• アプリケーションノート

クロルヘキシジンサンプルにおける Arc HPLC システムの卓越したキャリーオーバー抑制性能

クロルヘキシジンサンプルにおける Arc HPLC システムの卓越したキャリーオーバー抑制性能

  • Bheeshmacharyulu S
  • Dilshad Pullancheri
  • Tirupateswara Rao Boyidi
  • Dr. Padmakar Wagh
  • Waters Corporation

要約

クロルヘキシジンは、局所的な消毒薬として、また歯科診療において微生物による炎症性歯科疾患の治療などに使用されている、広域スペクトルを有するビグアナイド系抗菌薬です。また、現在使用されている最も一般的な皮膚用および粘膜用の消毒薬の 1 つです。

通常は粘性が高いため、インジェクター表面から除去するのが非常に困難で、HPLC システムでインジェクターのキャリーオーバーが発生することが知られており、その結果、仕様外の値になり、最終的にバッチフェイルにつながる可能性があります。当社では、Arc HPLC システムを使用してクロルヘキシジングルコン酸の有機不純物の USP モノグラフ分析法を実施したところ、Arc HPLC では、他社の HPLC システムと比較してキャリーオーバーが検出されませんでした。Arc HPLC システムにより、クロルヘキシジンのインジェクターでのキャリーオーバーの問題を最小限に抑えることができることが、この実験で確認されました。

図 1.Arc HPLC システム

アプリケーションのメリット

  • キャリーオーバーは、多くのラボにおけるクロムマトグラファーにとっての大きな課題であり、結果の正確度と得られるデータの品質に影響を与え、サンプルスループットを低下させ、分析の複雑さの増大につながる
  • Arc HPLC システムのフロースルーニードル設計により、分析種のキャリーオーバーの低減に成功
  • ユーザー設定可能な洗浄設定により、インジェクターのキャリーオーバーの問題に対処

はじめに

「キャリーオーバー」とは、「目的の分析種に干渉、または共溶出する可能性がある以前の注入に由来するサンプルの残り」と定義されており、しばしば正確な定量の妨害となります。キャリーオーバーは、HPLC システムでは常に問題となっていましたが、今日の高感度検出法において、その重要性が更に増しています。分析種サンプルの注入後にブランクサンプルを注入すると、予期せぬ小さなピークが存在し、これによってキャリーオーバーが検出されます。また、複数回のサンプル注入の後に見られる、予期せぬ注入間精度の低下によっても検出できます。インジェクターのキャリーオーバーに影響を及ぼす可能性のある要因はいくつかあり、これには分析種の化学的性質、カラムケミストリー、HPLC システムのインジェクターの設計などがあります。

Arc HPLC システムを使用することで、データ品質を損なうことなく、既存の LC 分析法を容易に再現し、性能を向上させることができます。また、分析種のキャリーオーバーが少ないと、高いインジェクター精度、高背圧耐性といった利点も得られるため、既存の HPLC 分析法が改善されて、分析の効率と性能が向上します。

今回行った実験の目的は、クロルヘキシジングルコン酸のキャリーオーバーの問題を解決することでした。

図 2.クロルヘキシジングルコン酸の構造

実験方法

分析法条件

システム:

Arc HPLC システム(2998 PDA 検出器搭載)

カラム:

XSelect HSS C18、3.5 µm

カラム温度:

30 ℃

流速:

1.0 mL/分

移動相 A:

0.1% TFA 水溶液0.1% TFA アセトニトリル溶液(80:20)

移動相 B:

0.1% TFA アセトニトリル溶液:0.1% TFA 水溶液(90:10)

検出:

254 nm

注入量:

10 μL

パージ溶媒:

水:アセトニトリル(9:1)

ニードル洗浄溶媒:

水:アセトニトリル(9:1)

分析時間:

65 分

サンプル温度:

8 ℃

希釈溶媒:

移動相 A

試験サンプル:

20% クロルヘキシジングルコン酸水溶液サンプルを 100 倍希釈

希釈サンプル:

