大日本住友製薬株式会社 技術研究本部
岡﨑彰様、岩井美栄子様、菅尾祐輔様にお話を伺いました。
―本日はお忙しいところお時間を頂戴いたしまして、どうもありがとうございます。まず皆様の部署とお仕事内容についてご紹介をお願いいたします。
岡﨑様(以下敬称略): 私たちが所属する技術研究本部分析研究所では、医薬品の開発初期段階における候補化合物やその原料、中間体の分析法開発から、治験薬の出荷試験、安定性試験、製剤の承認申請まで、幅広い業務を担当しています。さらに、塩・多形検討等を含めた物性研究や不純物の構造解析も実施しています。また、これらの業務の基盤となります分析技術の継続的な向上にも力を入れているところです。
―弊社のUPLCやインフォマティクスをご導入いただいておりますが、まず、UPLCをご導入いただいた理由をお聞かせいただけますか。
岡﨑:当部門では試験法の検討業務の効率化や対費用効果を考慮しまして、高耐圧であり、かつ汎用HPLCとしても利用できる併用型のHPLCを優先して導入することにしています。ACQUITY UPLC H-Classはそれに該当しており、クオータナリーポンプやカラムスイッチング機能を有していますので、高速分析で効率的に試験法開発ができますし、また装置を替えることなくUPLC条件をHPLC条件に移管して分析できるということが大きなメリットであると考えて今回導入しました。
―H-Classの使用目的をご紹介いただけますか。
岡﨑:主に試験法開発に使用しています。カラムや移動相といった分析パラメーターを網羅的に組み合わせた分析法の検討を自動的に実施し、短期間で精度の高い試験法を開発できています。
―網羅的な試験法開発手法について簡単にご紹介いただけますか。
菅尾様(以下敬称略):まずは、移動相及びカラムの検討を行います。この部分は一番気を使って検討しているところです。H-Classの溶媒選択バルブを用いると9種類の移動相を連続して検討できますので、網羅的な検討に非常に役立っています。その他では、グラジエント条件、カラムの温度や流量等も検討します。
―カラムはどれくらいの種類をご検討されますか。
岡﨑:試験法開発をある程度、標準化するため、弊社では、試験法の開発手法を記載したガイダンスを作成していまして、それに従って検討を実施しています。カラムは3~4本ぐらいから開始し、それらのカラムと移動相の水系と有機溶媒系を2種類ずつぐらい組み合わせて試験条件のスクリーニングを実施し、ある程度の目途を立ててから、詳細な検討を実施して最終化しています。スクリーニングにおいて、良好な結果が得られない場合は、カラムや移動相の種類を変えて検討しています。
―移動相は酸性、中性、塩基性と幅広く検討されるのでしょうか。
岡﨑:医薬品の開発初期段階では、酸性と中性の移動相を主に使用します。化合物にもよりますが、必要に応じて塩基性の移動相も検討しています。
―9種類の移動相が選択できる点は幅広い分析法に対応するという意味では大きなメリットがあると考えていらっしゃるのでしょうか。
岡﨑:そうですね、大きなメリットです。
―H-Classを使用して網羅的に分析法検討される時は、カラムも高速対応のために2μm以下の小さな粒子径をご使用でしょうか。
岡﨑:はい。先ほどお話ししました試験条件のスクリーニングにUPLC H-Classのような高耐圧HPLCと粒子径1.7μm、1.8μmのカラムを用いて高速分析することで、検討時間の短縮に取り組んでいます。ただし、弊社の場合はHPLC条件の試験法として最終化しており、UPLC条件をHPLC条件に移管する必要がありますので、その際はカラムカリキュレーター等のメソッド変換ソフトを活用しています。
―計算通りに移管は実現できていますか。
岡﨑:類縁物質の溶出パターンやピークの分離も、ある程度再現できています。
菅尾:厳密な移管を目標にするのは稀で、検討の過程でアバウトに移管するケースが多いので、デュエルボリュームを実際に求めてまではいませんが、そのレベルでは問題ありません。
―カラムは弊社のカラムをご使用いただいているという理解でよろしいでしょうか。
岩井様(以下敬称略):はい。御社のカラムは粒子径やサイズのラインナップが豊富で、使い勝手が良いと感じています。
―ありがとうございます。従来のHPLC法で分析法を開発していた頃と比較してUPLCで分析法を開発する場合では、分析時間の削減はできましたか。
岡﨑:そうですね、UPLCを用いて検討しますと、類縁物質試験の1測定が10~15分程度ですので、HPLCを用いた検討に比べて、大幅に時間短縮になっています。
―試験法の効率化に関して他に実施されていらっしゃることはございますか。
