MaxPeak™ Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å カラムによる、長鎖オリゴヌクレオチド分析種の分離の向上
要約
イオン対逆相液体クロマトグラフィーは、オリゴヌクレオチドの同定、純度、インテグリティーの特性解析に幅広く使用されています。これは診断および治療薬の両方の開発と品質管理にとって重要になります。これらのポリヌクレオチド分析種の検出感度と保持は、表面ケミストリーだけでなく、カラム固定相のポアサイズによっても左右されます。適切なポアサイズを選択することで、より長いオリゴヌクレオチドで固定相と効率的な相互作用が得られ、拡散効果の限界による影響が最小限に抑えられて、ピークキャパシティが改善できるようになります。本研究では、オンライン質量分析(MS)検出と適合性のある ACQUITY™ Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å 1.7 µm カラムを用いた、一本鎖(ss)異種デオキシリボヌクレオチド(DNA)ラダーの効率的な分離を報告しています。
アプリケーションのメリット
- ssDNA オリゴヌクレオチドラダーとして、オリゴヌクレオチドの LC 分析用の新しいレファレンス物質を使用
- ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 300 Å カラムによる長鎖オリゴヌクレオチドの優れた分離
- 70 ヌクレオチドを超えるオリゴヌクレオチドの分離の向上と同時に、より短いオリゴヌクレオチドの性能も維持
- 適用するイオン対試薬に依存しない、信頼性が高く一貫した分離性能
- 再現性のある高品質の性能および信頼性の高い質量測定
はじめに
高度な分析ツールにより、核酸に基づいた新たな診断および治療薬の開発が加速されています1-4。 逆相液体クロマトグラフィー(RPLC-MS)に質量分析を組み合わせることで、開発および薬物動態試験のさまざまな段階で、オリゴヌクレオチドの定性的および定量的な特性解析に推奨される選択肢となります。イオン対(IP)試薬として使用する揮発性アルキルアミンにより、このような種類の分析において、逆相カラムでのオリゴヌクレオチドの保持と分離が向上されます5-7。 IP 試薬の種類により、IP -RPLC での分離選択性と保持が決定されます3。 さらに、IP 試薬をヘキサフルオロイソプロパノールのような弱酸で緩衝することで、質量分析(MS)と適合性のあるオリゴヌクレオチド IP-RPLC 分析が行えます8-10。
固定相の表面ケミストリーとは別に、ポアサイズを考慮することが重要です。固定相のポアサイズは、オリゴヌクレオチド分離の選択性、保持、分離に影響を及ぼす場合があります。平均ポアサイズにより、分析種に含まれる分子が多孔性粒子構造の内外に拡散できるかどうか、および粒子間と粒子内の空間の分配が決定されます11。 ポアサイズが小さい(90 ~ 130 Å)固定相では、ベッド長あたりの表面積が大きくなるため、ポアサイズが大きく(300 Å)、比較的表面積が小さい固定相と比較すると、より短いオリゴヌクレオチド(50 mer 以内)の保持時間が長くなります12。 ただし、大きな分析種は、小さなポア構造を通過するときに、立体障害に遭遇します。これは、分析種の粒子内表面積へのアクセスが制限されている場合、または小さなポアからの拡散が妨げられて、ピークの広がりが示されている場合に見られます。対照的に、ポアサイズが大きいほど、長いオリゴヌクレオチドのアクセスが向上し、分離が改善されます4,12。 本研究では、ポアサイズ 300 Å の Premier BEH C18 カラムでの 70 mer を超えるオリゴヌクレオチド(80、90、100 mer を含む)について、一貫して分離が改善し、高品質の性能が得られることを示しています。
実験方法
サンプル情報
レファレンス物質は Waters(マサチューセッツ州ミルフォード)から入手しました。ssDNA 10 ~ 60 ラダー(Waters 製品番号:186009449)および ssDNA 20 ~ 100 ラダー(Waters 製品番号:186009448)(表 1)を 100 µL の Milli-Q 水で個別に再懸濁しました。穏やかに混合した後、バイアルの内容物を、イオン対逆相液体クロマトグラフィー(IP-RP-LC)質量分析(MS)用の容量 300 µL のポリプロピレン製オートサンプラーバイアル(製品番号:186002639)に移しました。これを、BioAccord™ RDa 検出器を使用して、ネガティブイオン化モードで分析しました。
LC 条件 1
LC システム: |
ACQUITY Premier BSM システム(BioAccord システムの一部) |
検出器: |
ACQUITY UPLC TUV 検出器 |
波長: |
260 nm |
カラム: |
