• アプリケーションノート

Waters カラムカリキュレーターを使用した、手動計算ワークフローよりも迅速でシンプルな、粒子径間での分析法のスケーリング

Waters カラムカリキュレーターを使用した、手動計算ワークフローよりも迅速でシンプルな、粒子径間での分析法のスケーリング

  • Kenneth D. Berthelette
  • Jonathan E. Turner
  • Jamie Kalwood
  • Kim Haynes

体外診断(IVD)目的です。一部の国/地域では提供されていません。

要約

異なる粒子径を充塡した異なる構成(内径および長さ)の複数カラムで、確立された分析法をスケーリングする場合、ラボの外で同等の分析法条件を得るにはかなりの時間が必要になります。グラジエント分析法を扱う場合、必要な計算として、新しい流速、グラジエント時間、注入量の決定などがあります。分析者は、適切な式を使用してこれらの計算を手動で行うことも、Waters カラムカリキュレーターなどのツールを使用することもできます。このアプリケーションブリーフでは、まず適切な分析法スケーリングの式を使用して理論的スケールダウン実験を手動で行い、次に Waters カラムカリキュレーターによって得られたスケールダウンの条件を使用して実験を繰り返すことにより、2 つのスケーリングワークフローを検討します。手動計算による結果と Waters カラムカリキュレーターを使用して得られた結果に強い一致が見られたことにより、Waters カラムカリキュレーターを分析法のスケーリングに有効に使用できることが検証されました。また、大幅に時間が短縮され、計算ミスや不確実性の可能性が低減されました。

アプリケーションのメリット

  • Waters カラムカリキュレーターを使用して、最小限のユーザー入力で分析法を迅速にスケーリング
  • 新しい分析法に必要な値を自動的に計算
  • 入力に基づいて、システムデュエルボリュームのニーズに関するガイダンスを提供

はじめに

逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)分析法の粒子径間でのスケーリングが、さまざまな理由で行われています。ハイスループットカラム(約 2 µm 以下の粒子)を使用して作成された分析法を、ルーチンの品質管理(QC)環境や、分取 LC ワークフローの開始ステップなどでよく使用される粒子径 3 µm 以上のカラムに移行する際、粒子径がより大きいカラムへのスケールアップがよく行われます。分析法開発プロセスでは多くの場合、2 µm 以下の粒子を使用して分離速度を最大化し、これらの小さな粒子によって得られる高効率を利用します。ただし、これらの粒子が小さいカラムは、QC 環境では必ずしも使用されません。QC 環境では頑健性と再現性が最重要であり、2 µm 以下の粒子を使用することが困難になる場合があります。その理由は、このようなカラムには高い動作圧で動作できる装置が必要であることに加えて、適切なサンプルクリーンアップを行わなかった場合に、2 µm 以下の粒子を充塡したカラムでは、サンプル中の添加剤や内因性化合物によって目詰まりが生じることが多いためです。より小さな粒子径を使用するカラムへの分析法のスケールダウン(5 µm から 5 µm 未満へ)が、ルーチンに行われています。その一例が、米国薬局方(USP)のモノグラフ内の液体クロマトグラフ分析法に見られます。これらの分析法は、サンプルの分析時間の短縮、溶媒使用量およびコストの削減というメリットを得るために、粒子径がより小さなカラムに変更されることがよくあります1–4。分析法を分取スケールにスケーリングするには、今回示す計算とは異なる計算が必要であることに注意してください。分取ワークフローは、分析スケールのワークフローとは焦点が異なるため、別々に扱う必要があります。

このアプリケーションブリーフでは、スケーリング実験を行うワークフローについて検討します。5 µm の粒子を使用して理論的分析法を検討し、これを 2.5 µm 粒子のカラムにスケールダウンして、既存の分析法の最新化をシミュレーションします。これを、2 つの異なるワークフローを使用して行います。まず、USP General Chapter <621> で指定されている式を使用して、スケーリングの計算を手動で行います。次に、Waters カラムカリキュレーターを使用して同じ分析法をスケーリングし、得られた値を手動の結果と比較します。

