• アプリケーションノート

食品中の 28 種の EU 規制・勧告対象 PFAS の LC-MS/MS 分析 - パート 1:野菜、果物、ベビーフード

食品中の 28 種の EU 規制・勧告対象 PFAS の LC-MS/MS 分析 - パート 1:野菜、果物、ベビーフード

  • Nicola Dreolin
  • Stuart Adams
  • Kari L. Organtini
  • Simon Hird
  • Oliver Burt
  • Waters Corporation

要約

この試験では、野菜、果物、ベビーフード中のパーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の包括的な分析用に最適化された LC-MS/MS 分析法を紹介します。この分析法は、マトリックス中の一部の化合物に対して 0.0005 µg/kg という非常に低い定量限界を示すと同時に、欧州委員会勧告(EU)2022/1431 にリストされている PFAS 化合物を正確に検出および定量することができます。Xevo™ TQ Absolute MS システムの感度の改善と、プロトタイプの 2 層構造の 2 相 GCB/WAX SPE カートリッジのクリーンアップ効率の向上の組み合わせにより、必須の PFAS について 87 ~ 116%、勧告対象化合物の大半で 65 ~ 131% の優れた回収率が得られ、併行精度(RSDr)は 10% 以下でした。

アプリケーションのメリット

  • EU 委員会勧告にある、必須、勧告対象、および検討中の PFAS の分析用の高感度の定量分析法により、すべての PFAS に関して要件を満たす単一の分析法に組み込むことができる
  • 野菜、果物、ベビーフードにおいて、EURL POP ガイドラインによって設定されている基準を超える極めて低い定量限界(0.0005 µg/kg)を達成
  • ガイドラインの合否基準に準拠し、優れた回収率と併行精度を持つ分析法
  • サンプルクリーンアップ用の GCB および WAX を含む新しい 2 層構造の 2 相 SPE カートリッジを使用して、良好な FOSA 回収率を実現し、中性 PFAS を効果的にクリーンアップ
  • 以前の UPLC™ 分析法と比較して時間効率が向上し、サンプルの分析時間が 50% 短縮すると同時に、直鎖型および分岐型の PFAS 化合物と潜在的な干渉物の間のベースライン分離が確保される

はじめに

パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、さまざまな産業用途で一般的に使用されている合成化合物のクラスであり、その残留性と、健康に悪影響を与える可能性があることで知られています。PFAS は農業環境と食品連鎖中に存在し、消費者に健康リスクを与える可能性があるため、規制機関は、食品中の PFAS レベルの厳格なモニタリングおよび管理をますます優先するようになりました。

欧州連合(EU)では、欧州委員会規則(EU)2022/2388、規則(EC)No 1881/2006 の改正案(2023 年 1 月 1 日から適用)で、PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS の個別の最大基準値とともに、動物由来の食品中のこれら PFAS の合計の最大基準値を設定しています1。 2022 年 9 月から発効した欧州委員会勧告(EU)2022/1431 では、加盟国は、2022 年、2023 年、2024 年、2025 年中に、2022/2388 に定められた範囲よりも広い範囲の食品中のこれらと同じ 4 種の PFAS の存在を検査する必要があると勧告し、さまざまな食品中のより多数の PFAS をモニタリングすることも推奨しています2

2022 年 9 月から発効した欧州委員会実施規則(EU)2022/1428(CIR)には、特定の食品中の PFAS の管理のためのサンプリングメソッドおよび分析法が記載されており、分析法のバリデーションの合否基準、結果の報告と解釈に関する情報も提供されています3。 さらに、EURL POP が 2022 年にリリースした PFAS 分析法に関するガイダンス文書では、予想される分析法の性能および定量限界の情報を提供しています4,5。 AOAC の標準分析法性能要件(SMPR®)には、分析法の評価時に使用すべき最低限の推奨性能特性が記載されています。この評価は、現場での検証、単一ラボでのバリデーション、または多施設共同試験として行われる場合があります。AOAC SMPR は、欧州委員会実施規則(EU)2022/1428 を超えたシナリオでの検証用の合否基準として使用できます。さまざまな食品中の PFAS に関する AOAC SMPR 2023.003 が発表されています6

