• アプリケーションノート

大気圧 GC-MS/MS を用いた半揮発性化合物のターゲット分析

大気圧 GC-MS/MS を用いた半揮発性化合物のターゲット分析

  • Douglas Stevens
  • Frank Dorman
  • Kenneth J. Rosnack
  • Peter Hancock
  • Waters Corporation

要約

この 10 年間にわたり、ガスクロマトグラフィー大気圧イオン化質量分析(GC-APCI-MS)の使用が着実に増加しています1。 この手法を使用した多くの公表文献では、特定の化学的分類または特定用途の分析種に焦点が当てられています2,3。 これらのさまざまな分析の最適化には通常、電荷交換イオン化やプロトン化によるイオン化のいずれかのメカニズムに適したイオン源の使用が含まれます。この試験で使用するイオン源の設計では、電荷交換またはプロトン化によるイオン化のいずれかを精細に制御でき、一部のマルチクラス分析ではその性質のため、いずれかまたは両方のイオン化メカニズムに対応する、分析種の同時イオン化につながります。マルチクラス半揮発性有機化合物の分析は、そのような分析法の一つです。

この研究では、Waters 大気圧ガスクロマトグラフィー(APGC™)イオン源を、電荷交換とプロトン化によるイオン化を同時に行う設定で使用するときの、感度、再現性、ダイナミックレンジを評価します。 

アプリケーションのメリット

  • APGC-MS/MS の感度と特異性により、スプリット注入の使用が可能になり、これによって装置の利用が増加し、カラムの寿命が長くなります
  • デュアル化学イオン化による対象化合物の拡大により、環境分析に関連する広範囲の対象半揮発性分析種に APGC を使用できます

はじめに

半揮発性化合物(SVOC)に対する関心は最新の環境分析の初期に遡り、当時 GC/MS は採用される主要な装置手法の 1 つであり、実際に、このカテゴリーの分析を定義するのに役立ちました4。 当時、汚染された場所では、複数の汚染源からの複数の種類の化合物が、すべて 1 つの場所に存在することがはるかに一般的でした5,6,7。 環境中のこれらの化合物の存在、経路、移動に関する初期の試験は、ヒト、動物、微生物の健康および環境全体を構成する構成要素や部分にこれらが及ぼす悪影響に関する研究と組み合わされて、包括的でデータ主導の環境保護計画の一環としての SVOC の計画的で徹底的なモニタリングの必要性の認識の確立に貢献しました8

さまざまな産業化学物質の環境での経路および影響に対する試験では、単一の分析種、化合物群、または用途に焦点を合わせることが、多くの場合必要ですが、サンプルを徹底的に特性解析しようとすると、それには多大な時間と労力が必要です。これまで、焦点を合わせる必要性は、イオン化中の過剰なフラグメント化、低特異性、比較的低い感度など、分析手法に関連する要因によって発生しました。これらの性能上の課題が組み合わされて、徹底的なサンプルのクリーンアップと濃縮、および長い分析時間が必要になりました。現行の電子イオン化(EI)GC/MS システムは、初期モデルよりも性能特性が優れていますが、EI およびシングルステージ MS の基本特性に基づく固有の制限があります。これらの特定の課題を克服するには、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードで動作するタンデム四重極型 MS で APGC を使用して、低エネルギー CI とタンデム質量分析(MS/MS)を組み合わせることができます。大気圧 CI の低エネルギーイオン化は、大多数の分析種について相対存在量および絶対存在量が高い分子イオンを生成することで、EI よりも優れた特異性と感度の利点をもたらします。MRM の特異性により、シングルステージ MS スキャンおよび選択イオンモニタリング/記録(SIM/SIR)モードの取り込みと比較して、化学的ノイズが大幅に減少します。最近、その特有のプロトン親和力またはイオン化エネルギーに基づいて、2 種類のメカニズムのいずれかを介して個々の分析種がイオン化する安定した状態を作り出すことが可能であることがわかりました。

揮発性有機化合物全体のカテゴリーは、非常に揮発性(VVOC)、揮発性(VOC)、SVOC などのサブカテゴリーに分類されます。VVOC(多くの場合気体である)および VOC は、以前は APGC を使用して試験されました9。 SVOC は、気体や VOC と比較して沸点が高く分子量が大きいことが特徴です。このアプローチを使用する SVOC の調査は、定量ターゲット分析の性能要件を満たしていることを確認するために必要です。