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å、1.7 µm、2.1 × 150 mm(製品番号:186010541) ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、130 Å、1.7 µm、2.1 × 150 mm(製品番号:186009486) |
カラム温度: |
70 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入: |
5 µL |
流速: |
0.3 mL/分 |
移動相 A: |
7 mM のトリエチルアミン(TEA)を IP 試薬とし、40 mM の 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を Milli-Q 水中に調製( pH 8.6) |
移動相 B: |
3.5 mM TEA および 20 mM HFIP 含有の 50:50 メタノール: Milli-Q 水 |
グラジエントテーブル 1
LC 条件 2
LC システム: |
ACQUITY Premier BSM システム(BioAccord システムの一部) |
検出器: |
ACQUITY UPLC TUV 検出器 |
波長: |
260 nm |
カラム: |
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å、1.7 µm、2.1 × 150 mm ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、130 Å、1.7 µm、2.1 × 150 mm |
カラム温度: |
70 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
注入: |
5 µL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を IP 試薬とし、1% 1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)を Milli-Q 水中に調製 |
移動相 B: |
0.0375% DIPEA、0.075% HFIP 含有 65:35 アセトニトリル:Milli-Q 水 |
グラジエントテーブル 2
MS 条件
MS システム: |
BioAccord LC-MS システム |
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検出器: |
ACQUITY RDa 検出器 |
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モード: |
フラグメンテーションによるフルスキャン |
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極性: |
ネガティブ |
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コーン電圧: |
40 V |
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フラグメンテーションコーン電圧: |
80 ~ 200 V |
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質量範囲: |
高(m/z 400 ~ 5,000) |
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スキャンレート: |
2 Hz |
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キャピラリー電圧: |
0.80 kV |
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脱溶媒温度: |
400 ℃ |
インフォマティクス
waters_connect™ プラットホームの Intact Mass 分析アプリケーションを使用して、オリゴヌクレオチドの中性質量の値を計算しました。
結果および考察
IP-RP-LC-MS により、ポアサイズ 300 Å または 130 Å の吸着剤を含む ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18 カラムのセットを使用して、ssDNA 10 ~ 60 ラダーおよび 20 ~ 100 ラダーを分析しました。ネガティブイオン化モードで 3 回データを取り込みました。このモードでは、エレクトロスプレーソースのコーン電圧を低エネルギー(40 V)と高エネルギー(80 ~ 200 V)の間で交互に設定して、インタクトおよびフラグメント化したオリゴヌクレオチドの質量値を取り込みました。