結果および考察

USP General Chapter <621> には、粒子径や寸法が異なるカラムの間で分析法を適切にスケーリングするのに必要な計算の概要が説明されています。バリデーション済み分析法には追加の要件が設定されており、従う必要がありますが、このアプリケーションブリーフでは、そのような要件は適用しません。スケールアップ、スケールダウンのいずれにおいても、分析法を適切にスケーリングするのに必要な最初の計算は、新しい流速となります。注入量を除くその後のすべての計算で、新しいカラムの流速が必要になります。式 1 は新しい流速の計算式です。ここで、F2 は新しい流速、F1­ は元の流速、dcx はカラムの内径、dpx はカラムの粒子径です。ここでは、下付き文字が 1 の変数はすべて元の分析法条件に関連し、下付き文字が 2 の変数はすべて新しい条件に関連しています。

式 1.  元の流速、カラム寸法、元のカラムと新しいカラムの両方の粒子径を考慮した、新しい流速の計算

上記の式では、両方のカラムの内径と粒子径を考慮して、適切な線速度が両方のカラムにかかるようにしています。両方のカラムで線速度を一致させることにより、被験分析種が固定相と相互作用する時間が等しくなり、同等の結果が得られると考えられます。

このアプリケーションブリーフでは、医薬品リスペリドンの有機不純物アッセイをスケーリングします。USP モノグラフで概説されているように、元の流速は 4.6 × 250 mm、5 µm のカラムで 2 mL/分に設定されています5。 新しいカラムは、2.5 µm の粒子が充塡された 3.0 × 100 mm のカラムです。値を代入して新しい流速を計算すると、流速 1.70 mL/分を使用する必要があることが示されます(図 1)。 

図 1.  式 1 を用い、元のカラム寸法と新しいカラム寸法に示される値を使用して F2 を求めます

新しい流速が決定したら、次のステップでは新しい分析時間(グラジエント時間とも呼ばれます)を計算します。この計算はグラジエント分析とアイソクラティック分析の両方に使用できますが、勾配試験には追加の計算(特にグラジエント比)が必要です。USP <621> には、新しいグラジエント時間 tG2 を計算するための次の式の概要が示されています6。 この式でも、上記と同様に、下付き文字 1 が付いた変数はすべて元のテスト条件に関連し、下付き文字 2 が付いた変数は新しい条件に関連しています。変数 tGx はグラジエント時間を示し、Fx は流速、Lx はカラム長、dcx はカラムの内径を示します。

式 2.  カラム長(L)、内径(dc)、流速(F)、元のグラジエント時間(tG1)の値を使用した新しいグラジエント時間(tG2)の計算

リスペリドンアッセイの有機不純物の値を代入し、tG2 の解を求めると、新しいグラジエント時間 10 分が得られます(図 2)。元の分析時間が 50 分、更新された時間が 10 分である場合、この分析法をスケールダウンすることで、分析時間を 5 分の 1 に短縮でき、サンプルスループットが向上します。

図 2.  式 2 を用い、元の分析法条件、元のカラム寸法、新しいカラムについて算出された流速、新しいカラム寸法から示される値を使用して tG2 を求めます

アイソクラティック分析では、必要な最後の計算は注入量です。ただし、グラジエント分析法では、注入量を計算する前に、グラジエント時間比の決定、およびその比を元のグラジエントテーブルに適用して新しいグラジエントテーブルを作成するなどの追加のステップが必要です。グラジエント時間比は、先の tG2 値および tG1 値を使用して簡単に計算できます。この場合、グラジエント比は 10/50(または 0.2)になります。表 1 に示すように、この比をグラジエントテーブルの各ステップに適用することができます。

