呼気からの薬物検出のための UPLC-MS/MS 分析法
法中毒学目的のみに使用してください。
要約
このアプリケーションブリーフでは、呼気を薬物検査の検体として使用する場合、Xevo TQ-XS 装置は、必要な感度を提供するルーチンアプリケーションに適した頑健なシステムであることを実証しています。
アプリケーションのメリット
- 安全で手軽に採取できる検体
- 機能障害の時間に関連する検出時間
- 簡単なサンプル前処理手順
- 膨大な数の分析種を対象とする分析法
- スクリーニングと同定を同時に実施
はじめに
1970 年代に免疫化学に基づく分析手法が開発されて以来、尿を検体とする薬物検査が臨床および法医学用途で使用され、一般的な乱用薬物のコスト効率の高いスクリーニングが可能になっています。また、ガスクロマトグラフィー質量分析法が陽性結果の証拠確認に使用されています。質量分析法の発展により、現在では免疫測定スクリーニングではなく、証拠に基づいた質量分析法で直接分析調査を行うことが可能になりました1。
尿に代わる代替マトリックスへの関心は、薬物検査の初期までさかのぼります。ただし、口腔液などの代替検体がルーチンで使用されるようになったのは最近のことです。これは、新しい性能標準を設定した液体クロマトグラフィーと質量分析装置の結合に基づく、バイオアナリシス向けのより強力なテクノロジーが開発されたことによるところが大きいと考えられます2。
簡単に入手できる非侵襲的な代替検体の 1 つとして呼気が挙げられます3。 手軽な手順で検体を収集でき、プライバシーを侵害することなく簡単に監視ができます。呼気には揮発性物質以外にエアロゾル粒子が含まれており、これには肺の奥からの非揮発性成分が含まれます4。
2010 年に、違法薬物使用者が薬物摂取してから長時間が経過し、中毒状態から回復した後の呼気からでも、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いてアンフェタミンおよびメタンフェタミンが検出可能であるという結果が論文に発表されました5。これにより新たに関心が高まり、最新の分析手法を用いた薬物検査に呼気を使用する可能性を模索する新たな一連の研究が行われました。
実験方法
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Phenyl(150 mm × 2.1 mm 内径 1.7 µm) |
移動相 A: |
20mM ギ酸アンモニウム + 0.1% ギ酸の水溶液(pH = 3) |
移動相 B: |
0.1% ギ酸メタノール溶液 |
洗浄溶媒: |
0.2% ギ酸含有メタノール:アセトニトリル:2-プロパノール:水(25:25:25:25 v/v) |
パージ溶媒: |
水:メタノール(80:20、v/v) |
注入量: |
3 μL |
グラジエント溶出: |
表 1 |
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
データの取り込みと解析: |
MassLynx および TargetLynx |
イオン化モード: |
UniSpray、ポジティブモード |
インパクター電圧: |
2.2 kV |
取り込みモード: |
マルチプルリアクションモニタリング(MRM)表 2 |
UniSpray イオン化を使用するポジティブイオン化モードで、すべての分析種が検出されました。MRM トランジションは表 2 に示します。
内部標準:α-PVP-d8、アンフェタミン-d5、ベンゾイルエクゴニン-d3、コカイン-d3、Δ-9-THC-d3、ガバペンチン-(13C)3、ケタミン-d4、MDA-d5、MDMA-d5、メサドン-d9、メタンフェタミン-d5、メチルフェニデート-d9、オキサゼパム-d5、オキシコドン-d3、プレガバリン-(13C)3、テマゼパム-d5、トラマドール-13C-d3、ゾピクロン-d4 は、表 2 の個別の分析種に対応するパラメーターで分析しました。ただし m/z は安定同位体の数に対してそれぞれ調整しました。ペンテドロンについては MBDB-d5 を内部標準として使用し、トランジション 213.1 > 136.1 をモニターしました。
呼気ガス中の粒子の採取
衝突手法により呼気ガス中の粒子を採取しました。この作業には市販の単純なデバイスが利用できます。BreathExplor デバイスはメサドンおよび肺に特徴的な脂質の採取用にバリデーションされています6。
12 回の呼吸から粒子を採取しました。採取デバイスに並行のコレクターが付いており、3 つのサブサンプルが得られます。サンプリング後、装置にキャップをし、ラベル付けしてラボに送りました。
サンプル前処理
デバイスを分解し、1 つのコレクターを分析に使用し、2 つは保管しました。
コレクターを試験チューブに入れ、内部標準を含む 2 mL のメタノールと 10 µL のエチレングリコールを添加しました。
試験チューブを 10 秒間ボルテックスし、コレクターを取り出しました。
真空遠心分離中にメタノールは蒸発し、残渣を 60 µL の 50% メタノールに溶解し、オートサンプラーバイアルに移して遠心分離しました。
標準およびコントロールは、ブランクコレクターに加えて調製しました。
アプリケーション
この分析法を試験に適用し、音楽イベント、ナイトクラブ、フェスティバルで呼気検体を採取しました。計 1204 の未知サンプルを 47 の分析種について調査しました。
結果および考察
4 ヶ月間、大きな問題なく 21 バッチの未知試料を分析しました。時間が経過しても、レスポンスおよび保持時間の変動はわずかでした。図 2 にコカインについて示します。抽出物はきれいであることが証明され、レスポンスに対するマトリックス効果の兆候は認められませんでした。同じカラムを約 2,000 回の注入に使用しましたが、時間が経過しても背圧の上昇は認められませんでした。QC サンプルのデータにより、分析法の安定性と高い性能が裏付けられました(表 2)。真正検体から得られたクロマトグラムの例を図 3 に示します。
