親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)分析法の移行、パート 2:セチリジンのピーク割れのトラブルシューティング
要約
分離のメカニズムがユニークで複雑であることで知られる親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)分析法では、逆相 LC とは異なり、強溶媒と弱溶媒とで違いがあるため、分析法に精通していないと、システムのセットアップに関して課題が生じる可能性があります。薬局方分析のセットアップを行う際には、モノグラフに含まれているのは主要な分析法パラメーターのみであるため、セットアップがさらに困難になる可能性があります。ニードル洗浄溶媒組成などの分析法のパラメーターは通常、モノグラフに含まれていないため、エンドユーザーがこれを評価し、最適化する必要があります。さらに、HPLC 装置の設計の違いにより、洗浄液と流路との相互作用が妨げられないシステムでは、クロマトグラフィーに影響が及ぶ可能性があります。Alliance™ iS HPLC System のように適切に設計されたシステムでは、サンプルの流路と洗浄溶媒の間に相互作用がないことが確認されているため、非常に強い HILIC 洗浄溶媒を使用することができます。この試験では、セチリジン塩酸塩有機不純物の USP モノグラフに記載されているシステム適合性溶液サンプルを使用して、Alliance iS HPLC System および同等の HPLC システム(以下「ベンダー X の HPLC」と記載)のニードル洗浄およびニードル洗浄設計が HILIC 分離に及ぼす影響を評価しました。
アプリケーションのメリット
- Alliance iS HPLC System のニードル洗浄メカニズムの改善
- HILIC 分析法の移行
はじめに
規制対象ラボのほとんどに、設計や特性が異なる可能性のある多数の HPLC システムがあります。このような設計の違いのため、システム間で分析法を移行するには、同等の結果が得られ、ワークフローに影響がないことを確認するための試験を行う必要があります。このような規制対象ラボで実行される分析法の 1 つに、極性化合物の分離に使用される HILIC 分析法が挙げられます。HILIC 分析法では、特にその独自の特性や、HPLC システム間の設計の違いへの対処に不慣れなユーザーにとっては、移行が困難になります。
セチリジン塩酸塩有機不純物の USP 分析法の移行を試行した際、システムの 1 つにおいてシステム適合性溶液サンプルにピーク割れが見られたため、システム適合性を満たすことができませんでした1,2。 HILIC 分析法に余分な水が存在すると、クロマトグラフィー上の問題が発生する可能性があるため、調査を行って、余分な水が観測されたピーク割れの根本原因であるかどうか判定しました。
この試験は、Alliance iS HPLC System とベンダー X の HPLC システムのオートサンプラー設計の違いにより、さまざまな洗浄溶媒組成を使用した場合に、HILIC 分析法による分析結果にどのような影響を及ぼすかについて説明します。
実験方法
サンプルの説明
2 つのレファレンス標準試料(セチリジン塩酸塩(CAS 番号:83881-52-1)およびセチリジン類縁物質 A(RC A)(CAS 番号:246870-46-2))は Sigma-Aldrich から入手しました。システム適合性溶液は、移動相中 4.0 µg/mL セチリジン塩酸塩および 4.0 µg/mL セチリジン類縁物質 A で構成されています。
LC 条件
LC システム: |
1. Alliance iS HPLC System 2. ベンダー X の HPLC システム |
検出: |
1.デュアル波長 UV 検出器、230 nm、10 ポイント/秒 2. 可変波長検出器(VWD)、230 nm、10 Hz |
バイアル: |
TruView™ pH Control LCMS 品質保証マキシマムリカバリーバイアル、製品番号:186005662CV |
カラム: |
XBridge™ BEH™ HILIC カラム、130 Å、5 µm、4.6 × 250 mm(製品番号:186004454) |
カラム温度: |
25 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
1.0 mL/分 |
移動相: |
アセトニトリル(ACN):水:1 M 硫酸(93:6.6:0.4) |
ニードル洗浄溶媒: |
A. ACN:水(93:7) B. ACN:水(80:20) C. ACN:水(60:40) D. ACN:水(40:60) E. ACN:水(20:80) F. ACN:水(7:93) |
分析法: |
有機不純物:18 分間のアイソクラティック分析法 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 FR4 Empower 3.7 |
結果および考察