表 1.  元のグラジエントテーブルへのグラジエント比の適用による、調整済みセグメント時間に基づく調整後のグラジエント時間または新しいグラジエント時間の作成。

グラジエントのステップごとに、セグメント時間を計算する必要があります。表 1 の 1 行目および 2 行目を見ると、最初のセグメント時間は 12.00 です。これが最初のステップと 2 番目のステップの時間差であるためです。この比はグラジエントの個々のセグメント(または「ステップ」)にしか適用されないため、グラジエント時間ではなく調整にセグメント時間を使用することが重要です。調整後のセグメント時間と調整後のグラジエント時間を見ると、調整後のグラジエント時間は、前の行の調整後のグラジエント時間と調整済みセグメント時間の合計であることがわかります。グラジエントの最後のステップでは、このケースのように、調整後のグラジエント時間が、先の計算値 tG2 と一致しているはずです。

これで新しいグラジエントテーブル、グラジエント時間、流速が決定されたので、新しい注入量を計算することができます。このステップは、先の計算とは独立しており、必要に応じて行うことができます。式 3 は、元の注入量 Vinj1、カラム長 Lx、カラム内径 dcx に基づいて注入量を調整する方法を示しています。前の式と同様に、下付き文字 1 が付いた変数はすべて元の条件に関連し、下付き文字 2 が付いた変数は調整後の条件に関連しています。

式 3.  元のカラムと新しいカラムの寸法および元の注入量に基づく調整後の注入量の計算

元の試験条件では、4.6 × 250 mm カラムで 10 µL の注入を行います。前に説明したように、新しいカラムは 3.0 × 100 mm です。図 3 に、新しい注入量の計算を示します。

図 3.  式 3 を用い、元の注入量、元のカラム寸法、新しいカラム寸法から示される値を使用して Vinj2 を求めます

すべての計算が完了したら、分析者は、概説した新しい条件を使用して新しいカラムで分析を実行し、同等のクロマトグラフィー結果が得られるかどうか判定することができます。これらの計算を手動で行うと、特にグラジエントテーブルも調整する必要がある複雑なグラジエント分析法の場合、かなりの時間と労力がかかります。さらに、これらのパラメーターを手動で計算すると人的ミスが発生する可能性があります。わずかな計算間違いが、結果の差につながり、最終的には試験条件の大きな差が生じる可能性があります。分析法のスケーリングのワークフローを簡素化することで、これらの計算を行うのに必要な時間を短縮できるだけでなく、人的ミスの可能性を減らすこともできます。このワークフローを簡素化する最も簡単で分かりやすい方法は、カリキュレーターを使用することです。Waters カラムカリキュレーターは、カラム寸法、粒子径、流速、グラジエントプロファイルなどの重要な情報の入力に基づいて新しい分析法条件を計算する無料ソフトウェアです。前の例を使用して、これらの値をカラムカリキュレーターに入力し、4.6 × 250 mm、5 µm カラムから 3.0 × 100 mm、2.5 µm カラムに分析法をスケーリングしました。図 4 に、カラムカリキュレーターおよびスケーリング実験の結果を示します。

図 4.  Waters カラムカリキュレーターを使用した、4.6 mm × 250 mm、5 µm カラムから 3.0 mm × 100 mm、2.5 µm カラムへの分析法スケールダウン

Waters カラムカリキュレーターを使用することで、新しい試験条件の計算が手動計算よりも大幅に簡素化されます。ツールの左側で、元のカラム寸法、粒子径、注入量、カラム温度、分析時間を入力するだけです。グラジエント分析法では、左側のグラジエントテーブルにも元の試験条件からの情報を入力する必要があります。システムデュエルは、特にグラジエント分析法の場合、性能に大きな影響を及ぼす可能性があるため、これも含める必要があります。手動計算とは異なり、Waters カラムカリキュレーターにシステムデュエルの測定を含めることで、分析法をスケーリングする際に、システムデュエルの差によって、追加のステップが必要かどうかをカリキュレーターが判定できます。手動計算には、このための式が含まれていません。システムデュエルは、簡単なプロトコルを用いて簡単に測定できます7

次に、右側に新しいカラム寸法を入力する必要があります。グラジエント分析法をスケーリングし、システムも変更する場合は、新しいシステムデュエルボリュームも含める必要があります。今回示した例では、システムが HPLC から UPLC に変わっているため、システムのデュエルボリュームがツールに含まれています。この例ではデュエルに起因する追加のステップは不要ですが、これらのステップが必要な場合、カリキュレーターの右隅の分析時間の横に表示されます。

