• アプリケーションノート

米国における薬物障害運転の毒物学的調査のための血中薬物の分析

米国における薬物障害運転の毒物学的調査のための血中薬物の分析

  • Emily Lee
  • Jane Cooper
  • Michelle Wood
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

このアプリケーションブリーフでは、米国第 I 層勧告を満たすために、薬物障害運転の疑いのあるサンプルの前処理および分析を補助するために適用する UPLC-MS/MS メソッドについて詳説します1。 今回、Waters Ostro™ パススルーサンプル前処理プレートを使用する、単一の頑健なサンプル前処理メソッドについて説明します。この前処理メソッドにより、この勧告に記載されているすべての分析種を、2 種類の UPLC-MS/MS 分析法のいずれかを使用して、勧告に記載されている血中しきい値よりも低濃度で定量できます。UPLC-MS/MS 分析法では、ACQUITY™ UPLC I-Class のクロマトグラフィー分離と Xevo™ TQ Absolute 質量分析計の感度を組み合わせることで、この分析のためのシンプルで頑健なプラットホームを提供する方法に焦点を絞っています。

アプリケーションのメリット

  • Ostro パススルーサンプル前処理プレート(製品番号:186005518)を使用する単一のサンプル前処理プロトコル
  • この手順で使用する血液はわずか 100 µL であり、使用可能な検体量が少ない場合には有利に
  • フロースルーニードル(FTN)付き ACQUITY UPLC I-Class を使用して Waters ACQUITY UPLC BEH™ C18 カラム(製品番号 186002352)で複数の薬物クラスを分離
  • Xevo TQ Absolute 質量分析計の優れた感度により、第 I 層勧告で定められた濃度での分析種の検出が可能に

はじめに

多くの違法薬物や処方薬により、車両などの正常な運転ができなくなり、交通事故の可能性が高くなることが報告されています。2007 年、全米安全性評議会のアルコール・薬物・機能障害部門(NSC-ADID)は、米国における薬物の影響下での運転に関する検査の範囲に不可欠と考えられる薬物のリスト(DUID)を初めて発表しました2.3。 これらの勧告は複数回更新されており、最新の更新は 2021 年の更新です1。 この勧告では、懸念のある薬物が第 I 層と第 II 層の 2 群に分けられています。第 I 層群には DUID 調査で最も頻繁に使用される薬物が含まれています。したがって、これらの薬物について勧告されている血中しきい値カットオフ以下の濃度を、ルーチン検査のワークフローに含めることが不可欠であると考えられます(表 1)1

表 1.勧告されている化合物群と指定管理薬物、および血中第 I 層薬物検査における個々のしきい値 

このような調査のための分析検査では、さまざまな化学的性質を有する多様な薬物クラスに属するさまざまな薬物の定量が必要になります。この点は、法中毒学のラボにおいて、勧告血中濃度のすべての類縁物質を最適に検出できる単一のシンプルなワークフローを実現する上で、分析上の課題になる可能性があります。

以前、Waters Ostro パススルーサンプル前処理プレートを使用する全血のシンプルなクリーンアッププロトコルについて紹介しました4。 Ostro では、タンパク質およびリン脂質の除去とろ過を 1 台のデバイスで組み合わせて行います。イングランドおよびウェールズの 1988 年道路交通法セクション 5A の特定要件に対応できるように、このサンプル前処理メソッドを、UPLC-MS/MS 分析法と組み合わせて、17 種類の薬物のパネルの分析に適用しました。この試験では、米国での DUID 調査を裏付けるために、このメソッドを 35 種類の薬物からなる第 I 層パネルに適用しました。

実験方法

対照のヒト全血(K2 EDTA、プール済み)は Bio-IVT(英国ウェスト・サセックス州バージェス・ヒル)から入手しました。

毒物学関連物質のレファレンス物質は、Merck(英国ドーセット州プール)または LGC(英国ロンドン、テディントン)から入手しました。これらは、メタノールまたはアセトニトリルのいずれかに溶解した個別の 1 mg/mL 溶液として供給されました。分析種を組み合わせて混合薬物スパイク溶液を調製し、以降の希釈はメタノールを使用して行いました。分析種の安定標識内部標準試料も、同じ供給者から濃度 0.1 mg/mL で入手しました。これらの内部標準試料を組み合わせて、メタノール中濃度 1 ng/ µL の混合重水素化内部標準溶液(ISTD)を作製しました。すべての溶液を -20 ℃ で保管しました。