HILIC 分離におけるピーク割れのトラブルシューティング
USP セチリジン塩酸塩有機不純物分析法をベンダー X の HPLC システムに移行する際に、システム適合性溶液でピーク割れが認められました。HILIC 分離には長時間の平衡化が必要であることを考慮して、最初のトラブルシューティングではカラムに焦点を合わせ、分析の前に確実にカラムとシステムを適切に平衡化しました。他の L3 カラムでも分析用に試験しましたが、同様のピーク割れの問題が発生しました。溶媒の不一致の影響やサンプル希釈液と分析法の開始条件の間の不一致の可能性を特定するために、サンプル調製や移動相調製など、他の一般的なミスの原因についても検討しました。システム適合性サンプルは、USP 分析法に従って移動相中に調製しているため、溶媒の不一致の可能性はありません。新しく調製したサンプルと移動相を使用した分析でも同様のピーク割れが見られたことから、どちらもピーク割れの根本原因ではないことがわかります。
移行しようとしていた分析法は水を強溶媒として使用する HILIC 分析法であったため、余分な水が存在すると、強溶媒の影響によりクロマトグラフィーに悪影響が出る可能性があります3。 オートサンプラーは 10 ℃ に制御されていたため、時間の経過とともに結露が生じ、サンプルバイアルに水が混入した可能性が考えられます。新しく調製したサンプルを、オートサンプラー内(10 ℃)で保管していた以前に調製したサンプルと並べて分析しました。この分析では、結露の発生を防ぐため、オートサンプラーの温度制御をオフにしました。いずれのサンプルで得られたクロマトグラフィーにも、見慣れたピーク割れの問題が表れており、結露がクロマトグラフィーの問題の根本原因ではないことも確認されました。
最後に検討したトラブルシューティングのステップは、ニードル洗浄のステップを除外することでした。この分析法の移行に使用するニードル洗浄溶媒には高い比率の水が含まれていましたが、以前に使用した LC システムでは問題となる挙動は見られませんでした。興味深いことに、ニードル洗浄ステップを除外すると、ピーク割れの問題が解決しました。ニードル洗浄の使用がピーク割れの原因であることを確認するために、ニードル洗浄をオンに戻したところ、ピーク割れが再び発生しました。
次に、洗浄溶媒の影響が認められたことに基づいて、ニードル洗浄メカニズムの設計およびニードル洗浄溶媒の組成がクロマトグラフィーにどのような影響を及ぼすかを検討する試験を設計しました。
試験設計
キャリーオーバーを低減するために、ニードル洗浄溶媒の組成を比較的強くすることは一般に行われています。この分析法は HILIC 分析法であるため、水系含量が多いほど、溶媒強度が強くなります。この試験では、水とアセトニトリルの比が 93:7 水:アセトニトリル(最強)から 93:7 アセトニトリル:水(最弱)までさまざまな 6 種類のニードル洗浄溶媒を評価しました。ニードル洗浄の設計とメカニズムがクロマトグラフィーに及ぼす影響を実証するために、ニードル洗浄のメカニズムが大きく異なる 2 種類の HPLC システムを使用しました。この試験で評価した 2 つのシステムは、Alliance iS HPLC System とベンダー X の HPLC システムです。
ニードル洗浄の影響の評価に使用する HILIC 分析法として、セチリジン塩酸塩有機不純物の USP 分析法を使用しました。システム適合性要件を満たすことが、あらゆる薬局方収載の分析法を実行する際の重要な要素であるため、システム適合性溶液を使用して、どの HPLC システムおよびニードル洗浄溶媒組成が正常に移行できるかを評価しました。
分析を行う前に、同じカラムと移動相を使用して各システムを初期条件で 24 時間平衡化しました。評価した各ニードル洗浄組成について、ラインおよびシステムをニードル洗浄溶媒で十分な時間をかけてプライムし、ラインおよびシステムでの溶媒切り替えが完全に行われるようにしました。ブランク注入に続いて、システム適合性サンプルを 3 回繰り返し注入して取り込みを行いました。3 回目の繰り返し注入の後、ニードル洗浄溶媒を新しい組成に変更し、次の分析を開始する前に十分な時間、再度プライムしました。
6 種類すべてのニードル洗浄溶媒を使用した分析の完了後、すべてのクロマトグラムをレビューし、解析しました。モノグラフによると、システム適合性溶液でのテーリングは 2.0 以下(NMT)で、セチリジン塩酸塩とセチリジン類縁物質 A の間の分離度は 2.0 以上(NLT)である必要があります
ニードル洗浄設計が HILIC 分離に及ぼす影響
図 2 の積み重ねクロマトグラムは、Alliance iS HPLC System で 6 種類のニードル洗浄溶媒組成を使用して得られたシステム適合性サンプルの 1 回の注入の結果を示しています。
すべてのクロマトグラムで、対称のピーク形状が見られ、セチリジン類縁物質 A とセチリジンの分離が良好であることがわかります。各洗浄溶媒組成での 3 回の注入で見られたピークテーリングおよび分離度の平均を、表 1 および 2 にそれぞれ示しています。ニードル洗浄溶媒組成の強度(水系の比率が高いほど強い)に関係なく、モノグラフによるすべてのシステム適合性要件が満たされていました。
