アミノ酸分析法の ACQUITY™ UPLC™ システムから ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムへの適応における装置の検討事項
要約
加水分解したタンパク質、細胞培養物、食品および飼料サンプルを含む幅広いサンプルに対して、アミノ酸分析が日常的に行われています。Waters™ は、UPLC 分析に適した、プレカラム誘導体化キット、粒子径 2 µm 以下のカラム、およびパッケージ化した移動相が含まれる ACQUITY UPLC AAA ソリューションを作成しました2。 新しい装置の進歩に伴い、分析法を新しいシステムに移行できることが重要になります。この試験では、このプレカラム誘導体化分析法を ACQUITY UPLC から ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムに適応する際の検討事項について実証します。分離法を適応させ、最適化した後、直線性、再現性、併行精度、定量限界、検出限界などの性能を実証しました。
アプリケーションのメリット
- ACQUITY Premier バイナリーシステムにより、困難なグラジエントに卓越した精度が得られるとともに高速になるため、ハイスループット分析が可能になる
- 分析法の適応後、ピークの形状、分離能、直線性、定量限界、室内再現精度など、すべての重要な性能特性が維持される
- カラム、標準試料、溶離液、誘導体化キットが含まれる AccQ•Tag™ Ultra ケミストリーキットにより、迅速で信頼性が高く、再現性のあるアミノ酸の誘導体化、分離、定量が行える
- MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを特長とする ACQUITY Premier バイナリーシステムでは、サンプルの損失につながる可能性のある分析種と表面の間の相互作用を最小限に抑えることで、分析種の回収率、感度、再現性が向上する
はじめに
アミノ酸分析(AAA)は、UV 吸光度が低いまたはまったくないことやアミノ酸の幅広い化学特性により、非常に困難になる場合があります。このような課題を考慮し、カルバミン酸 6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジル(AQC)を使用したプレカラム誘導体化の後に逆相分離を行ったところ、UHPLC/UPLC システムを用いたアミノ酸の定量分析において非常に再現性が高い手法であることが分かりました1。 ただし、常に新しいシステムが導入されており、分析法の性能を維持しつつアミノ酸ソリューションを移行することが重要になります。この研究では、ACQUITY UPLC で開発された古い分析法を、分析法の移行に影響を及ぼす可能性のあるいくつかの重要な設計上の違いがある新しい LC プラットホームである ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムに移行します。これらの違いを考慮するために分析法を一部変更する必要がありましたが、最終的な分析法条件により、元の分析法を ACQUITY UPLC システムで実行した場合とほぼ同一の結果が得られました。
実験方法
すべてのキャリブレーションスタンダードは、ノルバリン(製品番号:186009301)を内部標準、0.1 N HCl を希釈溶媒として使用して、Waters アミノ酸標準試料(製品番号:WAT088122)から調製しました。内部標準のストック溶液は、0.1 N HCl 中に濃度 2500 µM になるように調製しました。キャリブラントの最終濃度は、すべてのアミノ酸について 1、5、10、20、50、100、200、500 µM(ただしシステインは半分の濃度)で、ノルバリン(内部標準)は 250 µM でした3。 精度サンプルは 500 µM(システインは 250 µM)の濃度で調製しました。ノルバリンは 250 µM で一定に保ちました。
LC 条件
LC システム: |
パッシブプレヒーターとインラインフィルターを搭載した ACQUITY UPLC システム、およびアクティブカラムプレヒーターとインラインフィルターを搭載した ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステム |
検出: |
ACQUITY UPLC システム - 10 mm の UPLC 分析フローセルおよび CH-A カラムヒーターを搭載した ACQUITY TUV 検出器 ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステム - 10 mm の UPLC 分析フローセルおよび CH-A カラムヒーターを搭載した ACQUITY TUV 検出器 |
波長: |
260 nm |
サンプリングレート: |
10 Hz |
バイアル: |
LCGC 品質保証透明ガラス 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、トータルリカバリー、キャップおよび PTFE/シリコンセプタム付き(スリットなし)(製品番号:186000384C) |
カラム: |
AccQ•Tag Ultra C18、1.7 µm 2.1 × 100 mm(製品番号:186003837) |
カラム温度: |
ACQUITY UPLC システムでは 55 ℃(加水分解物および食品・飼料の場合)、60 ℃(細胞培養物の場合) ACQUITY Premier 固定ループシステムでは 55 ℃(加水分解物および食品・飼料の場合)、50 ℃(細胞培養物の場合) |
サンプル温度: |
20 ℃ |
注入量: |
1 µL(ACQUITY UPLC システム)および 0.5 µL(ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステム) |
注入モード |
パーシャルループニードルオーバーフロー(PLNO) |
流速: |
0.7 mL/分 |
移動相 A: |
