Empower™ 分析法バリデーションマネージャーソフトウェアを使用した、Empower サンプルセットジェネレーターによる自動分析法作成を用いた分析法の頑健性試験
要約
頑健性試験は、クロマトグラフィーパラメーターのわずかな変更が分析法に及ぼす影響を測定する方法となります。この試験では、Empower 分析法バリデーションマネージャー(MVM)ソフトウェアを使用した、塩酸ナファゾリン、フェニラミンおよび関連類縁物質の分析の頑健性を調査しています。頑健性多変量の実験計画(DoE)は、個々のパラメーターが及ぼす影響およびピーク間のクロマトグラフィー分離での相互作用を調査するために作成されました。試験を 1 回の測定で実行するために必要なサンプルセットメソッドまたは注入シーケンス、装置メソッド、およびメソッドセットは、Empower サンプルセットジェネレーター(SSG)を使用して自動的に作成しました。Empower MVM ソフトウェアによって生成された影響力プロットにより、どのパラメーターが分析法の性能に最も大きな影響を与えるかが明確に示されました。また、ルーチン使用時に、予想される基準が分析法で確実に満たされるように管理を行うための知識が得られました。
アプリケーションのメリット
- Empower 分析法バリデーションマネージャー(MVM)ソフトウェアと多変量 DoE を使用して、分析法の頑健性試験を実施することで、分析法についての理解が深まり、許容できる動作条件が特定可能に
- Empower サンプルセットジェネレーター(SSG)ツールを使用して、頑健性試験用のクロマトグラフィー分析法の作成を自動化
- Empower MVM ソフトウェアで生成された影響力プロットを使用して、性能に対する分析法パラメーターの影響とその相互作用を特定
はじめに
頑健性試験は、クロマトグラフィーパラメーターにわずかな変更が生じた場合にも、分析法に影響が及ばないことを実証するための重要な作業であり、ルーチン使用における信頼性が示されます1,2。分析法開発の段階で頑健性試験を行うことで、分析法の性能に影響する重要なパラメーターを特定し、プロセスで最適化できるように考慮する必要があります。実験的に試験を行うパラメーターおよび関連する適切な範囲は、事前の知識とリスク評価に基づいて選択する必要があります2。 頑健性についてのリスク評価は、メソッドによって生成されるデータに与える各パラメーターの影響に関連するリスクを特定するのに役立ちます。頑健性の結果に基づいて管理戦略を確立することで、メソッドの許容動作範囲を定義し、変動要因を最小化し、管理することができます。
分析法の頑健性は通常、一時一事法(OFAT)または実験計画法(DoE)で多変量アプローチを使用して決定されます3。 OFAT アプローチでは、1 つの要因(またはクロマトグラフィーパラメーター)のみが調査され、他の要因は変更せずにそのままになります。これは時間のかかるプロセスであり、流速に伴う温度変化などの変数間の重要な相互作用が特定されないことがよくあります。多変量 DoE アプローチでは、それぞれの独立したパラメーターの影響および複数のパラメーターの影響が同時に示されます。
この試験では、Empower MVM ソフトウェアを使用して、Empower SSG による自動分析法作成を用いて、塩酸ナファゾリン(HCl)、マレイン酸フェニラミン、および類縁物質の分析の頑健性を評価しました。多変量の影響を調査するために頑健性 DoE を作成しました。また、影響力プロットを使用して、どのパラメーターが分析法の性能に最も影響を与えるかを決定しました。
実験方法
化合物(表 1)は Sigma-Aldrich および Toronto Research Chemicals(TRC)から購入しました。質量分析グレードの試薬および溶媒は、Honeywell から入手しました。
サンプルの説明
標準溶液
個別のストック溶液をメタノール中に 4.0 mg/mL になるように調製しました。ストック溶液を 80:20 水/メタノール希釈液で希釈して、0.1 mg/mL の塩酸ナファゾリンおよびマレイン酸フェニラミンの有効成分、10 µg/mL の類縁物質を含む頑健性試験用の混合標準溶液を作製しました。この試験で使用した化合物を表 1 に示しました。
最終的な分析法
LC システム: |
Arc™ Premier システム、アクティブプレヒーター付きカラムマネージャ、PDA 検出器 |
バイアル: |
LCMS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV) |
検出: |
UV @ 260 nm |
カラム: |
XSelect™ Premier CSH C18、4.6 × 150 mm、2.5 µm(製品番号:186009874) |
カラム温度: |
44℃ |
サンプル温度: |
10℃ |
注入量: |
5.0 μL |
流速: |
1.2 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸メタノール溶液 |
グラジエントテーブル
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 5Service Release 5(FR5 SR5) |
結果および考察
Empower MVM ソフトウェアを使用した多変量 DoE 試験を実施することで、塩酸ナファゾリン、マレイン酸フェニラミン、および関連類縁物質の分析法の頑健性試験が実施されました。クロマトグラフィー分離は、前述のメソッド4 に基づいて XSelect Premier CSH C18 を使用し、クロマトグラフィー条件の一部を変更して実施しました。頑健な分離が達成されるように、グラジエントの開始時と終了時のカラム温度、流速、有機溶媒の組成を最適化しました。最終的な分析法条件を使用して取り込まれた代表的なクロマトグラフィーを図 1 に示します。
Empower MVM について
Empower 分析法バリデーションマネージャー(MVM)は、分析法バリデーションワークフローを自動化、合理化および簡素化する、コンプライアンス対応のソフトウェアです4,5。バリデーションプロトコルメソッドの作成から、バリデーションデータの取り込み、レビュー、分析、承認、レポートまで、一連の統計結果を含む、分析法のバリデーションプロセス全体が単一のソフトウェアアプリケーション内で実行されます。試験中にバリデーション試験およびデータを確認することで、バリデーション要件および合否基準に準拠しており、安全なデータ保管とオーディットトレイルがあることが確認されます。
Empower SSG について
