• アプリケーションノート

QuEChERS で抽出し、Oasis™ PRiME HLB 固相抽出(SPE)でクリーンアップした後の小麦粉とキュウリに含まれる残留農薬の測定

QuEChERS で抽出し、Oasis™ PRiME HLB 固相抽出(SPE)でクリーンアップした後の小麦粉とキュウリに含まれる残留農薬の測定

  • Henry Foddy
  • Stuart Adams
  • Eimear Trivedi
  • Peter Hancock
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、確立された UPLC™ メソッドを CORTECS™ T3 カラムに移管し、水分とデンプンの含有量の多い食品(キュウリと小麦粉)を使用してこのアプローチをバリデーションすることにより、全体的な分析法の性能を評価したことについて説明します。CORTECS™ T3 カラムを使用すると、生じる背圧が顕著に低いため、性能仕様が低下した LC システムを使用することができます。Xevo™ TQ-S cronos を検出に使用して、これらの食品における典型的な EU 規定の MRL である 0.01 mg/kg の代表的な農薬の選択に対して、同様の分析法の性能が得られることを実証します。このアプローチには、Oasis™ PRiME HLB を用いたパススルー SPE を利用しており、分散型 SPE の迅速で効果的な代替手段になりました。このメソッドを、SANTE ガイドラインを使用して正常にバリデーションしました。0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg でスパイクしたサンプルを分析した結果、キュウリと小麦粉において分析種のそれぞれ 94% および 99% がバリデーション基準に合格し、全体的な %RSD はそれぞれキュウリで 3.6%、小麦粉で 4.6% でした。

アプリケーションのメリット

Oasis PRiME HLB テクノロジーにより、分散型 SPE ワークフローの迅速でシンプルな代替のワークフローが得られるとともに、対象の農薬について優れた回収率を維持することができます。

ACQUITY Arc™ を CORTECS T3 カラムと組み合わせることで、UPLC による残留農薬一斉分析法と同等の実行時間と分析法の性能を発揮する UHPLC メソッドが実現します。

Xevo TQ-S cronos により、1 つの分析メソッドで、150 種を超える農薬について、典型的な EU 規定の MRL である 0.01 mg/kg という高感度の頑健な分析が可能になります。

はじめに

農薬は、現代の食品生態系に不可欠な保護手段であり、害虫、雑草、病気を抑えることで食品供給の安定化に役立ちます。ただし、農作物および人による消費目的の生産物に農薬が過剰または不法に使用されると、これらの化合物が許容できない高レベルになる可能性があり、これが人の健康に悪影響を及ぼす可能性があります1。 そのため、生の農作物中の農薬を監視するため、EU 内での最大残留基準(MRL)が設定され、承認済み農薬が適正農業規範に従って使用されています2。 多くの農薬では、その製品の食品への使用が許可されていない場合、EU 内での既定の MRL である 0.01 mg/kg が使用されます。これは通常、農薬分析メソッドを確立する際に使用されるターゲットのメソッドの定量限界です。

今回、SANTE/11312/2021 で定義されている食品群 1 および 5 に属する食品に含まれる、LC が適用できる広範囲の農薬をルーチン測定するための頑健な定量メソッドの性能について説明します3。 QuEChERS によるサンプル前処理および Oasis PRiME HLB SPE カートリッジ(製品番号:186008887)を使用したクリーンアップに続いて、Xevo TQ-S cronos タンデム四重極質量分析計と接続した ACQUITY Arc システムで分析を行いました4。 Oasis PRiME HLB SPE カートリッジによるパススルークリーンアップは、QuEChERS CEN アプローチを使用した抽出後における、従来の分散型 SPE の迅速で効果的な代替手段になります。Xevo TQ-S cronos の感度と頑健性が示され、EU の既定の MRL である 0.01 mg/kg に準拠した、多くの農薬の同時定量に適合することが示されました。TQ-S cronos の独自の逆コーン設計により、マトリックスの凝集が低減し、装置の稼働時間が長くなります。

この実験の目的は、農薬分析に必要な期待される性能および感度を維持しつつ、クロマトグラフィー分析法を UPLC から UHPLC に容易に分析法移管できることを実証することでした。CORTECS T3 カラムでは、生じる背圧が顕著に低いため、性能仕様が低下した LC システムを使用することができます。このカラムの表面多孔性シリカ粒子の形状により、高い効率と優れたピーク形状が得られるため、カラム寿命が長くなり、ハイスループットの残留農薬一斉分析法に最適です。