a)アンフェタミン、20 pg/コレクター
b)コカイン、38 pg/コレクター
c) b)と同じサンプルからのベンゾイルエクゴニン
d)陰性の試験サンプルからのコカインのレスポンス
e)システムブランク中のコカインのレスポンス
f)THC、102 pg/コレクター
g)MDMA、2.1 pg/コレクター
h)トラマドール、163 pg/コレクター
i)ペンテドロン、3.1 pg/コレクター
この分析法でモニターした 47 種の分析種のうち、被験サンプル中に 20 種が同定されました(表 3)。
呼気ガスを検体として使用することで、ナイトライフの状況で生物学的サンプリングを用いて試験を実施することが可能になり、この設定での薬物使用について新しい情報が得られ、自己申告を補完する貴重な情報となりました。
コカインが最も頻繁に検出されました。すべてのサンプルに、非常に低濃度ですが、コカインのピークが存在することが注目されます。バックグラウンドピークは、同定の基準を満たしていましたが、適用した LLOQ であるコレクターあたり 1 pg の 10% を下回っていました。比較のため、システムブランクも示します。この観察結果は、紙幣、汚水、飲料水並びに大都市の大気中にコカインが存在するということと一致しているかも知れません7。コカインユーザーが居る環境で呼気サンプルを収集しました。このことがコカインのバックグラウンドが観察されたことの説明になるかも知れません。
結論
呼気ガス中のエアロゾル粒子の採取は迅速かつシンプルで安全です。試験を受ける人に不便をかけません。特別な施設を必要とせずにサンプリング手順が実施でき、職場や道ばたなど、医療システム以外の状況にも適しています。
呼気を薬物検査の検体として使用する場合、Xevo TQ-XS 装置は、必要な感度を提供するルーチンアプリケーションに適した頑健なシステムです。
参考文献
- Rosano TG, Ohouo PY, LeQue JJ, Freeto SM, Wood M. Definitive Drug and Metabolite Screening in Urine by UPLC-MS-MS Using a Novel Calibration Technique.J Anal Toxicol.2016;40(8):628–638.doi:10.1093/jat/bkw050.
- Takyi-Williams J, Liu CF, Tang K. Ambient ionization MS for Bioanalysis: Recent Developments and Challenges.Bioanalysis.2015;7(15):1901–1923.doi:10.4155/bio.15.116.
- Beck O, Olin AC, Mirgorodskaya E. Potential of Mass Spectrometry in Developing Clinical Laboratory Biomarkers of Nonvolatiles in Exhaled Breath.Clin Chem.2016 Jan;62(1):84–91.doi: 10.1373/clinchem.2015.239285. Epub 2015 Nov 17.PMID: 26578691.
- Beauchamp J, Davis C, Pleil J Eds.Breathborne Biomarkers and the Human Volatilome 2nd ed.Elsevier 2020.
- Beck O, Leine K, Palmskog G, Franck J. Amphetamines Detected in Exhaled Breath from Drug Addicts: A New Possible Method for Drugs-Of-Abuse Testing.J Anal Toxicol.2010 Jun;34(5):233–7.doi: 10.1093/jat/34.5.233. PMID: 20529456.
- Seferaj S, Ullah S, Tinglev Å, Carlsson S, Winberg J, Stambeck P, Beck O. Evaluation of a New Simple Collection Device for Sampling of Microparticles in Exhaled Breath.J Breath Res.2018 Mar 12;12(3):036005.doi: 10.1088/1752.
- Balducci C, Green DC, Romagnoli P, Perilli M, Johansson C, Panteliadis P, Cecinato A. Cocaine and Cannabinoids in the Atmosphere of Northern Europe Cities, Comparison With Southern Europe and Wastewater Analysis.Environ Int.2016 Dec;97:187–194.doi: 10.1016/j.envint.2016.09.010. Epub 2016 Sep 21.PMID: 27665117.
謝辞
Beck O - Department of Clinical Neuroscience, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden
Lierheimer S, Jbeily M, Böttcher M - MVZ Labor Dessau Kassel GmbH, Dessau-Rosslau, Germany
Hermansson S - Waters Sverige AB, Solna, Sweden
720007522JA、2022 年 2 月