• アプリケーションノート

HPLC システムでの MaxPeak™ Premier カラムの使用による非特異的吸着の低減

HPLC システムでの MaxPeak™ Premier カラムの使用による非特異的吸着の低減

  • Kenneth D. Berthelette
  • Maureen DeLoffi
  • Kim Haynes
  • Waters Corporation

要約

LC システムに存在する表面と相互作用する分析種の回収率において、非特異的吸着が大きな問題になる場合があります。オリゴや特定の代謝物などの一部の化合物は、LC システムおよびカラムの金属表面と相互作用し、分析種の完全な喪失やピーク形状の乱れを引き起こします。このような相互作用は、さまざまなアプローチを用いて軽減することができますが、MaxPeak Premier カラムへの MaxPeak High-Performance Surfaces(HPS)テクノロジーの導入により、カラムの性能や寿命を損なうことなく、これらの問題が解消されます。このテクノロジーは、以前は一部のカラムケミストリーと粒子径でしか入手できず、ハードウェアの適用性が限られていました。

最近、一部の粒子径 3.5 µm のカラムケミストリーを採用した MaxPeak Premier カラムが発売され、HPLC システムを使用する分析者は、向上したハードウェアを利用できるようになりました。これらのカラムの拡張性を実証するとともに、複数の HPLC システムにおける NSA の影響を比較するために、以前に開発した分析法を、2 種類の HPLC システムで、1.7 µm ACQUITY™ Premier カラムから 3.5 µm XBridge™ Premier カラムにスケーリングしました。標準のステンレススチール製ハードウェアカラムも使用して、分離における MaxPeak HPS ハードウェアのメリットを確認しました。スケーリングした分析法は、両方の HPLC システムにおいて UPLC™ と同様の性能を示し、金属に吸着しやすい化合物のピーク面積が同様に改善されています。

アプリケーションのメリット

  • 2 種類の HPLC システムで金属に吸着しやすい分析種の回収率が向上
  • UPLC から HPLC にスケーリングした分析法でも同等の分離性能を実現
  • HPS ハードウェアにより、UPLC および HPLC システムでピーク面積に同等の改善が見られる

はじめに

非特異的吸着(NSA)は、多くのワークフローで厄介な問題になる可能性があります。注入ごとに結果が異なったり、LC 分析における分析種の回収率が低下した場合、やり直しや調査が必要になり、費用がかさむことがあります。このような懸念を軽減するために、MaxPeak Premier カラムが特別に設計されました。このテクノロジーでは、有機無機ハイブリッドケミストリーを取り入れた修飾表面を使用しており、これが LC カラムおよびハードウェアの両方で分析種と金属表面の間の相互作用を防ぎます1。 このテクノロジーを利用できなかったワークフローの 1 つに、HPLC 装置を使用する QC ワークフローがあります。QC ワークフローは、サンプルの解析およびバッチのリリースを行う上で、再現性のある結果が得られる頑健な分析法に大きく依存しています。分析に失敗すると、製品の在庫、ひいては売上に直接影響する可能性があります。

以前は 2 µm 以下および 2.x µm の粒子が充塡された MaxPeak Premier カラムが入手できましたが、HPLC の粒子径を使用した MaxPeak Premier カラムがついに開発されました。このテクノロジーが HPLC カラム構成で提供されたことで、QC ワークフローのアップストリームで開発した分析法を UPLC から HPLC 装置にシームレスに移管することができます。このことを実証するため、ACQUITY UPLC H-Class システムを使用して ACQUITY Premier BEH™ C18、1.7 µm カラムで開発した分析法を、Alliance HPLC と Arc™ HPLC の 2 種類の HPLC システムを使用して XBridge Premier BEH C18 3.5 µm カラムに移管しました。この分析法は当初、MaxPeak Premier カラム製品で利用できるさまざまな選択性を説明するために開発されたものです2。 移管の各ステップで、標準のハードウェアと MaxPeak HPS ハードウェアウェアの比較を行いました。分析法の移管を補助するため、ウォーターズカラムカリキュレーターを使用しました。カラムカリキュレーターは、流速、注入量、グラジエント時間の調整など、スケーリングに必要な計算をすべて自動で行います3,4。 移管は正常に完了し、UPLC プラットホームと HPLC プラットホームの間で性能に変化はありませんでした。さらに、MaxPeak Premier カラムを使用することで、UPLC システムと HPLC システムの両方で、ステンレススチール製カラムとの比較において同等のメリットが得られます。重要なアッセイにおいて、HPLC システムで MaxPeak Premier カラムを使用することで、再現性が大幅に改善します5-7

実験方法

サンプルの説明

ストック溶液を作成してこれらを混合しました。95:5 10 mM ギ酸アンモニウム(pH 3.0):アセトニトリルを用いて、チオ尿素(4 µg/mL)、メトプロロール(300 µg/mL)、フタル酸ジプロピル(40 µg/mL)、アミトリプチリン(10 µg/mL)、プレドニゾン(10 µg/mL)、ヒドロコルチゾンリン酸(10 µg/mL)、デキサメタゾンリン酸(10 µg/mL)の混合液を作製しました。