本研究のパート 1 では、信頼できる分析法のニーズに対応するため、また最新のガイドラインで設定された基準を満たすための、野菜、果物、ベビーフード中の超微量の PFAS の検出および定量用にカスタマイズされた高感度 LC-MS/MS 分析法の開発に焦点を当てます。パート 2 では、動物由来製品中の PFAS の測定に焦点を当てます。

実験方法

標準試料および溶液

標準試料はすべて、Wellington Laboratories 社から購入しました。ストック溶液の調製に以下の標準試料を使用しました。

ネイティブ PFAS 混合ストック溶液(各分析種ごとに 500 ng/mL)をメタノール中に調製し、段階希釈に使用しました。抽出内部標準試料(EIS)混合液(各標識分析種ごとに 1 ng/mL)をメタノール中に調製し、抽出前にこれを食品サンプルにスパイクしました。EIS と注入内部標準試料(IIS)の混合液を、水:メタノール(1:1)中に調製しました(本研究中の混合比はすべて体積比 v:v)。EIS + IIS 混合液には、各 0.2 ng/mL の標識分析種が含まれており、この溶液を検量線用の希釈溶媒として使用しました。最後に、IIS 混合液(各標識分析種ごとに 20 ng/mL)を水:メタノール(1:1)中に調製し、抽出およびクリーンアップの後にこれを各 LC バイアルにスパイクしました。

0.00125 ~ 5 ng/mL(実際のサンプル中で 0.00025 ~ 1 µg/kg に相当)の範囲の溶媒検量線を作成し、サンプルの分析に使用しました。

サンプル前処理

ラボでの操作に先立ち、環境および試薬からの PFAS 汚染を防止または最小限に抑えるためのグッドプラクティスに従いました(詳細はホワイトペーパー 720007905JA に記載)7

被験サンプルは、最寄りの食料品店で購入した野菜(トマト)、果物(リンゴ)、ベビーフード(果物とヨーグルトから作った有機スムーズピューレ)としました。トマトとリンゴの可食部を薄くスライスし、キッチンブレンダーでホモジナイズしました。サンプルはフリーザー(-20 ℃)で保管し、冷蔵庫(4 ℃)で一晩解凍してから抽出しました。

2.5 g のサンプルを 15 mL の Falcon 遠心チューブに入れ、100 µL の EIS を濃度 0.04 µg/kg になるようにスパイクして、数秒間ボルテックス混合しました。

6 mL の 0.3% 水酸化アンモニウムメタノール溶液でサンプルを抽出した後、チューブを 10 分間ボルテックス混合しました。5000 g での遠心分離後、上清を空のきれいなチューブに定量的に移しました。抽出ステップを繰り返し、約 12 mL の抽出液を合わせて、50 ℃ の穏やかな窒素流下で 0.5 mL まで濃縮しました。各サンプルを、試薬水で 8 mL まで再溶解しました。各サンプルの pH をストリップテストでチェックし、再溶解した抽出物の pH が 6 未満になるように、(必要に応じて)50% ギ酸溶液を数滴加えて修正しました。

この抽出物を、弱陰イオン交換体(WAX)およびグラファイトカーボンブラック(GCB)を含む Waters™ のプロトタイプの SPE カートリッジにロードしました。食品サンプルのクリーンアップに使用するカートリッジには、WAX 層の上に GCB 層があります。カートリッジは、15 mL の 1% 水酸化アンモニウムおよび 5 mL の 0.3 M ギ酸水溶液で事前にコンディショニングしました。サンプルをロードした後、カートリッジを 10 mL の試薬水および 5 mL の 1:1 0.1M ギ酸:メタノールで洗浄しました。カートリッジを 10 秒間乾燥させた後、分析種を 5 mL の 1% 水酸化アンモニウムメタノール溶液で溶出させ、溶出液を清浄な Falcon チューブに集めました。

