Xevo™ TQ Absolute を使用した µg/kg 以下の定量限界での食品サンプル中の陰イオン性極性農薬の検出
要約
陰イオン性極性農薬分析の分野では、QuPPe メソッドなどの汎用抽出法が使用されて過去 10 年間の間に進化を遂げており、これらの困難な分析種に対して多成分残留物アプローチが用いられるようになりました。Xevo TQ Absolute タンデム四重極型質量分析計の陰イオンに対する感度向上により、野菜サンプルで 0.5 µg/kg、穀物サンプルで 2 µg/kg の定量限界が達成可能になっています。キュウリマトリックス標準で 1 ~ 10 µg/kg、小麦粉マトリックス標準で 10 ~ 50 µg/kg の 10 回の注入により真度を評価しました。キュウリの真度は 91 ~ 117% で RSD は 0.6 ~ 8.7%、小麦粉の真度は 96 ~ 104% で RSD は 0.5 ~ 9.2% でした。
アプリケーションのメリット
- Xevo TQ Absolute の性能により、陰イオン性極性農薬の分析感度が高まり、以前に示されたよりも大幅に低い検出限界を達成できることを実証
- サンプル注入量の減少により、LC-MS/MS システムに導入されるサンプルマトリックスが減少
- お客様の成功を保証するための当社の成果ベースのサポートモデルを利用して、導入を世界中でサポート
はじめに
陰イオン性極性農薬のルーチン分析が多くのラボの要求事項になっています。これらの困難な分析種および代謝物には、QuEChERs や Mini-Luke などの一般的な多成分残留物アプローチも逆相クロマトグラフィーも用いることができません1,2。 極性農薬のアプローチは通常、選択的な単一残留物分析法であり、分析に多大な労力が必要でした。迅速極性農薬(QuPPe)分析法の導入により、一般的な多成分残留法を用いることができない高極性農薬についての食品分析が可能になりました3。Waters™ では、Anion Polar Pesticide カラムによりこのアプローチで複数の重要な課題を解決する方法、および期待される抽出法の性能に着目した、陰イオン性極性農薬分析の分野のアプリケーションをいくつか公表しています4,5,6,7。
陰イオン性極性農薬のより低い定量限界への需要に対して、Xevo TQ Absolute の陰イオンに対する感度の向上で対応することができます。これにより、検出限界を µg/kg レベルあるいはそれ以下の領域にまで下げることが可能になり、QuPPe メソッドなどの汎用抽出法と組み合わせることで、この分析に多成分残留物アプローチがもたらされました。今回のアプリケーション試験では、高感度によるより低い定量下限の達成に着目しています。注入量の減少により、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)システムでのマトリックスのロード量を減らすことも、このアプローチを用いることで可能になります。
実験方法
QuPPe version 12 プロトコルにしたがって、ブランクマトリックス抽出物を生成しました3。 キュウリマトリックス標準は 0.5 ~ 200 µg/kg の範囲(バイアル中濃度で 0.25 ~ 100 ng/mL)、小麦粉マトリックス標準は 2 ~ 200 µg/kg の範囲(バイアル中濃度で 0.25 ~ 25 ng/mL)になるようにそれぞれ調製しました。それぞれの範囲に対応する溶媒標準を調製し、マトリックス効果を評価しました。
使用したクロマトグラフィー条件は、以前に発表したアプリケーションノートに記載されており、Anionic Polar Pesticide カラムを使用しています4。
結果および考察
QuPPe 抽出の抽出法の性能は十分に裏付けられており、極性農薬の分析における定量作業にこの抽出プロセスが適していることが実証されています3,4,5,6。Anionic Polar Pesticide カラムを使用するクロマトグラフィー性能は確立され、文書化されています4,5,6。
確立されたウォーターズの LC 分析法を使用して、Xevo TQ Absolute で直線性と定量限界の両方を評価しました。 陰イオン性極性農薬について直線的なレスポンスを示す範囲は、キュウリマトリックスについて 0.5 ~ 200 µg/kg(バイアル中濃度で 0.25 ~ 100 ng/mL)、小麦粉マトリックスについて 2 ~ 200 µg/kg(バイアル中濃度で 0.25 ~ 25 ng/mL)の範囲で試験しました。これらのキャリブレーションシーケンスにおいて、定量限界を最も低いキャリブレーション標準として定義しました(キュウリマトリックスについて 0.5 µg/kg、小麦粉マトリックスについて 2 µg/kg)。エテホン以外のすべての化合物では、キャリブレーションの評価に内部標準を使用しました。すべてのケースで、キャリブレーションの残差は 20% 未満、決定係数(r2)の値はすべて 0.99 以上でした。キュウリおよび小麦粉のマトリックス標準のキャリブレーションの例を図 1 に示します。
このキャリブレーション実験から、分析法の定量限界が最低キャリブレーション標準として計算され、定量トランジションおよび定性トランジションが検出されました。これらの限界は表 1 に記載しています。2 種類のサンプルの定量限界の差は、キュウリのような「水分の多い」食料品と小麦粉のような「水分の少ない」食料品に用いられる QuPPe v12 抽出手順内での希釈係数の違いによるものです。いずれの食料品でも、試験したすべての陰イオン性極性農薬(AMPA 以外)について検出されたバイアル中濃度は 0.25 ng/mL でした。AMPA では、小麦粉マトリックス中のバイアル中濃度が 0.63 ng/mL とわずかに高いですが、これはマトリックスによるシグナル抑制によるものです。
