Xevo™ TQ-XS 質量分析計を用いたヒト血漿中のセマグルチドの定量:非常に高感度で信頼性の高い分析法
要約
この試験では、ヒト血漿中のセマグルチドを正確に定量するための、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計と ACQUITY™ Premier UPLC™ を組み合わせた、非常に高感度で頑健な分析法の開発およびバリデーションについて紹介します。LC-MS/MS メソッドでは、ACQUITY Premier Peptide BEH™ C18 カラムを使用した質量検出およびクロマトグラフィー分離に最適化されたパラメーターが提示されています。イオン対試薬としてジフルオロ酢酸(DFA)を取り入れたことにより、荷電分析種のピーク形状と感度が向上し、ピークがよりシャープになって、イオン化効率が高まりました。メソッドのバリデーションにより、その選択性、感度、再現性が優れていることが確認され、臨床的妥当性のある濃度範囲(0.1 ng/mL ~ 20 ng/mL)で直線性が評価されています。品質管理(QC)サンプルを使用した精度と正確度(P & A)の評価において十分な結果が得られ、% 正確度は許容範囲内であり、変動係数(CV)値は 8% RSD 未満でした。この開発されたメソッドは、糖尿病管理における研究応用および臨床応用を前進させ、セマグルチドの正確な定量のための有用なツールになって、バイオアナリシスサイエンスにおけるペプチド分析の進歩に寄与することが大いに期待されます。
アプリケーションのメリット
- 精密かつ正確な測定:このメソッドにより、0.1 ng/mL という定量下限(LLOQ)濃度のセマグルチドを正確に測定できる
- 非常に特異的で選択的なサンプル前処理:SPE(固相抽出)の使用により、サンプル前処理プロセスにおいて高い特異性と選択性が確保され、分析の前に複雑なサンプルマトリックスから分析種を濃縮して、信頼できる結果が得られる
- クロマトグラフィー分離:金属と相互作用する化合物の非特異的結合を低減するように設計された Premier BEH Peptide カラムをクロマトグラフィー分離に使用しており、感度が向上し、ピーク形状が改善されている
- ACQUITY Premier UPLC の使用:このシステムには MaxPeak™ 表面が取り入れられており、これによって、表面での相互作用と吸着が低減し、分析種の回収率、再現性、感度が向上して、キャリーオーバーの影響が最小限になる
- QuanRecovery™ ポリプロピレン製バイアルの使用:これらのバイアルは、分析種の吸着を最小限に抑え、回収率を改善し、サンプル分析の再現性を確保するように設計されている。分析種の非特異的結合が減少し、サンプル抽出および分析における回収率が向上する
はじめに
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)アナログであるセマグルチドは、2 型糖尿病および肥満を管理するための有望な治療選択肢として登場しました。 これは新たに開発された GLP-1 受容体作動薬であり、構造的にリラグルチドと類似していますが、半減期が長くなるように改良されています1。 2020 年には、米国で T2D 用に一般的に処方される医薬品のうち 129 番目にランクされ、400 万回を超えて処方されています。世界の成人のほぼ 9% が T2D を罹患しており、T2D は糖尿病症例の約 90% を占めています2-3。 T2D の管理および関連する合併症の低減には、効果的な血糖管理が不可欠です。セマグルチドは、ヒトインクレチン GLP-1 と同様に、インスリン分泌と血糖除去を促進し、血糖管理の改善につながります。したがって、2 型糖尿病の成人患者のダイエットとエクササイズの補助になることが知られています4。その週 1 回の投与で強力な血糖コントロール効果が、臨床現場で大きな注目を集めています5-6。 セマグルチドの安全かつ効果的な臨床管理を確保するには、ヒト血漿中のこのペプチドを正確かつ確実に定量することが極めて重要です。この試験では、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を使用して、ヒト血漿中のセマグルチドの精密定量のための、非常に高感度で頑健な分析法の開発とバリデーションについて紹介します。分析法の最適化は、複雑な血漿サンプルでの感度の向上、信頼性の高い再現性、マトリックス干渉の最小化の必要性が原動力になりました。
メソッドのバリデーションプロセスでは、国際的な規制ガイドラインに厳密に従い、これによってメソッドの精度、正確度、選択性を保証しました。臨床的に妥当な濃度範囲をカバーするようにキャリブレーションスタンダードを調製し、品質管理サンプルを取り入れてメソッドの頑健性を評価しました。
実験方法
この試験では、標準溶液およびスパイク溶液を、2 %ギ酸を含む水とアセトニトリルの 1:1 混合液で希釈しました。0.1 ~ 20 ng/mL の範囲の検量線を作成するために、ヒト血漿の被験サンプルに既知量のセマグルチド標準試料をスパイクしました。さらに、品質管理(QC)サンプルは、0.1 ng/mL(下限 QC)、0.5 ng/mL(低 QC)、5 ng/mL(中 QC)、20 ng/mL(高 QC)の 4 種類のレベルでスパイクしたセマグルチドを使用して調製しました。この実験では内部標準試料は使用しませんでした。
サンプル前処理
サンプル前処理を開始する際に、500 µL のヒト血漿を取り、等量のアセトニトリルで処理しました。1 分間十分にボルテックス混合した後、サンプルを 10 ℃ で 5 分間、15000 rpm で遠心分離しました。
分析条件
LC 条件