溶出液は、穏やかな窒素流下、50 ℃ でおよそ 1 滴になるまで濃縮した後、0.5 mL の水:メタノール(1:1)に再溶解しました。再溶解は 2 ステップで行いました。まず 250 µL のメタノールを添加し、チューブをボルテックスしました。次に 250 µL の水を添加し、チューブを再度ボルテックスしました。このアプローチは、極性の低い PFAS の溶解度を高めることを目的としています。

再溶解したクリーンアップ済みサンプル(0.5 mL)をポリエチレンキャップ(製品番号:186000305)付きのポリプロピレン製 LC バイアル(製品番号 :186005219)に移しました。(各標識 IIS のバイアル中濃度が 0.2 ng/mL になるように)5 µL の IIS 溶液を各バイアルに添加し、ボルテックスした後、注入用のオートサンプラーに配置しました。このメソッドは図 1 に示しており、得られる濃縮係数は 5 です。

図 1.  野菜、果物、ベビーフードサンプルの抽出およびクリーンアッププロトコルの概略図

LC 条件

LC システム:

PFAS 分析キットを取り付けた ACQUITY™ Premier UPLC

バイアル:

ポリエチレンキャップ(製品番号:186000305)付きポリプロピレン製オートサンプラーバイアル(製品番号:186005219)

分析カラム:

ACQUITY Premier UPLC BEH™ C18、2.1 × 50 mm、1.7 µm(製品番号:186009452)

アイソレーターカラム:

Atlantis™ Premier BEH C18 AX 2.1 × 50 mm、5.0 µm(製品番号:186009407)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

5 µL

流速:

0.3 mL/分

移動相 A:

2 mM 酢酸アンモニウム水溶液

移動相 B:

2 mM 酢酸アンモニウム含有メタノール/アセトニトリル 1/1(v/v)

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ Absolute

イオン化モード:

エレクトロスプレーネガティブ

イオン源温度:

100 ℃

キャピラリー電圧:

0.5 kV

脱溶媒温度:

350 ℃

脱溶媒流量:

900 L/時間

コーン流量:

150 L/時間

MRM メソッド:

MRM メソッドの詳細については、付録を参照してください

データ管理

ソフトウェア:

定量のための waters_connect™

分析法の性能の評価

分析法の性能を、EURL POP PFAS ガイダンスドキュメントおよび AOAC SMPR で設定された基準を使用して評価しました4,6。 ラボ内の分析法の性能については、トマト、リンゴ、ベビーフードのサンプルに、28 種のネイティブ PFAS の混合物を 3 つの濃度レベルで 3 回繰返しでスパイクすることにより、真度を評価しました。次に、前のセクションで説明したように、溶媒ブランク試料、手順ブランク試料、マトリックスブランク試料、スパイク済みサンプルを抽出して分析しました。分析法の併行精度を、日内併行精度の条件で得られる相対標準偏差によって評価しました(RSDr)。各レベルについて、見かけの回収率と RSDr を以下のように計算しました:

レベル 1:分析法の定量下限(m-LLOQ)に対応

レベル 2:m-LLOQ の 10 倍に対応

レベル 3:分析法の定量上限(m-ULOQ)に対応

各バッチの分析シーケンスは、ブランクサンプルおよびスパイクサンプルをブラケットした 2 種類の溶媒キャリブレーション試薬のセット(各検量線について 6 ポイント以上、ブランクを除く)で構成されました。

結果および考察

この分析法には欧州委員会勧告 (EU) 2022/1431 にリストされている 28 種の PFAS が含まれており、これには、必須、勧告対象、「検討中」の PFAS が含まれます(PFAS リストについては表 1 を参照)。

