ACQUITY™ Premier UPLC™ および Xevo™ TQ Absolute を使用したゼラチンのスペシエーション分析における、Andrew+™ ピペッティングロボットを用いた ProteinWorks™ サンプル前処理の自動化
要約
ゼラチンは、そのユニークなゲル化特性により、食品および医薬品に一般的に使用されています。ただし、ブタ由来のゼラチンは非ハラール成分と見なされ、イスラム社会では消費を目的とした製品に存在してはならないことになっています。したがって、ゼラチンのスペシエーション分析は、ゼラチンの原料を判定するために重要になります。以前の研究で、タンパク質消化に ProteinWorks キットを使用して、ゼラチンのスペシエーション分析ワークフローを確立しました。3 ステップの ProteinWorks プロトコルでは、多くの手動ピペッティングを伴う複数の試薬添加ステップが繰り返されるため、自動化に最適です。この研究では、ProteinWorks の 3 ステップのプロトコルを変更して、Andrew+ ピペッティングロボットを使用してサンプル前処理を自動化することにより、プロセスの効率がさらに向上しました。ペプチドマーカーの定量は、ACQUITY™ Premier UPLC と Xevo TQ Absolute タンデム四重極質量分析計を組み合わせた LC-MS/MS を使用して行いました。改訂された分析法の性能は、高感度(ブタマーカーの LOD および LOQ は 0.01% および 0.025%)であり、併行精度が高く(% RSD < 8%)再現性が高いことが示されました。
アプリケーションのメリット
- Andrew+ ピペッティングロボットを使用した自動プロトコルにより、生産性と効率を最大化
- オペレーターによる操作の少ない自動プロトコルにより、サンプル前処理でのミスを最小化
- ACQUITY Premier UPLC ソリューションと Xevo TQ-Absolute によるペプチド検出感度の向上
はじめに
ゼラチンは、幅広い食品および医薬品に使用される一般的な成分であり、ゼラチン製造の主な原料はウシまたはブタに由来します1。 ゼラチンを製造するために使用される動物の種類は、多くの場合、健康および宗教上の理由から制限および規制されています。例えば、ブタ由来のゼラチンは非ハラールと見なされ、イスラム社会では消費が禁止されています。
前回の作業では、Auto-Express ProteinWorks キットを使用した簡単な 3 ステップのサンプル消化プロトコルで、ゼラチンのスペシエーション分析を実施しました2。 得られたトリプシンペプチドは LC-MS/MS で分析しました。消化プロトコルに従うのは簡単ですが、複数の試薬添加ステップを繰り返す必要があり、特に処理するサンプル数が多い場合は手間がかかります。
このアプリケーションノートでは、変更された 3 ステップの ProteinWorks 消化プロトコルを、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して自動化することにより、サンプル前処理の生産性と効率がさらに向上しています。Andrew+ と Peltier+ を使用することで、アクセサリーの加熱および冷却を迅速かつ能動的にコントロールできます。3 ステップの消化プロトコルでは、変性ステップと消化ステップに 2 つの異なる温度が必要であるため、この点は重要になります。サンプルの加熱および冷却プロセスを迅速に自動化する機能により、オペレーターの操作がこれまで以上に最小限に抑えられ、全体的な解析時間が節約されます。
このプロトコルは、クラウドネイティブソフトウェアである OneLab ソフトウェアを使用して、設計および実行されます。直感的なインターフェースにより、プログラミングの知識がなくても迅速に習得できます。OneLab ソフトウェアは、幅広いパラメーター設定により、取り扱う液体の特性に合わせて柔軟にプロトコルをカスタマイズできます。OneLab ソフトウェアプラットホームでは、プロトコルのステップがスクリプトとして記録されるため、トレーサビリティも得られます。プロトコル実行後は毎回、実験レポートが生成されます。ステップに使用された設定、サンプル情報、実行時のタイムスタンプなどの詳細がレポートに記載されるため、業務管理が容易になります。
さらに、このメソッドは、ウシおよびブタのペプチドマーカーの検出感度を最大化するために、ACQUITY Premier UPLC および Xevo TQ Absolute タンデム四重極質量分析計で構成されるシステムに移管されました。改訂されたメソッドの性能は、ハラールマーク付きキャンディーの分析を通じて確立されました。
実験方法
市販のブタゼラチンレファレンス標準試料(Sigma Aldrich)、およびゼラチンを含む 10 種の食品サンプルを、50 mM 重炭酸アンモニウムで前処理しました。その後、標準試料を 80 ℃ で加熱して、15 mg/mL の標準溶液を得ました。0.01% ~ 1% のマトリックス添加検量線作成のために、消化前にブタを含まないハラールマーク付きキャンディーの一部に、ブタゼラチン標準試料を添加しました。
図 1 に示すように、Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、ProteinWorks Auto-eXpress Low 3 消化キット(製品番号:176004077)で変更された 3 ステップのプロトコルを自動化しました。プロトコルは、クラウドネイティブソフトウェアである OneLab™ を使用して、設計および実行されました。
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY Premier UPLC |
カラム: |
ACQUITY Premier UPLC HSS T3 カラム、1.8 µm、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186009468) |
カラム温度: |
40 ℃ |
注入量: |
2 µL |
流速: |
0.40 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ Absolute |
イオン化モード: |
ESI+ |
キャピラリー電圧: |
1 kV |
イオン源温度: |
130 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
ネブライザーガス流量: |
