体系的スクリーニングプロトコルを用いた塩酸ナファゾリン、マレイン酸フェニラミン、および類縁物質の分析のための効率的な分析法開発
要約
体系的スクリーニングプロトコルを使用して、塩酸ナファゾリン(HCl)およびマレイン酸フェニラミンの医薬品有効成分(API)ならびにそれらの類縁物質を分析するための超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)分析法を開発しました。事前に定義した実験計画に従って、主要な選択性係数が試験において体系的にスクリーニングされ、効率的な分析法開発が可能になりました。この分析法の開発には、PDA 検出器と ACQUITY™ QDa 質量検出器の両方を組み込んだ Arc™ Premier システムを使用しました。Empower™ クロマトグラフィーデータシステム(CDS)を使用することで、クロマトグラフィー分析法の作成、ピークトラッキング、データ分析、レポート作成の自動化が可能になりました。最終的な分析法では、質量分析(MS)と互換性がある条件で動作させて、すべての化合物が正常に分離でき、すべてのピーク間で 1.5 以上の USP 分離度が得られるとともに、繰り返し注入で優れた再現性が得られました。
アプリケーションのメリット
- 体系的スクリーニングプロトコルを使用した分析法開発の効率の向上
- Empower 3 CDS ツールによる、クロマトグラフィー分析法の作成、データ分析、ピークトラッキング、レポート作成の自動化
- PDA 検出器および ACQUITY QDa 質量検出器を使用して、成分を正確に同定し、スペクトルピークの純度が確認できる
はじめに
体系的メソッド開発アプローチは、事前に定義された目的と実験プロトコルのセットに基づいています1。 選択性と分離度に影響する重要な要因が、プロセスを通して体系的に評価され、望ましい分離と分離度が得られます。体系的プロトコルを採用することで、再現性のある正確な結果が確実に得られる頑健な分析法を、迅速かつ効果的に開発することができます。
塩酸ナファゾリンとマレイン酸フェニラミンは、眼の炎症やアレルギー性結膜炎の治療に使用される多成分点眼液に含まれる有効成分です2。文献で発表されている分析法の多くは、個々の API の分析向けに設計されているか、不純物(または類縁物質)に対する特異性がありません。塩酸ナファゾリン・マレイン酸フェニラミン点眼液の USP モノグラフは API 分析の手順を指定していますが、不純物についての分析法が欠落しています3。塩酸ナファゾリンの点眼液および点鼻液の USP モノグラフにも、不純物測定に関する手順は記載されていません4,5。欧州薬局方には、塩酸ナファゾリンとマレイン酸フェニラミンの類縁物質の分析向けに、それぞれ別個の 2 種類の分析法が記載されています6,7。
本研究では、体系的スクリーニングプロトコルを使用して、塩酸ナファゾリン API とマレイン酸フェニラミン API、および欧州薬局方で指定されているそれらの類縁物質の分析向けの単一の LC 分析法を開発しています6,7。この体系的プロトコルには、スカウティング、スクリーニング、最適化のステップが組み込まれています。Arc Premier システムと Premier カラムをこの試験では使用しています。Arc Premier システムは、カラムマネージャと溶媒選択バルブを備えており、カラムと有機モディファイヤーの切り替えを自動化することで、分析法開発の柔軟性が高まっています。UV とマススペクトルデータの両方が、試験におけるサンプル成分の正確な同定とトラッキング、ならびにスペクトルピーク純度の検証に利用されています。開発した分析法では、塩酸ナファゾリン API とマレイン酸フェニラミン API、ならびにそれらの類縁物質の同時分析が可能になり、多成分薬物製剤の分析に適しています。
実験方法
化合物(表 1)は Sigma-Aldrich および Toronto Research ケミカル(TRC)から購入しました。質量分析グレードの試薬および溶媒は、Honeywell から入手しました。
サンプルの説明
標準溶液:
個別のストック溶液を 4.0 mg/mL になるようメタノール中に調製しました。ストック溶液を 80:20 水/メタノール希釈液で希釈して、0.5 mg/mL の塩酸ナファゾリンおよびマレイン酸フェニラミンの有効成分、40 µg/mL の類縁物質を含む分析法開発用の混合標準溶液を作製しました。分析法開発に使用する化合物のリストを表 1 に示します。
点眼液
0.3% マレイン酸フェニラミンおよび 0.025% 塩酸ナファゾリンを含む市販の(OTC)点眼液
- サンプルは、希釈液(80:20 水/メタノール)で希釈して、マレイン酸フェニラミンを約 500 µg/mL、塩酸ナファゾリンを 40 µg/mL の使用濃度にすることにより前処理しました。
LC 条件
LC システム: |
Arc Premier システム、アクティブプレヒーター付きカラムマネージャー、PDA 検出器および ACQUITY QDa 検出器 |
バイアル: |
LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV) |
分析法開発の条件
カラム: |
すべてのカラムは 4.6 × 100 mm、2.5 µm XSelect Premier CSH C18(製品番号:186009873) XSelect Premier CSH Phenyl Hexyl(製品番号:186009890) XSelect Premier HSS T3(製品番号:186009859) Atlantis Premier BEH C18 AX(製品番号:186009397) XBridge Premier BEH C18(製品番号:186009848) |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5.0 µL |
流速: |
1.0 ~ 1.5 mL/分 |
移動相: |