表 1.  欧州委員会勧告 (EU) 2022/1431 にリストされている 28 種の PFAS 化合物の、Xevo-TQ Absolute 質量分析計を使用した場合の保持時間(RT)、装置の検出限界(i-LOD)、装置の定量限界(i-LOQ)。

サンプル抽出の前に EIS をスパイクし、これを用いてネイティブ化合物の抽出回収率およびマトリックス効果を補正しました。サンプルのクリーンアップ後、IIS を添加し、これを用いて再溶解時のばらつき、マトリックス効果、注入時のばらつきを補正しました。EIS および IIS の存在により、ルーチンサンプル分析ではマトリックス添加は不要でした。このアプローチについては、以前の試験で説明しています8

クロマトグラフィー

50 mm BEH C18 カラムで、以前に開発した LC 分析法から分析時間を 22 分から 11 分にスケールダウンしても、直鎖型および分岐型の PFAS のベースライン分離が達成できました。有機移動相中にメタノールとアセトニトリルを組み合わせて使用することで、特定の種類の食品中に一般的に検出される可能性のある干渉物質からの PFAS のベースライン分離が得られました(例:PFOS からのコール酸の分離)。図 2 に、PFHxS および PFOS のクロマトグラムを示します。ここで、クロマトグラフィー分離が良好な場合、直鎖型および分岐型の PFAS が、個別または合計として定量できることに注意してください。LC の最適化に関する情報については、以前の研究のアプリケーションノート 720008108JA を参照してください9

図 2.  0.01 µg/kg の PFHxS(左)および PFOS(右)をスパイクしたトマトのサンプルのクロマトグラム。L = 直鎖型、br = 分岐型。

分析種のクロマトグラフィー保持時間(RT)の IS のクロマトグラフィー保持時間(RT)に対する比(つまり、分析種の相対 RT)は、偏差 1% 以下でキャリブレーション標準試料の相対 RT と一致していました。

最初に溶出する化合物(PFBA、RT = 2.23 分)の RT は、カラムのボイド時間(t0 = 0.37)の 6 倍を超えることから、この試験に含まれるすべての PFAS について十分な保持が得られていました。

直線性および定量限界

ブランクサンプルおよびスパイクサンプルをブラケットした溶媒標準試料のレスポンスをプロットし、1/x 重み付け係数を使用して検量線を作成しました。分析法の直線性範囲は、分析種とマトリックスによって異なりました。検量線の決定係数(R2)は 0.99 超で、残差は大部分の場合で ±20% 以内でした。サンプル抽出物からのイオン比は、同じシーケンスからのキャリブレーション標準試料の平均の ±30%(相対)以内でした。

装置検出限界(i-LOD)10 を溶媒標準試料について計算したところ(LOD レベルでシグナル対ノイズ比 3 以上)、個々の PFAS について 0.0004 ng/mL(オンカラムで 2 fg に相当)という低い値でした。

分析法の定量下限と定量上限(m-LLOQ および m-ULOQ)をそれぞれキャリブレーション範囲の下限と上限として使用したところ、シグナルノイズ比が 10 以上(ノイズ解析 = peak-to-peak)になりました。被験サンプルでは、m-LLOQ は 0.0005 µg/kg という低い値でした。i-LOD、i-LOQ、保持時間を表 1 に示し、各食品における m-LLOQ、分析法の直線性範囲、直線性を表 2、3、4 に記載しています。

特に、4 つの必須の PFAS(PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS)は、この分析法により、試験したすべての食品を最低 0.0005 µg/kg まで正確に定量できます。図 3 に検量線と残差プロットを示し、図 4 に m-LLOQ レベルでのクロマトグラムの例を示します。

図 3.  EU で必須の PFAS(PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS)の検量線および残差プロット
図 4.  リンゴサンプル中の EU で必須の PFAS(0.0005 µg/kg)のクロマトグラム。S/N:シグナルノイズ比(ノイズ解析 = peak-to-peak)。