キュウリマトリックスと小麦粉マトリックスの両方について、マトリックス標準を繰り返し注入し、ブラケットしたキャリブレーション標準を用いて生成したキャリブレーショングラフに対してレスポンスを定量することで、極性農薬分析の真度および再現性を評価しました。図 2 に示したこれらの実験の結果から、Xevo TQ Absolute により、キュウリ(代表的な野菜マトリックス)では濃度 1 µg/kg、小麦粉(代表的な穀物マトリックス)では濃度 2 µg/kg の陰イオン性極性農薬の残留物を正確に定量できることが実証されています。ただし小麦粉では AMPA は 5 µg/kg とわずかに高い値です。キュウリマトリックス(1 µg/kg)中の陰イオン性極性農薬のクロマトグラムの例を図 2 に示します。
追加の実験を実施して、単一のキュウリマトリックス標準(10 µg/kg、バイアル中濃度 5 ng/mL)の一連の注入により、分析種のレスポンスの再現性を調査しました。ピーク面積をプロットして、一般的な分析バッチの 30 回の注入にわたって安定なレスポンスが達成できていることを確認しました。レスポンスは、内部標準のレスポンスによる調整を行わず、ネイティブ分析種から得られたピーク面積のレスポンスを使用しました。図 3 に示すように、一連の 30 回の注入にわたるピーク面積の RSD は一般に 3% 以下で、ホセチルアルミニウムのみ 7% でした。
結論
陰イオン性極性農薬について、QuPPe 汎用抽出法により簡素化された多成分残留物アプローチに移行することに対する需要がますます高まっています。汎用的で簡素化された抽出手法への移行に伴い、これらの陰イオン性分析種のより低い定量限界に対する需要が生じています。Xevo TQ Absolute のネガティブイオン化モードでの感度向上により、大幅に低レベルの定量を達成できるようになりました。これにより、陰イオン性極性農薬の定量限界として、キュウリ(代表的な野菜マトリックス)では 0.5 µg/kg、小麦粉(代表的な穀物マトリックス)では 5 µg/kg(AMPA に対しては 2 µg/kg)が達成されました。
参考文献
- M. Anastassiades, S. J. Lehotay, D. Stajnbaher, F. J. Schenck, Fast and Easy Multiresidue Method Employing Acetonitile Extraction/Partitioning and “Dispersive Solid-Phase Extraction” for the Determination of Pesticide Residues in Produce, J. AOAC Int., 86 (2003) 412–431.
- Dutch mini-Luke (“NL-”) Extraction Method Followed by LC and GC-MS/MS for Multiresidue Analysis of Pesticides in Fruits and Vegetables, URL: https://www.eurl-pesticides.eu/userfiles/file/NL-miniLuke-extraction-method.pdf.
- M. Anastassiades; A.-K. Wachtler; D. I. Kolberg; E. Eichhorn; H. Marks; A. Benkenstein; S. Zechmann; D. Mack; C. Wi ldgrube; A. Barth; I. Sigalov; S.Görlich; D.Dörk and G. Cerchia.Quick Method for the Analysis of Highly Polar Pesticides in Food Involving Extraction with Acidified Methanol and LC - or IC MS/MS Measurement - I. Food of Plant Origin (QuPPe-PO-Method) –Version 12 (published on EURL-SRM website on July 23, 2021); URL: https://www.eurl-pesticides.eu/docs/public/tmplt_article.asp?CntID=887&LabID=200&Lang=EN.
- Hird S, Adams S, De-Alwis J. Evaluation of the Performance of a Method for the Determination of Highly Polar, Anionic Pesticides in Foodstuffs Using LC-MS/MS, Waters Application Note, 720007505, 2022.
- De-Alwis J, Williams J, Hird S, Adams S. Evaluation of the Performance of an LC-MS/MS Method for the Determination of Anionic Polar Pesticides Residues in Crops and Foodstuffs Using an Interlaboratory Study, Waters Application Note, 720007154, 2021.
- Kumar K P, Bhaska K, Gorella T, Wagh P. Determination of Anionic Polar Pesticides in Grapes using UPLC-MS with Anionic Polar Pesticide Column.Waters Application Note, 720006925, 2020.
- Ross E, De-Alwis J, Adams S, Williams J, Shah D D. Determination of Anionic Polar Pesticides in High Water Foodstuffs.Waters Application Note, 720006645, 2019.
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720007567JA、2022 年 3 月