A:1% ギ酸水溶液 B:1% 水酸化アンモニウム水溶液 C:水 D1:アセトニトリル D2:メタノール |
グラジエント: |
勾配:10 分間かけて 5 ~ 90、80、70、60% 有機物 時間:10、11、12、13 分間かけて 5 ~ 90% 有機物 |
洗浄溶媒: |
パージ/サンプル洗浄溶媒:50:50 水/メタノール シール洗浄溶媒:90:10 水/アセトニトリル |
検出器の設定: |
PDA: 210 ~ 400 nm(260 nm で抽出) |
最終分析法条件
検出: |
UV @ 260 nm |
カラム: |
XSelect Premier CSH C18、4.6 × 150 mm、2.5 µm(製品番号:186009874) |
カラム温度: |
42 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5.0 µL |
流速: |
1.1 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸含有メタノール溶液 |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
ACQUITY QDa 質量検出器 |
イオン化モード: |
ポジティブおよびネガティブ |
取り込み範囲: |
50 ~ 250 Da |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
2 V |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 FR5SR5 |
結果および考察
分析法開発
体系的スクリーニングプロトコル
体系的スクリーニングプロトコルに従って、塩酸ナファゾリン、マレイン酸フェニラミン、およびそれらの類縁物質を分析するための UHPLC 分析法を開発しました(図 1)。プロトコルは、分離の基準とクロマトグラフィーシステムを定義することから始まり、続いて実験的試験を行いました。分析法開発試験には、迅速スカウティング、スクリーニング、最適化のステップが組み込まれています。望ましい分離を得るため、プロセスの間に、pH、カラムケミストリー、有機モディファイヤーなどの主要な選択性係数を体系的に評価します。分析法開発の各ステップで得られた結果を、特定の基準に照らして評価します。最適な分析法を選択し、事前に定義した性能の許容基準を満たすように、さらに最適化します。
塩酸ナファゾリン、マレイン酸フェニラミン、およびそれらの類縁物質の分離の基準には、ピーク間の USP 分離度 1.5 以上、ピークテーリング 1.5 以下、保持係数(k*)2.0 以上を含めました。カラムマネージャーと溶媒選択バルブで構成した Arc Premier システムを試験用に選択したため、カラムおよび有機モディファイヤーのスクリーニングの自動化が可能になりました。このシステムは ACQUITY QDa 検出器および PDA 検出器と統合されているため、サンプル成分の迅速な同定とピーク純度の確認が可能になりました。
迅速スカウティング
迅速スカウティングの目的は、分析種を最もよく保持する分離条件を迅速に特定することでした。XSelect Premier CSH C18 カラムを使用して、125 mM ギ酸と 125 mM 水酸化アンモニウムのストック溶液で、5 ~ 90% のアセトニトリルのグラジエント(10 分間かける)を使用して低 pH 実験および高 pH 実験を行いました。低 pH 条件および高 pH 条件での分析種のクロマトグラフィー保持は、ACQUITY QDa 検出器からの質量データを使用して、質量対電荷(m/z)比でトラッキングしました(図 2)。データは、ApexTrack による波形解析を使用して Empower で自動的に解析し、ピークを検出しました。Empower 3 ソフトウェアでの MS ピークトラッキング解析およびレポート機能を使用して、pH 実験全体にわたり、各分析種の溶出順序をモニターしました。MS ピークトラッキングレポートには、クロマトグラフィー分析全体にわたって特定の m/z 値を持つ各ピークの保持時間が表示されます(図 2B)。低 pH 条件および高 pH 条件で観察された m/z 114.9 の追加のピークは、マレイン酸塩であり、遊離塩基であるフェニラミンのピークから分離していることがわかりました。ナファゾリン API とナファゾリン不純物 D(m/z 211.1)、フェニラミン不純物 A と不純物 B(m/z 170.1)など、一部の分析種は質量が同じでした。ナファゾリン不純物である化合物 C は ACQUITY QDa で検出されなかったため、この化合物のマススペクトルデータはありませんでした。
Empower カスタムスコアリングレポートにより分離目標を満たしたピークの合計数を確認することで、条件の選択が容易になりました(図 3)。低 pH 条件ではすべての分析種について良好な保持と分離が得られたため、この条件を分析法開発試験のスクリーニング段階に選択しました。
スクリーニング
低 pH で使用する MaxPeak Premier カラムは、有機モディファイヤーであるアセトニトリルおよびメタノールを用いてスクリーニングしました。広範な選択性が得られるように、さまざまなベースパーティクルおよび固定相を選択しました。切り替えバルブが組み込まれたカラムマネージャーによってカラムスクリーニングを自動化でき、ユーザーの操作が不要になりました。分離は、迅速スカウティングステップと同じグラジエントを使用して行いました。試験全体を実行するのに必要なクロマトグラフィー分析法は、Empower サンプルセットジェネレーター(SSG)を使用して作成しました8。Empower SSG 機能により、クロマトグラフィーパラメーターを変更して、装置メソッド、メソッドセット、サンプルセットメソッドを自動的に作成できます。スコアリングレポートによると、Premier CSH C18 およびメタノール溶媒によってピーク数が最大で、分離度が 1.5 以上、ピークテーリングが 1.5 未満の最良の分離が得られました(図 4)。