真度と併行精度

ブランクサンプルへの 3 濃度レベルでのスパイクを行った回収率実験によって真度(見かけの回収率として測定)を評価しました。ネイティブ PFAS のパネル全体を合わせて考慮すると、すべてのスパイクレベルにわたる平均回収率は、トマトで 101±14%(最低 = 65%、最高 = 131%)、リンゴで 98 ±13%(最低 = 65%、最高 =131%)、ベビーフードで 99 ± 13%(最低 = 66%、最高 = 127%)でした。4 種の必須化合物(PFOS、PFOA、PFNA、PFHxS)の見かけの回収率は 84 ~ 116% でした。欧州委員会勧告(EU)2022/1431 でモニタリング目的で勧告および検討されている残りの PFAS では、見かけの回収率は 65 ~ 131% の範囲内でした。いずれの結果も、CIR、EURL POP ガイドライン、および AOAC SMPR に記載されている真度に関する合否基準を満たしています。併行精度(RSDr)は、AOAC SMPR* の RSDr について記載された範囲内であり、すべてのマトリックスおよびすべてのスパイクレベルにわたって 0.4 ~ 10% の範囲でした。PFDS、9Cl-PF3ONS、11Cl-PF3OUdS のみが例外で、これらのリンゴとベビーフードでの回収率は基準範囲内でしたが、トマトでの回収率はそれぞれ 53、52、58% でした。それでも、これら 3 化合物の RSDr は 10% を十分に下回っており、精度が損なわれていないため、回収率の補正係数を適用できる可能性があります。回収率と RSDr は表 2、3、4 に示し、図 5、6、7 にプロットしています。

表 2.  トマトにおける分析法性能のパラメーター:分析法の検出限界(m-LOD)と分析法の定量下限(m-LLOQ)、直線性範囲、3 レベルでの回収率、併行精度の条件下でのそれぞれの相対標準偏差(RSDr%、n=3)。ULOQ = 分析法の定量上限(検量線の最高レベルに相当)。
表 3.  リンゴにおける分析法性能のパラメーター:分析法の検出限界(m-LOD)と分析法の定量下限(m-LLOQ)、直線性範囲、3 レベルでの回収率、併行精度の条件下でのそれぞれの相対標準偏差(RSDr%、n=3)。ULOQ = 分析法の定量上限(検量線の最高レベルに相当)。
表 4.  ベビーフードにおける分析法性能のパラメーター:分析法の検出限界(m-LOD)と分析法の定量下限(m-LLOQ)、直線性範囲、3 レベルでの回収率、併行精度の条件下でのそれぞれの相対標準偏差(RSDr%、n=3)。ULOQ = 分析法の定量上限(検量線の最高レベルに相当)。

(*)この試験では、室内再現精度(RSDR)の評価は行いませんでした。

図 5.  トマトでの 3 種類のスパイクレベルの PFAS の回収率を示す棒グラフ。赤線は、EURL POP ガイドラインで設定されたしきい値を示します。
図 6.  リンゴでの 3 種類のスパイクレベルの PFAS の回収率を示す棒グラフ。赤線は、EURL POP ガイドラインで設定されたしきい値を示します。
図 7.  ベビーフードでの 3 種類のスパイクレベルの PFAS の回収率を示す棒グラフ。赤線は、EURL POP ガイドラインで設定されたしきい値を示します。

この試験では、マトリックスサンプル中のみでなく、ギ酸やメタノールなどの溶媒や試薬中にも、著しく高い PFBA による汚染が認められました。PFBA は、手順ブランク試料中に、トマトとリンゴの両方において 0.2 µg/kg の濃度で検出されました。さらに心配なことに、PFBA はベビーフード中にも推定濃度 17.5 µg/kg で検出されました(検量線から外挿)。PFBA 汚染は、バッチごとに異なるものの、試験したすべての種類とブランドのメタノールに必ず存在していたため、本研究ではこの化合物の正確な回収率のデータを取得することができませんでした。