LC システム: |
FTN SM を搭載した ACQUITY I-Class Premier UPLC |
バイアル: |
Quan Recovery、MaxPeak 12 × 32 mm PP 300 µL スクリューキャップバイアル(製品番号:186009186) |
カラム: |
ACQUITY Premier Peptide BEH C18、300Å、1.7 µm、2.1 × 100 mm(製品番号 186009494) |
カラム温度: |
70 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
15 μL |
移動相 A: |
0.4% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% DFA を含むアセトニトリル |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
エレクトロスプレー(ポジティブイオンモード) |
キャピラリー電圧: |
3.0 kV |
イオン源温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1100 L/時間 |
コーンガス流量: |
300 L/時間 |
コーン電圧: |
50 V |
表 2.セマグルチド用に最適化した MS パラメーター。
MRM メソッド(定量トランジションを太字で示します)
最適なデュエルタイムは、各ピークにわたって最低 20 データポイントになるように、オートデュエル機能を使用して自動的に設定されました。
データ管理
MS ソフトウェア: |
MassLynx™ v4.2 |
インフォマティクス: |
TargetLynx™ XS |
結果および考察
本研究では、血漿からのセマグルチドの正確な定量のための完全なサンプル前処理および UPLC LC-MS/MS メソッドを開発しました。このメソッドには、Oasis 1 cc(30 mg)カートリッジを使用したミックスモード SPE 抽出が含まれます。
定量は、Xevo TQ-XS タンデム四重極型 MS(ESI+)を使用して行いました。装置が目的のイオンを効率的に検出および定量でき、サンプル中のセマグルチドの同定および定量のための精密かつ正確な結果が得られるようにするには、チューニングのプロセスが重要です。セマグルチドは、他の多くのペプチドやタンパク質と同様に、その構造と組成により、エレクトロスプレー質量分析計で複数の荷電を示します。この現象は、生体高分子(ペプチドやタンパク質など)に一般的であり、質量分析で使用するイオン化プロセス(特にエレクトロスプレーイオン化(ESI))の結果です。セマグルチドは複数の塩基性アミノ酸残基(リジンやアルギニンなど)を含むペプチドであるため、イオン化プロセス中に複数のプロトンを引き寄せることができます。それぞれのプロトン化により、正に荷電したイオンが生じます。その結果、図 2 に示すように、質量スペクトルにセマグルチドの複数の異なる多価イオンが見られることがあります。特に、4+ イオンに対応する最も高強度のイオン(m/z 1029)を定量用に選択しました。
最適化された MS パラメーターと MRM トランジションを、上記の説明で言及した実験セクションの表 2 と表 3 にそれぞれ概説しています。
クロマトグラフィー分離は、ACQUITY Premier Peptide BEH C18、300 Å、1.7 µm、2.1 × 100 mm)および ACQUITY I-Class Premier UPLC クロマトグラフィーシステムを使用して行いました。ACQUITY Premier カラムおよびクロマトグラフィーシステムは、金属と相互作用する化合物の非特異的結合を低減するように設計されたハードウェアテクノロジーで製造されているため、感度が向上し、クロマトグラフィーピーク形状が改善されます。このカラムはペプチドの分離専用に設計されており、ペプチドと疎水性相互作用することで、より良好な保持と選択性が得られます。このカラムにより、マトリックスからのセマグルチドの分離において、高い分離能、感度、再現性が得られました。
これに加えて、荷電分析種のピーク形状を改善するためのイオン対試薬として、ジフルオロ酢酸(DFA)を移動相中に使用しました。DFA とのイオン対の形成により、イオン化効率が向上し、質量分析計の感度が向上しました。また、DFA によりプロトン化が促進されて固定相との望ましくない二次相互作用が防止されるため、ピークテーリングを低減するのにも役立ちました(参考文献 7)。
開発したメソッドは、優れた選択性と感度、再現性を示しました。図 3 に、マトリックスブランク試料および 0.1 ng/mL の定量下限(LLOQ)濃度になるようにスパイクしたサンプルの代表的なクロマトグラムを示します。分析種は、マトリックス干渉のない、優れた対称性のピークとして 2.71 分に現れました。さらに、スムージングなしで、LLOQ(0.1 ng/mL)でのシグナル対ノイズ比(S/N)が 30 を超えました。
0.1 ng/mL ~ 20 ng/mL の濃度範囲で直線性を評価したところ、0.999 という優れた相関係数が得られました。この範囲内の代表的な検量線を図 4 に示します。
精度と正確度(P & A)の評価では、QC サンプルを 4 種類のレベル(0.1 ng(LLOQQC)、0.5 ng(LQC)、5 ng(MQC)、20 ng(HQC))になるようにスパイクしました。3 つの別々の P & A バッチを、別の化学者が別々の機会に処理しました。結果は表 4 にまとめています。
