• アプリケーションノート

キシラジンを混ぜた偽造 M30 錠の抽出物のスクリーニングおよび確認試験

キシラジンを混ぜた偽造 M30 錠の抽出物のスクリーニングおよび確認試験

  • Michael Wakefield
  • Jeff Salamat
  • Alexandra Harvey
  • Waters Corporation
  • San Diego County Sheriff’s Department Regional Crime Laboratory

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

過去 2 年間における全米の薬物押収において、偽造 M30 錠中のキシラジンの存在が憂慮すべき傾向となっています。今回、偽造 M30 錠の抽出物に含まれる物質をスクリーニングおよび確認するワークフローについて説明します。

アプリケーションのメリット

  • ACQUITY™ RDa™ 検出器により、押収薬物サンプルを包括的にスクリーニングするための、迅速で効率の良い分析法が得られる
  • 精密質量、短い分析時間、カスタマイズや拡張が可能なライブラリー、およびフラグメンテーションによるフルスキャンの取り込みの組み合わせにより、薬物スクリーニングにおける信頼性の高い結果を実現
  • Xevo™ TQ-Absolute および TQ-S micro タンデム質量分析計により、薬物確認分析において優れた感度を実現

はじめに

違法薬物ネットワークでは、偽造錠剤を大量に製造し、それらを正規の処方薬であるかように偽って販売して、無防備な顧客をだましています。多くの偽造錠剤は、図 1 に示すように、外見をオキシコドン(Oxycontin®、Percocet®)、ヒドロコドン(Vicodin®)、アルプラゾラム(Xanax®)などの処方薬やアンフェタミン類(Adderall®)などの刺激薬に見せかけて作られています。このような偽造処方薬は簡単にアクセスでき、ソーシャルメディアや e-Commerce のプラットホームでよく販売されているため、未成年者を含め、簡単に入手できます。過去 2 年間、米国全体で薬物押収に憂慮すべき傾向が見られています。動物用鎮静剤であるキシラジンが混ぜ物として使用されている違法薬物混合物の数が増加して、過剰投与による死亡数の増加につながっています1

図 1.  オキシコドン(https://www.dea.gov/onepill)などの処方薬に見せかけた偽造 M30 錠

以前、ACQUITY RDa 検出器を使用した押収薬物のスクリーニングのための LC-Tof 分析法について説明しました2。 ACQUITY RDa 検出器を使用した押収薬物のスクリーニングは、カスタマイズ可能なターゲット薬物のリストをスクリーニングする迅速で効率の良い分析法になり、さらに未同定化合物の同定が容易になります。今回、ACQUITY RDa 検出器を使用した、偽造 M30 錠の溶解、ろ過、希釈、「希釈して注入」によるサンプル前処理を利用した押収薬物スクリーニングについて説明します。MRM 検出モードで動作する LC-MS/MS システムを、ACQUITY UPLC™ I-Class PLUS(FTN)システムに接続した Xevo TQ Absolute(または Xevo TQ-S micro)質量分析計を用いた同定成分の確認に使用します。いずれの装置も、この種のセミ定量試験としては優れた感度を示し、さまざまな予算に対応した選択肢が用意されています。

実験方法

サンプル前処理

偽造 M30 錠のサンプル抽出物は、サンディエゴ郡保安官事務所規制物質部から提供を受けました。M30 錠は、削って粉末にして調製した後、0.2 µm PTFE Acrodisc シリンジフィルター(ウォーターズ製品番号:186009327)でろ過し、約 1 mg の粉末を 1 mL のエタノールに溶解しました。

ろ過済みの溶液 3 滴を 20% メタノール水溶液(スクリーニング溶液)で希釈してから、UPLC システムに 10 µL 注入し、スクリーニング分析を行いました。

このスクリーニング溶液を 80/20(v/v)水/メタノールでさらに 1:100 希釈してから(確認溶液)、1 µL を UPLC システムに注入して確認分析を行いました。 

ACQUITY RDa 検出器を用いた押収薬物のスクリーニング

ACQUITY UPLC I-Class PLUS FTN システムを使用して、スクリーニング溶液 10 µL を注入しました。ACQUITY HSS T3 1.8 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186003539)、および移動相として 5 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3.0)および 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液を使用して、分析時間 9.5 分にわたって化合物を分離しました。ACQUITY RDa 検出器を使用して、フラグメンテーションによるポジティブイオンフルスキャンデータ(m/z 50 ~ 2000)で、化合物を検出しました。押収薬物スクリーニング実験では、化合物の同定が容易になるように、フラグメンテーションによるフルスキャンデータを利用します。400 種の化合物からなるカスタムターゲットリスト(ライブラリー)を押収薬物スクリーニング実験に使用しました。以前に記載したように、waters_connect™ ソフトウェアを使用して、カスタマイズ可能なライブラリーを迅速に検索し、精密質量、保持時間、化合物のフラグメンテーションデータを利用して、ケースワークサンプルを同定しました2

タンデム質量分析を用いた押収薬物の確認およびセミ定量

標準試薬の入手可能性に基づき、M30 錠において、同定された 14 種類の化合物のうち 11 種類について、セミ定量実験を行いました。ACQUITY UPLC I-Class PLUS FTN システムを使用して、確認溶液 1 µL を注入しました。ACQUITY HSS T3 1.8 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186003539)、および移動相として 5 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3.0)および 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液を使用して、分析時間 4.5 分にわたって化合物を分離しました。化合物の検出およびセミ定量には、Xevo TQ Absolute と、ポジティブイオン化モードおよび MRM 検出モードで動作する Xevo TQ-S micro タンデム質量分析計を使用し、定量トランジションおよび定性トランジションを用いて行いました(表 1)。