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC H-Class Plus システム(PDA 検出器搭載)

Arc HPLC システム(TUV 検出器搭載)

Alliance HPLC システム(TUV 検出器搭載)

検出:

UV @ 254 nm

カラム:

ACQUITY UPLC BEH C18 カラム、1.7 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186002350)

ACQUITY Premier BEH C18 カラム、1.7 µm、2.1 × 50 mm(製品番号:186009452)

XBridge BEH C18 カラム 3.5 µm、4.6 × 100 mm

(製品番号:186003033)

XBridge Premier BEH C18 カラム 3.5 µm、4.6 × 100 mm(製品番号:186010660)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

2.0 µL(UPLC)および 19.2 µL(HPLC)

流速:

0.5 mL/分(UPLC)および 1.165 mL/分(HPLC)

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 3.0)

移動相 B:

アセトニトリル

UPLC グラジエント条件:

5.3 分間で 5 ~ 95% B の直線ランプ。合計分析時間 7 分。

HPLC グラジエント条件:

5% B で 1.91 分間アイソクラティックホールド。21.83 分間で 5 ~ 95% B の直線ランプ。合計分析時間:30.74 分。

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3 Feature Release 5

結果および考察

以前に開発した分析法をまず、同じバッチの BEH UPLC 18 1.7 µm 粒子を充塡したステンレススチール製カラムおよび MaxPeak Premier カラムをそれぞれ搭載した ACQUITY UPLC H-Class システムで試験しました。図 1 に、ステンレススチール製ハードウェアと MaxPeak HPS ハードウェアの両方で得られた結果を示します。

図 1.PDA を搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus で、同じバッチの固定相が充塡された 2.1 × 50 mm、粒子径 1.7 µm のカラム 2 本を使用した被験混合物の分離。カラムハードウェアは、図に示されているように試験したカラム間で異なります。1)チオ尿素、2)メトプロロール、3)ヒドロコルチゾンリン酸塩、4)デキサメタゾンリン酸、5)プレドニゾン、6)アミトリプチリン、7)ジプロピルフタル酸。

今回得られた結果は、元の研究2で得られた結果と同等です。 MaxPeak HPS ハードウェアでは、2 種類の金属に吸着しやすい化合物(デキサメタゾンリン酸およびヒドロコルチゾンリン酸)について、より良好なピーク形状、より大きなピーク面積、より高いピークが見られます。さらに、存在する他の化合物に対しても悪影響は見られませんでした。結果が以前の研究と同等であることが分かったため、次に、分析法を 2 種類の HPLC システムにスケーリングしました。

分析法を適切にスケーリングするために、ACQUITY カラムカリキュレーターを使用しました。カラムカリキュレーターは、元のカラム、グラジエント時間などの元の分析法の詳細、新しいカラムのサイズに基づいて、新しい分析法条件を生成します。カリキュレーターは、新しい分析法が元の分析法と同等であることを保証するため、システムのデュエルボリュームの相違に基づいてグラジエントホールドを推奨することもできます。図 2 はカラムカリキュレーターで、元の分析法の詳細な入力情報を左、新しい分析法の計算値を右に示します。

図 2.ACQUITY カラムカリキュレーター。グラジエントテーブル、カラムサイズ、システムデュエルなどの元の分析法の詳細が左に入力されています。新しいカラムサイズとシステムデュエル(該当する場合)が右に入力されており、新しいグラジエントテーブル、流速、注入量が自動的に計算されています。

この実験ではシステムのデュエルボリュームは計算されておらず、入力されている値は各システムの裏付け文献から取得したものです。図からわかるように、図 2 の右下の新しいグラジエントテーブルは、推奨ホールドとして 1.91 分が必要であることを示しています。これは、H-Class Plus システムで見られるデュエルボリュームが、両方の HPLC システムで見られるデュエルボリュームと一致するようにするためです。この移管では、4.6 × 100 mm、粒子径 3.5 µm のカラムに移行させています。この構成を選択したのは、L/dp 比(長さ対粒子径比)が元の試験条件と同等であるためです。分析法移管時に L/dp 比を一致させることにより、全体的な性能が両方の分離の間で同等になるはずです。

新しい分析法条件を使用して、2 種類の HPLC システムを、ステンレススチール製カラムと MaxPeak HPS ハードウェアカラムの両方で試験しました。いずれのカラムも社内で充塡したもので、同じバッチの固定相を使用しています。まず Alliance HPLC を使用しました。Alliance HPLC は古い HPLC システムですが、現在でもさまざまな業界の QC などで多用されています。図 3 に、チューナブル UV 検出器(TUV)を含む Alliance HPLC システムを使用した試験において、両方のカラムで得られた結果を示します。

図 3.TUV を搭載した Alliance HPLC で、同じバッチの固定相が充塡された 4.6 × 100 mm、粒子径 3.5 µm のカラム 2 本を使用した被験混合物の分離。カラムハードウェアは、図に示されているように試験したカラム間で異なります。1)チオ尿素、2)メトプロロール、3)ヒドロコルチゾンリン酸塩、4)デキサメタゾンリン酸、5)プレドニゾン、6)アミトリプチリン、7)ジプロピルフタル酸。