これらの情報が入力されると、カリキュレーターは必要な計算をすべてリアルタイムで行います。右側に示されているように、カリキュレーターは、分析法の新しい流速が 1.701 mL/分で、総分析時間が 10 分であることを示しています。また、新しい試験条件では、1.7 µL の注入が必要です。これら 3 つの値はすべて、先に行った手動計算と一致しています。右側の新しいグラジエントテーブルを見ると、手動で決定したグラジエントテーブルの値とさらに一致していることがわかります。

分析法のスケーリングにおいていずれのアプローチでも同じ結果が得られるとすると、その真のメリットは時間の節約とミスの低減です。Waters カラムカリキュレーターを使用することで、計算における疑念が解消し、分析者は分析法をスケーリングして、より迅速にサンプルの実行に戻ることができます。

結論

RPLC 分析法をスケーリングする場合、新しい条件で元の条件と同様のクロマトグラフィー結果が得られるようにするには、かなりの事前作業が必要になる可能性があります。この事前作業には、注入量、流速、実行時間などのさまざまなパラメーターの計算が含まれます。グラジエント分析法では、グラジエントテーブルも調整して、グラジエントの傾きとグラジエントの各セグメントが等価になるようにする必要があります。USP <621> に概説されているこれらの計算は複雑で、その実行には時間と労力を要します。これらの値を手動で計算すると、人的ミスが発生し、間違った条件で試験を行い、時間と費用の浪費につながることがあります。

Waters カラムカリキュレーターは、最小限のユーザー入力でこれらの計算を行える無料ツールであり、人的ミスの可能性が低減するとともに、計算速度が大幅に高まります。分析者はカラム寸法や元の試験条件などの特定の重要な値を入力するだけで、カリキュレーターが新しい流速、分析時間、グラジエントテーブルを決定してくれます。Waters カラムカリキュレーターは、スケールアップ実験とスケールダウン実験の両方で使用できる汎用性の高いツールです。このことを説明するために、1 つの分析法を手動と Waters カラムカリキュレーター使用の両方でスケーリングしました。

参考文献

  1. Berthelette K, Turner JE, Walter TH, Haynes K. Modernization of the Acetaminophen USP Monograph Gradient HPLC for Impurities Using USP <621> Guidelines and MaxPeak Premier HPS Technology.Waters application note.720007846, Accessed 27-Feb-2023.
  2. Berthelette K, Nguyen JM, Turner JE, Savage D. Reductions in Cost and Time by Modernizing a USP Monograph from HPLC to UHPLC to UPLC Instrumentation and Columns.Waters Application note.720007427, Accessed 27-Feb-2023.
  3. Dlugasch AB, Simeone J, McConville PR.Scaling a USP Gradient Method on the ACQUITY Arc System in Support of Lifecycle Management.Waters Application note. 720006620, Accessed 27-Feb-2023.
  4. Sehajpal J, Fairchild JN, Swann T. USP Method Modernization for Lidocaine Formulations using XBridge Columns and Different LC Systems.Waters Application note.720006179, Accessed 27-Feb-2023. 
  5. Risperidone USP monograph.Accessed 20-Feb-2023. https://online.uspnf.com/uspnf/document/1_GUID-46A907B2-576F-4C97-8BA1-6C17E8249978_4_en-US?source=Activity
  6. USP General chapter <621>.Accessed 20-Feb-2023.https://online.uspnf.com/uspnf/document/1_GUID-6C3DF8B8-D12E-4253-A0E7-6855670CDB7B_6_en-US?source=TOC
  7. How do I determine system dwell volume – WKB50707.Waters Knowledge Base article.Accessed 27-Feb-2023.https://support.waters.com/KB_Chem/Other/WKB50707_How_do_I_determine_system_dwell_volume

720007887JA、2023 年 7 月

トップに戻る トップに戻る