岡﨑:以前はHPLC条件では粒子径3.5μmや5μmのカラムで分析していましたが、現在は、粒子径2.5μmのカラムを用いたHPLC条件で最終化することで、HPLCにおける高速化にも取り組んでいます。
―弊社のXPカラムをご使用ですか。
岡﨑:XPはまだ使っていませんが、粒子径2.5μmのXBridge(注:従来からのHPLC用カラムハードウェアに充塡。耐圧6000psi)を使っています。
―2.5μmのカラムで、どれくらいの分析時間短縮を図っていらっしゃいますか。
岡﨑:現行分析時間の2~4分の1ぐらいには短縮でき、その辺をターゲットに設定をしています。
―分析業務において、解析作業の効率化も重要だと思います。御社は弊社CDSである Empower 3を用いてデータ管理を行っていらっしゃると思いますが、導入いただいたきっかけと、実際ご使用されての感想はいかがでしょうか。
岡﨑:弊社では、各メーカーのHPLC及びGCを使用していますので、装置を制御するソフトやデータを管理するサーバーが複数存在し、試験者やサーバー担当者の負担が大きいという課題がありました。この課題を解決するために、各メーカーの機器をマルチベンダーコントロールできるEmpower 3を導入しました。これにより、試験者やサーバー担当者の負担が大幅に軽減され、作業効率化につながったと考えています。また、Citrix社のXenAppを搭載したターミナルサーバーを活用することで、執務室の各個人の端末から分析操作ができ、リアルタイムで分析結果を確認することができますので、更なる作業効率化に貢献しています。その他に、Empower 3はcGMPやPart11等の規制に準拠し、国内外の導入実績も多いと伺っていましたし、レポート機能が充実している点もサーバー選定のポイントになりました。
―使用されて、便利な機能はございますか。
岩井:カスタムフィールドについては、ユーザーで計算式の編集が可能であり、便利であると感じています。これまで品質試験や分析法バリデーションの計算はエクセルで実施していましたが、今後、カスタムフィールドを含めたEmpower 3の基本機能や、MVM(分析法バリデーションマネージャ)などのオプションを活用した自動計算手法に切り替えていくことを検討しています。その結果、データ解析や第三者チェックに費やす時間の削減及びデータの信頼性向上にも繋がると考えています。ここからは要望になりますが、MVM導入にあたって弊社の望む計算が可能であるか検証を行った際、統計計算式がヘルプ画面でしか確認ができず苦労した経験があります。御社でバリデートされた計算式とはいえ、我々ユーザーも計算式の理解は必要と考えていますので、どのような計算式が使われているか御社のマニュアルに記載されているとより使いやすいと感じました。
―マニュアルに計算式の一覧が記載されているといいなということですね。
岩井:そうですね、マニュアルに記載されていると、必要時にすぐ参照できて便利です。Empowerによる計算がブラックボックスにならないよう要望として挙げさせていただきました。
―カスタムフィールドを用いた自動計算や、MVMを活用することによって、今までエクセルで計算されていたことはほぼEmpowerに移行し、効率化を図る方向で考えていらっしゃるということでしょうか。
岩井:その方針で考えており、今まさに、その準備中というところです。適切な運用方法について、御社にも相談しながら検討中です。
―共同作業ということですね。よろしくお願いいたします。
岩井:Empower 3の新機能である不純物解析のコンセプトについては、最初にご紹介いただいた際、大変便利そうだと感じました。しかし、実際に使用してみると、基本機能のみでレポート化することは難しく、カスタムフィールドをいくつか作成することで対応しているのが現状です。理想としては、カスタムフィールドの使用をできるだけ抑え、基本機能を最大限に活用したいと考えていますので、適宜相談に乗っていただけると有り難いです。
―お客様の声から随時機能がアップデートされていきますので、是非この機会にご要望をいろいろ挙げていただけますと、より充実した機能になっていくと思います。コンセプトだけでなく実際の機能もお客様のニーズに合うように、私共も本社の開発チームも頑張ってまいります。
岡﨑:よろしくお願いします。
―Fusion(QbDコンセプトに基づいたLC自動分析法開発ソフトウェア)も現在活用されていらっしゃるのでしょうか。
