親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)分析法の移行(パート 1):古い HPLC システムから Alliance™ iS HPLC System へ
要約
このアプリケーションノートでは、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)分析法を、さまざまな業界で使用されている古い HPLC システムから Alliance iS HPLC System に正常に移行させる方法について説明します。HILIC 分析法の移行は、HPLC 装置の設計の違いにより、結果に影響が出る可能性があるため、困難になる可能性があります。Alliance iS HPLC System のような適切に設計されたシステムでは、これらの課題を克服してシームレスな移行を行えます。この試験では、米国薬局方(USP)のセチリジン塩酸塩アッセイおよび有機不純物のモノグラフを 2 種類の古い HPLC システムで分析し、Alliance iS HPLC System に移行しました。3 つのシステムはすべて適合性要件を満たしており、同等の結果が得られました。
アプリケーションのメリット
- 標準的な HPLC システムから Alliance iS HPLC System へのシームレスな HILIC 分析法の移行
- シグナル対ノイズ比(s/n)の改善
はじめに
医薬品品質管理(QC)ラボなどの規制対象のラボのほとんどで、中間生成物および最終生成物の分析に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを利用しています。新しい HPLC システムを検討する場合、既存のバリデーション済みの分析法を移行できる機能は重要です。分析法の特定の特性により、このプロセスが複雑になる場合があります。例えば、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)分離では、高有機移動相を使用し、より一般的な逆相クロマトグラフィー(RP)とは異なる洗浄液を使用します。このため、HILIC 分析法に関連する固有の検討事項と課題が生じます。
この試験では、USP のセチリジン塩酸塩アッセイおよび有機不純物のモノグラフを使用して、古い HPLC システムから Alliance iS HPLC System への HILIC 分析法の移行を評価しています1。分析法の性能は、システム適合性要件(テーリング係数、分離度、シグナル対ノイズ比(s/n)、ピーク面積の %RSD、保持時間の %RSD)の分析によって評価します。
実験方法
アッセイ
標準溶液は、USP モノグラフで説明しているように、移動相中に 0.5 mg/mL セチリジン塩酸塩(CAS 番号:83881-52-1)になるように調製しました。
有機不純物
- システム適合性溶液は、移動相中に 4.0 µg/mL セチリジン塩酸塩および 4.0 µg/mL セチリジン類縁物質 A(CAS 番号:246870-46-2)になるように調製しました。
- 感度溶液は、移動相中に 0.1 µg/mL セチリジン塩酸塩になるように調製しました。
- 標準溶液は、移動相中に 0.5 µg/mL セチリジン塩酸塩になるように調製しました。
LC 条件
LC システム: |
1. 古いシステム 1 2. 古いシステム 2 3. Alliance iS HPLC System |
検出: |
1.2489 UV/Vis 検出器、230 nm @ 10 ポイント/秒 2. 可変波長検出器(VWD)、230 @ 6.87 Hz 3. デュアル波長 UV 検出器、230 nm @ 10 ポイント/秒 |
バイアル: |
TruView pH Control LCMS 品質保証マキシマムリカバリーバイアル(製品番号:186005662CV) |
カラム: |
XBridge™ BEH™ HILIC カラム、130 Å、5 µm、4.6 mm × 250 mm(製品番号:186004454) |
カラム温度: |
25 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相: |
アセトニトリル(ACN)、水、および 1 M 硫酸(93:6.6:0.4) |
ニードル洗浄溶媒: |
ACN、水(93:7) |
分析法: |
アッセイ:10 分間のアイソクラティック分析法 有機不純物:18 分間のアイソクラティック分析法 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 FR4 Empower 3.7 |
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結果および考察
セチリジン塩酸塩モノグラフでは、連続分析ができるように、アッセイ分析法と有機不純物分析法の両方に同じ移動相とカラムが必要です。この試験では、各分析の前に移動相とサンプルを調製し、各システムで新しいカラムを使用しました。新しいカラムはそれぞれ分析の前に 12 時間コンディショニングしました。すべての HPLC システムで同様のサンプルシーケンスに従いました。移動相およびアッセイ標準試料をアッセイの分析に使用し、システム適合性溶液、感度溶液、有機不純物標準溶液、および移動相を有機不純物分析に使用しました。
標準試料の注入を含むアッセイの結果、分析法を HPLC システムの間で正常に移行できることが実証されました。アッセイ標準試料に関連するシステム適合性要件(表 1)には、ピーク面積および保持時間の相対標準偏差(RSD)0.73% 以下(NMT)、テーリング係数 2.0 以下などがあります(表 1)。通常、HILIC 分析法には長い平衡化時間が必要であるため、このアイソクラティック分析法では、保持時間とテーリング係数がカラムと分析法の条件の影響を受ける可能性があります。また、面積 %RSD は、システムの注入精度の影響を受ける可能性が高く、高有機サンプル希釈液(アセトニトリル 93% 超)と低面積 %RSD の要件(0.73% 以下)の組み合わせを満たすことが困難になる可能性があります。3 つのシステムはすべてシステム適合性基準を満たしており、新しく設計されたサンプル計量ポンプを搭載した Alliance iS HPLC System では全体的な面積 RSD 0.042% という最小値が得られました。