ポアサイズ 300 Å の BEH C18 吸着剤を使用した場合の、オリゴヌクレオチド分析種の分離の改善を図 1~2 に示します。図 1 は、トリエチルアミン(TEA)-HFIP 移動相システムを使用して、両方のラダーで得られた LC-UV クロマトグラムの重ね書きを示しています。ポアサイズの異なる吸着剤を使用したこれらのカラムは、最大 60 mer まで同様のクロマトグラフィー分離が示されますが、ポアサイズ 300 Å のカラムは、130 Å のカラムと比較して、70、80、90、100 mer において分離の著しい改善が示されました。130 Å のカラムでは、70 mer および 80 mer が 1 つのピークセットとして分離されていますが、90 mer および 100 mer のピークセットではペアの個々の成分は部分的にしか分離されていません。ただし、両方のカラムについて、予想された数のオリゴヌクレオチドピークが得られました(10 ~ 60 ラダーでは 8、20 ~ 100 ラダーでは 9)。重要な点は、より大きなポアサイズのカラムを使用した場合にも、より短いオリゴヌクレオチドの分離が損なわれることなく維持されていたことです。興味深いことに、両方のラダーに存在する同一のオリゴヌクレオチド標準試料(20、30、40、50、60 mer)は、各ラダーを独立して注入した場合にも、ほぼ同じ保持時間が示されました。この種の再現性のある挙動は、オリゴヌクレオチドの医薬品開発、DMPK 試験、バイオアナリシスで見られるような、複数のサンプル中での同一の分析種の検出に非常に適しています。各クロマトグラフィーピークで観察されたオリゴヌクレオチド成分は、取り込んだエレクトロスプレー MS スペクトルにより確認されました(データは示していません)。予測されたように、ポアサイズ 130 Å のカラムの場合、ポアサイズの大きな吸着剤カラムと比較して、保持時間が長くなりました。これは、他の試験で提案されているように、ポア表面積が大きいためと考えられます12。
図 2 は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)-HFIP 移動相を使用した、ポアサイズ 300 Å のカラムでの IP -RP-LC-MS 後の 10 ~ 60 mer および 20 ~ 100 mer のラダーのクロマトグラフィープロファイルを示しています。この移動相システムでは、70、80、90、100 mer の DNA ラダー成分に対して、分離がわずかに改善されました。これは、複数の移動相系に対して頑健な分離性能を示しています。DIPEA の使用により得られたクロマトグラフィー分離のわずかな向上により、さらに高品質の MS データを達成することが可能になりました13。
分離されたオリゴヌクレオチドピークの質量測定値を図 3 および表 2 に示します。図 3 には、90 mer(59.12 分、MW 27,778)および 100 mer(59.90 分、MW 30,892)の ssDNA ラダー成分に対応するクロマトグラフィーピークについて得られた質量スペクトルのエレクトロスプレーイオンを示しています。各スペクトルのインタクトマス分析により、中性質量値が予想される平均質量値に十分に対応している(質量誤差が 60 ppm 未満)ことが明らかになりました。
表 2 には、waters_connect プラットホームの Intact Mass アプリケーションによる質量スペクトルのデコンボリューション後の個々のオリゴヌクレオチドのインタクト質量の値を示しています。これらのデコンボリューション後の質量値を調べることにより、最大 40 mer(MW 12,268)のオリゴヌクレオチドのモノアイソトピック質量と一致する傾向が高く、平均質量が 50 mer(MW 15,380)を超える DNA で一致する傾向が高いことが示されました。この所見により、BioAccord LC-MS システムとその RDa 質量分析計は約 10,000 の質量分解能を生成する傾向があることが確認されました。
最後に、UV 検出器のレスポンスを評価したところ、各ラダーへの 3 回の独立した注入からなる試験で高い再現性が得られ、RSD 値は 3% 未満でした(図 4)。
結論
ACQUITY Premier Oligonucleotide BEH C18、300 Å カラムにより、より短いオリゴヌクレオチドの優れた分離を維持しながら、より長いオリゴヌクレオチド分析種における分離が改善されます。新たに 2 種の LC 認定標準試料が入手可能になったことにより、2 種のイオン対移動相でのこの種類のカラムの適合性を迅速に確認できるようになりました。サイズとヌクレオチド組成が同一のオリゴヌクレオチドでは、元のサンプルに関係なく、同じ保持時間が示されました。この点から、これらのメソッドがピークトラッキングやピーク同定アプリケーションに非常に適していることが分かります。ここで説明するピークキャパシティの高いカラムとコンプライアンス対応の BioAccord LC-MS システムの組み合わせにより、長さ 100 ヌクレオチド以上のオリゴヌクレオチドの詳細分析が非常に簡単になりました。
参考文献
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720007926JA、2023 年 5 月