実験方法

小麦粉とキュウリのサンプルを地元の販売店で購入し、スクリーニングして、対象の残留農薬が含まれていないことを確認しました。これらのマトリックスは、それぞれデンプンと水分の含有量の高い食品群を代表するサンプルとして選択したものです。サンプルをホモジナイズし、キュウリのサンプルは -20 ℃、小麦粉は室温で保管しました。 

サンプル抽出は、Oasis PRiME HLB Plus Short カートリッジを使用して、dSPE ステップをパススルー SPE に置き換えた改変 QuEChERS CEN メソッド 15662 を用いて行いました(図 1 を参照)5。ルーチンの QuEChERS 抽出を行った後、上清約 4 mL を Oasis PRiME HLB Plus Short カートリッジに通しました。最初の 1 mL を廃棄し、次の 2 mL アリコートをマーク付きのバイアルに回収しました。次に、このサンプルの 250 µL を、注入準備ができている LC-MS バイアル中で、750 µL の H2O で 1 mL に希釈しました。

分析法のバリデーション試験では、キュウリと小麦粉の両方のサンプルの種類について、0.01 mg/kg と 0.1 mg/kg のレベルで、各レベルにつき 5 回繰り返しでサンプルにスパイクしました。直線性は、溶媒とマトリックスマッチドスタンダード(MMS)を使用し、0.005 mg/kg ~ 0.5 mg/kg の範囲(バイアル中濃度がキュウリの場合 0.00125 ~ 0.125 µg/mL、小麦粉の場合 0.000625 ~ 0.0625 µg/mL に相当)で作成した検量線を用いて評価しました。

図 1.キュウリと小麦粉のサンプル前処理メソッドを示すワークフロー

この UHPLC メソッドは、既存の UPLC メソッドから、図 2 に示すカラムカリキュレーター 2.0 ソフトウェア(667005222)を使用して作成しました6。 CORTECS T3 カラムの仕様(120Å、2.7 µm、2.1 mm × 100 mm)を使用して既存の LC メソッドを変換しました。このソフトウェアにより、このメソッドを正確に変換してもシステム設定の最大圧力限界内に収まり、流量と実行時間について UPLC の条件をミラーリングできることを確認できました。

MRM トランジション、およびコーン電圧やコリジョンエネルギーなどの化合物固有の MS パラメーターを、関連する Quanpedia™ データベースからダウンロードしました(付録 1 を参照)。このデータベースには化合物のデータの公定書が格納されており、解析メソッドに加えて、LC メソッドおよび MS 取り込みメソッドも自動的に作成されます。本実験で使用した MS メソッドは Quanpedia によって作成されたもので、農薬ごとに少なくとも 2 つの MRM トランジションが含まれています。ESI+ と ESI- の両方で、パフォーマンスの悪い化合物が優先されるように、イオン源の条件を最適化しました。オートデュエル機能により、メソッド全体を通して、ピークにわたって十分な数のポイント(ピーク当たり 12 データポイント超)を取得できました。 

図 2.カラムカリキュレーター 2.0 ソフトウェア(667005222)を使用した、既存の農薬の LC メソッドの ACQUITY UPLC HSS T3 カラム、1.8 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186003539)から CORTECS T3 カラム、120Å、2.7 µm、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186008484)への移管

UHPLC-MS/MS 条件

LC システム:

ACQUITY Arc(FTN-R サンプルマネージャ搭載)

検出:

Xevo TQ-S cronos

ポストインジェクターミキシングキット:

50 µL 拡張ループ(製品番号:430002012)

カラム:

CORTECS T3 カラム、120 Å、2.7 µm、2.1 mm × 100 mm(製品番号:186008484)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

5 μL

流速:

0.5 mL/分

分析時間:

19 分

移動相 A:

5 mM ギ酸アンモニウム水溶液 + 0.1% ギ酸

移動相 B:

5 mM ギ酸アンモニウム含有 50:50 MeCN:MeOH

+0.1% ギ酸

バイアル:

透明ガラス 12 × 32 mm、スクリューネックバイアル、100 個入り(製品番号:186000273)

