノグリコシド類の優れた分離と保持が得られました。
- 単一の LC-MS 分析法を使用したさまざまのアミノグリコシド類の同時分析2。
- QDa の SIR 機能により、アミノグリコシド類の正確で高感度の定量が可能となりました。
参考文献
- T. Hermann, Aminoglycoside antibiotics: Old Drugs and New Therapeutic Approaches, Cellular and Molecular Life Sciences 64(14) (2007) 1841–1852.
- J.E. Davies, Aminoglycosides: Ancient and Modern, J. Antibiot.59(9) (2006) 529–532.
- R.R. Bailey, The Aminoglycosides, Drugs 22(4) (1981) 321–7.
- L. Šoltés, Aminoglycoside Antibiotics—Two Decades of Their Hplc Bioanalysis, Biomed.Chromatogr.13(1) (1999) 3–10.
- S. Joshi, HPLC Separation of Antibiotics Present in Formulated and Unformulated Samples, J. Pharm.Biomed.Anal.28(5) (2002) 795–809.
- C. Díez, D. Guillarme, A.S. Spörri, E. Cognard, D. Ortelli, P. Edder, S. Rudaz, Aminoglycoside Analysis in Food of Animal Origin With a Zwitterionic Stationary Phase and Liquid Chromatography–Tandem Mass Spectrometry, Anal.Chim.Acta 882 (2015) 127–139.
- J. Yang.P.D. Rainville, Analysis of Aminoglycosides in Foods Using a Zwitterionic Stationary Phase and Liquid Chromatography-Tandem Mass Spectrometry, 2021.Waters Application Note, 720007442.
720007558JA、2022 年 3 月