多くの PFAS 化合物が、マトリックスブランク試料中にも m-LLOQ に近いレベルで検出されました。このような場合は、回収率の計算においてブランク引き算を行いました。

キャップストーン A および B を分析法開発の段階で調査したところ、プロセスの回収率が非常に低い(10% 未満)ように思われました。その原因をさらに理解するため、コンディショニング後の GCB/WAX カートリッジに溶媒標準試料を 0.5 ng/mL になるようにロードし、水またはメタノールで希釈してバイアル中の最終組成を 1:1 水:メタノールにした後に固相抽出(SPE)プロセスの各フラクションを回収して分析する実験を行いました。図 8 からわかるように、キャップストーン A および B では、それぞれ約 31% および 37% の分析種が 2 番目の洗浄ステップで失われました。一部の研究者11も、これらの双イオン性化合物が GCB/WAX SPE カートリッジに効率的に保持されないことを見出し、キャップストーンを他の PFAS から分離して、抽出-希釈-注入のアプローチでキャップストーンを分析することを推奨しています。これらの低回収率の原因となる別のファクターとして、ESI でのイオン化抑制現象の影響がこれらの化合物に影響している可能性があります。さらに、キャップストーン A およびキャップストーン B の標識内部標準試料は市販されておらず、その独特の化学構造のため、より正確な定量を行うために標準試料添加アプローチを用いました。

図 8.  SPE プロトコルの各フラクションにおけるキャップストーン A(上)とキャップストーン B(下)のクロマトグラム。洗浄 1 = 水での洗浄ステップ、洗浄 2 = 1:1 0.1 M ギ酸:メタノールでの洗浄ステップ。青線:定量イオンのトランジション、灰線:定性イオンのトランジション。

特に、FOSA の回収率が 85 ~ 112% の範囲であることから、ここで紹介するサンプル前処理およびクリーンアップのアプローチが、イオン性 PFAS だけでなく、中性 PFAS の測定にも適している可能性があることが示されています。キャップストーンについて記載した実験と同様の実験を FOSA について行いましたが、溶出液のフラクション中にこの化合物がほぼ完全に回収されていることがわかります(図 9 を参照)。

図 9.  固相抽出(SPE)プロトコルの各フラクションにおける FOSA のクロマトグラム。洗浄 1 = 水での洗浄ステップ、洗浄 2 = 1:1 0.1 M ギ酸:メタノールでの洗浄ステップ。青線:定量イオンのトランジション、灰線:定性イオンのトランジション。

結論

本稿では、野菜、果物、ベビーフード中の PFAS の包括的な分析用に最適化された LC-MS/MS 分析法を紹介しました。この分析法は、非常に低い定量限界(一部の化合物に対して 0.0005 µg/kg)を示し、欧州委員会勧告(EU)2022/1431 にリストされている PFAS 化合物を正確に検出および定量することができます。
新しい GCB/ WAX SPE カートリッジのクリーンアップ効率の改善と、Xevo TQ Absolute MS システムの感度の向上の組み合わせにより、必須の PFAS では 87 ~ 116%、勧告対象化合物および検討中の化合物の大部分で 65 ~ 131% という優れた回収率が得られ、RSDr は 10% 以下でした。
この分析法は、弱陰イオン交換カートリッジへの保持が通常は非常に困難な中性 PFAS である FOSA についても優れた回収率を示しました。
キャップストーン A および B の分析ではその複雑な双イオン性構造により、また PFBA の場合、溶媒や試薬の汚染により、分析に限界が見られました。したがって、PFBA 汚染を低減し、またキャップストーンのより高い回収率を得るための最適なアプローチについて調査するために、さらに多くの研究を行う必要があります。
この試験のパート 2 では、動物由来製品中の PFAS の測定ワークフローについて説明します。

参考文献

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Appendix

720008219JA、2024 年 2 月

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