試験サンプルを希釈溶媒で 100 倍希釈

表 1.分析法条件

Gradient

この実験は、クロルヘキシジングルコン酸サンプルの分析後に注入したブランク試料のクロマトグラムからインジェクターのキャリーオーバーを調査するために設計しました。2 セットの連続サンプルを以下のパターンで注入しました。

Sample Set

Arc HPLC システムで採用した分析法は、クロルヘキシジン用の有機不純物 USP モノグラフ分析法であり、このクロマトグラフィー条件を他社製 HPLC システムでも用いました。サンプルセット 1 では、他社製 HPLC システムで観察されたキャリーオーバー率は 0.0015% であるのに対し、Arc HPLC システムではキャリーオーバーは検出されませんでした。サンプルセット 2 では、測定で試験サンプルの注入回数を重ねると、他社製 HPLC システムではキャリーオーバー率が 0.0015% から 0.0027% に増加しましたが、Arc HPLC システムではキャリーオーバーは検出されないままでした。

結果および考察

図 3.Arc HPLC システムおよび他社製 HPLC システムにおける分析前ブランク試料の比較
図 4.クロルヘキシジングルコン酸 20% 溶液の試験サンプル溶液の、Arc HPLC システム(上)および他社製 HPLC システムで得られたクロマトグラム
図 5.サンプルセット 1 についての、Arc HPLC システム(上)と他社製 HPLC システムにおけるサンプル後ブランクの比較。クロルヘキシジンのピークが他社製 HPLC システムでの分析後ブランク試料のクロマトグラムで検出され、0.0015% のキャリーオーバーが認められましたが、Arc HPLC システムではキャリーオーバーは検出されませんでした。 
図 6.サンプルセット 2 についての、Arc HPLC システム(上)と他社製 HPLC システムにおけるサンプル後ブランクの比較。サンプル後ブランクは、試験サンプルを 6 回注入した後に注入しました。クロルヘキシジンのピークが他社製 HPLC システムでの分析後ブランク試料のクロマトグラムで検出され、注入回数が増えるにつれてキャリーオーバーが 0.0015% から 0.0027% に増加していましたが、Arc HPLC システムではキャリーオーバーは検出されませんでした。
表 2.Arc HPLC システムと他社製 HPLC システムで得られた結果の比較

Arc HPLC システムの高度なフロースルーニードル設計により、サンプル注入ニードルの内部が分析中に継続的に洗浄されるため、インジェクターのキャリーオーバーが最小限に抑えられます。これにより、分析法を再度開発することなく、インジェクター性能を向上させることができます。他社製 HPLC システムでは、最初の分析後ブランク試料の注入および希釈サンプル溶液でキャリーオーバーが観察され、これらが不純物の結果に影響を及ぼしました。インジェクターのキャリーオーバーに加えて、分析種の化学的性質やカラムケミストリーもキャリーオーバーの原因となります。クロルヘキシジングルコン酸および同じカラムケミストリーを使用して有機不純物の USP モノグラフ分析法法を実施したところ、Arc HPLC システムでは卓越したキャリーオーバー抑制性能が認められました。

結論

  • Arc HPLC システムは、クロルヘキシジングルコン酸サンプルについて、卓越したキャリーオーバー抑制性能を示しています。
  • 4 日間にわたって試験サンプル溶液および希釈したサンプルを複数回注入(約 70 回)したところ、キャリーオーバーが検出限界を下回っていることを確認しました。
  • この実験により、Arc HPLC システムではクロルヘキシジングルコン酸のインジェクターキャリーオーバーの問題を解決できることが確認されました。  

参考文献

  1. Dlugasch, A.; Simeone, J.; McConville, P. Alliance Carryover Performance Part 1: Carryover Improvement Achieved Through Instrument Design Changes for the Alliance HPLC System.Waters Application Note, 720006386EN, 2018.
  2. Bheeshmacharyulu S; Boyidi, T.; Pullancheri, D.; Wagh, P. Successful Achievement of Ultra Low Injector Carryover of Benzyl Alcohol Using Arc HPLC.Waters Application Note, 720007076EN, 2020.

720007420JA、2021 年 11 月

トップに戻る トップに戻る