HPLC から UHPLC および UPLC の装置とカラムへの USP モノグラフ分析法の最新化によるコストと時間の削減
要約
ナプロキセンナトリウム錠用 USP 分析法の最新化を行い、コストと時間の削減が可能であることが実証されました。分析法の最新化により、分析時間と移動相の使用量をいずれも大幅に削減できます。このことを示すため、UPLC カラムの寿命試験を実施したところ、ナプロキセンナトリウムのサンプルを 10,000 回注入しても性能に変化がありませんでした。HPLC、UHPLC、および UPLC 分析法での 10,000 回の注入に必要な移動相の推定コストを、分析の実行時間と流速を用いて計算しました。ナプロキセンナトリウム錠剤の HPLC 分析を UHPLC または UPLC 装置およびカラムに最新化することで、分析時間が 8 分の 1 まで短縮し、移動相コストが 13 分の 1 まで削減できる可能性があります。
アプリケーションのメリット
- HPLC 分析法を UHPLC 装置およびカラムに最新化することで、分析時間と溶媒使用量を 4 分の 1 に削減
- HPLC 分析法を UPLC 装置およびカラムに最新化することで、溶媒使用量が最大 13 分の 1 まで減少し、分析時間が 8 分の 1 まで短縮
- UPLC と HPLC を用いる分析法を比較すると、カラム寿命にわたって(10,000 回注入)、計算上 10,000 ドルのコスト削減と 48 日の試験時間の短縮が可能に
はじめに
米国薬局方(USP)とは、さまざまな医薬品の試験に使用される分析法の一覧です。USP モノグラフには通常、薄層クロマトグラフィー(TLC)からガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィーまでにわたる手法を用いた不純物分析、溶解度検査、およびその他のアッセイの分析法が記載されています1-3。しかし、これらの分析法の多くは、最新のテクノロジーの分解能と速度を有しない旧式の装置を使用しているため、今では「時代遅れ」と見なされています。これらの手法を最新のテクノロジーに更新することで、大幅な改善を実現することができます。この最新化プロセスは、USP <621> に準拠しています。この章は、カラム構成、粒子径、流速、注入量の変動など、液体クロマトグラフィー試験の条件の許容可能な変更の指針となる General Chapter(総則)です4。<621> ガイドラインに従うことで、再バリデーションを必要とせずに分析法を最新化することができます5。
このアプリケーションノートでは、HPLC から UHPLC および UPLC テクノロジーへの、ナプロキセンナトリウム錠剤における USP 分析法の最新化について説明します。ナプロキセンナトリウムは、ブランド名 Aleve やジェネリック製剤としても市販されている非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)です。化合物が適切に送達されて疼痛と炎症が低減されるようにするには、ナプロキセンナトリウムのバッチの品質管理検査を定期的に実施する必要があります。ここでは、4.6 × 150 mm 5 μm カラムを、より小さい粒子を含む、細く短いカラムに置き換えました。この最新技術の利点を更に実証するため、UPLC カラムの寿命試験を行いました。この結果を使用して、UPLC 分析法と HPLC 分析法を比較して、カラムの寿命全体にわたる移動相消費量の減少によるコスト削減を計算しました。
実験方法
サンプルの説明
ナプロキセンナトリウム 5 錠(各 220 mg)を粉砕し、1 リットルの移動相:水(85:15)に溶解しました。USP モノグラフのサンプル前処理に従って、この溶液を 0.2 μm ナイロンフィルターでろ過し、移動相で 10 倍希釈して最終サンプル濃度 0.11 mg/mL にしました。
標準の説明
ナプロキセンナトリウムストック溶液は、ナプロキセンナトリウムのニート粉末、およびサンプル希釈液として移動相を使用して作製しました。このストック溶液を移動相で 10 倍希釈し、最終標準溶液濃度 0.11 mg/mL にしました。
分析条件
LC 条件 |
|
LC システム: |
Alliance HPLC、2489 UV/Vis 検出器搭載 ACQUITY Arc、2998 PDA 検出器搭載 ACQUITY UPLC H-Class、PDA 検出器搭載 |
検出: |
UV @ 254 nm |
バイアル: |
LCMS 認定済み透明ガラスバイアル 2 mL(製品番号:600000751CV) |
カラム: |
XBridge BEH C8、5 μm、4.6 × 150 mm(製品番号:186003017) XBridge BEH C8 XP、2.5 μm、3.0 × 75 mm(製品番号:186006046) CORTECS UPLC C8、1.6 μm、2.1 × 50 mm(製品番号:186008399) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
流速: |
1.20 mL/分(Alliance) 1.02 mL/分(ACQUITY Arc) 0.74 mL/分(ACQUITY UPLC H-Class) |
移動相の組成: |
アセトニトリル:水:酢酸(45:54:1 v/v/v) |
注入量: |
20 μL(Alliance) 4.3 μL(ACQUITY Arc) ACQUITY Arc および ACQUITY UPLC H-Classの値は、ACQUITY カラムカリキュレーターを使用して計算しました 1.4 μL(ACQUITY UPLC H-Class) |
データ管理 |
|
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 5 |
結果および考察