表 1
同じ分析法をベンダー X の HPLC システムで実行しました。システム適合性クロマトグラムの例を図 3 に示しています。最後に評価した 2 種類のニードル洗浄組成では明らかに著しいピーク割れが見られます。
ピーク 1:セチリジン類縁物質 A。ピーク 2:セチリジン塩酸塩。
ニードル洗浄溶媒組成 93:7、80:20、60:40、40:60 アセトニトリル:水では、許容可能なクロマトグラムが得られており、表 2 からわかるようにシステム適合性要件も満たしています。20:80 および 7:93 アセトニトリル:水の組成では、著しいピーク割れのために、許容不可のクロマトグラムしか得られず、したがってシステム適合性要件を満たしていません(表 2)。
表 2
Alliance iS HPLC System とベンダー X の HPLC システムの洗浄メカニズムを検討することで、ベンダー X の HPLC システムで見られたピーク割れに関する情報が得られました。ベンダー X の HPLC のニードル洗浄シーケンスでは、必要量のサンプルが吸引された後、ニードルがバイアルから、一定量のニードル洗浄溶媒が入っている洗浄ポート内に移動します。次に、ニードルの外側が洗浄され、ニードルがニードルシートに移動されて注入が開始します。ベンダー X の HPLC システムでのニードル洗浄方法では、ニードルが洗浄ステーションから注入ポート内に直接移動するため、一定量の洗浄溶媒がサンプルとともにシステムに注入されます。HILIC 分析法は水の存在の影響を非常に受けやすいため、強水系での洗浄が、ベンダー X の HPLC システムの洗浄メカニズムに起因するクロマトグラフィーの問題を引き起こします。
Alliance iS HPLC System では、ニードルが適切に洗浄されるように設計されています。ただし、ニードル洗浄溶媒がサンプルとともに流路に導入されることはありません。具体的には、ニードルアームがサンプルバイアルから注入ステーション内に移動し、ここでニードルが洗浄され、サンプルが注入されます。洗浄溶媒は、洗浄ステーションの上と下の両方から、2 本のラインで送液されます。洗浄サイクルの開始時に、パンクチャーニードルがサンプルニードルとともに上部を通ってステーションに入り、上の洗浄溶媒ポート近くに留まります。洗浄溶媒が上と下の両方のポートから導入され、パンクチャーニードル、サンプルニードル、およびそれらの間のスペースが洗浄されます。洗浄溶媒が吸引されて排出され、パンクチャーニードルが上の洗浄ポートの近くにある間に、サンプルニードルが高圧のシール内に下降して注入が開始されます。注入中に、さらに多くの洗浄溶媒が導入され吸引排出されると同時に、サンプルニードルの残りの部分が洗浄されます。サンプル注入が完了してニードルが洗浄ステーションの上部に戻った後も洗浄が継続されます。その結果、Alliance iS HPLC System では、ニードル洗浄溶媒の組成に関係なくピーク割れが見られません。
結論
強水系洗浄を使用するシステムの間で、セチリジン塩酸塩 USP 有機不純物モノグラフなどの HILIC 分析法を移行すると、システムの洗浄メカニズムの違いが原因で、失敗する可能性があります。Alliance iS HPLC System は、キャリーオーバーが最小限に抑えられるとともに、ニードル洗浄溶媒がサンプルマトリックス中に入るのを防ぐように設計されています。Alliance iS HPLC System では、使用する洗浄溶媒に関係なく、注入に洗浄溶媒が入らずにニードルが適切に洗浄され、許容可能なクロマトグラムが得られます。
参考文献
- Monograph: USP. Cetirizine Hydrochloride.In: USP-NF.Rockville, MD: USP; 01 Sep 2021.DOI: https://doi.usp.org/USPNF/USPNF_M2902_06_01.html.
- Pedanou E, Hong P, Lander N. Hydrophilic Interaction Liquid Chromatography (HILIC) Method Migration Part 1: From Legacy HPLC Systems to the Alliance™ iS HPLC System.Waters Application Note. 720007993. June 2023.
- Malm M, Kjellström J. Elimination of the Sample Solvent Effect when Analysing Water Solutions of Basic Peptides by HILIC.Chromatography Today. February / March 2020, Pages 28–30.
ソリューション提供製品
720008063JA、2023 年 10 月