最適化
すべての分離基準を満たすように Premier CSH C18 とメタノールを使用する分析法をさらに最適化しました。最適化で調整したクロマトグラフィーパラメーターは、グラジエント時間、グラジエント勾配、pH、カラム温度、流速、カラム長などです。粒子径を 2.5 µm に維持したままカラム長を長くすることで、すべてのピークの間の分離度が 1.5 以上という分離の目標が達成されました(図 5)。最適化した分析法により、類縁物質と、高濃度のフェニラミンおよびナファゾリンの有効成分の間の優れた分離が得られました。不純物分析法では、低レベルの不純物を検出するために有効成分が高濃度の試験サンプルの前処理が必要になることが多いため、API のピークと不純物のピークの分離を確保することが重要です。
システム適合性試験
6 回の繰り返し注入によるシステム適合性試験の結果から、保持時間とピーク面積の再現性が優れていることがわかりました(図 6)。ピーク面積と保持時間の相対標準偏差(RSD)は、それぞれ 0.58% 以下、0.05% 以下でした。
点眼液の分析
マレイン酸フェニラミン API および塩酸ナファゾリン API を含む点眼液を分析したところ、開発した分析法により、製剤の添加剤由来のすべての分析種を分離できることが実証されました。これは、多くの場合、クロマトグラフィーピークのスペクトル純度を確認することで行われ、分析法の特異性と一致していました。
本研究では、UV データおよびマススペクトルデータを使用して、500 µg/mL マレイン酸フェニラミンと 40 µg/mL 塩酸ナファゾリンを含む点眼液製剤中の分析種のスペクトルの均一性が確認されました(図 7)。Empower のピークテーブルは、各分析種の純度角度が角度しきい値を下回っていることを示しており、スペクトルの均一性が確認されました(図 7A)。このことは、図 7B にナファゾリン不純物 A で示されたように、UV 純度プロットを使用して目視でも確認されました。さらに、純度スペクトルを使用した Empower 3 での質量分析により、ナファゾリン不純物 A に固有の m/z 229.1 のピーク全体(立ち上がり、頂点、立ち下がり)にわたる 1 つの質量が示されました(図 7C)。UV と MS の両方のスペクトルデータを使用することで、スペクトルの均一性が確認され、分析種がサンプル製剤の添加剤の干渉を受けないことが確認されました。
結論
塩酸ナファゾリン API、マレイン酸フェニラミン API、およびそれらの類縁物質を同時に測定するための単一の UHPLC 分析法が、体系的スクリーニングプロトコルを使用して正常に開発されました。カラムマネージャーと溶媒選択バルブを備えた Arc Premier システムでは、1 回のクロマトグラフィー分析で複数のカラムおよび移動相のスクリーニングを自動的に行うことができます。ACQUITY QDa 検出器と UV 検出器を併用することにより、サンプル成分の迅速な同定、溶出順番のトラッキング、スペクトルピークの純度確認が可能になりました。Empower ソフトウェアにより、ピーク検出、データ分析、レポート作成が自動化されました。
事前に定義された体系的スクリーニングプロトコルと Empower CDS を利用することにより、再現性よく正確な結果が確実に得られる頑健な分析法をより迅速かつ効果的に開発でき、分析法のバリデーションおよびラボ間での移管の成功率を向上させます。
参考文献
- Hong P, McConville P. A Complete Solution to Perform a Systematic Screening Protocol for LC Method Development.Waters White Paper, 720005268, 2018.
- https://www.webmd.com/drugs/2/drug-2734/naphazoline-pheniramine-ophthalmic-eye/details.
- USP Monograph, Naphazoline Hydrochloride and Pheniramine Maleate Ophthalmic Solution, USP40-NF35, The United States Pharmacopeia.
- USP Monograph, Naphazoline Hydrochloride Ophthalmic Solution, USP40- NF35, The United States Pharmacopeia Convention, official December 2017.3.
- USP Monograph, Naphazoline Hydrochloride Nasal Solution, USP40-NF35, The United States Pharmacopeia Convention, official December 2017.2.
- European Pharmacopeia Monograph, Naphazoline Hydrochloride, European Pharmacopeia 10.0, released January 2009.or 01/2009:0730.
- European Pharmacopeia Monograph, Pheniramine Maleate, European Pharmacopeia 10.0, released January 2009.or 01/2009:1357 .
- Maziarz M, Rainville PD.Automated Creation of Chromatographic Methods for Analysis with an ACQUITY QDa Detector Using Empower Sample Set Generator.Waters Application Brief, 720007775, 2022.
720007850JA、2023 年 1 月