菅尾:今後、特に申請を見越した医薬品の開発後期の段階で、分析部門にもQuality-by-Designの考えを取り入れる必要があるというのは、当局等からも言われています。その一環として弊社ではFusionを導入しました。現在はFusionとH-Classを組み合わせて試験法検討をしながら頑健性を評価し、且つレポート・カスタムフィールド機能を使って簡易的な分析法のクオリファイとバリデーションを実施して、最終的にMVMで正式に分析法バリデーションを行うという一連のフローを計画している段階です。
―開発前期の段階の化合物に対しては、メソッドスカウティングといったEmpower 3の基本機能を取り入れようとお考えいただいているのでしょうか。
岡﨑:そうですね。まだ実際には活用できていないのですが、これからスカウティング機能も活用できたらと思います。色々ご提案いただけましたら弊社も取り入れていけるかと思いますので、またご相談させていただければと思います。
岩井:Empower 3の強みの一つは、自動計算機能とレポート機能だと考えています。現在、類縁物質試験や残留溶媒試験などの規格試験において、Empower 3の基本機能とカスタムフィールドを使用して、システム適合性試験から試験結果まで一つのレポートとして報告することを検討中です。製剤でも既に溶出試験オプションを導入しており、溶出プロファイルの評価にもEmpower 3を活用しています。溶出試験オプションはEmpowerにさえ習熟していれば比較的容易に使用でき、使い勝手が良いと感じています。こちらも一つ要望としましては、サンプル間での溶出プロファイルの比較ができるとより便利です。
―グラフの比較、重ね書きの面ですね。
岩井:そうですね、今後もユーザーの要望に応じてソフトを改良いただけると有り難いです。
―はい。弊社では、皆様のご要望からソフトウェアの新機能やハードウェアの開発を進めておりますが、その中で新しい検出器として、ACQUITY QDaという四重極タイプの質量検出器を発表させていただきました。PDAやUVと変わらない簡単な使い勝手で、さらに情報を得たいといったご要望から生まれた装置となります。QDaはご覧になられましたでしょうか。
岡﨑:このメンバーではなく、別の者が御社にお伺いして、デモをさせていただきました。
―QDa検出器をご覧いただいた印象をお聞かせいただけますでしょうか。
菅尾:はい、常々思っていたところとして、安価なMSの検出器か、それに替わるいわゆるUV吸収がないものに対するフォローができるような検出器、一度の分析の中で沢山の情報を引き出したいけれども、従来とれなかったという点を解決する検出器として、我々の元々あったニーズを満たしてくれる装置だなと思いました。現在、デモ等も通じて、導入を検討しているところです。
―実際に皆様で質量分析計を検出器として用いる場合に、一番重要視されるポイントと、今のお仕事の中でどういった運用例があると考えていらっしゃるのか、この2点についてお聞かせいただけますか。
菅尾:MSの選定基準というところで言いますと、従来はMSとしての性能の部分、分析精度、分解能や感度等に重きをおいてきました。しかし今回は、あくまでLCの検出器と考えて選定にあたっています。その視点で言いますと、もちろん性能も大事なのですが、御社のコンセプトにもある取り扱いやすさの部分に今回は重きをおいています。あとは費用です(笑)。コストもかなり大事です。
―そうですね、コストは重要ですね。
菅尾:QDa検出器は、常時稼働しておく必要がないと聞いています。今までは、常時真空を引きっぱなしで維持管理の工数や費用がそれなりにかかっていましたが、維持管理が楽で取り扱いやすい装置になることはメリットであると考えています。あとはソフトウェアの部分で、今、弊社はいくつかLC-MSを持っていますが、それぞれが異なるソフトウェアを使用しています。毎回その解析の勉強をしないといけないというのは、実験者にとってハードルが高い部分でしたが、QDa検出器はEmpower上で、従来のPDAやUVと同じような解析ができるということで、その点もメリットと感じています。HPLCの検出器として置き換わってくれることを期待しています。今後の使用方法は、H-Classと同様に試験法開発での利用を想定しています。これまで質量情報は別途分析をする必要がありましたが、試験法検討時に同時に取得できる。さらにその得た情報から、ピークトラッキングができ、共溶出している成分の質量情報による分離も可能ですので、今まで以上の情報をもとに、逆に言うと、我々も考えるポイントは増えて来るかと思いますが、より科学的な視点での分析法開発ができるのではないかと期待しています。ピークトラッキングという意味において、スカウティング機能との親和性も非常に高くなってくると思いますので、そのあたりは我々でもちろん検討していきますが、御社からも色々とご提案いただけると助かります。