図からわかるように、Alliance HPLC で得られた結果は全体的に、H-Class Plus システムで得られた結果と非常に似ています。Alliance HPLC ではピーク面積が大きく、分析時間が長くなっていますが、これは、注入量の増加とカラム設定の変更から予想されたことです。ステンレススチール製ハードウェアを MaxPeak HPS ハードウェアと比較すると、H-Class Plus システムと同様に、ピーク面積が約 5% 増加するという結果になりました。より新しい HPLC システムである Arc HPLC システムを使用することで、HPLC における MaxPeak HPS ハードウェアのメリットがさらに確認できました。Alliance HPLC システムと Arc HPLC システムで、同じ分析法条件、注入量、カラムを使用しました。図 4 に、Arc HPLC システムで得られた結果を示します。

図 4.TUV を搭載した Arc HPLC で、同じバッチの固定相が充塡された 4.6 × 100 mm、粒子径 3.5 µm のカラム 2 本を使用した被験混合物の分離。カラムハードウェアは、図に示されているように試験したカラム間で異なります。1)チオ尿素、2)メトプロロール、3)ヒドロコルチゾンリン酸塩、4)デキサメタゾンリン酸、5)プレドニゾン、6)アミトリプチリン、7)ジプロピルフタル酸。

予想どおり、MaxPeak Premier カラム中の MaxPeak HPS ハードウェアでは、金属に吸着しやすい化合物のピーク面積が改善しており、混合物中の他のプローブにも悪影響がありません。Alliance HPLC システムで得られた結果と合わせて考えると、MaxPeak HPS ハードウェアには、HPLC システムにおいて、金属に吸着しやすい化合物に関してメリットがあることが証明されました。このことから、ACQUITY Premier カラムを使用して作成した分析法を、必要に応じて HPLC にまでスケーリングすることができます。

結論

分析種と露出した金属表面の間の望ましくない相互作用を低減するために、MaxPeak High-Performance Surfaces(HPS)テクノロジーがカラムと LC 装置ハードウェアの両方に使用されています。このような相互作用により、吸着による損失によって分析種の回収率が低下することがあるとともに、ピーク形状の問題や再現性の低下が生じます。ACQUITY Premier カラムシリーズは、分離性能を改善するためにさまざまなワークフローで使用されていますが、これまではこれらの分析法を HPLC のカラムおよびシステムにスケーリングできませんでした。

Select XBridge および XSelect™ Premier カラムは、粒子径 2.5 µm および 3.5 µm で入手できるため、それぞれ UHPLC 分析または HPLC 分析に適しています。これにより、QC 試験を設計・開発から移行させる際に一般に行われる、UPLC のカラムおよび装置から HPLC への分析法のスケーリングおよび移管が可能になります。このことを実証するため、以前に開発した分析法を、ACQUITY H-Class Plus システムに搭載された UPLC カラムから、Alliance HPLC および Arc HPLC に搭載された HPLC カラムにスケーリングしました。カラムハードウェアに HPS テクノロジーを使用することにより、システムや粒子サイズに関係なく、また他のプローブの性能を変えることなく、金属に吸着しやすい化合物の分析種の回収率が向上しました。MaxPeak Premier カラムに変更するだけで、HPLC 分析における再現性、分析種の回収率、ピーク形状の改善というメリットが得られます。

参考文献

  1. Delano M, Walter TH, Lauber M, Gilar M, Jung MC, Nguyen JM, Boissel C, Patel A, Bates-Harrison A, Wyndham K. Using Hybrid Organic-Inorganic Surface Technology to Mitigate Analyte Interactions with Metal Surfaces in UHPLC.Anal.Chem. 93 (2021) 5773–5781.
  2. Boissel C, Walter TH.Improved Peak Shape and Wide Selectivity Range with ACQUITY Premier Columns.Waters Application Note.720007014.September 2020. 
  3. Du X, DeLaney K, Birdsall R, Friedman T. Method Scaling from ACQUITY Premier to Arc Premier System.Waters Application Note.720007862. February 2023.
  4. Berthelette KD, Haynes K. Future-Proofing Validated Pharmacopeia Methods: A Case Study of Improving Throughput and Decreasing Operational Cost.LC-GC The Column. 5-July-2023, Vol 19, Issue 7.20–23.
  5. Boissel C, Walter TH, Shiner SJ.ACQUITY Premier Solution Improves the UPLC-MS Analysis of Deferoxamine – an Iron Chelating Drug.Waters Application Note.720007239. April 2021.
  6. Deloffi M. A Comparison of MaxPeak Premier Columns with MaxPeak HPS Technology versus PEEK-Lined Column Hardware.Waters Application Note.720007210.March 2021.
  7. Clements B, Rainville P. Rapid Analysis of Cephalosporins and Related Drug Substances Using CORTECS Premier Columns Featuring MaxPeak Technology.Waters Application Note.720007750. January 2023.

720008071JA、2023 年 10 月

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