QuEChERS メソッドを用いて抽出し、Oasis™ PRiME HLB SPE でクリーンアップした後の APGC™ 搭載 GC-MS/MS を用いたコテージパイベビーフード中の残留農薬の測定
要約
このアプリケーションブリーフでは、代表的なベビーフード中の 200 種類を超える農薬を測定するためのガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析(GC–MS/MS)に基づく包括的な分析法のバリデーションについて説明します。QuEChERS CEN メソッド 156624 を調整してから使用し、コテージパイベビーフードの抽出物を前処理しました。この方法では、分散型固相抽出(dSPE)ステップの代わりに Oasis PRiME HLB によるパススルー SPE を使用しています。大気圧ガスクロマトグラフィー(APGC)を用いる GC-MS/MS を使用することで、残留農薬分析での選択性と特異性の点で、電子イオン化(EI)よりも大幅に性能が向上することが示されています。注入量が 1 µL でもほぼすべての分析種が 0.00025 mg/kg もの低濃度で確実に検出できたことで、APGC Xevo™ TQ-XS システムは感度が非常に高いことが実証されました。この分析法は、SANTE ガイドラインを使用して正常にバリデーションされました。0.0005 mg/kg および 0.001 mg/kg の濃度でのスパイクの分析結果では、分析種の回収率は 87% および 93% で、併行精度は 97% および 99.5% で、要求される許容範囲内でした。Oasis PRiME HLB を使用するパススルー SPE は、dSPE に代わる迅速で効果的な代替法になります。この分析法は、高感度で特異的、かつ正確と考えられ、ヨーロッパにおいて乳幼児向けの食品に対して設定された特定の MRL の遵守を確認するための、ベビーフード中の広範な GC 分析可能な残留農薬の測定に適しています。
アプリケーションのメリット
- Oasis PRiME HLB カートリッジを使用したパススルークリーンアップは、目的の農薬に対する優れた回収率を維持しつつ、QuEChERS 抽出物から脂肪、リン脂質、色素を迅速かつ効果的に除去できる
- APGC システムは極めて感度が高く、ベビーフードの残留農薬分析でのニーズを満たすのに役立つ
- 1 µL のアセトニトリル抽出物のスプリットレス注入により、非常に高感度が得られる
はじめに
乳幼児は、食品中の残留農薬への暴露に対して最も影響を受けやすいグループとみなされています。最大残留基準(MRL)または許容値が、生鮮農産物に設定されており、ヨーロッパでは乳幼児向けの食品に特定の MRL が設定されています。予防の原則に従って、この種の食品における法的制限値は非常に低レベルに設定されています。一般的には、既定の MRL 0.01 mg/kg が適用されますが、最も毒性の高い農薬および関連代謝物には、より厳しい制限が適用されています1.2。
乳幼児用食品でこれらの MRL が遵守されているかどうかを確認するため、また食品業界における適性評価とブランド保護のために、食品中の数百もの残留農薬を検出、定量、および同定するための信頼性の高い分析法が必要となっています。ウォーターズでは以前、加工穀類ベースのベビーフード中の残留農薬分析に従来の QuEChERS メソッドを適用した後に用いた、APGC 搭載 GC-MS/MS に基づく分析法の性能について報告しました3。 この分析法では、APGC によって得られる高い感度と選択性を利用して、乳幼児の食品に対して規定された MRL よりもはるかに低濃度の残留農薬を確実に定量することができました。
この試験の目的は、牛肉と種々の野菜を含む加工ベビーフードというより複雑なマトリックス中の残留農薬測定における分析法の性能を実証することでした。脂肪含有量が高いため、dSPE ステップの代わりに、脂肪、リン脂質、色素を非常に効果的に食品抽出物から除去できる Oasis PRiME HLB を使用したパススルー SPE クリーンアップステップを使用しました4。
実験方法
サンプル前処理、抽出、クリーンアップ
コテージパイベビーフードのサンプルは、地元の小売店で購入し、使用直前まで冷凍保存しました。QuEChERS CEN メソッド 15662 を調整して使用し、サンプルを抽出しました5。この方法では、dSPE ステップの代わりに、Short Plus 型式の Oasis PRiME HLB を使用したパススルー SPE を用いています。使用したサンプル前処理およびクリーンアップ手順の詳細を図 1 に示します。
GC 多成分残留農薬分析キット(Restek 製品番号 32562)を使用して作業溶液を調製し、マトリックス添加キャリブレーション標準試料を作成するとともに、ベビーフードの被験サンプルにスパイクを行いました。キャリブレーション標準試料は、0.00025 ~ 0.02 mg/kg の範囲で調製しました。
分析種、GC-MS/MS 条件、バリデーションプロトコルの詳細については、以前のアプリケーションノート6を参照してください。0.0005 mg/kg と 0.001 mg/kg の 2 濃度で調製した 5 回繰り返しサンプルの分析から、回収率と併行精度を判定しました。
結果および考察
調製した最低濃度(0.00025 mg/kg、0.25 µg/kg)のマトリックス添加標準試料のレスポンスを評価し、ブランクのレスポンス(必要な報告限界の 30% 以下であることが必要)を考慮して、この分析法の感度を評価しました。この分析法で分析した 211 種の分析種のうち、1 種は検出されず(アセキノシル)、2-フェニルフェノール、アントラキノン、ビフェニル、2,3,5,6-テトラクロロアニリンでは、ブランク内に残留農薬が存在したために感度が低下していました。ビオアレトリン以外の他の分析種はすべて、0.00025 mg/kg で検出できました。図 2 に、0.00025 mg/kg のベビーフードマトリックス添加標準試料中に含まれる一部の農薬の分析で得られたクロマトグラムを示します。
関連領域の検量線を使用して逆算したキャリブレーション標準試料の濃度の、真の濃度からの偏差(残差)は、±20% を超えないことが求められます7。分析種の 97% が、SANTE の許容範囲内の残差を示しました。キャプタン、エジフェンホス、フォルペット(r2 = 0.98)以外、すべての分析種のグラフの値は r2 > 0.99でした。ベビーフードマトリックス添加標準試料中の一部の農薬の分析結果を図 3 に示します。