加水分解物および食品・飼料の場合、1:20 希釈した AccQ•Tag 溶離液 A(製品番号:186003838) 細胞培養物の場合、1:10 希釈した AccQ•Tag 溶離液 A |
移動相 B: |
AccQ・Tag Ultra 溶離液 B(製品番号:186003839) |
弱ニードル洗浄溶媒: |
95:5(v/v)水:アセトニトリル(ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステム) |
強ニードル洗浄溶媒: |
5:95(v/v)水:アセトニトリル(ACQUITY UPLC システム) 95:5(v/v)水:アセトニトリル(ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステム) |
シール洗浄溶媒: |
50:50(v/v)水:アセトニトリル(ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステム) |
グラジエントテーブル
データ管理
クロマトグラフィーデータシステム: |
Empower™ 3、FR 3.7.0 |
結果および考察
幅広い種類のアミノ酸を分離する場合、温度、グラジエント送液、その他の条件のわずかな変化が保持性や選択性に影響を及ぼすため、困難になります。これらの課題を考慮すると、LC システム間の違いにより、システムごとに分析法を最適化する必要がある可能性があります。この試験では、タンパク質加水分解物からアミノ酸を分離するための分析法条件を、ACQUITY UPLC システムでのアミノ酸トータルソリューションの 2.1 × 100 mm での分離から適応させました1。 アミノ酸のプレカラム誘導体化をカルバミン酸 6-アミノキノリル-N-ヒドロキシスクシンイミジル(AQC)を使用して行った後、逆相液体クロマトグラフィーでこの誘導体を分離しました1。
装置の検討事項
ACQUITY UPLC AccQ•Tag Ultra ソリューションの装置分析法を、ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムで試験しました。十分な分離およびクロマトグラフィー性能を得るためには、分析法の調整が必要でした。最終的な分析法条件を評価するために、ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムの両方を試験しました。いずれのシステムも、バイナリーポンプ、固定ループサンプルマネージャー、TUV(チューナブル波長)検出器で構成されています。両者の違いには、ACQUITY UPLC システムにはパッシブプレヒーター、ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムにはアクティブカラムプレヒーターが搭載されていることや、システム拡散のわずかな違いなどがあります。
HPLC でのアミノ酸分離における分析法の最適化
標準試料およびサンプルに起因する可能性のある違いがないように、標準試料およびサンプルは、前処理、誘導体化、プールした後、2 つのシステム間で分割しました。移動相も大きなバッチとして調製し、2 つのシステム間で分割しました。2 つのシステム間で同じカラムを使用して、すべてのカラムのばらつきを減らしました。
調整しないで分析法を直接移行すると、ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムでヒスチジンのピークの形状の歪みが生じました。これはシステム拡散が少ないことによって引き起こされる強溶媒効果に起因する可能性があります(図 1)。ACQUITY Premier バイナリーシステムにより、アミノ酸分析に必要な感度、困難なグラジエントに必要な精度、ハイスループット分析に必要な速度上昇が得られます2。 強ニードル洗浄溶媒を 5:95 水:アセトニトリルから 95:5 水:アセトニトリルに変更するなどの、いくつかの分析法の調整について評価しました。
最後に、注入量の調整について検討しました。誘導体化後、注入溶媒には分析法の開始条件と比較して相対的に有機溶媒が多く含まれているため(20%)、注入量を減らすことでヒスチジンのピーク形状を改善することができました。ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムでは、注入量が 0.5 µL を超えると有意により大きなピークの歪みが生じたため、このシステムでは、注入量 0.5 µL が許容可能と判定しました(図 2)。注入量を 50% 減らすことによる感度の変化も評価しました。
各システムにおいて注入量を調整した後、加水分解物標準試料を用いてクロマトグラフィー性能を比較しました(表 1)。両システムにおいて、タンパク質加水分解物中のアミノ酸について、許容範囲内の USP 分離度(2.0 超)およびピーク形状が得られました(図 2 および図 3)。
ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムでのアミノ酸分析の検証
保持時間およびピーク面積の両方について十分な併行精度が得られるように、調整済み注入量(0.5 µL)のタンパク質 AA 加水分解物標準試料を使用して各システムを試験しました。結果は、両方のバイナリーシステム間で同等でした。6 回繰り返し注入において、500 pmol の標準試料(オンカラムで 25 pmol)の保持の %RSD はすべて < 0.5% でした。
各システムの面積精度についても同等の結果が得られました。ACQUITY UPLC システムでは、加水分解物のアミノ酸すべての面積 RSD が 0.2% ~ 0.4% でした。ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムでは、加水分解物の面積 %RSD は 1.1% ~ 1.4% でした。ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムでは面積のカウントがわずかに低く、%RSD が高くなりましたが、いずれのシステムでも面積の併行精度が良好であることが実証されました。保持時間およびピーク面積の再現性の結果を、表 2 および表 3 に示します。