実験方法

標準 SVOC キャリブレーション混合液(Restek、#31850)を希釈して、APGC イオン源の感度、再現性、直線性を 5 pg/µL ~ 50 ng/µL の範囲にわたって評価しました。この混合液には、75 のピークで溶出する 76 の分析種が含まれています(異性体ペア 1 つが共溶出)。一般的に使用される 6 つの内部標準試料も、注入するアリコートごとに濃度 8 ng/µL で添加しました(Restek、#31006)。

分離は、Rxi®-5Sil MS、30 m × 0.25 mm id × 0.25 µm フィルムカラムで、ヘリウム流量 2 mL/分、ウールを使用した直線 4 mm スプリット注入ポートライナーで、100:1 スプリット注入を用いて 300 ℃ で行いました。GC は、40 ℃ で 1 分間保持し、10 ℃/分で 120 までランプし、25 ℃で 320 にして 4 分間保持しました。

GC-MS/MS 分析は、APGC イオン源オプションを搭載した Xevo TQ-XS™ タンデム四重極質量分析計システムで行いました。プロトン化と電荷交換イオン化が同時に起きる条件を作成するために、イオン源に水を追加し、コーンガスを 240 L/時間で送りました。

結果および考察

複数のクラスの SVOC が含まれている高濃度標準試料を使用し、100:1 スプリット注入を用いてすべての分析種が 20 分未満で溶出するクロマトグラフィー分離を開発しました(図 1)。特定の異性体ペアが、クロマトグラフィーピーク間の最低 50% の谷で分離されることが、この分析法開発で考慮した基準の 1 つでした。1.8 ~ 2.5 mL/分の間の 4 ステップのヘリウムキャリアガス流量を、異性体化合物ベンゾ[b]フルオランテンとベンゾ[k]フルオランテンの間で達成される 20 ~ 30% の谷で評価しました(図 2)。これに続く分析法開発では、すべての分析種および内部標準試料について最適化した MRM トランジションを作成することに焦点を合わせました。各分析種について複数の MRM トランジションが得られ、Quantaedia™ データベースに入力しました。これにより、この分析法を実施するラボに対して、最適化された MRM トランジションを共有できます。

図 1.  76 種の SVOC の MRM TIC クロマトグラム。100:1 にスプリットした 1 ng/µL アリコート(オンカラムで 10 pg)。
図 2.  ベンゾ[b]フルオランテンおよびベンゾ[k]フルオランテンの、ヘリウム流量 1.8 mL/分(緑)および 2.3 mL/分(青)での分離。クロマトグラムは、重ね描きのために 0.213 分で揃えました。

全体として、分析種の 87% で、各レベルの 3 回の注入に基づいて、10 pg ~ 10 ng/µL(オンカラムで 100 fg ~ 100 pg)の範囲で 3 桁の大きさにわたって 0.99 を超える r2 値が達成されました。オンカラム 1 pg での検量線とクロマトグラムの例が図 3 と図 4 に示されており、感度と直線性が実証されています。電荷交換およびプロトン化それぞれによってイオン化する分析種の代表として、化合物ヘキサクロロシクロペンタジエンとベンゾ[a]ピレンを選択しました。内部標準試料の 1 つであるペリレン-d12 は、両方のモードで適切にイオン化されることがわかりました。これにより、これを従来のレスポンスのレファレンス補正標準試料として使用でき、プロトン化型と電荷交換型のイオン比を評価することで、デュアルモード動作の安定性をモニターできました。2 つの型の間のイオン比は、30 時間の連続運転での RSD が 0.49% で、代表的な SVOC サンプルのバッチに適合する期間にわたって、両方のモードで安定してイオン化することが示されています。

図 3.  ヘキサクロロシクロペンタジエンの検量線(10 pg ~ 50 ng、n = 3)
図 4.  ベンゾ[a]ピレンの検量線。10 pg ~ 10 ng、n = 3)。