TargetLynx™ を用いて同定基準、保持時間、イオン比を算出し、フラグを付けました。各スパイクサンプル中で検出された各分析種の保持時間とイオン比は、レファレンスであるキャリブレーション標準試料の保持時間とイオン比に対応している必要があります。すべての分析種の保持時間が許容範囲 ±0.1 分以内であることがわかりました。すべてのスパイクサンプルの分析で得られたイオン比は、分析種の 92% について、同一シーケンスから得たキャリブレーション標準試料の平均値の ±30% 以内でした。
回収率は、0.0005 mg/kg と 0.001 mg/kg の 2 濃度での 5 回繰り返しスパイクの分析で得られたデータを使用して評価しました。SANTE ガイドラインでは、試験した各スパイク濃度の平均回収率 70% ~ 120% と規定されています。 0.0005 mg/kg と 0.001 mg/kg でのスパイクの分析結果から、分析種の回収率はそれぞれ 87 % および 93 % で許容範囲内であることがわかりました。8 種類の化合物については、0.0005 mg/kg で検出されなかった、あるいはバンク内に化合物が存在したために定量が行えませんでした。両濃度の残りの化合物はすべて 30% ~ 140% の回収率を示しましたが、回収率には一貫性がありました(RSD ≤ 20%)。すべての回収率の結果のサマリーを図 4 に示します。
この分析法の併行精度(RSDr)も満足できるものでした。SANTE ガイドラインでは、試験するスパイク濃度での RSDr は 20% 以下である必要があると規定されています。0.0005 mg/kg および 0.001 mg/kg では、分析種の 97% および 99.5% がこの許容範囲内でした。すべての併行精度の結果のサマリーを図 5 に示します。
結論
このアプリケーションブリーフでは、GC-MS/MS(APGC 搭載 Xevo TQ-XS)を使用した、コテージパイベビーフード中の残留農薬測定のための高感度で正確な残留物多成分一斉分析法について説明します。この分析法は、通常の MRL を十分に下回る濃度まで信頼性の高い定量が可能な分析法であり、SANTE ガイドラインに従って正常にバリデーションされています。この分析法は非常に高い感度を示し、注入量 1 µL でも、非常に低濃度の分析種がすべて確実に検出できました。Oasis PRiME HLB を使用するパススルー SPE は、dSPE に代わる迅速で効果的な代替法になります。この分析法は、ヨーロッパにおいて乳幼児向けの食品に設定された一連の特定の MRL の遵守を確認するなど、ベビーフード中の非常に低濃度の残留農薬の有無をモニターするのに適していることが実証されています。
参考文献
- COMMISSION DELEGATED REGULATION (EU) 2021/1040 of 16 April 2021 Amending Delegated Regulation (EU) 2016/128 as Regards the Requirements on Pesticides in Food for Special Medical Purposes Developed to Satisfy the Nutritional Requirements of Infants and Young Children.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/ALL/?uri=CELEX:32021R1040.
- COMMISSION DELEGATED REGULATION (EU) 2021/1041 of 16 April 2021 Amending Delegated Regulation (EU) 2016/127 as Regards the Requirements on Pesticides in Infant Formula and Follow-on Formula.https://eur-lex.europa.eu/legal-content/DE/ALL/?uri=CELEX:32021R1041.
- Determination of Pesticide Residues in Rice-Based Baby Food Using GC-MS/MS With APGC™ After Extraction and Clean-up Using QuEChERS.Waters Application Brief 720007682.
- Oasis PRiME HLB Food Applications Notebook.Waters Applications Notebook 720005932.
- European Committee for Standardisation (CEN) EN 15662:2018.Foods of Plant Origin - Multimethod for the Determination of Pesticide Residues Using GC- and LC- Based Analysis Following Acetonitrile Extraction/Partitioning and Clean-up By Dispersive SPE - Modular QuEChERS-Method.
- Determination of Pesticide Residues in Cucumber Using GC-MS/MS With APGC™ After Extraction and Clean-up Using QuEChERS.Waters Application Note 720007654.
- Document No.SANTE/11312/2021.Guidance Document on Analytical Quality, Control, and Method Validation Procedures for Pesticides Residues Analysis in Food and Feed.2021.
720007708JA、2022 年 8 月