最新化の前に USP モノグラフ分析法をバリデーションするために、2489 UV/Vis 検出器を搭載した Alliance HPLC システムに、適切な L7 カラム(XBridge BEH C8、5 μm、4.6 × 150 mm カラム)を取り付けました。平均ピーク面積(n = 10)またはレスポンスを、サンプルと標準溶液について個別に計算し、ナプロキセンナトリウム含有量の計算に使用しました。これを計算するための式を図 1 に示します。ここで、ru はナプロキセンナトリウムサンプルのレスポンス(ピーク面積)、rs は標準溶液のレスポンス、Cs は標準溶液の濃度、Cu はサンプルの濃度です。分析が合格するには、分析結果が 90 ~ 110% の範囲内である必要があります。
標準溶液とサンプルはいずれも 0.11 mg/mL の濃度で作製されているため、Cs 値と Cu 値は互いに相殺され、レスポンスの比率のみが残ります。分析結果では、ナプロキセンのピーク面積の相対標準偏差は 2% 以下である必要があり、ナプロキセンの USP テーリング係数は、元の試験条件と最新化した分析法の両方で 2.0 以下である必要があります。図 1 に、試験したカラムとシステムを用いて得られたナプロキセンの代表的なクロマトグラムを示します。
試験を行ったシステムおよびカラムはすべて、表 1 に概要を示した分析規準を満たしています。HPLC 条件を UHPLC システムに最新化するため、2.5 μm 粒子を充塡した 3.0 × 75 mm カラムを使用して L/dp 比を一定に維持しました。選択したカラムは XBridge BEH C8 カラムでした。このカラムには、試験した元の HPLC カラムと同じ粒子および結合テクノロジーが使用されており、粒子径が小さくなっています。UPLC 用に最新化するために、2.1 × 50 mm のハードウェアで 2 μm 以下の粒子を使用しました。この例では、ACQUITY UPLC H-Class システムに、CORTECS UPLC C8 1.6 μm、2.1 × 50 mm カラムが取り付けられています。ACQUITY UPLC BEH C8 カラムも適切と考えられますが、CORTECS カラムはカラム効率が向上するように特別に設計されています7-10。
また、カラムの寿命、あるいは分析に不具合が出てカラムを交換する必要が生じるまでに予測される注入回数に関連して、アッセイの時間とコストの節約について評価しました。寿命試験には、溶媒の使用量を最小限に抑え、実行時間を最短にするために、CORTECS UPLC C8 カラムを取り付けた ACQUITY UPLC H-Class システムを選択しました。システムは、ノンストップで実行するように設定されており、標準溶液の繰り返し注入(n = 5)を行った後、サンプルの繰り返し注入(n = 100)を行いました。この順序を選んだのは、ナプロキシンナトリウムのサンプルの方が添加剤の存在によりカラムの不具合を引き起こす可能性が高いためです。ナプロキセン標準溶液の注入を行ったのは、システム適合性要件が満たされていることを確認するためでした。USP テーリング係数とシステム圧力を厳密にモニターしました。これら 2 つのパラメーターが寿命試験中に最初に不合格となるパラメーターであるためです。寿命試験は、10,000 回の注入を行った後に中止しましたが、カラム性能の低下やカラム圧力の上昇は見られませんでした。図 2 および図 3 に、ナプロキセンナトリウムサンプルの 100 回注入ごとに取得したナプロキセンのシステム圧力および USP テーリング係数をそれぞれ示します。
ソルベントマネージャでのシステムリークにより、カラム圧力は修理するまで低い値でしたが、分析結果、相対標準偏差、および USP テーリング係数は、試験全体を通して仕様の範囲内にありました。時間の経過とともに USP テーリングのわずかな増加が見られましたが、それでも USP テーリングの限界 2.0 を十分に下回っていました。またシステム圧は、10,000 回の注入にわたって安定しており、圧力にわずかな変動しか検出されませんでした。これは、カラムの不具合から上昇が予想されるのとは異なる結果となりました11。 カラム寿命試験中に、通常は医薬品中の賦形剤でカラムのインレットフリットが汚染され、システム圧力が徐々に上昇して、ピーク形状の劣化という形でカラム性能が低下します。カラムが 10,000 回の注入に耐えられると想定し、概算コストと推定時間を算出できます。表 2 に、3 種類のシステムと試験条件を使用したカラム寿命にわたる溶媒コストの概算を示します。
移動相のコストは、Sigma Aldrich のウェブサイトに掲載されているアセトニトリル、水、氷酢酸の価格と移動相の組成に基づいています12-14。1 L 当たりの移動相のコストは、以下のように計算しました15。
これらのコストでは、廃棄物処理、溶媒の保管、分析者の労働時間などは考慮していません。表 2 に示すように、旧式のテクノロジーである HPLC システムおよびカラムを使用すると、UHPLC 装置を使用する場合のほぼ 5 倍の費用がかかります。更に、UPLC テクノロジーを使用すると、HPLC を使用して 10,000 回を超える注入を行う場合と比較して、ナプロキセンナトリウムアッセイに関して最大 10,000 ドルの節約になります。これに、HPLC の分析条件と UPLC の分析条件を比較した場合の 48 日間の時間節約が加わります。
結論
USP モノグラフに詳述されている分析法では、古くて時代遅れのテクノロジーがよく採用されています。大きいカラム、大きい粒子径の固定相、および HPLC 装置の使用を、General Chapter <621> に記載されているガイドラインに従って最新化し、より新しい装置およびパーティクルテクノロジーにすることができます。本研究では、ナプロキセンナトリウム錠用の USP 分析法を用いて最新化の価値を実証しました。元の HPLC 分析条件を ACQUITY Arc UHPLC システムおよび ACQUITY UPLC H-Class システムにスケーリングし、粒子径の小さい固定相と短く細いカラムを使用することで、分析時間と移動相コストが大幅に削減できました。カラムの寿命全体にわたり(注入 10,000 回と推定)、移動相の使用量削減により最大 10,000 ドルの節約になり、実行時間の短縮により分析時間を約 48 日短縮できます。