全血に混合薬物溶液をスパイクし、0.25 ~ 1500 ng/mL の範囲の一連の濃度にしました。前述した方法で血液のアリコートを前処理しました4。 簡単に説明すると、Ostro サンプル前処理 96 ウェルプレート(製品番号:186005518)のウェル中で、対照またはスパイク済み血液のアリコート(100 µL)を 100 µL の硫酸亜鉛/酢酸アンモニウム溶液に添加し、短時間混合しました。これらのサンプルに溶出溶媒(600 µL の 0.5% ギ酸含有アセトニトリルと 1 µL ISTD の混合物)を追加し、プレートをさらに 3 分間ボルテックス混合しました。プレートをバキュームマニホールドに取り付け、溶出溶媒を完全真空下で Waters 2 mL 角形ウェルコレクションプレート(製品番号:186002482)中に吸引しました。

Ostro 溶離液の 2 アリコート(150 µL)を 1 mL の丸形ウェルコレクションプレート(製品番号:186002481)に移し、Ultravap Mistral エバポレーター(Porvair Sciences)を用いて乾固させました。

乾固したアリコートの 1 つ(THC およびその代謝物の分析用)は、50% アセトニトリル含有 0.05% ギ酸 50 µL に再溶解しました。もう 1 つの乾固したアリコート(他のすべての薬物の分析用)は、10% アセトニトリル含有 0.05% ギ酸 50 µL に再溶解しました。これらのサンプルを、以下に詳述する UPLC-MS/MS 分析法のいずれかを用いて定量しました。 

いずれの UPLC-MS/MS 分析法でも、同じカラムおよび移動相、つまり ACQUITY BEH C18(2.1 × 100 mm、1.7 µm)(製品番号:186002352)、および 0.05% ギ酸水溶液(移動相 A)と 0.05%ギ酸アセトニトリル溶液(移動相 B)を使用しています。ただし、それぞれの分析法で異なるクロマトグラフィーグラジエントを使用しています。THC および代謝物の分析での初期開始条件は 50% 移動相 B で、他のすべての薬物を定量する分析法の開始条件は 2% 移動相 B でした。いずれの分析法でも、Xevo TQ Absolute をエレクトロスプレーポジティブ(ESI+)モードで使用し、各分析種について 2 つの MRM トランジション、それぞれの内部標準試料について 1 つの MRM トランジションをモニターしました。

結果および考察

第 I 層勧告のリストに記載されているすべての分析種を、開発したサンプル前処理手順を使用して調査しました。これには、検量線を作成するために使用したさまざまな濃度の各分析種が含まれます。その濃度範囲は、ほとんどの分析種について、勧告の血中しきい値濃度の 2 分の 1 から 5 倍でした。

調査した第 I 層の分析種はすべて、勧告の血中しきい値濃度の 2 分の 1 の濃度で検出されました。図 1 に、第 I 層勧告のリストに記載されている化合物を血中しきい値レベルでスパイクした全血サンプルのクロマトグラムを示します。各化合物群(カンナビノイド、CNS 刺激薬、CNS 抑制薬、麻薬性鎮痛薬)ごとに、クロマトグラムの例を 3 つずつ示しています。

図 1.第 I 層勧告で指定された各化合物群を血中しきい値レベルでスパイクした全血サンプルの、定量トレースの 3 つの代表的な MRM クロマトグラム。

調査した分析種の検量線は良好な直線性を示し、すべて R2 > 0.98 でした。図 2 に、各化合物群の検量線の例を示します。

図 2.第 I 層勧告に含まれる各化合物群に属する分析種の検量線の例。検量線は直線性を示し、1/x 重み付けしています。

結論

運転者に対する薬物検査の増加により、これらの化合物を定量するための、迅速で正確、かつ信頼性が高く頑健な分析法の必要性が浮き彫りになってきました。この概念実証分析法では、Ostro パススルーサンプル前処理プレートを用いて、血液中の広範な薬物パネルの測定に使用できる完全なワークフローについて説明します。この手順と Xevo TQ-Absolute 質量分析計の優れた感度を組み合わせることで、米国の第 I 層勧告のリストに記載されている 35 種類の分析種(ブプレノルフィンなどの特にしきい値が低い分析種)を適切な濃度で検出できます。また、Ostro プレートを使用することで、さらにサンプルのハイスループットが必要なラボでは、サンプル前処理プロトコルを自動化することができます。

参考文献

  1. A.L D’Orazio et al.Recommendations for Toxicological Investigation of Drug-Impaired Driving and Motor Vehicle Fatalities-2021 Update.Journal of Analytical Toxicology 2021, 45(6), 529–536.
  2. L.J. Farrell, S. Kerrigan, B.K. Logan.Recommendations for Toxicological Investigation of Drug Impaired Driving.Journal of Forensic Sciences 2007, 52, 1214–1218.
  3. National Safety Council–Alcohol, Drugs and Impairment Division https://www.nsc.org/workplace/get-involved/divisions/alcohol-drugs-impairment-division (accessed 12 May 2023).
  4. M. Wood and R. Lee.Analysis of Drugs in Blood to Support the Section 5A Driving Under the Influence of Drugs Act.Waters Application Note, 720007451, 2021.

720007974JA、2023 年 6 月

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