すべての QC レベルで、事前にスパイクした血漿サンプルの % 正確度は、それぞれの QC レベルにおける許容範囲内でした。3 つのバッチすべてにおいて、各 QC レベルでの変動係数は 8% RSD 未満でした。さらに、3 つのバッチすべてにおける 4 種類の QC レベルでの平均正確度は 92% ~ 106% の範囲であり、バイオアナリシスバリデーションガイドラインに概説されている合否基準を満たしていました。
結論
結論として、血漿由来のセマグルチドを正確に定量するための、包括的で頑健なサンプル前処理および UPLC LC-MS/MS メソッドが開発されました。精密で正確な結果を得るために重要なチューニングプロセスを行うことで、Xevo TQ-XS タンデム四重極型 MS(ESI+)により、高感度で信頼性の高いセマグルチドの定量を行えました。
MaxPeak 表面を採用した ACQUITY Premier UPLC クロマトグラフィーシステムおよびカラムを使用することで、表面での相互作用と分析種の吸着を効果的に低減することができました。MaxPeak 表面の組み込みにより、分析種の回収率の向上、再現性の向上、感度の向上、キャリーオーバーの影響低減が実現しました。
ACQUITY Premier Peptide BEH C18 カラムを使用したクロマトグラフィー分離により、優れた保持、選択性、感度が得られ、複雑なペプチド混合物の効率的な分離が可能になりました。イオン対試薬としてジフルオロ酢酸(DFA)を含めたことで、逆相 LC における荷電分析種のピーク形状と感度がさらに向上し、質量分析計でのピークがよりシャープになるとともにイオン化効率が向上しました。
バリデーション結果により、0.1 ng/mL ~ 20 ng/mL の濃度範囲にわたって直線性、精度、正確度が優れていたことから、このメソッドが優れていることが実証されました。異なる QC レベルにおける % 正確度および変動係数が合否基準を満たしており、ヒト血漿中のセマグルチドの信頼性および再現性の高い定量が保証されます。
この開発されたメソッドは、糖尿病管理の分野における研究応用および臨床応用を前進させることが大いに期待されます。このメソッドの頑健さと感度により、セマグルチドの正確な定量のための有用なツールが提供され、これによって安全で効果的な医薬品の使用が裏付けられ、バイオアナリシスサイエンスにおけるペプチド分析の発展に寄与します。
参考文献
- 14 December 2017 EMA/CHMP/715701/2017 Committee for Medicinal Products for Human Use (CHMP).
- "The Top 300 of 2020". ClinCalc. Archived from the original on 18 March 2020. Retrieved 7 October 2022.
- "Semaglutide – Drug Usage Statistics". ClinCalc. Archived from the original on 8 October 2022. Retrieved 7 October 2022.
- "Ozempic- semaglutide injection, solution". DailyMed. Archived from the original on 5 June 2021. Retrieved 5 June 2021.
- Goldenberg RM, Steen O. "Semaglutide: Review and Place in Therapy for Adults With Type 2 Diabetes". Canadian Journal of Diabetes. (March 2019) 43 (2): 136–145. doi:10.1016/j.jcjd.2018.05.008. PMID 30195966.
- Kapitza C, Nosek L, Jensen L, Hartvig H, Jensen CB, Flint A. "Semaglutide, a once-weekly human GLP-1 analog, does not reduce the bioavailability of the combined oral contraceptive, ethinylestradiol/levonorgestrel". Journal of Clinical Pharmacology. (May 2015) 55 (5): 497–504. doi:10.1002/jcph.443. PMC 4418331. PMID 25475122.
- Melvin Blaze, Thomas H. Walter. Difluoroacetic Acid as a Mobile Phase Modifier for LC-MS Analysis of Small Molecules. Waters application note 720006776 2020.
ソリューション提供製品
- SKU: 186009186QuanRecovery with MaxPeak HPS 12 x 32 mm Screw Neck Vial, 300 µL, 100/pkオンライン注文は特定のディストリビューターに限定されています。サインインするか、あるいは営業担当者までお問い合わせください。
- SKU: 186009494ACQUITY Premier Peptide BEH C18 Column, 300Å, 1.7 µm, 2.1 x 100 mm, 1/pkオンライン注文は特定のディストリビューターに限定されています。サインインするか、あるいは営業担当者までお問い合わせください。
720008160JA、2023 年 12 月