参考文献
- Baksam V, Nimmakayala S, Devineni SR, Muchumarri RM, Shandilya S, Kumar P. Isolation and Characterization of Thermal Degradation Impurity in Brimonidine Tartrate by HPLC, LC-MS/MS, and 2DNMR.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis.2021.(205) 114297.
- Aliyu AO, Garba S, Balogun LO, Awe FE.Quality Assessment of Some Selected Brands of Amoxicillin Clavulanate from Pharmaceutical Stores in Kaduna Metropolis, Nigeria.Journal of Pharmacy and Biological Sciences.2021-Apr.(16) 33–40.
- Monisha ST, Ela KN, Islam R, Ether SA, Rahman FI.Quality Attributes Comparison of Selected Brands of Rosuvastatin Calcium Tablets Marketed in the US and Bangladesh.Journal of Pharmaceutical Research International. 2021 (33) 46–55.
- 621-Chromatography.pdf Accessed 9-Sept-2021.https://www.bioglobax.com/wp-content/uploads/2018/08/621-Chromatography.pdf.
- Swann T, Nguyen JM.USP Method Modernization Using “Equivalent L/dp” and “Equivalent N” Allowed Changes with CORTECS C8 and CORTECS UPLC C8 Columns.Waters Application Note.2016, 720005666EN.
- Naproxen-sodium-tablets.pdf.Naproxen Sodium Tablets USP monograph.Accessed 9-Sept-2021.https://www.uspnf.com/sites/default/files/usp_pdf/EN/USPNF/iras/naproxen-sodium-tablets.pdf.
- Berthelette KD, Summers M, Fountain KJ.Improving Resolution using CORTECS UPLC Columns.Waters Application Note.2013, 720004737EN.
- Berthelette KD, Nguyen JM, Turner JE.Improving Peak Capacity while Maintaining Selectivity using CORTECS Columns on an Agilent 1290 LC system.Waters Application Note.2021, 720007250EN.
- Shia JC, Yabu M, Tran KV, Young M. Improved Resolution of Paraquat and Diquat: Drinking Water Analysis Using the CORTECS UHPLC HILIC Column.Waters Application Note.2013, 720004732EN.
- Danaceau JP, Chambers EC, Fountain KJ.Advantages of CORTECS C18 2.7 µm and XBridge BEH Phenyl XP 2.5 µm Columns for the Analysis of a Comprehensive Panel of Pain Management Drugs for Forensic Toxicology.Waters Application Note.2014, 720005185EN.
- Berthelette KD, Fountain KJ, Summers M. Improving Method Robustness for Routine Analysis of Pharmaceutical Formulations.Waters Application Note.2013, 720004807EN.
- Acetonitrile Suitable for HPLC, gradient grade ≥99.9% Product page.Cost of 1L: $185.00. https://www.sigmaaldrich.com/US/en/product/sigald/34851?context=product.
- Water Suitable for HPLC Product page.Cost of 1 L: $51.20. https://www.sigmaaldrich.com/US/en/product/sigald/270733?context=product.
- Acetic Acid, Glacial HPLC, Meets ACS Specifications Product Page.Cost of 500 mL: $87.90. https://www.sigmaaldrich.com/US/en/product/mm/ax0074?context=product.
- Calculation of cost per L of mobile phase.
720007427JA、2021 年 11 月