有機不純物分析法には、標準試料、システム適合性溶液、感度溶液が含まれています。感度溶液により、システムが低レベルの不純物の定量に適していることが保証されます。適合性要件は、保持時間とピーク面積が 2.0% 以下(標準試料)、シグナル対ノイズ比が 10 以上(NLT)(感度溶液)、セチリジンおよびセチリジン類縁物質 A について USP テーリング 2 以下および USP 分離度 2 以上(システム適合性溶液)でした。図 1 からわかるように、すべてのシステムで同等のクロマトグラフィーが行えました。すべてのシステムで適合性要件が満たされていましたが(表 2)、Alliance iS HPLC System では s/n 比が古いシステムよりも高く、ピーク面積 RSD も最小になりました。
ピーク 1 = セチリジン類縁物質 A。ピーク 2 = セチリジン塩酸塩
表 2. 古いシステムおよび Alliance iS HPLC System におけるセチリジン塩酸塩有機不純物のシステム適合性結果
注記:括弧()内の古いシステムの USP シグナル対ノイズ比 2 は、ブランクの指定領域周辺を中心とするノイズを使用して算出しています(以下のセクションを参照)。
カスタム計算を使用したシグナル対ノイズ比の計算:キャリーオーバーの影響
USP General Chapter <621> の最近の変更により、現行のガイドラインでは、シグナル対ノイズ比(s/n)の計算にブランク注入を使用し、半値幅乗数 5 を用いて、ピーク保持時間に関して(可能な限り)ノイズ範囲を中心として算出するように指定されています2。 ただし、ブランクが必要なため、ブランク内の無関係のピークが、溶媒ピークやキャリーオーバーなどの s/n 比の計算に影響を及ぼすことがあります。
この分析では、s/n 比はブランクから、ピークを中心として、ピークの半値幅の 5 倍で算出しました。すべてのシステムにおいてシステム適合性基準が満たされていましたが、古いシステム 2 が感度が最も低いという結果になりました。データをレビューしたところ、古いシステム 2 のブランクのクロマトグラムでは、対象分析種の近くに溶出するピークが観察されました(図 2)。対象ピークとの保持時間のアライメントから、これはキャリーオーバーによるものである可能性が示唆されます。最新の HPLC 分析法にはさまざまなニードル洗浄設計がありますが、多くの古い HPLC システムには、注入ニードルから以前のサンプルを洗い出すオプションがほとんどありません。これに対して、Alliance iS HPLC System の注入サイクルでは、サンプルニードルとパンクチャーニードルを注入の前後に洗浄溶媒で洗浄し、継続的に吸引して排出します。そのため、Alliance iS HPLC System ではブランク試料にピークが観察されず、s/n 比が向上しています(図 3)。
古いシステム 2 はシステム適合性基準を満たしていましたが、キャリーオーバーによる干渉なしで s/n 比の結果を算出する別の方法を評価しました。この方法では、キャリーオーバーの影響を受けないブランクの別の領域を使用しました。計算の実行には、カスタムフィールドを使用しました。カスタムフィールドは以下のように作成しました。
1. サンプルセットメソッドで「ブランク」とラベル付けします(図 4)。
2. 式フィールドボックスに、ブランク注入のラベル定義を含むサンプル間構文を使用してカスタムフィールドを作成します(図 5)。完全な式は以下のとおりです。
2*(Height-(0.5*Blank.1.(Peak to Peak Noise/Scale to µV)))/Blank.1.(Peak to Peak Noise/Scale to µV)
(2*(高さ-(0.5*ブランク.1.(ピーク間ノイズ/μV に合わせる)))/ブランク.1.(ピーク間ノイズ/μV に合わせる))
3. 解析メソッドの Suitability(スータビリティ)タブで指定の Noise Value for s/n(S/N のノイズ値)を設定します。このカスタムフィールドでは、Noise Value for s/n(S/N のノイズ値)は Peak to Peak Noise(ピーク間ノイズ)でなければなりません(図 6)。
4. 次に、解析メソッドの Noise and Drift(ノイズおよびドリフト)タブで、ブランクに使用する適切なセグメントを設定します(図 7)。
このサンプル内カスタム計算を使用することで、再解析後に古いシステム 2 の s/n 比の結果が 21.32 から 85.53 に増加しており、ブランクの s/n 値が無関係なピークの影響を受けることが実証されました。
結論
Alliance iS HPLC System などの最新の HPLC システムには、古い HPLC システムの分析法を正常に実行できること、s/n 比に関して同等あるいはより優れた結果が得られることなど、多くのメリットがあります。ルーチン分析において問題が発生する可能性のある HILIC 分析法を、古い HPLC システムから Alliance iS HPLC System に正常に移行することができました。セチリジン塩酸塩アッセイおよび有機不純物の USP 分析法の移行において、すべての適合性基準が満たされ、Alliance iS HPLC System で古いシステムと同等のクロマトグラフィーが得られていると同時に、面積 %RSD と感度がわずかに向上していました。さらに、Alliance iS HPLC System のニードル洗浄メカニズムの改善により、キャリーオーバーは認められませんでした。
参考文献
- Monograph: USP. Cetirizine Hydrochloride.In: USP-NF.Rockville, MD: USP; 01 Sep 2021.DOI: https://doi.usp.org/USPNF/USPNF_M2902_06_01.html
- General Chapter: USP.621 Chromatography.In: USP-NF.Rockville, MD: USP; 01 Apr 2023.DOI: https://doi.usp.org/USPNF/USPNF_M99380_07_01.html
- “How to Create an Intersample Custom Field - Tip93.” Waters, 11 Nov. 2022, https://support.waters.com/KB_Inf/Empower_Tips_of_the_Week/WKB68884_How_to_create_an_Intersample_Custom_Field
720007993JA、2023 年 6 月