保持時間および面積 RSD の室内再現精度
アミノ酸の分析および定量では、併行精度に加えて室内再現精度も重要です。ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムの両方を、1 日 6 サンプルで 3 日間にわたって試験しました。内部標準(ノルバリン)を使用してサンプル前処理の差を標準化しました。分析では、6 回の注入の日内精度および 3 日間にわたる計 18 回の注入の累積精度を評価しました。
両システムでの結果において、保持時間および面積の日内精度が高いことが実証されました。保持時間は 3 日間にわたってすべて RSD 1.5% 以内で、精度は各システムについての予測保持時間の範囲内に問題なく収まっていました。ピーク面積の %RSD は、1 日内では 1.8% 以内、3 日間全体では 2.2% でした。この結果から、ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムの両方で再現性が実証されました。
直線性および検出限界/定量限界
すべてのアミノ酸を正確に定量できるように、ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムの両方について、直線性、検出限界(LOD)および定量限界(LOQ)を評価しました。直線性は、加水分解物標準試料を 1 µM ~ 500 µM の範囲の 8 種類の濃度レベルで注入して決定しました。両方の装置での検量線で、すべてのアミノ酸について許容範囲内の R2(>0.99)が得られました。ダイナミックレンジ全体にわたって標準試料が分布していることを考慮して、検量線に 1/x 重み付けを行いました。シグナル対ノイズ 10:1 以上と定義される定量限界(LOQ)は、いずれのシステムでも 1 µM でした。LOQ を超える値はすべて偏差 17% 未満で、LOQ での偏差は 30% 未満でした。注入量が異なるにもかかわらず、いずれの装置でも、シグナル対ノイズ比 3:1 に基づいて検出限界(LOD)が 0.5 µM と判定されました。
理論値および濃度 RSD からの数日間にわたる濃度の %偏差を計算しました。いずれのシステムでも、3 日間にわたって、低い %偏差および低い RSD が認められました。
追加のアミノ酸標準試料の分離
追加のアミノ酸標準試料の分離を、ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムにおいて、注入量 0.5 µL で行いました。十分な分離を得るには、細胞培養標準試料の場合はカラム温度 50 ℃ が必要でした。食品・飼料標準試料の分離は 55 ℃ で行いました。
お客様の多くはサンプル中のヒドロキシプロリンおよびシステイン酸の両方を分析する必要があるため、食品・飼料標準試料にはヒドロキシプロリンをスパイクしました。いずれのアミノ酸もグラジエントの初期(<3% 有機溶媒)に溶出し、再現性のある分離にはバイナリーポンプが必要になる場合があります。図 5 に示すように、正常な分離が得られました。
栄養ドリンクの定量分析
アミノ酸粉末ドリンクミックスの定量分析を、ACQUITY UPLC システムおよび ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムで行いました。この分析法により、粉末ドリンクミックスサンプル中のアミノ酸含有量について、同等の結果が得られました。ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムでの、標準試料およびサンプルのクロマトグラムを図 6 に示します。2 つのシステム間で %差が小さいことは、定量の再現性が高いことを示しています(表 7)。
結論
ACQUITY UPLC システムでの AccQ•Tag Ultra 分析法を、ACQUITY Premier バイナリー固定ループシステムに正常に移行することができました。注入量を元の分析法の 1 µL から 0.5 µL に変更して、ヒスチジンのピーク形状に対する強溶媒の影響を低減しました。両方のシステムで分析法の性能を評価し、注入量を調整した後に、直線性、精度、室内再現精度、LOD、LOQ の結果が許容範囲内であることを確認しました。いずれのシステムも、% RSD が低く、正確な定量結果が得られたことから、全体的な性能が同様であることが実証されました。
さらに、細胞培養物および食品・飼料の標準試料も分析しました。細胞培養物の分析法では、十分なピーク形状と分離が容易に得られるように、カラム温度を 60 ℃ から 50 ℃ に調整する必要がありました。ヒドロキシプロリンをスパイクした食品・飼料標準試料は、注入量を減らすのみで正常に分離できました。
最後に、調整した分析法を使用して 2 つの粉末ドリンクミックスサンプルを分析し、両方のシステムを使用して得られた定量結果を比較しました。粉末ドリンクミックスサンプル中のアミノ酸含有量の定量結果は、2 つのシステムとサンプルのラベル表示の間で良く一致していました。このことは、2 つのシステムの間で定量の再現性が高いことを示しています。
参考文献
- Amino Acid Analysis Application Notebook, 720006130, 2020.
- Jennifer Simeone, Paula Hong. Instrument Considerations for Successful Adaptation of Amino Acids Analysis Methods Which Utilize Pre-Column Derivatization from an ACQUITY UPLC to an ACQUITY Premier Binary System.Waters Application Note, 720007440, 2021.
- Amino Acid Standard Kits Care and Use Manual.Waters Care and Use Manual, 72000663.
720008073JA、2023 年 10 月