グラジエント

ソフトウェア

クロマトグラフィーソフトウェア:

TargetLynx™ XS

MS ソフトウェア:

MassLynx™バージョン 4.2

ソース条件

MS システム:

Xevo TQ-S cronos

イオン化:

エレクトロスプレー

イオン化モード:

+/-

キャピラリー電圧:

+0.4 kV/-0.50 kV

脱溶媒温度:

600 ℃

脱溶媒ガス流量:

1000 L/時間

イオン源温度:

150 ℃

コーンガス流量:

0 L/時間

結果および考察

最低濃度の標準試料中の 0.005 mg/kg に相当する濃度(キュウリと小麦粉についてバイアル内でそれぞれ 0.00125 µg/mL および 0.000625 µg/mL)のマトリックスマッチドキャリブレーションスタンダードを使用する評価により、この分析法の感度を評価しました。このメソッドでは、それぞれのマトリックスブランクのレスポンスが、180 種を超える分析種について必要な報告限界値の基準である 30% 以下を下回っていました。マトリックスブランクのレスポンスは非常に低く、それぞれの保持時間で、定量トランジションまたは定性トランジションのいずれについても、クロマトグラムに大きな干渉は見られませんでした。

逆算したキャリブレーションスタンダードの濃度の、真の濃度からの偏差(残差)は ±20% を超えていませんでした。すべての分析種の残留物が、SANTE ガイドラインに定められたこの許容範囲内でした。これに関するいくつかの例を図 3 および図 4 に示します。キャリブレーションプロットでは、いくつかの例外を除き、ほぼすべての分析種(キュウリで 98%、小麦粉で 96%)が r2 ≥0.99 の値を示しました。キュウリマトリックス中のクロチアニジンとチオファネートメチル、および小麦粉マトリックス中のアルジカルブ、メソトリオン、モノリヌロン、スルフェントラゾン、チオファノックス、ゾキサミドはすべて、r2 > 0.97 またはこれ以上でした。エトフメセート(r2 > 0.94)が、両方のマトリックスでこのしきい値を下回った唯一の分析種でした。両方のマトリックスで、キャリブレーションプロットの大部分は直線的でした。マトリックスマッチド検量線の作成には、重み付け係数(1/x)を使用しました。

図 3.キュウリマトリックス中の一部の農薬の分析で得られたキャリブレーショングラフ
図 4.小麦粉マトリックス中の一部の農薬の分析で得られたキャリブレーショングラフ

マトリックス効果は、LC-MS/MS によるルーチンの農薬分析でしばしば観察され、主に分析種と共溶出してイオン化効率に関して競合するマトリックス成分の存在に起因します。以下の割合計算を使用してマトリックス効果を算出しました。

ここで、bM および bS はそれぞれ、マトリックスマッチド検量線および溶媒検量線の傾きです。
図 5 に示す化合物は、分析法全体にわたったマトリックス効果を示しており、最初に溶出する化合物(メタミドホス)と最後に溶出する化合物(イベルメクチン)、および分析法においてマイナスである 2 化合物の 1 つ(フルアジナム)が他の化合物とともに示されています。

図 5.キュウリおよび小麦粉のマトリックスについて実行した LC-MS/MS 全体で観測されたマトリックス効果(%)

すべての分析種の保持時間(RT)が許容範囲 ±0.1 分以内であることがわかりました。一般的に、1 種類の農薬に対して 2 つのトランジションが検出された場合、イオン比は、SANTE で指定されている、同じシーケンスについてキャリブレーションスタンダードの平均の ±30% の範囲内でした。クロマトグラムの例を図 6 に示します。 

図 6.キュウリおよび小麦粉中のスパイクレベル 0.1 mg/kg におけるクロマトグラフィーでのピーク形状の比較(定量的トランジションを上のトレースとして示しています)

回収率は、0.01 mg/kg と 0.1 mg/kg の 2 濃度での 5 回繰り返しスパイクの分析で得られたデータを使用して評価しました。SANTE ガイドラインでは、試験した各スパイク濃度の平均回収率は 70% ~ 120% と指定されています。図 7 および図 8 で示されているように、QuEChERS 抽出および Oasis PRiME HLB Plus Short カートリッジでのクリーンアップ後、キュウリ(94%)と小麦粉(99%)の両方についてプロットした回収率のほとんどすべてが 70% ~ 120% の範囲内です。