―はい、私どもからもご提案をさせていただきます。
菅尾:今後APCIのオプション機能がつくとさらによいですね。
―お仕事の中で化合物によってはAPCIを必要とするケースというのはありますか。
菅尾:あります。それが、半分半分というレベルではないですが、検討していく中でやはり、ESI、APCI両方を試すというケースが多々あります。投資額として安くなったとは言え、それなりの金額ですので、御社のハードウェア全般に期待するところの一つでもありますが、拡張性のオプションなど選択肢を増やしていただきたいです。
―その他、今後の製品要望がございましたらお伺いできますか。
岩井:ソフトウェアについては、先ほどまでお話した通り、特に基本機能の柔軟性の拡張を希望します。ハードウェアについては、規格試験でも使用できるよう汎用性が高く、かつ導入及びランニングコストが低く、メンテナンスしやすいHPLCを開発いただけると有り難いです。
―H-Classのもう少し安価なシステムでしょうか。
岡﨑:やはりアライアンスということになるのですか、HPLCとなると。
―現在のコンベンショナルLCと言えばAlliance、高速・高耐圧の代表的なシステムとしてはACQUITY UPLCやI-Class、そのハイブリッドとしてH-Classになります。現在は、最高性能システムが必要なお客様からルーチン分析目的のコストを抑えたシステムが必要なお客様まで幅広いニーズがありますので、そのお客様の声でラインアップは増えていきます。
―そうですね、H-Classが一番良い例ですが、今のラインアップ間のギャップを埋める形でも製品の開発が進んでおります。QDaもクロマトグラファーの方と質量分析の間のギャップを埋めるラインアップになりますので、そういった意味では今後の製品群も期待していただければと思います。他には、カラムに関して何かご要望はありませんか。
岡﨑:カラムについては、これまで主に全多孔性カラムを使ってきましたが、今後コアシェルカラムも有効に活用していきたいと考えています。今のところ、使いこなせていませんので、有効な活用方法も含めて、いろいろとアドバイスいただきながら、弊社としても取り組んでいきたいと思っています。
―コアシェルカラムに対してどのような印象をお持ちですか。
菅尾:背圧が下がるイメージです。
―実は背圧という面では、同じ粒子径であれば、全多孔性もコアシェルタイプもあまり変わらないというデータがございます。両方販売しているメーカーならではの、物理的なデータや、クロマト的なデータもございますので、是非また皆様へのセミナーとして企画させていただければと思います
岩井:御社のCORTECSは、粒子径の小さなものだけでしたよね。
―はい。現在は1.6μmのみです。全多孔性と比べると表面多孔性(コアシェル)はカラム効率が高くなりますが、理論的な性能を実現するにはカラムハードウェアや充塡も重要です。CORTECS はUPLCカラムハードウェア、充塡技術で最高の分離を求めるために発売しました。
―弊社では理論に基づいた形で開発を進めていますので、なかなか今後の展開は面白いカラムではないかと思っております。
岡﨑:他に要望として、マルチベンダー制御に特有なのかも知れませんが、分析のトラブルが起きたときに、それがEmpower 3由来か、装置由来か、ドライバー由来か、我々では分からないことがいくつかありました。その辺のトラブルの内容の切り分けや、対応をしていただけると、ユーザーとして大変助かります。
―コントロールする側とコントロールされる側のメーカー間のコミュニケーションというところですね。
岡﨑:そこがまた、ユーザーの作業効率につながっていくと感じています。
―確かにそうですね。この数年間で急激に対応可能なモデルが増えました。近年では、当初の各社ドライバーリリースの期間と比較して半分くらいの期間で対応可能になっています。本社でも、専任者を置いて進めておりますので、できる限り皆様のご要望に合う時間に入るように日々努力しております。
岡﨑:はい、わかりました。
―お忙しい時間、ありがとうございました。御社のご紹介を最後に頂戴してもよろしいですか。
岡﨑:大日本住友製薬は、人々の健康で豊かな生活のために、研究開発を基盤とした新たな価値の創造により、広く社会に貢献することを企業理念としています。今後、アンメット・メディカル・ニーズの高い精神疾患領域、精神神経領域と、癌領域を研究重点領域とし、日本はもちろん世界の人々に革新的で有用な医薬品を届けるため、新薬の研究開発に全力を注いでまいります。
―本日はお忙しいところ、どうもありがとうございました。
岡崎、菅尾、岩井:ありがとうございました。