Empower サンプルセットジェネレーター(SSG)ツールにより、クロマトグラフィーパラメーターを変更して、装置メソッド、メソッドセット、サンプルセットメソッドを自動的に作成できます5。Empower メソッドセットと装置メソッドは、すぐに行える注入シーケンスとして、実験計画にしたがってサンプルセットメソッドで自動的に作成され、構造化されます。クロマトグラフィー分析法の作成が自動化されることにより、手作業でのプロセス中に発生する可能性のある転記ミスや、分析法の作成にかかる時間が最小限に抑えられ、すべてのクロマトグラフィーの分析が正しく作成された分析法を使用して行われているという確信が得られます。
頑健性試験
まず、リスク評価では、以前の知識に基づいて、分析法の性能に最も影響を与える可能性のあるパラメーターを特定しました。この試験では、グラジエントの開始時と終了時のカラム温度、流速、有機溶媒の組成(%)を含む 4 つのパラメーター(要因)の調査を行いました(表 2)。これらのパラメーターおよびその範囲が及ぼす影響について、Empower MVM ソフトウェアの頑健性試験を使用して、実験的に調査しました。ピーク間のクロマトグラフィー分離度への多変量の影響を評価するために、合否基準を USP 分離度 1.5 以上に設定した DoE 試験を作成しました。2 つのレベル(低レベルと高レベル)で構成される 4 つの要因に対して完全実施要因を使用して、頑健性試験のために、異なる装置条件の組み合わせによる 16 の計画ポイントまたは実験(図 2)が作成されました。
試験全体の実行に必要なクロマトグラフィーメソッドが、Empower SSG ソフトウェアを使用して自動的に作成されました。Empower SSG によって、すぐに実行できる注入シーケンスとして、実験計画にしたがってサンプルセットメソッドが自動的に作成されました(図 3)。サンプルセットメソッドには、実験名、および各実験の装置メソッドとメソッドセットが含まれていました。ユーザーの指示にしたがって、分析全体でのブランク注入と平衡化ステップが含まれました。
頑健性のデータにより、ナファゾリンのピークを除くほとんどの化合物で、この分析法が USP 分離度の限界である 1.5 以上を満たすことが示されました(図 4)。実験 9、10、12 でのナファゾリンピークの分離度は 1.5 以内であることが判明し、ソフトウェアによってフラグ付けされました。影響力プロットを使用して、影響の大きさを目視で調査することにより、分離に最も影響を及ぼした要因を判断しました。NAPH API ピークでは、要因 A(カラム温度)が分離に重大な悪影響を及ぼしており、カラム温度の上昇とともに分離が低下することを示しています(図 5)。さらに、要因 B(流速)は NAPH API にポジティブな影響があり、流速が増加した場合に分離が改善されました。類縁物質については、個々の要因が及ぼすポジティブおよびネガティブな影響が示され、多変量の相互作用が分離に与える影響は最小限に留まっていました(図 6)。
コントロール戦略
管理戦略は、分析法がそのライフサイクル全体を通じたルーチン使用時に、期待どおりに機能することを確認するための一連の管理で構成されています。また、リスク評価および頑健性評価から導き出される分析法の性能の特性に関する深い理解に基づいています2。 分析法の性能への影響を理解することで、管理する必要があるパラメーターが特定でき、分析法の性能に影響しない分析法の動作範囲を適切に定義することが容易になります。
この試験では、DoE の頑健性試験により、カラム温度に対する分析法への感度が実証され、特にピークの最大のクリティカルペアである PHE-Imp A と NAPH API の間の分離度への影響が実証されました。要求される 1.5 以上の分離度を達成するために、カラム温度設定を 44.0±1.0 ℃ に制限することが推奨されました。流速 1.2 ± 0.1 mL/分や、有機溶媒の組成をグラジエント開始時に 7.0 ± 2.0%、グラジエント終了時に 85.0 ± 2.0% にするなど、他のパラメーターにより、分離度の基準が満たされる許容動作範囲が得られました。
結論
Empower MVM ソフトウェアを使用した多変量 DoE 試験を用いることで、塩酸ナファゾリン、フェニラミン、および関連類縁物質の分析法の頑健性が評価されました。Empower SSG ソフトウェアにより、試験全体を実行するためのクロマトグラフィーメソッドが自動生成されました。影響力プロットにより、分析法の性能に最も影響を及ぼすパラメーターが明確に示され、性能基準を満たすための分析法の動作条件を定義するのに役立ちました。
多変量 DoE を使用して分析法の頑健性を評価することで、メソッドパラメーターおよび頑健な動作条件の影響を特定するのに役立ちます。これにより、ルーチン使用時の変動要因を低減および管理するための管理戦略の開発が容易になります。
参考文献
- U.S. FDA.Analytical Procedures and Methods Validation for Drugs and Biologics Guidance for Industry.U.S. Department of Health and Human Services, Food and Drug Administration, July 2015.
- ICH Q14.Analytical Procedure Development, International Conference on Harmonization, 31 March 2022.
- Swartz ME, Krull IS.Method Validation and Robustness.LCGC North America-05-01-2006, Volume 24, Issue 5 Published on: May 1, 2006.
- Maziarz M, Rainville P. Efficient Method Development Using Systematic Screening Protocol.Waters Application Note, 720007850 2023.
- Maziarz M, Wrona M, McCarthy SM.Increasing Efficiency of Method Validation for Metoclopramide HCl and Related Substances with Empower 3 MVM Software.Waters Application Note, 720005111, 2018.
- Empower SSG.
ソリューション提供製品
720007870JA、2023 年 3 月