図 7.分析法の分析種の 0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg でのキュウリのスパイクについての回収率のサマリー(各データポイントは 5 回繰り返しの平均)
図 8.分析法の分析種の 0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg での小麦粉のスパイクについての回収率のサマリー(各データポイントは 5 回繰り返しの平均) 

分析した化合物の 95% は、キュウリマトリックス中に最低スパイクレベル 0.01 mg/kg で検出され、両方のスパイクレベルで回収率は 70 ~ 142% でした。小麦粉では、93% の化合物が対応するスパイクレベルで検出され、2 種類のスパイクレベルにわたって回収率は 58 ~ 126% でした。

この分析法の併行精度(%RSD)は十分でした。0.01 mg/kg と 0.1 mg/kg の両方のスパイクレベルにわたる 5 回繰り返し分析の結果から併行精度について評価したところ、キュウリでのクロチアニジンのスパイクレベル 0.1 mg/kg、小麦粉でのフィプロニルおよびマイクロブタニルのスパイクレベル 0.01 mg/kg という 3 つのケース以外すべてで SANTE ガイドラインの範囲内である 20% 以下の偏差でした。図 9 および図 10 に示すように、キュウリおよび小麦粉について、それぞれ 99% の分析種が %RSD の許容範囲内でした。両方のスパイクレベルの平均 %RSD は、キュウリで 3.6%、小麦粉で 4.1% でした。

図 9.分析法の分析種の 0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg でのキュウリのスパイクについての %RSD のサマリー(各データポイントは 5 回繰り返しの平均)
図 10.分析法の分析種の 0.01 mg/kg および 0.1 mg/kg での小麦粉のスパイクについての %RSD のサマリー(各データポイントは 5 回繰り返しの平均)

結論

今回、Xevo TQ-S cronos タンデム四重極質量分析計に接続した ACQUITY Arc を使用した UHPLC-MS/MS によって、キュウリおよび小麦粉という一般的なマトリックス中の残留農薬を測定するための、高感度で正確な残留農薬一斉分析法について説明しました。この分析法により、検量線、感度、室内再現性に関する SANTE ガイドラインに従って、150 種を超える農薬にわたり、典型的な EU MRL 濃度 0.01 mg/kg で信頼性の高い定量を行うことができます。CORTECS T3 カラムでは、従来の UPLC での残留農薬一斉分析法と実行時間が同等であり、同様の分析法の性能を示しました。Oasis PRiME HLB によるパススルー SPE は、dSPE の迅速で効果的な代替手段になり、クリーンアップ後は干渉が許容できるレベルであることがわかりました。

参考文献

  1. Study Supporting The Evaluation Of Directive 2009/128/Ec On The Sustainable Use Of Pesticides And Impact Assessment Of Its Possible Revision. https://ec.europa.eu/food/document/download/89cff414-b640-4099-881e-7828790c565f_en?filename=pesticides_sud_workshop_20210504_pres_study.pdf
  2. EFSA Guide to MRLs in pesticides. https://www.efsa.europa.eu/en/topics/topic/pesticides#group-maximum-residue-levels-
  3. SANTE/11312/2021. https://food.ec.europa.eu/system/files/2022-02/pesticides_mrl_guidelines_wrkdoc_2021-11312.pdf
  4. QuEChERS website (accessed March 24, 2023). https://www.quechers.eu/
  5. European Committee for Standardisation (CEN) EN 15662:2018.Foods of Plant Origin - Multimethod for the Determination of Pesticide Residues Using Gc- And LC- Based Analysis Following Acetonitrile Extraction/Partitioning and Clean-up by Dispersive Spe - Modular Quechers-Method. https://standards.iteh.ai/catalog/standards/cen/167a30bc-edf9-4cf8-b96b-cabd932f2f02/en-15662-2018
  6. Dimple D. Shah, JodiAnn Wood, Gordon Fujimoto, Eimear McCall, Simon Hird, Peter Hancock.Multiresidue Method for the Quantification of Pesticides in Fruits, Vegetables, Cereals, and Black Tea using UPLC-MS/MS. Waters Application Note. 720006886. February 2021.

付録

付録 1.分析法トランジションのサマリー。

720007918JA、2023 年 8 月

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