表 1.  Xevo TQ Absolute および Xevo TQ-S micro の MRM 条件(定量イオントランジションは太字で表示)

20% メタノール水溶液中 0.5 ~ 100 ng/mL の範囲の各化合物(アセトアミノフェンとカフェインを除く)について 5 点検量線を作成し、濃度 35 ng/mL の品質管理試料を調製しました。アセトアミノフェンとカフェインについては、20% メタノール水溶液中 1.0 ~ 250 ng/mL の範囲の検量線、および 75 ng/mL の品質管理標準試料を使用しました。
分析の時点では、分析する化合物の重水素化内部標準が入手できなかったため、この分析には外部標準を用いて定量を行いました。

結果および考察

ACQUITY RDa を用いた押収薬物のスクリーニング

このスクリーニング分析法により、保持時間、精密質量、装置強度レスポンスの予想値および実測値に基づいて、偽造 M30 錠の抽出物中に、14 種類の推定陽性同定化合物(アセトアミノフェン、4-ANPP、4-メチルアミノアンチピリン、アセチルフェンタニル、カフェイン、デスプロピオニルパラフルオロフェンタニル、フェンタニル、リドカイン、O(p)-フルオロフェンタニル、パラフルオロフェネチル 4-ANPP、フェネチル 4-ANPP、プロカイン、トラマドール、キシラジン)が同定されました。図 2a および 2b に、それぞれフェンタニルとキシラジンの押収薬物スクリーニング実験で得られた waters_connect ソフトウェアの結果を示します。キシラジンの実測質量は m/z 221.1110、質量誤差は 1.3 ppm(0.3 mDa)で、保持時間は、予想値 2.38 分に対して実測値は 2.30 分でした。さらに、フェンタニルの実測質量は m/z 337.2272、質量誤差は -0.8 ppm(-0.3 mDa)で、保持時間は、予想値 3.10 分に対して実測値は 3.08 分でした。

図 2a.  waters_connect ソフトウェアで得られた、M30 錠の分析における、フェンタニルについての押収薬物スクリーニング結果
図 2b.  waters_connect ソフトウェアで得られた、M30 錠の分析における、キシラジンについての押収薬物スクリーニング結果

タンデム質量分析を用いた押収薬物の確認およびセミ定量

いずれのタンデム四重極装置でも、分析した各化合物について、同等の結果が得られました。各化合物は、試験したキャリブレーション範囲にわたって R2 値が 0.995 より大きい、直線性のレスポンスを示しました。

Xevo TQ Absolute および Xevo TQ-S micro での M30 錠の分析で得られたセミ定量的結果は、分析したすべての化合物について、サマリーテーブルにも示しています(図 3)。Xevo TQ Absolute を使用して、フェンタニルは 7444 ng/mL、キシラジンは 913 ng/mL の濃度で検出されました。さらに、4-メチルアミノアンチピリン(ヨーロッパの鎮痛剤メタミゾールの代謝物)、4-ANPP、O(p)-フルオロフェンタニル、アセトアミノフェン、カフェインが 500 ng/mL を超えるレベルで検出されました。

図 3.  Xevo TQ Absolute および Xevo TQ-S micro による錠剤の分析で得られたセミ定量結果のサマリー

図 4 および 5 に、Xevo TQ Absolute による M30 錠の分析で、フェンタニルおよびキシラジンそれぞれについて TargetLynx™ XS で得られたセミ定量的結果を示します。

図 4.  Xevo TQ Absolute でのフェンタニルの TargetLynx の結果
図 5.  Xevo TQ Absolute でのキシラジンの TargetLynx の結果

結論

キシラジンが混入していることが判明した偽造 M30 錠の分析を一例として、スクリーニングおよび確認ワークフローを実証しました。このワークフローは、カテゴリー A および B の手法を利用した押収薬物の分析に関する科学分野委員会(Organization of Scientific Area Committees、OSAC)の同定に関する勧告に従っており、構造情報および化学的特性・物理的特性によって最高レベルの選択性が得られます。

ACQUITY RDa 検出器を用いた LC-Tof 分析により、迅速で効率の良い分析法が開発でき、押収薬物サンプルの包括的なスクリーニングが行えます。この例では、1 種類の有効成分が含まれているはずの錠剤中に、14 種類の化合物からなる複雑な混合物が仮同定されました。精密質量、分析時間の短縮、カスタマイズや拡張が可能なライブラリー、およびフラグメンテーションによるフルスキャンデータ取り込みの組み合わせにより、薬物スクリーニング実験において信頼性の高い結果が得られ、最初のターゲットライブラリー検索で結果が得られなかった場合には、遡及的なデータ分析が容易に行えます。

Xevo TQ Absolute 質量分析計または Xevo TQ-S micro 質量分析計を使用した確認試験により、同定された化合物の保持時間と MRM セミ定量データが得られました。いずれの質量分析計でも、化合物を検出および定量するのに十分な、優れたレベルの感度が得られました。分析した偽造 M30 錠では、キシラジンが検出され、濃度 913 ng/mL と定量されました。

参考文献

  1. https://www.dea.gov/sites/default/files/2022-12/The%20Growing%20Threat%20of%20Xylazine%20and%20its%20Mixture%20with%20Illicit%20Drugs.pdf Accessed 31 May 2023.
  2. Michael Wakefield and Erik Todd. Seized Drug Screening using the ACQUITY RDa Detector. Waters Application Note. 720007097. December 2020.

720008060JA、2023 年 10 月

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