7.0 bar |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
MassLynx™ v4.2 |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.2 |
インフォマティクス: |
TargetLynx™ v4.2 |
MRM トランジション
前回の研究でリストされたものと同じ MRM トランジションを使用してデータを収集しました2。
結果および考察
サンプル前処理の自動化
キャリブレーション標準試料の調製および消化プロトコルでは、試薬や希釈液の追加などのステップで、多数の繰り返しピペッティングを行う必要があります。これらのステップは、特にサンプル数が多い場合、面倒で時間がかかります。Andrew+ ピペッティングロボットによる自動化により、ラボの分析者は手動のピペッティングステップを行う必要がなくなり、より価値の高い作業に集中できるようになります。
図 3 は、Andrew+ と一般的なラボ分析者が、3 ステップの消化プロトコル(加熱および冷却ステップなし)のピペッティングステップを完了するのに要した時間の比較を示しています。Andrew+ では、手動ピペッティングの約 2 倍の速度でピペッティング作業が完了しました。Andrew+ により、潜在的な人的ミスが低減すると同時に、ワークフローの効率を向上させることができます。
3 ステップの消化プロトコルで必要な加熱および冷却ステップについても、Peltier+(消耗品の迅速な加熱/冷却が可能な接続デバイス)を追加することで、Andrew+ により自動化することができます。Peltier+ は 9 ℃/分の冷却速度で数分以内に 80 ℃ から 45 ℃ に冷却します。一般的な加熱ブロックでは受動的に冷却するため、はるかに長い時間がかかります。この機能により、2 つの異なる温度に対応するために 2 つの加熱ブロックを使用する必要がなくなり、時間を節約できます。
この研究の 3 ステップの消化プロトコルは、前回の試験で変更されました。使用するトリプシンの容量が 24 µL から 18 µL へと 25% 低減されるため、同量のトリプシンストック溶液で解析できるサンプル数が増加し、サンプルあたりの分析コストが低減されます。
分析法の性能
ハラールマーク付きキャンディー中のブタゼラチン(0.025% ~ 1%)について、マトリックス添加検量線を作成しました。ロボットを使用する場合の再現性を評価するために、Andrew+ を使用して 2 セットのマトリックス添加キャリブレーション試薬を別々の 2 日間に調製しました。0.04% RSD 以内で安定しているブタマーカーの保持時間を使用して、ピークを同定しました。
図 4 に、4 種のブタマーカーの検量線と残差 % を示します。両日とも、各レベルでの 3 回の注入に基づく決定係数 r2 が 0.998 超で残差が 21% 未満という同等の結果が得られました(表 1)。良好な直線性と正確度により、このメソッドが定量分析に適していることが示されました。
分析法の感度は、スパイクしたキャンディーおよびブランクのキャンディーの分析で得られたクロマトグラムから得られたシグナル/ノイズ比の評価から決定されました。検出限界(LOD)および定量限界(LOQ)は、それぞれブタゼラチンの 0.01% および 0.025% と決定されました。図 5 は、ブタゼラチンの混入がある場合とない場合の、ハラールマーク付きキャンディーマトリックスの MRM クロマトグラムを示しています。
また、併行精度は、0.025% および 0.1% のブタゼラチンをスパイクした、ハラールマーク付きキャンディーの繰り返し(n = 6)分析データを評価することによっても評価しました。得られたピーク面積の RSD が 8.1% 以内で良好な併行精度を示しています。
キャンディーサンプルの分析
表 3 に、確立された分析法を用いてゼラチンが含まれている 10 種の市販のキャンディーのサンプルを分析して得られた結果をまとめています。ペプチドマーカーを検出するには、シグナル対ノイズ比が最低 3 の MRM トランジションが少なくとも 3 つ存在する必要があり、動物種の割り当てには、少なくとも 2 つのペプチドマーカーが存在する必要があります3。
結論
今回の実験では、ゼラチンのスペシエーション分析に Andrew+ ピペッティングロボットを使用した、ProteinWorks Auto-eXpress Low 3 消化キットによるサンプル前処理ワークフローの自動化を実証しています。サンプル前処理ワークフローで使用するトリプシンの容量を変更することで、ProteinWorks キットを最も費用対効果の高い方法で使用できます。Andrew+ ロボットは、手動ピペッティングよりも約 2 倍速くピペッティング作業を完了することができます。Xevo TQ Absolute ベースの LC-MS/MS システムを使用した場合、Andrew+ による分析法の自動化は、高感度(ブタの LOD および LOQ がそれぞれ 0.01% および 0.025%)で併行精度が高い(% RSD < 8%)ことが示されました。
参考文献
- Guo S, Xu X, Zhou X and Huang Y. A rapid and simple UPLC-MS/MS Method Using Collagen Marker Peptides for Identification or Porcine Gelatin.RSC Adv.2018, 8: 3768–3773.
- Yin Ling Chew, Jun Xiang Lee, A Complete Solution for Gelatin Species Authentication in Routine Analysis Using ProteinWorks™ Auto-eXpress Digest Kit and Xevo™ TQ-XS.Waters Application Note, 720007667 2022.
- Song E, Gao Y, Wu C, Shi T, Nie S, Fillmore T L, Schepmoes A A, Gritsenko M A, Qian W, Smith R D, Rodland K D, Liu T. Targeted Proteomic Assays For Quantitation of Proteins Identified by Proteogenomic Analysis of Ovarian Cancer.Sci.Data (2017), 1–13.
720007894JA、2023 年 5 月