最後に、この研究の過程でヘリウムの価格が急速に上昇しただけでなく、ヘリウムの供給が完全に中断される可能性がありました。そこで、キャリアガスとして窒素を評価しました。高純度の乾燥窒素が APGC メイクアップガスおよび試薬ガスとしてシステムに供給される事実により、ヘリウムから窒素キャリアへの転換は容易でした。それぞれのキャリアガスを用いたベンズ[a]アントラセンとクリセンの分離の例が、図 6 に示されています。この 2 つの例の間では、キャリアガスの流量が窒素では 0.7 mL/分、ヘリウムでは 2.0 mL/分であったこと、および温度プログラムが 40 ℃ で 1 分間ホールドし、20 ℃/分で 320 ℃ まで上昇して 5 分間ホールドしたことを除いて、カラムおよびほとんどの分析条件を一定に保ちました。ピーク幅は、ヘリウムキャリアガスでは 2.4 秒でしたが、窒素キャリアガスでは 3.0 秒でした。ヘキサクロロベンゼンの感度も窒素キャリアガスを使用して評価し、オンカラム 500 fg に対してシグナル対ノイズ比が 1000:1 を超えて達成されました(図 7)。将来的に、最適な窒素キャリアガス性能を実現するためにメソッドを適用する際には、ヘリウムと同等のピーク幅および分解能を窒素キャリアガスで達成するためのカラムサイズのスケーリングが行われるでしょう。

図 6.  ヘリウムキャリアガス(上のクロマトグラム)および窒素キャリアガス(下のクロマトグラム)を同じカラムで使用した、ベンズ[a]アントラセンとクリセンの分離
図 7.  窒素キャリアガスを用いたヘキサクロロベンゼン(オンカラム質量 500 fg)の感度

結論

デュアル化学イオン化モードでの APGC イオン源の使用により、半揮発性有機化合物のルーチン定量分析に適した直線性と安定性が実証されました。達成された感度により、注入に高いスプリット比を使用できるようになり、カラムおよび MS に導入するマトリックスの量が減少しました。スプリット注入により GC インレットでの滞留時間も短縮され、その結果一般的に不活性と頑健性が向上します。これは、カラム寿命を延長し、定期的なメンテナンスを減らすのに役立ちます。今後の研究では、この同時イオン化スキームの性能と、環境関連の抽出サンプルでの SVOC のターゲット分析用キャリアガスとして窒素を使用することについて検討します。

参考文献

  1. Li, Du-Xin, et al."Gas Chromatography Coupled to Atmospheric Pressure Ionization Mass Spectrometry (GC-API- MS ): Review." Analytica chimica acta 891 (2015): 43–61.
  2. Portolés, Tania, et al."Potential of Atmospheric Pressure Chemical Ionization Source in GC-QTof MS MS for Pesticide Residue Analysis" Journal of Mass Spectrometry 45.8 (2010): 926–936.
  3. Xu, Shanshan, et al."Monitoring Temporal Trends of Dioxins, Organochlorine Pesticides and Chlorinated Paraffins in Pooled Serum Samples Collected From Northern Norwegian Women: The Misa Cohort Study." Environmental Research 204 (2022): 111980.
  4. Heller, Stephen R., John M. McGuire, and William L. Budde."Trace Organics by GC/MS [Gas Chromatography/Mass Spectrometry]." Environmental Science & Technology 9.3 (1975): 210–213.
  5. US Environmental Protection Agency, Superfund History, 2021, Superfund Site Link, Accessed 25 March 2022.
  6. Campbell, J. H., et al."Groundwater Quality Near an Underground Coal Gasification Experiment." Journal of Hydrology 44.3–4 (1979): 241–266.
  7. Wallin, Bruce K. Fate of Toxic and Nonconventional Pollutants in Wastewater Treatment Systems Within the Pulp, Paper, and Paperboard Industry.US Environmental Protection Agency, Industrial Environmental Research Laboratory, 1981.
  8. Campisano, R., K. Hall, J. Griggs, S. Willison, S. Reimer, H. Mash, M. Magnuson, L. Boczek, and E. Rhodes.Selected Analytical Methods for Environmental Remediation and Recovery (SAM) 2017.U.S. Environmental Protection Agency, Washington, DC, EPA/600/R–17/356, 2017.
  9. Douglas M. Stevens, Analysis of Residual Solvents in Hemp Oil Using Headspace Sampling and Atmospheric Pressure GC-MS/MS, Waters Application Note: 720007150, 2021.
  10. Raro, M., et al."Potential of Atmospheric Pressure Chemical Ionization Source in Gas Chromatography Tandem Mass Spectrometry for the Screening of Urinary Exogenous Androgenic Anabolic Steroids" Analytica Chimica Acta 906 (2016): 128–138.

720007595JA、2022 年 4 月

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